「春だな~」
「春ですね~」
縁の下でお茶を飲むお爺ちゃんのように、シンとエリオはのほほんとしたやり取りをする。
今二人は六課の基地の外、芝生に仲良く腰を下ろし空を見上げている。
それぞれ手にはペットボトルのお茶。
二人の間には花見用の三色団子が置かれており、既に幾つかは串だけになっている。
「いい天気だなぁ~」
「いい天気ですね~」
ほわっとした笑みを浮かべながら言うシンに対して、同じくほわっとした笑みで答えるエリオ。
その姿は正に兄弟といった感じである。
二人は温かさを帯びた風を心地良く感じながらそれぞれ団子を口にする。
むちぃっと弾力のある団子が串から剥がれ、優しい甘さが口に広がるのか、二人は頬を緩める。
「団子が美味いなぁ」
「僕このピンク色の団子が好きなんですよ」
「にひひひひ~」
「な、何ですか?」
「いやぁ~キャロと同じ髪の色だなぁ~~って思ってな♪」
「シ、シンさん////////!!」
顔を真っ赤にして慌てふためくエリオを楽しげに見つつ、シンは一口お茶を口にする。
微笑ましいやり取りが春の日差しに映える。
美少年同士のやり取りは基本的に春夏秋冬問わずによいものだ。
美少女同士はよく知らない。
そんな目の保養…もとい、作者の趣味…でもなくて、穏やかな微笑ましいやり取りに忍び寄る影があった。
「おおッ!!恋ばなスメルキャッチ!!」
「「うわッ」」
驚き振り向いた二人の視線の先にはにんまりとした笑みの怪しい人物……ではなくて、不審人物Vこと我らが兄貴ヴァイスである。
断っておくがVはヴァイスのVであって、V作戦のVではないのであしからず。
「何だ何だ青少年ズ!!お兄さんを放っておいて恋ばなとはいかんぞ」
シンとエリオが同時に同じ表情をする。
言葉にすると「うわ~」というものである。
厄介な人が来ちゃったよオイというものだ。
そんな事にも構わず、ヴァイスはむんずと団子を掴むと一度に三つ纏めて口にする。
「ああ…」とシンとエリオは溜息を吐く。
記さなかったが、その団子は行列の出来るお店で買ったものである。
そこをシンとエリオがオバサン、OLのお姉様方、奥様達相手に若さとビジュアルを武器に……まぁ色仕掛けでゲットした団子である。
それを無造作に食べられてはシンもエリオも「ああ…」と溜息を吐かざるを得ない。
「まったく経験豊富なお兄さんに相談しろっての」
碌な経験をしてなさそうだなぁとはエリオ。
爛れた経験しかなさそうだなぁとはシン。
ヴァイスは胡坐をかくと、シンとエリオを見る。
「いいか、小僧共!!女の子は待った無しの早撃ちと一緒だぜ?」
「早撃ち……?」
シンが怪訝な顔をする。
「おうよ、スバルもティアナも勿論、キャロだって今はまだ子どもだからって安心してると掻っ攫われる!!」
「いや、でもキャロは……」
エリオが何か言おうとするが、ヴァイスは止まらない。
「甘い!!キャロくらいの年齢でも大丈夫な奴、っていうか寧ろキャロくらいの年齢がいい!!という奴なんぞごまんといる!!」
「「それってロリ…」」
既にシンとエリオはどん引きである。
「そして、スバル!!あの我が侭バディ!!そしてティアナ!!あのツンデレツインテール!!あのハイスペックさ!!」
「ハイスペック……て……」
「シンさんもツンデレですよね……」
ヴァイスはギュッと握り拳を作りながら、さながらどこぞの総帥の如く続ける。
「あのピーキーなスペックを果たして誰が放っておくだろうか!!誰も放っておくまい!!尻込みする野郎は●●●野郎だ!!」
ちなみにそのどこぞの総帥は最後は萌えない妹に頭を撃ち抜かれている。
「百合っぷる?ノン!!シン!!あえて言おう!!二股かけちゃいなよYOU!!」
最低である。
しかし真理である。
シンは静かに溜息を吐く。
そっとヴァイスの後ろに回りこむとまるで腕を組むように絡める。
「オイオイ、シン。スキンシップにしちゃあいささか熱心すぎるぜ?女性サービスか?」
ヴァイスはカワイイ弟分がじゃれついてきた事に照れ臭そうに笑う。
シンはにっこりと可愛らしく、そりゃあもう可愛らしく笑うと、そっと両手をヴァイスの首の後ろで組む。
「そぉい!!」
綺麗な弧を描いた。
瞬間エリオはそう思った。
シンの描いた弧と共に、ヴァイスの身体はくるんと回転し、脳天から芝生の上にしたたかに叩き付けられた。
そりゃあもう鮮やかな弧を描いて。
「ああ~シン君~~バックドロップだ~プロレスごっこ?」
三人の男性陣の空間に華やかな少女の声が差し込む。
声はスバルのものであった。
スバルだけではなく、ティアナ、キャロもいる。
キャロは目を丸くし、ティアナは騒ぐスバルを呆れたように横目に見ている。
「馬鹿スバル。シンの組んでる手をよく見なさい。あれはフルネルソンよ」
流石にティアナはノア信者だ。
すぐさまスバルの誤りを訂正する。
そんな天然元気娘とツンデレツインテールを前に、全盛期の小橋もかくもやと言わんばかりのフルネルソンを決めたシンはそっと微笑む。
その透き通った笑みに、ティアナとスバルは頬を赤くする。
「そうだ、今日は天気も良いし、どっか行くか」
「え、ええ/////ッ」
「いいの~?」
ティアナは慌てふためき、スバルは素直に喜ぶ。
「ああ、臨時収入(ヴァイスの財布)も入ったしな」
「だったらゲームセンター行こう!!滅拳の新しい台が入ったんだ~こんどはシン君の白熊に勝つよ?」
「ちょ、スバル!!アンタはこの前シンと出かけたでしょ!!今度は私の番なんだから!!」
「ぶ~ぶ~!!シン君の独占反対~~!!シン君はティアだけのものじゃないんだよ~~」
「わ、私だけのものッ!?わたしのシン……ってば、馬鹿!!あ、ああ、当たり前じゃない////////!!」
華やかなやり取りをする二人の少女を前に、シンの脳裏に先程の総帥の言葉が甦る。
『あのピーキーなスペックを果たして誰が放っておくだろうか!!誰も放っておくまい!!』
エコーを伴って、響く言葉に、シンはムッとなる。
二人を狙っている男の存在がいるというのが気に食わなかった。
それが果たして単純な友人としての独占欲なのか、それとも……
シンは振り切るように、ティアナとスバルに近付く。
「いいよ、二人に付き合うからよ。もう二人の好きにしろって」
「「私達の好きに/////////」」
シンは聞き様によってはかなりチェックメイトなセリフを吐く。
本人はイタズラっぽく言ったつもりだろうが、言われた二人は脳内にインプットする。
何と羨ましいセリフを……もとい、誤解を招くセリフを言われた二人は顔を真っ赤にしながらも幸せそうに笑う。
シンとティアナ、そしてスバルの三人は何処に遊びに行くか話しながら去っていった。
当然総帥閣下はそのままである。
去っていくシンの背中と、ずしゃりと夢枕獏的な描写で崩れ落ちている総帥を見比べながらエリオは先程の鮮やかな弧を思い出す。
そして、先程のシンのタラシぶり。
そっとキャロを見ると、崩れ落ちたヴァイスをぼうっと見つめている。
「ねぇキャロ」
「何?エリオ君?」
「やっぱり男は強くなきゃいけないのかなぁ」
「え?」
「シンさんみたいにフルネルソンくらい出来なきゃやっぱり頼りないと思う?」
まともな判断能力を著しく欠いたエリオの言葉に、キャロは聖母の様に優しく微笑むと首を振る。
そんな強さなんか必要ないよ、そう言うのだろうかとエリオはキャロの微笑みに見惚れながらも思う。
「私は蝶野ファンだから」
「893キック!?」
キャロは親日派だったようだ。
濃い女性陣に囲まれているシンと我が身を改めて思いながら、エリオはたまらない不条理に身を震わせた。
最終更新:2009年09月12日 07:24