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ツンつん×デレでれ 9話

「シン君、こっちこっち~」


そう言ってスバルは大声でシンを呼ぶ。
食事の乗ったトレーを持って何処に座ろうかと、暫し逡巡していたシンがその表情に安堵を微かに浮かべる。
スバルの発した「シン」という言葉にピクリと反応したのはティアナであった。
俯きがちにカルボナーラを啜りながら、上目がちにちらりとやって来るシンの方を見つめる。
仄かに頬が朱に染めながら見つめる視線がシンの視線とぶつかった。


「……ッ」


耐えられぬとばかりに、ティアナは視線を逸らせる。
まるでシンの事等気にしていない、気にすまいとでも言うようにカルボナーラを啜るティアナを前にして、シンは何とも言えない表情になる。


そんな二人を複雑そうな視線で見遣っていたスバルに、シンとティアナは気付かなかった。






                             ◇





私は馬鹿だろうか、いや、きっと馬鹿だ。
散々、シンの奴が顔を赤くしたりしていないか見てやろうと思っていた筈なのに、いざとなるとそれを見るまでも無く視線を逸らしてしまう。
ヘタレの神様が私の中に降臨している。
そうとしか思えない程に私は意識してしまっている。
というか意識しまくり。
アイツの、シンの顔を見るたびに、昨日を思い出してしまう。
歯と歯がぶつかったキスと呼んでも良いのかわからないキス。
いや、キスだ。
誰に何と言われようと、歯と歯がぶつかるという情けないものであったとしても、キスはキス。
正真正銘乙女のファーストキスだ。


………やばい……ファーストキスだとか、そういうフレーズを使うと余計にシンの顔が見られない。


啜るカルボナーラの量が増える。
口の中にはクリームとチーズの味が広がっている………筈なんだけど、正直味わかんない。
っていうか、シンの奴は何で普通っぽいのよ。
キスした翌日だったらちょっとくらい意識とかしてくれてもいいんじゃない?
何で、結構普通なのよ。
っていうか、スバルが声かけたらすんなり来るのよ。
いや、避けて欲しいとかそういうのじゃ無いけど。
でもさ、ちょっとは照れて欲しいというか、ギクシャクとして欲しいというか。
気まずくなりたくないんだけど、そういうもっともらしい反応が欲しいというか。
それとも何?初めてじゃないから、そういう事するの慣れてるから、あんまりダメージ強く無いとか、そういうの?




ああ……考えたら妙にムカついてきた。





そりゃあアイツの口から、例の『彼女』という人とそういう関係だったっていうのは聞いてるけど。
でも、正直聞いていい気はしない。
私から聞いておいてなんだけど、やっぱりいい気はしない。



「ティア………そんなにお腹空いてたの?」



呆れたような、心配するようなスバルの声にハッとなる。
夢中で掻き込んでいる間に、お皿の上にあったパスタは殆ど姿を消していた。
嫌だ、これじゃあ本当にお腹空いてたからガツガツ食べたみたいじゃないの。
私はそっとシンを見る。
シンは困ったようにくすりと笑っていた。


(ううううう……死にたい……)


偽り無き本音が頭の中に木霊した。





                              ◇




「ティア………そんなにお腹空いてたの?」


言ってから、私は自分の口から、それもティアに対してこんな意地悪な言葉が出てきた事に吃驚した。
ティアが決してお腹が空いているからそんな風に掻き込んでいるわけではない事なんて十分に知っていた。
これでも、親友なんだもん。
ティアの気持ちなんてわかる。
でも、気付いたらその言葉は口から飛び出ていた。
ティアが顔を赤らめながら俯いてパスタを食べている姿をシン君が優しい、どこか懐かしむように見つめている事に気付いたから。
それに気付いた瞬間、まるで私の口から反射のようにその言葉が飛び出ていた。
ティアがその言葉に顔を一層真っ赤にしてパスタを啜るのを見ながら、横目でシン君を見る。
シン君は優しい、心がポカポカとするような瞳をティアに向けていた。



「――― ッ」



まただ。
また心の奥の方からドロドロしたものが湧き出てくる。
今日、一日の間、ずっとこのドロドロが胸に湧き出てくる。
シン君がティアを優しく見つめている時。
ティアがシン君を切なそうに見つめている時。
このドロドロはそれに気付く時にはいつも湧き出てくる。
何か嫌だ。
何だろう、自分も、この感情も嫌だ。
早くこんなの無くなっちゃえばいいのに。
こんなドロドロした感情。


「スバル」



そう思っていた矢先にシン君の言葉が耳に届く。
何時しか私もティアみたいに俯いて食べている事に気付いた。
シン君が困ったように、おかしそうに見つめてくる。
シン君がそっと手を伸ばしてくる。
そして、シン君の指先が唇に触れた。

とくん


何故か身体が熱くなった。
指先が唇に当たった、ただそれだけなのに、私の胸が痛い程に大きく高鳴った。
シン君は指先で、するっと滑る様に唇の上をなぞる。
頬が、耳が、首が熱い。
シン君は指先をすっと私に見せる。


「ったく、ヴィヴィオかよ。ほらご飯粒」


そう言ってぱくりと指先のご飯粒をシン君は口に入れた。

とくん

まただ。
また、胸が痛くなった。
私はぼそぼそと「ありがとう」とだけ呟いた。
何だろう。
何なんだろうこの気持ち。

胸が痛い、胸が痛いようシン君。




                               ◇





口にスバルの唇に付いていたご飯粒を放り込みながら、俺は二人を見る。
二人ともお腹が空いているのか、普段のようにわいわい言いながら食事をするでも無く、自分の目の前にある食事を攻略してる。
いや、ティアナは何となくわかる。
俺だってそんな鈍感な訳じゃない。
きっと昨日の事を気にしているのだろう。
正直な処、俺は少なくとも凄く気にしてる。
意識してるという方が正しいだろうか。
いちいち、パスタを啜る為に、僅かに窄められるティアナの唇がやけに艶っぽく見える。
グロスを塗らなくても瑞々しい花弁のような唇が扇情的に見える。



おいおい、初めてじゃあるまいし。



そう言って自分自身にツッコミを入れる。
我ながら初々しいというか、童貞みたいな反応だ。
けれども、どうしても視線がティアナに向いてしまう。
どこか心の中がくすぐったい。
まるであの時の『彼女』の様だ。
初めて二人で一緒に朝を迎えた時の彼女。
朝食を摂りながらお互いにチラチラと見ては視線が合うと逸らす、そしてまたチラチラと見る。
その繰り返しだった。
それがやけにくすぐったくて、でも心地良かった。
ティアナの仕草は、そんなあの時の彼女を俺に連想させる。
初々しくて、どこか覚束無くて、それを出すまいとしているのに全然隠せていないがあの人を思い出させる。
それが嬉しく、懐かしく、そして懐かしく思うことが少し悲しかった。
それにしても不思議なのはスバルだ。
一体いつもの元気の良さが何処へ行ったのだろうか。
まるでティアナの奴のぎこちなさが伝染ったように、俯いて食事に没頭している。
ご飯粒までつけて、一瞬マユがオーバーラップした。


訓練が終わったら一度スバルと話してみようかな。


俺は一つそう決めると、月見ソバを啜った。

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最終更新:2009年09月12日 07:12
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