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ムキドー多重クロス-03

降りしきる雨の中、あなたは佇んでいた…
その瞳に何も映さず、ただそこにいた…
その姿はあまりに危うげで、そして…美しかった。
私はあなたに声をかけた。なぜかはわからない…
あなたが可哀想? 過去の罪を償うため? 違う。
でも私はそうすることで『何か』が始まるような気がした……

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-
  PHASE-2「見せかけの平和」

「…で、昼休みなわけだが…」
「アスカ、あんた誰に言ってるの?」
「お鍋ができましたよ~。今日はみそおでんです~」
「鍋じゃねぇ! それは鍋を使うかもしれないけど鍋料理じゃありませんよ、水越さん!?」
深緑の髪をした水越萌に突っ込むシン。シンに突っ込んだのは彼女の妹の眞子だ。
「おいしそうだからいいじゃない」
と由夢。現在麻沙以外の朝の登校メンバー+水越姉妹、美春、朝倉兄妹は校舎の屋上にいる。そして彼らの中央には巨大な鍋がみその匂いを振りまいている。
「「「いただきま~す」」」「ちょっ、まだ座ってないっ」
シンをおいてさっさと食べだす諸兄。
「はい弟くん、熱いから気をつけてね」
「音姉もさっきのに加わってたよな…」
そう言って音姫が差し出すお椀を手にする。
「シン、わたしがよそってあげます」
「いえ私が…」
「ここは譲れないっす!」
アイシア、ネリネ、リシアンサスが声を出す。
「…」
楓はキラキラした目でシンを見ていた。
「…」つコンニャク
「「「自分でとった!?」」」
「ヘタレだのぅ」
純一がため息をつく。
「そういえば、さくらはどうしてます? 迷惑かけてませんか?」
音夢が楓に聞く。
「いえ、こちらがお世話になってるぐらいですよ。ただ最近はミッドチルダでのお仕事が忙しいらしくて、あまり寝てないみたいなんです…」
「今度の日曜日ですよね。統合軍の新型のお披露目式」
美春はこう見えても天枷研究所というロボット研究所の責任者の娘である。その手の話題にはちょっと詳しい。
(統合軍の新型MSの発表。さくらが呼ばれてるってことはデバイスを搭載してるんだろうな…。今さら新型なんか作って何と戦うっていうんだ…)
「でもどんなMSなのか気になるわね。天枷は何か知らないの?」
ガンプラとか結構好きな眞子が尋ねる。しかし美春は首を横に振る。
「全然です。わたしも気になるんですけど…」
そんなとき突然屋上の扉がバーンッとド派出に開く。
「そんなときなのよ! わたしが屋上に現れたのはーー!」
オッドアイをした少女、真弓・タイムが現れた。
「「…」」
「なによこのしらけた空気は!? ビッグニュースよ!」
「どーせまた『ゆで卵は高速回転させると勝手に立つ』とか『互い違いにページを重ねた本は超力持ち』とかじゃないんですか?」
とアイシア。
「ふふん、今回はそんな豆知識じゃないわ。見よ! これが勝利の鍵だーーっ!!」
そう言い手を突き出す真弓。その手には何かの写真が握られている。
「これは?」
「今度の統合軍新型の写真よ!」
「「「ナ、ナンダッテーーーー(ry」」」
驚く一同。真弓は満足気だ。
「どう? どう? すごいでしょ!? ねっ、すごいでしょ!?」つ糸コンニャク
「顔が近い///! そして俺の器からおでんを食うな」
シンのお椀から次々とおでんを奪う真弓。この男コンニャク系ばかりとっていた。
「どうしたんですかこの写真? メチャクチャすごいですよ!?」
「なぜお前まで俺の前に来る///!?」
美春が詰め寄ってくる。確かに新型機の写真なんて普通は入手出来るものではない。しかもピンボケなどしておらずキレイに撮れている。
「いや~それがさー、今朝すっごいきょにゅ~でメガネかけたお姉さんに「シン・アスカ君にこれを見せてあげてくれないかい?」って言われてもらった」
「へぇ~、『きょにゅ~のお姉さん』ですか…」
「し、知らない! 俺はそんな人!」
由夢に睨まれる。
「なんかすっごい妖しいカンジだったわよ。魔女とかそんなの」
「…もしかして…」
「心当たりがあるんですか?」
「う~ん、でも顔とか覚えてないし…」
(そもそもあれは本当に現実だったのか? 見たことない場所だったし、『予定された結末』だの『今回は違う』だのワケのわからないこと言ってたし…)
あの戦争の直後を思い出すシン。
「で、あんたこの写真見て何か思うところでもあるの?」
眞子が写真を見せる。真弓に渡した女性はシンに見せてほしいと言っていた。
「こいつは…」
「なんか悪者っぽいね」
音姫の言うとおりX型のカメラをしているあたり少々悪役面である。しかしシンが目を付けたのはそこではない。
(太陽炉…、もう実用段階なのか…。確かにこいつを積んだMSを量産すれば統合軍に歯向かう連中は消えるだろうな…。けどそれは…)
「ねぇねぇシン君、何かわかった?」
リシアンサスが聞く。
「…ああ、このMSが量産されれば世界はマジで平和になるかもしれないな」
「そんなにすごいMSなんですか?」
「新型の動力が使われてる。出力は核動力に及ばないけど現行機とは比べ物にならない運動性を発揮できる…ハズだ」
太陽炉―GNドライヴ―は特殊な粒子を発して稼働する。その粒子はステルス性及び推進性が高く、バーニアを必要としないため機体の軽量化が可能となる。また持久力も高く複数の武装を長時間運用したり、バーニアがいらないことを利用してドラグーンシステム以上の遠隔操作兵器も作成できると言われている。終戦間近にZAFTで設計に入っていた。
「よくわからんけどすごいんだな。っつーか何でお前そんなことわかるんだ?」
「いや、俺MSとか好きでさ。色々勉強したんだ」
シンは自身の過去を誰にも話していない(コーディネーターであることは話した)。なぜだか話す気にはならなかった。
(まだ皆のことを信頼できてないってことなのかな…)
居候までさせてもらいながら薄情だと自分でも思う。
「あ~、でも本物を見たいな~。せっかく近くで式典やるのに一般人は見られないなんて~っ」
発表会は初音島沖合にある第三軌道エレベーター建設地で行われる。エレベーターはまだ半分ほどしかできていないが…。この軌道エレベーター、正式名称アルテリアは魔力供給装置兼エネルギー供給施設としての役割を持っており、一基で日本全体のエネルギーを賄えると言われている。現在すでに二基が稼働している。このエレベーターのおかげで資源不足に苦しんでいた国は救われ、資源を争っての紛争も非常に少なくなった。ある意味統一政府のもっとも素晴らしい事業と言える。
「ぼやいたって仕方ないさ。さっさと教室に戻ろうぜ」
純一が「ごちそうさま」と言い立ち上がる。
「え…、俺ほとんど食べてない。っつーか真弓に食われた!」
鍋にはもう汁しか残っていない。

「シ~ン、かがみんがいぢめるよ~。ミソくさっ」
「人聞き悪いこと言ってんじゃない! ミソくさっ」
「やっぱり残り汁を飲んだのはマズかったか…」
教室にて隣のクラスの『青い小星』こと泉こなたとシンのクラスメイトで彼女の親友の柊かがみがシンに話しかける。
「いやこの際シンがミソくさかろーと腐ったにおいがしよーと構わない! かがみんに歴史の宿題見せてくれるよう頼んでっ。むしろ見せて」
歴史の担当は担任の紅薔薇先生、通称紅女史である。こなたのクラスも担当が同じで授業のある日も同じなため、大抵宿題がかぶっている。
「あのね~、毎回毎回『宿題見せて』じゃなくてたまには自分でやりなさいよ」
「いや~、たまってたアニメ消化してたら遅くなっちゃって…」
「あのね~」
イラッとくるかがみ。
「まぁいいじゃないか、柊」
「~~~っ」
「おお~、さっすがシン。話がわかる」
「宿題は見せないけどな」
「なんとっ!?」
「…あんたってさ…」
「?」
かがみが少し寂しそうに言う。
「困ってる人に手は伸ばすけど、それ以上は関わらない。人を傷つけない代わりに歩み寄ることもないってカンジよね」
「…そうかもな」
(俺は…誰かと関わっちゃダメなんだ。本来ならここにいることだって…)

掃除時間の教室。あの後こなたは結局かがみを落して宿題をゲットしていた。おそらくかがみの妹のつかさも使うのだろう。
「俺も優しい(甘い?)姉ちゃんがほしいよ…」
「生徒会長さんがいるじゃない」
「いや、音姉は細かい。具体的には俺が電話してると相手を、出かける時は誰と行くのか必ず聞いてくる。何かにつけて一緒に行動して粗探しするし…」
「それってキモ姉じゃね?」
「お前には話していない」
会話に割り込んできた男子生徒Aこと白石を切り捨てる。
「ふ…、そんなことを言っていいのか? 現在この学校の男女比は三対七。お前の数少ない男友達が登場しなくなるぞ?」
「『らき☆すた』はゲストの予定だ。なによりこれ以上登場人物を増やしたくない」
「邪険にあしらわれたか…」
掃除に戻るシン。後ろで「ならば君の視線を釘付けにするっ!」と言って白石が脱いでいる。シャツに『奥義』と赤字で書かれていたりするが無視。
「…」
ことりがシンを見つめる。
「な、なんだよ///」
「アスカ君って…」
「あ、ああ」
「いつも何かに苦しんでるような気がする」
「俺が…苦しんでる?」
ありえない。自分は大勢の人間を殺したのに平和な世界に生きている。力のない『敗者』であるのに『勝者』が作った世界を享受している。幸運だと感じこそすれ、苦しいなどとは思ったことはない。
「うん。本当はもっと仲良くなりたいのに『自分は仲良くなっちゃいけない』って強制されてるような、そんな感じがする」
「俺はそんなシリアスな人間じゃないよ」
自分は何も強制などされていない。身寄りひとつないのだ。ことりは続ける。
「アスカ君は大抵のことは独りで出来るけど、あなたの周りにはたくさんの人がいる。皆を少しは頼ってもいいんじゃないかな? きっとみんな力を貸してくれる。もちろん私だって…」
シンは戸惑う。いつもシンは力を使う、使われる側だった。「力を貸す」などと言われたのは初めてだ。二人は無言で見つめあう。すると入口から何かヒソヒソ聞こえることに気づく。そちらに目をやると、
「見てごらん、みっくん。あれが友達以上恋人未満って状態だよ」
「あのことりを二週間足らずで…。シン・アスカ、恐ろしい子っ」
何かいた。
「みっくん、ともちゃん」
彼女たちはみっくん、ともちゃんと言いことりの親友である(シンは本名を知らない)。学内では『ことり幕僚』『ことり参謀』という名で有名だ。二人はことりに近づいて、
「アスカ君。私たちの目が黒いうちはことりはやれないよ」
「アスカ君はただでさえ気が多いし…」
と言ってことりをガードする。
「え? いやそーいう話をしていたわけじゃ…」
シンは誤解を解こうとしてことりが最近失恋したと聞いたことを思い出す(相手は大層モテるヤツだったらしい)。さして日もたっていない内に男と親しげに会話をしていたら「尻軽」「移り気」などとことりが呼ばれてしまうかもしれない。
「ぅ…気をつけるよ」
素直に引き下がるシン。二人は、
「もうちょっとなんだけどね…」
「あなたならことりの傷を…」
小声でつぶやいた。

「悪い楓、アイシア。待たせたか?」
「いいえ、そんなことありませんよ」
下駄箱にてシンは楓、アイシアと合流する。二人も掃除当番だったが先にすんでいた。三人で買い物をして帰るのは学校が始まってからの日課である。
「今日は唐揚げだそうですよ、シン♪」
「わ~お、チョー楽しみ♪」
はしゃぐシンとアイシア。精神年齢が低い。
「ふふ、二人は兄妹みたいですね」
「ぅえっ!?」
「傍から見たらそうかもな」
(妹、か…)
楓の言葉にアイシアは残念そうな反応をする。
「い、いやでもわたしたち同い年ですし…」
「仲のいい兄妹みたいです」
「でm」
「仲がよくてウラヤマシイ…」
「…」
「どした?」
シンにはわからない女同士の攻防(戦力差は圧倒的だが)。
「なんでもありません。さ、行きましょう」
三人並んで歩きだす。その様は楓の言うとおり兄妹のようだった。

「ん?」
スーパーへの道すがら人の列を発見。
「なんだあれ?」
「クレープ屋ね」
「ヒィ!?」
突如真横から聞こえた声にビビるシン。気配を全く感じなかった。戦場なら死んでいる。
「あ、杏」
アイシアに呼ばれた白い髪の小柄な少女は手で挨拶する。プリムラと同じく表情の変化に乏しい彼女は雪村杏。三人のクラスメイトで問題児である。
「今日オープンしたおいしいって評判の店のチェーン店よ」
「むむ…」
「クレープ、ですか…」
甘いもの好きな楓とアイシアが反応する。
「俺待ってるから買ってきたら?」
「いいんですか?」
「別に急いでるわけでもないだろ。俺のも買ってきて」
実はクレープとかケーキが好きなシン。しかしあの女性だらけの列に突っ込む勇気はない。
「じゃあちょっと行ってきますね」
「シンは何がいいですか?」
「チョコバナナ以外ありえない」
「セオリー通りなんて、つまらない男」
楓、アイシア、杏の三人は行列に向かっていく。シンは近くのベンチに座る。
「あれだけ並んでると10分ぐらいかかりそうだな…」
空を見上げる。青空のいい天気だ。
(この空は、あいつらが守ったんだな…。そしてこれからも…)クイクイ
「?」
誰かに袖を引っ張られてそっちを見る。そこにはオッドアイをした4~5歳の少女、否、幼女が。嫌な予感しかしない。一応聞いてみる。
「どうしたのかな? お母さんは?」
長い金髪を横に揺らす幼女。
(やっぱり~~~)
迷子だ。この不安そうな目。全身からにじみ出る助けてオーラ。100%迷子。
(楓たちは!?)
まだまだ後ろのほう。最前列のギャル共が何にするか話し合っているせいで前に進まないようだ。
(並んでる間に決めとけ~~~! アンタら一体なんなんだ~~っ!)
思っても口に出さない。これが社会生活。
「…」
「ぅ…」
潤んだ二色の瞳がシンを映す。昔は妹の相手をしていたがあれは『一緒に遊んでいた』のであって、基本シンは子供が苦手だ。大人は嫌いだ。
(どうしよう…。無視するわけにはいかない。けど何て話しかければ…)
幼女の目に涙が光る。
(や、やばい~~~。誰か~~~!)
万事休す。しかしそこに救いの女神が!
「あら、シンさん。どうされたのですか? 泣きそうですけど…」
「!?」
幼女の後ろに金髪碧眼の美人の見本のような女性が立っている。
「カレハさんっ!?」
彼女は亜沙のクラスメイトで親友カレハ。おっとりした美人さんである。そのカレハがシンと幼女を見比べて、
「まままぁ♪」
「なっ、光りだした!?」
突然キラキラしながらクネクネしだす。彼女はいささか妄想がたくましいのだ。
「シンさんったらいつの間に。金髪ですし学園長との?」
「やめて~~~~っ! 違います違います! 俺の子供じゃありません!!」
「そんなこと言ってぇ♪ 紅い目をした人なんてシンさんぐらいしかいないじゃありませんの♪」
アイシアとネリネの瞳も赤いっちゃ赤いが、シンとこの幼女のような真紅ではない。
「まままぁ♪」「違うんですーーっ!」
「…クスッ」
「?」
「あはは」
幼女が笑う。二人のやり取りが面白かったようだ。シンはホッとする。あのまま泣かれたらどうしようかと思った。カレハがしゃがんで話しかける。
「私はカレハ、こっちのお兄さんはシンさんといいます。あなたは?」「俺の子供じゃないって分かってたんじゃん!?」
「ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオちゃんですか。お母様とはぐれてしまったの?」
うなずくヴィヴィオ。
「じゃ、あとはカレハさんにお任せします。俺人を待ってるので…」
ギュッと裾を掴まれる。ヴィヴィオから置いていかないでオーラが散布されていた。
「シンさんにも一緒にいてほしいみたいですわね」
「で、でもこの子の母親を探すんでしょ?」
「こういうときは動かずに待っている方がいいと思います。ここは人通りも多くて人目につきやすいですから」
「うう…」
再びベンチに座るシン。その膝の上にヴィヴィオが座る。カレハは二人の隣に座った。
「まぁ♪ すっかり仲良しですわね。やっぱり親k」
「違いますって…」
幼女特有の体温がシンに伝わる。何となく恥ずかしくなって赤くなってしまう。ヘタレにもほどがある。
「ヴィヴィオちゃん、お母様はどんな方なんですか? 着ている服とか…」
「う~んとね…」
特徴が分かればこちらからも相手を探せる。そうすれば、
(早くこの状態から開放される! ナイス、カレハさん!)
心の中でシンはガッツポーズ。
(人ごみってほど人は多くない。この中から特定人物を探すことなんて、元赤服の俺にとっては…容易!!)
ヴィヴィオが言った人物を即座に探そうと目を軍時代のように鋭くする。そしてついにヴィヴィオが口を開く。
「めいおーとびんじょー」
「「は?」」
意味不明。
(何だ『めいおー』って! 君の母ちゃん次元連結システム積んでんのか!?  一つ目なのか!? 『びんじょー』は…『便乗』か? …そうかっ! シャツにでも文字が書いてあるんだ! 俺も運命って書いたシャツが寝巻き代わりだし)
そうと分かれば話は早い。服に『冥王』だの『便乗』だのと特異な文字が書いてあればソッコー目に付く。シンはさっそく探そうとするが、
「お母様が二人も!? まぁ、どうしましょう…」
カレハは動揺している。
「そっちかよ!?」
思わずタメ口で突っ込むシン。カレハは真剣な顔で言う。
「重要なことです。どちらのお母様に渡すかでこの子の未来が変わってしまいますわ」
「そんなことないんじゃ…」
「いいえ! きっとこの子はどちらかのお母様から苛められて家出をしてきたのです。もしそのお母様に渡してしまったら…」
(どうしよう…。俺にはこの人を止められない)
楓たちを見る。今度は小学生三人が迷っていた。
(小学生が買い食いしてんじゃねぇーーっ! 家帰ってドラ○エやってろ!)
FF派のシンは心の中で叫ぶ。カレハの力説は続いていて、ヴィヴィオはなぜか聞き入っている。
「はぁ」
ため息をついてシンは何となく通りを見る。するとシンと同年代と思しき一人の少女がキョロキョロしていた。長い栗色のワンサイドテールがせわしなく動く。
(まさか、な…)
文字シャツは着ておらず年頃の少女らしい服装だ。しいて言えば首から下がっている赤い玉のついたアクセサリーが目に付く。
「あ、なのはママ」
ヴィヴィオが声を出す。カレハの妄想は終わったらしい。
「ママって、あの方ですか?」
「うん♪」
カレハが確認するがどうやらあのワンテール少女が母親らしい。
(まあ、さくらだって俺より大分年上らしいし…)
世の中には色々な人間がいる、シンが初音島でもっとも痛感したことだ。
「あれはどちらのお母様なのですか?」
「めいおー」
「響きからするに怖い方かな?」
「う~ん、ですが『名桜』という言葉もありますし…」
「日本語詳しいっすね…」
「ママー」
ヴィヴィオは二人にかまわず母親を呼ぶ。ワンテールはこちらに気付き走って来る。が、
「…転んでしまいましたわ」
半ベソで立ち上がり小走りでやって来た。
「ヴィヴィオ…、大丈夫? 怖くなかった? もう、勝手にいなくなったら駄目でしょ」」
「ごめんなさい。でもママすごい楽しそうだったから。…ママ、痛くない?」
「結構痛い。でも平気だよ」
ひしと抱き合う二人。
「怖いお母様ではなさそうですね」
カレハが小声で耳打ち。
「あの、ありがとうございました。つい弾幕ゲーに夢中になっちゃって…」
なんて母親だ。現代の子育て環境はどうなっている。
「無事に会えて良かったですわ。ヴィヴィオちゃん、これからはお母様がゲームに夢中でも離れたらだめですよ」
「うん」
「あの、何かお礼を…」
「いいですよ。人を待ってる間のついででしたから」
シンは一応敬語を使う。見た目がこうでも中身は年上かもしれない。
「でもそれじゃ…。あっ、そうだ♪」
『めいおー』が何か閃く。
「わたし実はミッドチルダの管理局に勤めてて、何か困ったことがあったら連絡してください。強盗とか一瞬で殲滅できますから」
「!!」
「まあ、それは頼もしいですわ」
得意気に言う『めいおー』。ヴィヴィオもうんうんとうなずきカレハも合わせる。しかしシンにはひとつの感情が湧き上がる。
「わたしは高町なのは。こう見えても管理局じゃ有名だからこの名前を出してくれたら分かりますから」
「高町…なのは…」
「じゃあわたしたちはこれで。ほらヴィヴィオ、バイバイして」
「ばいばーい、シンパパ、カレハママ」
「まままぁ♪」
最後にとんでもないことを言うヴィヴィオ。カレハはまたキラキラしだす。
「管理局…高町なのは…『めいおー』=『白い悪魔』…ならあいつが……」
シンの脳裏に三年前の光景が浮かぶ。頭上を舞う蒼い翼のガンダムと赤いガンダム。そして三機のSMS。あとで知ったことだがあれには…。
「シン?」
「ぅおう!? ア、アイシア」
間近でアイシアに呼ばれて飛び上がる。三人はそれぞれクレープを持っている。
「か、買えたみたいだな…」
「はい♪ ちゃんとシンのも買ってきました」
アイシアがクレープを渡す。おいしそうだ。
「シン君?」
「どうした、楓?」
「ママとかパパって何ですか?」
楓が聞く。さっきのヴィヴィオの言葉を聞いていたらしい。
「ああ、あれは迷子になってた子が勝手に。ね、カレハさん?」
「私とシンさんが夫婦だなんて~。でも二人の特徴を合わせるとちょうどヴィヴィオちゃんみたいに。まままぁ♪」
聞いちゃいねぇ。楓はなおもシンに問う。
「一体何なんですか?」
「いやだからちょっと面倒見てたから…」
声が低い。目つきも怖い。
「どうして『パパ』『ママ』なんですか? オカシイデス…」
「サ、サア、何でだろうな。カレハさんが大人っぽいからかな…」
「どうして…? ドウシテ?」
目からハイライトが消える。口調がヤヴぁイ。
「ア、 アイシア、助けてくれ~」
「わ、わたしを巻き込まないでください!」
追いかけっこをしだす二人。楓はなにかブツブツ言っている。その様子を離れて見ていた杏は、
「ヤンデレ乙」
クレープを黙々と食べていた。

「ドクター、こちらの仕込みは完了です」
「うむ、ご苦労」
淡い光が照りだす部屋。二人の男女が言葉を交わす。
「彼らは、世界はどんな顔をするだろうね?」
「驚きこそすれ大して不安には思わないでしょう。彼らには世界最強の聖剣があるのですから」
モニターに『ストライクフリーダム』『インフィニットジャスティス』―二振りの聖剣―が映る。
「最強、か。私には理解できんよ。最強などというものは強者の夢想だというのに」
「そうでしょうか?」
「当然だ。最強、完璧、これらは『それ以上上がない』ということ。つまり進化・進歩を否定しているのと同義だ。ヒトとは常に前を、上を目指す。それをやめてしまえば獣と成り果ててしまうよ」
「だからドクターは今回の計画を?」
「オイオイ、それではまるで私が世界のために動くみたいじゃないか」
「失礼しました」
「私はね、ただ世界が信じる最強というものを壊してみたいのだよ。今や誰からも「当て馬」「かませ犬」「身の程知らず」と呼ばれる彼を使ってね」
モニターには一人の少年が。
「しかし彼は前大戦の傷もあり以前のようには戦えないと思いますが?」
「そこが不安材料なんだよ。あの時おとなしく心臓だけでなく右目と右腕も取り替えればよかったのに」
不安とは言うが男は楽しそうだ。そのとき女に通信が入る。
「…ドクター、例のモノが完成したそうです」
「くっくっく、そうか。さすがは代々優秀な魔法使いを輩出している家系の末裔だ。複雑なデバイスの組み上げもお手の物か」
男が立ち上がる。
「さあ、お楽しみはもうすぐだ。待っていたまえ、イオリア・シュヘンベルグ、そして…ヴェーダ」

「ただいま~」「ただいま帰りました」
「やっと家か…。今日は疲れた。精神肉体どっちも…」
あのあと楓はすぐ正気(?)に戻りスーパーで夕飯の材料を買った。杏は帰り道が別、カレハはアルバイトなのでクレープ屋の前で別れた。別れ際に杏が、
「ま、流血沙汰にならないようにね」
とシンに警告していったがシンには意味がわかっていない。
アイシアと楓は靴を脱いで家に上がる。シンも靴を脱ぎ上がろうとするが奥からプリムラが出てきて通せんぼされる。
「…言わなきゃ駄目か?」
「だめ」
悩むシン。楓とアイシアもプリムラの味方のようだ。
「ここは『私の家』ですから」
「早くしないとご飯が食べられません」
「…」
照れながら口を開く。
「ただいま…」
「「「お帰りなさい」」」

例え見せ掛けの平和でも、その中で今のシンには帰る場所があった。

―相変わらずシン君は悩みだらけだねぇ。周りの娘たちも気付いているならもっと踏み込んでいけばいいのに。ま、彼女たちも色々と背負っているんだけどね。どこかのマッドサイエンティストは何か企んでいるし、因縁のエースオブエースとは会うし、キミがこれからどの道を選ぶのか楽しみにしているよ。ボクとしては…どの道も選ばないのが一番楽しめるけどね…―

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最終更新:2009年10月22日 16:16
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