アットウィキロゴ

悠久幻想曲ネタ-33


「フォース! 分かっているな!?」
「うん! まずは奪われた本を取り戻す!」
「めんどくせぇなぁったく!」

 図書館の外に飛び出したインパルスは腰から対装甲ナイフを抜き、目前を飛ぶダークダガーLに向かい叫ぶ。

「待ちなさい! その本を返して!」
「待てだの返せだの言われて忍者が従うわきゃねーですよ」
「なら……!」

 グン、と一気にスピードを上げフォースはダークダガーに肉薄する。本の奪還が目的である以上、ライフルや
サーベルを迂闊に使うことはできない。しかしフォースシルエットの推力はダークダガーが装備しているジェッ
トストライカーに匹敵している。瞬く間に距離を詰め、ナイフの射程に捉えた。

「うおっ、速っ!?」
「ちょっと痛いかもしれないけど!」

 ゴメン、と詫びてフォースはナイフを振るった。太陽の光を鈍く弾きながら刃は弧を描き、本を抱きかかえる
ダークダガーの腕を……
 傷付けることはなかった。

「えっ……?」

 目を見開くフォース。そんな動作は見えなかった。逃げに徹するとばかり思っていたダークダガーの左手には、
インパルスのナイフを受け止めたクナイが握られていた。
 おそらく図書館を飛び出すと同時に取り出したのだろうが、それよりもビームカービンやバズーカを構える
方が遥かに現実的なはずだった。
 だというのに、クナイ。

(読まれていた? ここまでの行動がすべて……!)

 そうとしか考えられない答えにブラストは戦慄する。仮に何かが起こってもたかが量産機のマイナーチェンジ、
すぐに取り押さえられるだろうと侮っていた。
 だが違う。目の前の相手は、単純に性能差で測れる相手ではないらしい。

「おっとっとー、あぶないあぶない。ちょっとギリギリだったか、なっ!」
「あうっ!?」

 腹を蹴り飛ばされて距離を開けられるインパルスを舌を出して見送り、ダークダガーは再び何処へと向かい
逃げて行く。

「っ、ま……まって!」
「待てフォース、ここは一旦退くんだ!」

 ブラストが警告を言い終えるより早くフォースはスラスターを吹かして後を追う。先ほどよりもさらにスピー
ドを上げて。

「なっ!?」

 その異変にソードが真っ先に声を上げた。
 ブラストは息を呑み、フォースは自分の行動の迂闊さを呪った。
 眼前を飛ぶダークダガーがぐるりと体勢を変える。向かってくるインパルスに正面を向く形で。
 先ほどまでクナイを握っていた左手。今そこにあるのは、少女の背丈ほどもあるバズーカだった。


慌てて避けようとするフォースだったが、上げ過ぎていたスピードが災いして急制動をかけなければならな
かった。
 砲口の目と鼻の先で速度を落とさざるをえなかったインパルス、そのタイミングを捉えたダークダガーの口角
がつり上がる。

「合言葉はぁー……ジャックポット!」

 陽気な声と同時に放たれた不可避の砲弾が、無慈悲なほどまっすぐにインパルスへと突き刺さった。
 爆音が、エンフィールドの上空で響いた。
 図書館を飛び出し、インパルスとダークダガーを探していたシンだったが、その音に慌てて振り向く。
 数十メートルほど離れた場所に出現した黒煙、その中から零れるように落ちてきたのは……

「インパルス!?」

 力なくうなだれて落下するその姿を認めた瞬間、シンは駆け出した。
 叫び逃げ惑う人々を掻き分け、何故こうなってしまったのか悔いながら。

 ――アイツは、俺たちを騙していた。

 目的があの本なのは疑う余地もないだろう。
だが何故? 何のために? そもそも一体どんな本を盗んだのか?
場所は旧王立図書館の閉架書庫、魔法関連の危険な書物も数多く蔵しているとは聞いている。
 ならばあの本も貴重な一冊である可能性が高い。だが何故それを欲しがったのか?
 次々に疑問が浮かんでくる。インパルスがやられた直後であるというのに、シンの頭の中ではダークダガーの
背後にいる何者かに得体の知れない危機感を覚えていた。

 ――まさか……!?

 脳裏に浮かぶは黒衣の男。あの襲撃以来、不気味なほどにその存在を消してしまったあの白髪の男。
 かすかに感じたその気配を自覚して、全身から嫌な汗が噴き出してくる。

「クソッ!」

 頭を振る。気付けば軽い目眩を起こしていた。
 あの男のことを思い出す度に歪んだ鏡を覗き込んだような不快感があった。
 ……今はそれどころではない。
 こんな不確定のことで臆している暇などないのだ。

「っ!? インパルス!」
「う……?」

 いつの間にか落下していたインパルスの元へと辿り着いていた。
 力なく横たわる身体が緩慢ながらも起き上がっていく。左手に携えられた盾には無残な着弾痕があった。

 ――防いでいたのか……

 衝撃こそ凄まじかったようだが、どうやら直撃はしなかったらしい。
 無事とまではいかないまでも最悪の事態を回避したことを知りほっと胸を撫で下ろした。
 だが、


「あーららら、どうやらしくじっちまったっぽいね」

 上から降ってきた呑気な声にハッと天を仰ぐ。
 相変わらず左手に本を抱えたまま、「参った参った」と呟きながらサングラスの位置を直すダークダガーがいた。

「これは困った。さっさとこれを持ち帰った方がいいんだろうけど、このまま追いかけられる可能性を残して
しまうのもどーよ? って話なんだよねぇ」

 うーんと唸るダークダガーを見上げながら、フォースはゆっくりと立ち上がる。爆発の衝撃によるダメージが
抜け切っていないのか、足をふらつかせていた。

「いやいや、やっぱここは後腐れなく……いっときますか」
「っ、逃げてください元マスター!」

 フォースが盾を構えて叫んだ直後、ダークダガーの翼にマウントされていたロケット砲が火を吹いた。

「インパ……うあっ!?」

 次々と降り注ぐロケットが起こす爆発に危うく巻き込まれそうになりながらシンは仕方なく距離を取る。
 一瞬にして爆炎に包まれる街路。顔を庇っていた両腕をどけると、盾を掲げたまま膝をつくフォースの姿が
あった。
 PS装甲がない今となっては、実弾兵器すらインパルスらにとっては脅威となる。よく盾がもってくれたと
言う他ない。

「ふふん」

 しかし、そこで手を緩める相手ではなかった。ダークダガーは腰のサイドアーマーからクナイを取り出すと、
それをインパルスの足元へと投擲したのだ。

「っ!?」

 地面に突き刺さると同時に柄の一部がスライドし、赤い光が点灯する。それを見たフォースは強引に横へと
飛び退いた。

 ――ボフン!

 また爆発が起こるのかと身構えるシンだったが、クナイから膨れ上がったのは真っ白な煙だった。煙幕はイン
パルスを包み込むもすぐに小柄な身体がシンの傍まで転がり出てきた。
 目くらましかと思ったがそれにしては広がる範囲が狭すぎる。爆弾でもなければ煙に巻くわけでもない、その
意図不明の攻撃にフォースも疑念を持ったようだった。

「なん……っ」
「フォース!?」

 立ち上がろうとしたフォースの身体がガクンと崩れ落ちる。倒れこむ少女を抱きとめたシンは、その顔を覗き
込んで息を飲んだ。
「あ、あ……?」

 瞳がノイズのようにさざ波立っていた。身体は小さく痙攣を起こし、力が入らないのかシンの腕を掴んでいた
手が滑り落ちた。

「おい、どうしたんだよ!?」

 身体を揺するが反応がない。完全に意識を失っているようだった。
 が、直後にシンの手を力強く握り返す。

「フォース?」
「くっ、このスモーク……ジャミングか!」

 フォースと入れ替わったブラストが煙幕の正体を看破する。再び煙に目を向けると、キラキラと小さく光る
粒子がかろうじて見えた。おそらくこれがフォースの意識を絶った原因なのだろう。

「ザッツラーイト! ま、効果は大体数分ってとこだけども」

 ダークダガーが見事とでも言うように拍手を鳴らす。すでにその両手に武器はなく、あるのは小脇に抱えた本
のみだった。

「とはいえ、これでインパルスの翼は引っこ抜いたワケだ。自分は安心して帰らせてもらうよ」
「お前……何のためにこんなことを!?」

 背中を向けかけたダークダガーだったが、シンにぶつけられた言葉に動きを止めた。

「何のため、か」

 ふっと小さく漏らした笑みに、シンはかすかに感じ取るものがあった。
 どこか懐かしむような、そんな気配。

「そう、すべては……本物の忍者に! 影山ヒロ○ブお兄さんに歌をうたってもらえるようなカッコイイ忍者に
なるために! この本をいただいていくわけですよ!」
「ってなんだそりゃあああああああああああああ!?」

 まぁそんなものは反射的に返してしまったツッコミで全部吹っ飛んでしまったわけだが。

「なんじゃも何も、なんなんじゃ にんじゃ にんじゃって知らない?」
「余計に意味がわかんないぞ!? つーかそれ違う人だろ!」

 「あれ? そーだっけ?」とダークダガーが首を傾げている間に、シンは小声でブラストへと声をかける。

(ブラスト、フォースは?)
(ダメだ。まだ反応がない。それに意識が戻ったところですぐに動けるかどうか……)
(じゃあなんとかアイツを引きずり降ろせないか?)
(私の武器ではあの本まで巻き込んでしまいかねない。正直、かなり厳しいな)

 ブラストですらこの状況を打開する策は浮かばないらしい。あとはフォースが復活するまで時間稼ぎをする
しかないが……
「できると思うかい?」

 その甘い考えを見透かすようにダークダガーが笑いかける。ふざけた態度はそのままだが、初めて出会った時
の印象とはまるで違う雰囲気を纏っていた。

「そろそろ頃合いか。それじゃ、みなさんお元気で」

 余裕のつもりか背中に注意を払うこともせずダークダガーは去ろうとしている。
 だが、シンもブラストも手を出せずにいた。たった一冊の本だが、それには無限の価値が秘められているのか
もしれないのだ。性能差では遥かに上を行くはずのインパルスがここまでいいようにあしらわれていたのはその
一点に尽きる。だがそれをダークダガーが最大限に利用したこともまた事実なのだ。
 完全に相手を見誤っていたと言う他ない。今まで会ったどのMSとも違う曲者だった。

「――おいブラスト、アタシに変われ」

 黙り込んでいたソードが低い声で呟く。戸惑うブラストだったが、すぐに身体の主導権をソードへと渡した。

「ったく、ブラストも元マスターもなんでそこで止まんだよ。迷う必要なんざないだろうが!」

 そう叫ぶと同時にソードは背中のブーメランを引き抜いた。
 バックパックの一部も使用する大型の実体ブーメラン。上体を捻り十分に投擲への溜めを止めながら、怒気
を孕んだ視線をダークダガーへと向けていた。

「な……何をするつもりだソード!?」
「決まってんだろうが! あいつを叩き落とす!」
「だがそれでは本が!」
「知ったことかそんなもん!」

 そのやり取りが聞こえたのか、ダークダガーが驚愕に満ちた顔で振り向いていた。よほど予想外な展開であっ
たのか、中空で止まってしまっている。

「――元マスター」

 ダークダガーを見据えながら、ソードはシンへ一言声をかける。
 それを確認と受け取ったシンは一度目を伏せ、しかしすぐに見開き高らかに告げた。

「ソード……お前を信じる! 行けっ!」
「合点、承知ぃ!」

 引き絞られた弓が矢を解き放つように、溜めに溜めた捻りで蓄えられたエネルギーをそのまま乗せてフラッ
シュエッジは轟音を上げながらダークダガーへと襲いかかった。

「う、おおおおおおおおおおおおおお!?」

 本を両腕で抱え、宙を転げるようにダークダガーは飛来するブーメランを避ける。
 かろうじてではあったが、鋼の刃は翼にもかすらず飛んで行ってしまった。

「……外れたぞ」
「うるせえ。けどいいんだよ、これであいつも翼は捥がれた」


 その言葉の意味を、ダークダガーは姿勢を立て直そうとしたその瞬間に気付いた。
 翼の下にマウントされたロケット射出ポッド。いったいいつの間に投げられたのか、その一つに対装甲ナイフ
が深々と突き刺さっていたのだ。
 ダークダガーの叫びは、爆音にかき消された。
 誘爆によってジェットストライカーの片翼は弾け飛び、今にも落下してしまいそうなほどきりもみ回転をしな
がらダークダガーは地へと落ちていく。

「ハッ! アタシら舐めた報いだ。覚悟しろ、今からぶった斬りにいくからな」

 戻ってきたブーメランを掴みソードは犬歯を剝いて哂う。形勢は一気に逆転した。あとは取り押さえるだけだ。
 シンも、ブラストも、当然ソードもそう思っていた。
 だがしかし、ダークダガーの顔からはそれでも笑みは消えなかった。

「あ、まーい!」
「なっ!?」

 空中でダークダガーは火を噴くジェットストライカーをパージする。身軽になったその身体で体勢を整えると、
背中から別のストライカーが出現した。

「エールストライカーだと!? 馬鹿な!」
「ところがどっこいこれが現実!」

 それは間違いなくエールストライカー、それも大気圏内の飛行を可能にした後期のタイプだった。

 ――あいつ、まさかストライカーパックを全部使えるのか!?

 CE73で開発されたシルエットやウィザードと異なり、連合のストライカーパックは前大戦のころから数多の
種類が作り出された。
 中には試作止まりのものもありはしたが、このようなより実戦向きに改良されたものも決して少なくはない。
 それらをすべて使えるとなると、ダークダガーの戦闘力はさらに底知れぬものとなるだろう。

「はっはっはっはー! 所詮は悪あがき! 結局は自分の勝ちに変わりはないってこってす!」

 その言葉を否定できる者はいなかった。ソードも悔しそうに歯を食いしばるものの、他の手段を思いつくこと
はなかった。
 誰もがそう思った。高笑いを上げるダークダガーも当然含めて。

「はーっはっはっはっ……は?」

 それは突然のことだった。
 複数の光の筋がダークダガーの貫いた。否、エールストライカーのスラスター部分を正確に撃ち抜いていた。

「ぬわーーーーーーーーー!?」

 爆発と共に今度こそ地面まで落下するダークダガー。何が起こったのか分からずシンとインパルスは口を開け
たまま静観するしかなかった。

「な、何!? 何何何何!?」

 起き上がると同時にビームカービンを手に持ち、ダークダガーは辺りを見渡す。
 直後、

「ひっ!?」

 自身の四方にビタリと止まった物体を目にしてダークダガーは凍りつく。
 平坦な放熱板のように物体。その中心には今しがたエールストライカーを破壊したビーム砲が二門備え付けら
れている。
 シンはそれに見覚えがあった。

「――やれやれ。久々に会ってみればまた色々と厄介事に巻き込まれているようだな、シン?」

 優雅に地面へと降り立ちながら、眼鏡を光らせる少女――レジェンドは呆れた声でそう告げた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年10月18日 00:42
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。