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ムキドー多重クロス-05

別れ…
それは我らにとっては当たり前のこと…
ヒトと我らでは生きている時間が違うのだから…
悲しくないわけではない。しかし受け入れなくてはならない。
避けられぬ運命…
汝は…違う運命を示してくれるのか……

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-
  PHASE-4「狂気の祭典-怒れる瞳、再び」

「アスラン、ここにいたんだね」
「ああ、キラか」
式典会場控室での会話。開始まであと数分になってキラ・ヤマトはアスラン・ザラが表会場に姿を見せないので彼を探してここへ来た。
「君は見ないの?」
「ここで見るさ」
「会場の方が見やすいよ」
「どうもな…」
アスランは大勢の人に注目されるのが嫌いなのだ。キラも苦手ではあるものの最近は大分慣れた。
「…なあ、キラ。ちょっと急ぎすぎなんじゃないか?」
「急ぐって、何を?」
「対テロ制圧部隊アロウズの結成に太陽炉の採用、それに…」
「ユグドラシルプロジェクト?」
「ああ。どれもまだ問題が残っている」
「使い方を間違えれば、でしょ? 僕たちは正しい道を見つけられたんだ。間違えたりしないよ」
キラにしてはハッキリと言う。アスランにも分かっている。自分たちはもう間違わない、間違えてはいけない。今の平和を何としても維持していかなければならない。レジスタンスはなんやかんやで勢力を増している。それを抑えるためには多少性急でも『力』が必要なのだ。
「それよりもアスラン、気を付けておいて。これだけの要人が集まってるんだ。テロリストが襲撃してくる可能性が高いから。いくらなのは達でも無敵ってわけじゃないし」
「ああ、分かってる」
(テロリスト、か…)

「やあ、待っていたよ」
アル・アジフに桜公園の奥に連れてこられたシン。そこには仮面をした長い黒髪の男がいた。
「…。貴様の後ろにあるものに用がある。そこをどけ」
「すまないがその前に少し彼と話をさせてくれないか、『ネクロノミコン』の精霊」
「む、妾を知っておるのか。何者じゃ?」
「そうだな…ローラン、と名乗っておこう」
「ヨウラン?」
「ローラン。フランスの叙事詩『ローランの歌』の登場人物ね」
エセルがシンに説明する。
「…で、そのローランさんが俺に何の話があるんだ?」
シンは不機嫌に聞く。かつて仮面の男にはとんでもない真似をされたので当然ではある。
「まずはこれを見てくれ」
ローランが手を挙げる。するとその背後に巨大な物体が現れた。
「な、何ですかこれ?」
「モビル…スーツ」
アイシアの問いにシンが答える。そう、それは間違いなくMS,それも…
「ガンダム…」
「このMSからかすかだが特異な魔力を感じる」
「あなたはそれをたどってこんな場所まで?」
楓を降ろした音姫が聞くとアル・アジフはうなずいた。
「君の機体だ、シン・アスカ」
「俺のことも知ってるのか」
「ああ。この場にいる者の中では一番知っている自身がある。過去を中心にね」
シンは警戒を強める。自分の過去を知っているということは少なくとも一般人ではない。
「兄さんの過去…どうしてそんなことを…?」
「別に特別な理由はないよ。私にとっては当然のことさ」
「…」
不信感を募らせる由夢。ローランはシンに向き直る。
「さて、シン。君はこの『力』で何をする?」
「え?」
「スカリエッティのたくらみを阻止するのか、それとも…かつての復讐の続きをするのか…。このMSに乗らないという選択もあるね。今の君に戦うことを強制する人間はいないだろう」
「俺は…」
シンは答えられない。自分でも何をしたいのか分からない、なぜここまで来たのか分から
ない。
「何を迷っておる。さっさと…」
「ここは彼に決めさせてくれないかな?」
アル・アジフに告げるローラン。静かだが魔導書が口をつぐむだけの威圧感があった。由夢たちも多くの疑問があったが黙っている。
「少なくとも君の周りは平和だ。何より君は以前と同じとはいかない。君が行っても何も変わらないかもしれない」
(そうだ…。それにあいつらがいるんだ。俺が行く必要はどこにもない)
ポケットからピンク色の携帯電話を取り出すシン。薄汚れたそれには亡き家族との思い出が詰まっている。少し前まではこれを見る度悲しみと怒りが溢れてきたが今はそうでもない。これは形見であってシンの全てではなくなったのだ。今は「ごっこ」かもかもしれないが家族がいる。自ら進んで戦場へ出る必要は…
(無い…のか? 俺が大切なのは家族だけなのか…?)
シンの脳裏に初音島での日々がよぎる。ここに来たのは3月の終わり。それから大して経過していないし大きな事件があったわけでもない。
(なのにあいつらは俺を『友達』って…奪うことしか出来なかった俺を『仲間』って…)
携帯電話を握りしめるシン。今の自分を見たら妹は何と言うだろうか。生前言われたことを思い出す。「お兄ちゃんはケンカしていつも負けてるけど、カッコ悪いとは思わないよ。だって…」
「「大切なものを大事にしようって一生懸命だから」」
さくらが言っていたことと重なる。さくらは「その一生懸命を否定できる権利は誰にもない。何が間違ってて何が正しいかっていうのはもっと後の人たちが決めること。今生きてる人間が決めることじゃないよ」とシンに言った。
(俺のやってきたことがどうなのかはまだ分からない…。でも俺は…)
「俺は負けたんだ。全部無駄だったんだ…」
『負けた』『無駄』というのは現在のシンの口癖になっている。音姫たちが何に負けたのか聞いても答えをもらったことはない。
「そんなことありません!」
アイシアはシンのこの口癖ともいえるセリフが嫌いだった。
「この世界に無駄なことなんて一つもないって、俺はアイシアが頑張ってるのを知ってるって言ってくれたじゃないですか。そのおかげでわたしは元気になれました。
だから今度はわたしからシンに言います。シンがここに来るまでにしてきた事は無駄なんかじゃありません。どこかで誰かが認めてくれているハズです。もちろんわたしたちだって初音島に来てからのシンには感謝してます」
アイシアがシンをまっすぐに見つめて力強く言う。シンは確かに以前落ち込んでいるアイシアにそう言った。まさかそれを自分が言われるとは思ってもみなかった。由夢もアイシアに続く。
「勝ち負けなんて死ぬまで分からないんじゃない? ずーっと勝ち続けられる人なんて少しだけ。普通は勝ったり負けたりを繰り返すわけだし。むしろ勝ち続けている人より負け続けている人の方が強いと思うけど?」
お前らに何が分かる、以前のシンならばそう言っただろうがこの島で過ごし、なんとなく彼女たちにも暗い過去や傷があることが分かっていた。
しかしアイシアと由夢が言ったのは「昔のことを気にするな」というものであって、それだけで自分を許せるようなシンではない。
「俺が戦えば人が死ぬ。キラ・ヤマトたちみたいには戦えない…」
「弟くんにしか助けられない人だっているよ」
「え?」
「アイシアちゃんが言った弟くんのしたことを認めてくれる人っていうのはきっと弟くんに助けられた、救われた人なんじゃないかな?」
「俺は誰も救えてなんかいない」
シンの脳裏には守れなかった金髪の少女が浮かぶ。
「楓がいる」
黙っていたプリムラが言う。
「シンがいなかったらずっと前に死んでたかもしれないって言ってた」
「…楓が…?」
なぜか昔のことをあまり覚えていないシン。プリムラの話からすると以前楓と会ったことがあるらしい。だが救ったなどということは信じられなかった。
「誰かと間違ってるんじゃないか? 初音島に来たのは今回が初めてのハズだし…」
正直彼女が人違いをするとは思えないが。
「兄さんが忘れてるだけでしょ」
シン以外も同じ考えのようだ。
「じゃあやっぱり弟くんにも救えた人がいたんだよ」
再び音姫。
「楓ちゃんがいたから私たちは会えた。なら楓ちゃんだけじゃない。今私たちがこうして仲良くなれたのも弟くんのおかげってことだよ?」
「そう考えれば兄さんは最低六人と一匹を救ったことになるわね」
言い返せないシン。楓がいなかったらさくらは肩身が狭くてノイローゼにでもなっていたかもしれない(by本人)し、そうなればこの姉妹やアイシアも路頭に迷っていた可能性がある。プリムラは言わずもがな。
「でも俺には戦う理由がない」
音姫たちを死なせたくないのは確実だが「守る」とはもう言えない。そもそも彼女たちが自分にとってどういう存在なのかシンには分からない。
「じゃ、探したら」
「そうですね。ないなら探せばいいんですよ」
さも当然と小さい二人が言う。
「探すって…」
シンは戸惑う。だがいいかもしれないとも思う。軍にいた頃は理由を与えられていた、押し付けられていた。しかし今は自分で決められる、見つけなければいけない。
「いいのかな…? 戦う理由を探すために戦っても…」
「や、世の中には戦うために戦う人だっているんだから全く問題ないでしょ」
「あ、でも見つけるのは日常の中からだよ。戦争から探すのは軍人さんだからね」
「日常…」
「うん。だからそれが壊れちゃわないよう白河さんたちの所に行ってあげて」
姉妹に背中を押される。
(探す…あの頃は考えもしなかった。いや、そんな気がなかっただけか…)
シンは不器用な微笑を浮かべる。
「そうだな。そうするか」
シンはローランに向き直る。
「ふっ、君には素敵な家族がいるようだね。少しうらやましいよ」
仮面越しではあるがローランは自嘲するような笑顔をしたのがシンには分かった。
「では行きたまえ。二つの魔導書と共に、探すために、この『クライムインパルス』で」
「クライム…インパルス」
名前通りガンダムはシンのかつての愛機インパルスによく似ていた。
「動力以外はマイナーチェンジだがね。性能はほとんど変わっていない。戦果はパイロット次第だ」
旧インパルスは現行主力機と比べると中堅といったところである。前大戦から半年ほどだが技術の進歩は早い。
「出来ればデスティ…って、いない…」
ローランの姿は消えていた。
「転移か…。かなりの使い手じゃな」
アル・アジフは言い、クライムインパルスに近づいていく。
「早く来い! 汝がおらんと動かせんじゃろうがっ」
「何で君(←年下に見えるので)が付いて来るんだ? 俺一人で…」
「私たち魔導書は契約者の力になるのが決まりなの」
「契約した覚えなんてないぞ」
「そういえばまだ私とはしていなかったわね」
言うとエセルはシンに顔を寄せる。

皆さんこんばんは。芙蓉楓です。
突然ですが今私は混乱の極みにあります。白くて小さな子がシン君に■■している場面を目撃したせいでちょっと熱くなり、なぜか眠ってしまいました。そして目を覚ましたら今度は黒くて小さな子がシン君に■■していました。
意味がわかりません。わけがわかりません。私は何か言った気がするのですが覚えていません。ただアイシアちゃんや由夢ちゃんが怯えていました。きっとあの小さい子たちが何かしたのでしょう。
あ、シン君がこっちを向きました。お顔が真っ赤です。カワイイ…。…そうじゃありません。私はシン君に近づきます。あら? シン君が後ずさっちゃいます。さっきまで赤かったお顔が青ざめています。はっ!? ■■されたときに何かされたのでしょうか? …許せません。許せませんとも。ここにネリネちゃんがいたら魔法でこう…『なぎ払ってやる! 全てっ!』的なことをしてもらいたいところです。え、何ですか音姫さん? 「血が出てる」? 言われて自分の手を見ると手の平から血が出ていました。どうやら強く握りすぎていたようです。でもどうしてでしょう? 私は怒ってなんかいませんよ? エエ、オコッテナンカイマセン…

「マスター、彼女は何か邪法にでも手を出しているのですか?」
「ま、まさか…それはないだろ」
(でも最近目つきがヤバイことあるんだよな)
エセルの質問に軽く答えるシンだが内心ドキドキだったりする。だって楓の目つきが怖いんだもん。ゴ○ゴさえ逃げ出さんばかりの威圧感&殺気。
シンたちがビビって見ていると楓はハッとしてキョロキョロしだす。正気に戻ったようだ。
「…大丈夫っぽいな」
「ではマスター、参りましょう」
シンに身を寄せるエセル。シンはドギマギ。
「ナコト写本、言っておくが妾が先に契約したのじゃぞ!」
「え? そうだっけ?」
「したじゃろうがっ!?」
「とっさだったからマスターには分からなかったようね」
「~っ。ええ~い、もうよいっ。我が名はアル・アジフ。シン・アスカ、貴様と『最初』に契約した魔導書の精霊じゃ。 特別にアルと呼ぶことを許してやる。他にも言いたいことがあるが今は時間がないから後にする」
ふんぞり返って言うアル。平らな胸は平らなままだ。
「ああ、よろしく…」
そしてハッチを開けたままコックピットに乗り込むシン。コックピットには測定機らしき物がいくつも設置されている。
(テスト機なのか?)
不安になるシン。すると魔導書×2が入ってきた。体が密着する。
「ぅえっ!? マジで乗るの?」
「冗談だと思っておったのか? そもそもこいつは魔力がないと戦えんぞ」
「え?」
「魔力を動力に変換するようです。マスターお一人でも動かせますが本格的な戦闘はムリかと」
「お主は魔力がほとんどないようじゃからな。『妾に』感謝するがよい」
「あら、アル・アジフ。今の私たちは二人揃ってドクターウエストに及ぶかどうかといったところよ。一方だけではまともに戦えないわ」
「ぬぐぐ…」
コックピット内でもめる二人。仲良しということはなさそうだ。
「…とりあえず、起動するか」
機体の電源を入れるシン。パネルやモニターが明るくなる。そして表示されたOSの頭文字は…
「G・U・N・D・A・M…」
『ガンダム』。それはシンにとって複雑な名前である。かつて家族を奪われ、助けようとした少女を殺され、自分の体をこんな有り様にした『敵』。そして、かつては自分が手に入れ振るった『力』。
(今の俺にとっては何なんだろうな…)
「あっ、色が付いてきましたよ」
外でアイシアがはしゃぐ。PS装甲が起動する様子は間近で見ると意外と美しい。そして完成したのはミッドナイトブルーを基調に暗灰色の四肢と黒い翼を持ったフォースインパルス似のガンダム。
「カッコイイ…」
プリムラが珍しく感情のこもった声を出す。ダークカラーが気に入ったようだ。
「このOS…俺に合わせてあるのか?」
搭載されていたOSは以前シンが使用していたものをベースに今のシンの体を考えたアレンジが加えられていた。シールドも右手に持っている。
(あの仮面の男、何者なんだ…)
ナイアの発言からするに二人は繋がっている可能性が高いがどちらも正体不明なため何の手掛かりのもならない。
「よし、ナコト写本。始めるぞ」
「ええ」
アルとエセルが目をつむり集中する。するとクライムインパルスの背中から灰色の粒子があふれる。
「これがGN粒子か…。緑色って聞いてたけど…」
シンがZAFTで聞いた話ではGNドライヴが放つ粒子は緑色、稼動にも魔力を必要としない。どうやらZAFTで設計されていた物とは別物のようだ。パネルにはGNドライヴと表示されてはいるが。
「統合軍のもZAFTのとは違うのかもな」
ならば早すぎる量産体制も納得がいく。形が似ているなどということはよくある話だ。
「そろそろ動けるぞ。準備はいいな?」
アルが言う。はじめは空っぽだったドライヴの粒子貯蔵量が半分ほど貯まっている。
「今はこれが精一杯です。緊急時に備えてバッテリーも積んであるようですので戦闘中に身動きがとれなくなるということはないかと」
エセルの言うとおりバッテリーのゲージ(短い!)もある。
正直心許無いが贅沢は言えまい。さんざん迷い今も迷っている。それなのにこの二人は協力してくれているのだ。
「機体もパイロットも中途半端で丁度いいさ」
シンが機体を立ち上がらせようとすると音姫が近づいてきた。
「音姉…」
彼女たちは事態についてこれていない。なぜシンがMSを動かせるのか、なぜこんな所にMSがあるのか、分からないことだらけだ。しかし、
「いっぱい聞きたいことがあるけど今は聞かないよ。その代わり必ず帰ってくること。いい?」
人差し指を立ていつものようにお姉さんぶっていう音姫。
「そうね。帰ってきたら説明してもらわないと」
「シンならきっとことりたちと一緒に帰って来れますよ!」
「夕食作って待ってますから」
「待ってる…」
由夢はそっぽを向いて、アイシアは元気いっぱいに、楓は祈るように、プリムラはまっすぐに瞳を向けて。
「帰ってこい」―帰る家を失った自分には不要の言葉だった。
「待ってる」―守れなかった少女が夢で言っていたが自分に『明日』などなかった。
だが今のシン・アスカには『帰る家』がある。友人と過ごす『明日』がある。
(戦う理由は分からない。でも俺は……)
シンのレバーを握る手に力がこもる。左目に確かな意志が宿る。それを感じたアルとエセルは満足そうな顔をする。
「心配いらないさ。俺は帰ってくる。お茶でも飲んで待っててくれ」
シンがおどけて言うと音姫はうなずきみんなと共に離れる。そしてインパルスのコックピットハッチが閉じられ発進準備完了。
「行くぞ、アル、エセル!」
「うむ」
「イエス、マスター」
「シン・アスカ、クライムインパルス、行きますっ!」
新たな衝撃が飛び立つ。灰色の雪を降らせながら平和の中の戦場へと…

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最終更新:2009年11月15日 00:04
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