「はぁぁさっむ・・・」
C.E.75年、とある砂漠のなかの夜の町。この夜にしては珍しく1人で、宴会の後なのか安い少量のジンとこの季節では珍しい黄色い一輪の花と折りたたんだ毛布を持って歩く酔った青年の姿があった。
酒場や多くの民家は暖かい明かりが灯り、美味しそうな料理の匂い、陽気な音楽をはなっている。青年はその1つ1つの暖かな光を優しく、満足げに見守りながらほろ酔い気分で歩いていた。
現在、軍事上赤服シン・アスカ隊長、及びアスカ小隊はもはや軍人ではない。
「サンキュー・・お前のおかげだよ。」
青年の向かった先はMS格納庫、そこに立つ、1体の灰色の巨人、今の青年の愛機ガイアガンダム(カスタム機)。この機体があったからここまで戦い抜いてこれたし、ここを守り抜いてこれてきた。青年はそう自負しているし、事実そうだった。
ここは前大戦ザフトがこの土地の人々を弾圧していた連邦から開放し保護した土地だった。だが戦争が終わったこと、歌姫の騎士団の主戦力が全て宇宙に上がったことをいいことに連邦はこの土地の返還を要求、しかし、歌姫は拒否しオーブの姫を交渉にむかわせたが交渉決裂。言葉の交渉は、シンプルに鉛玉の交渉となった。連邦は奪還にMS50機、戦艦5隻を投入。ザフト軍はこの土地の保有権を破棄し撤退。連邦軍は後、武力によってこの土地の人々に誰が支配者なのか知らしめるだけであった。
だがこの土地には両軍にとって核ミサイルより厄介な“鬼”が防衛についていた、シン・アスカとその愛機ガイアアサルト。
シン・アスカ、前大戦でキラ・ヤマトを討ち連邦にもかなりの痛手を負わせた兵(つわもの)。戦後、ルナマリア(キス止まり)といつの間にか別れていた彼はただひたすらに戦った。機体に血の涙のようなラインを引くことと好んでビームソードを扱うことから、戦う力を持つ者にとっては脅威と畏怖の意味をこめて「羅刹」、戦う力を持たない守られてきた人々からは笑顔をくれるということで「ピエロ」と呼ばれていた(最初にピエロみたいと言ったのは勤務先で飴をあげたアメリカ出身の女の子で、そりゃいいと笑っていたら周囲の人々に定着していたという深い意味はなかったりする)。
ガイアアサルト、砂漠の虎がシン・アスカに渡し使うよう命令した機体であり。シン・アスカの意思で防御のためでは無く機動力と稼働時間を上げるためにアサルトシステムを組み込んだ機体。赤いアサルトによりMAへの変形は不可能になったが、武器のマウント可能場所の増設、腰部の追加バッテリー、ウイザードシステム(主にブレイズ)、ホバリング推進システムなどの機能の追加により機動力と凡庸性が向上。追加装備にビームブーメランを両肩に、シールドの裏にはテンペストビームソードを仕込んでいた。ビームライフルはインパルスのものを使用。ガイア本体のカラーはかつての友の愛機のように灰色を主体。
全ては複数の狂信者達の計算通りだった。シン・アスカがガイアを使うとことも、この土地の防衛に送らることも、この土地の人々と交流し情が移ることも、連邦が返還の要求をすることも、武力交渉になることも、今のザフトがこの土地とその住人たちを見限ることも、シン・アスカの気性から撤退命令が出たとしても1人で死ぬまで戦い守ろうとすることも。全てはシン・アスカを戦死させるための計算だった。筈だった。だが、シン・アスカには“アスカ小隊”という仲間がいつの間にかいた。隊長をのぞく小隊の人間は全員、この土地に家族や恋人がいた。これは謀略を立てた者が力を持ち、シン・アスカを何かを守るために力を振り回すだけの兵士だと思い込み、小隊の人間性を考えなかったことが原因だった。
アスカ小隊は防衛戦で町の人々が雇ったサーペントテールの手助けでなんとか連邦軍を撤退させた後、ジャーナリストのジェス・リブルの勧めによりこの土地の人々はロンド・ミナ・サハクの「天空の宣言」に賛同。また本来ならアスカ小隊は脱走兵として扱われるが、ロンド・ミナ・サハクの交渉により軍法会議にかけられることも無くMSを保持したまま除隊し、しばらくはこの土地の専属の警備を仕事にする傭兵になった。
それももうすぐ終わる。明日には、ジャンク屋によるガイアの改修も終わり、アスカ小隊は解散しシンを除く隊員はこの町で普通の仕事をし普通の幸せな生活を始める。全員婿養子でカカア天下の家庭だが。
だがシン・アスカは違う。野望がある。これからは改修の終えたガイアを受け取りアメノミハシラとジャンク屋組合を依頼人との仲介役として旅をしながら傭兵を続ける。この町の平和と暖かさはシン・アスカの理想、夢、求めていたもの、あの時守れなかった少女に暮らしてほしかったところ。こんな場所を守りたい、1本でも多くの花を守りたい。それが野望だ。
たしかにシン・アスカは何人も殺した、この先さらに殺していくだろう、だがそれ以上の人々を救うために戦い守り続ける。それが今のシン・アスカの“覚悟”だ。
そのために傭兵を続け、世界を回って旅をする。もう自分や今はもういないかつての親友や守れなかった少女のような存在をつくらないために。
青年は、ガイアのコックピットの中でジンを飲みほすと毛布に包まって昔のことを思い出しながら眠った。
コクピットのモニターに一輪の花を添えて。
出発から2週間が経った。
照りつく砂漠の中、青年とその相棒“ガイアジェッター”の前には、ザクとソードダガーが1機ずつ。後ろには依頼人に警護を任された食物トレーラーと自分のMS運用トレーラーがあり避けるわけにはいかない。
「食料を渡せ!命だけは保障してやる!!」
(真面目に働くって考えはないのかよ・・・)
青年はその猛々しい盗賊に呆れていた。だが
「や だ ね」
「なにぃー!!」
勝負は一瞬だった。
ビーム突撃銃を撃つザクにシュベルトゲベールを構えるダガー。ガイアジェッターはサイドアーマーとウイングの追加バーにアを一気に吹かしながら接近していく、避けられるビームは先読みをしているかのように最小の動きで避け食物トレーラーに害をなすとみられるビームはシールドで防いでいく。賊にはその近づき方に恐怖を覚えた。
だが、目の前には横に薙ぎ払う構えをとったダガーいた。
「うわあーー! 」
「とったーーー!」
「なんてね」
ダガーのパイロットは、確かにとらえたと思った。思っていた。だが目の前の灰色のMSはいつの間にかいない。
「どこだ!?」
「ここだよ」
「え?!」
下を見てみると、そこには灰色の獣が光の剣をくわえ1つ目でこちらを睨んでいた。
「数が多ければ!」
MAに変形したガイアジェッターはMA時頭部に新たに装備された固定式ビームサーベルでダガーの両足を断つ。
「・・・よくも!」
ザクがビームアックスを構えるが、もう遅い。ガイアジェッターはそのまま空中に飛翔。
「それで勝てると思うなあ!」
再びMS形態に変形したガイアは右手で右肩のビームブーメランを、左手で右のサイドアーマーのビームサーベルを抜き急降下しザクの両肩を断ち切った。
「そこッ!」
そして、右手のビームブーメランを後ろに投げた。ビームブーメランが何かを切り裂き、空中で円を描きながらガイアジェッターの左手に戻ってくる。するとそこには背後から隠れてトレーラーを奇襲しようとする105ダガーが左足を失い倒れていた。
105ダガーのパイロットが次にまぶたを開けた時、そこには2連ビームライフルをこちらに向けるガイアジェッターがいた。
「投降しろ」
パイロットは両手を上げ出てきて
「・・・・投降する」
ガイアジェッター、シンがジャンク屋に出張してもらい飛行能力と高機動を実現した機体。機動面では両腰部と背面の姿勢制御ウイングにバーにアを、両肩にスラスターを追加。武装面においては、両肩にビームブーメラン、MA時頭部に固定式ビームサーベル(姿勢制御ウイングにバーに追加しグリフォン2ビームブレイドが使用不能となったため)を追加。ビームライフルは特注の上下に銃口のあるマガジン式2連ビームライフルに換装。普段は下の銃口のみを使用するが上下両方同時、交互発射可能。ただ元々ガイアには飛行を想定しておらず、追加バーにアで強引に推進力を上げて飛ばしているだけなので長距離飛行はできない、簡単に言えば短距離を高速で飛ぶことに適した機体といえる。というよりバーにアを吹かしながらMA形態で走るのが1番速く、セカンドシリーズで最速を誇る。
時折装備を変えるもある。
食物トレーラーの運転はの内1人は恐る恐るもう1人に聞いた。
「な、なあ、終わったか?」
「あ、ああ「すんませええん!」「うわああああ!!」」
「すいません。終わりましたんですが、どちらか俺のトレーラーを運転してもらえませんか?賊のMSを収したら、ガイアが積めなくなりまして・・・・」
「ああ、それじゃあ俺が・・・」
「あ、キーは付けたままにしてますんで」
2人は、さっきとはまるで違う青年の口調と様子に拍子抜けていた。
「ご苦労様。これが契約金と報酬だ。」
「ありがとうございます。確かに」
「あと友人の商人にも君のことは宣伝しておくよ。」
「はい、お願いします。」
「ところで君、結婚などは考えていないかね?」
「それでは失礼いたします。ではご縁があったらまた」
青年はそそくさと退場していった。
「チッ逃したか・・・・」
「あっっっぶねぇーまたかよ」
青年はトランクを片手にトレーラーに戻って行った。ちなみにこのような話が出てきたのは3回の依頼の中2回目であった。
青年はトレーラーの無線機をいじりジャンク屋のロウにつなげる。
『おおシン!元気にやってっか?』
「ああ、ところでロウまたMS3機ほど中破で手に入ったんだが・・・」
『いるいる。でなにがある?』
「ソードダガー、105ダガーにザクだ。」
『分かった!確か、そこなら***の****に預けておいてくれ。確認したら口座に振り込んどくから』
「あと作って貰いたいがあるんだけど・・・・」
『なるほど・・・お前らしいな!じゃあMSの代金から差し引いておくぞ。』
「分かった。ふう」
通信を切り一息つく、とりあえずあの3機を預けて次の町に向かった。
道の途中、雨の降る荒野のなか、青年はトレーラーの中で考えていた。
なぜこんなにも守るはずの力であるMSが一般に溢れて賊の手の中にあるのだろう。軍は一体なにをしているのだろうか。
「確かに今の軍じゃ経済的に辛いけど、食っていくのには支障はないはずなのになぁ」
だが、考えてもしょうがない。そう思い夕食の準備をしようと後ろを振り返った瞬間。唖然とした。
防水シートをかけられたガイアのコックピットが光っていた。
「何なんだよッ!?」
「あの小さな子のお母さん・・・なんだっけ?」
(あの人も“家族”のために戦いに来ているのかな?あの子もあの人と一緒にいるほうが幸せなんじゃないかな?
『顔を見るまでは、トリガーを引けたのにね~』
こだまする姉の声、言っていることは事実。変えようのない事実。自分があの子に引き金を引いたという事実。
少女の頭の中で、グルグルと疑問が生まれて走り回る。そして、迷いと罪悪感を生んでいく。ドロドロとコールタールのように思考にまとわりつく。
目を閉じ頭を振る。
(考えるな!命令された任務をやるんだ・・・・。)
少女はそんな迷いと罪悪感を閉じ込める。そして、心の整理はもうついたんだとを無理矢理自分に言い聞かせる。“家族”を裏切るわけにはいかない。
「あんたに恨みは無いけど・・・・。」
送られてくるデータでタイミングを計る。静かになっていく空間。高まっていく集中力。
「5・4」
輝きを増していく、地面の山吹色の紋様。スーハースーハーと呼吸を合わせる。外すわけにはいかない。
「3・2」
銃口に集まっていく破壊の光。
「1」
(・・・・ごめんね。)
「0」
轟(ゴウ)ッ!!
銃口から放たれる光。
拮抗する山吹色の光と桜色の光。
それらの光の見た目はキレイだが、性質は“獰猛”そのものである。
「くっ・・!」
突如、桜色の光は強大になり襲ってきた。
「えッ?」
だが次の瞬間、彼女は金色の光に包まれこの世界から消えた。
(・・・・く・らい・ここは・どこ?雨の音?私・・負けたの?もう監禁されたの?みんなは?あの子はどうなったんだろ?)
少女はザーザーと雨音の聞こえる暗く狭いところにいた。牢屋かもしれないのに、そこはなぜか落ち着いた。
「痛ッ・・・! 体が思うように動かない、いや動けない。非殺傷設定なのになんて威力だ」。
突然、光が指した。赤い瞳がこちらを睨む。それと同時に寒気と嫌な汗がゾワッと全身をかけ巡った。
(・・・んッ!?赤い・・・・目?!)
「誰だ!?」
青年は殺気と拳銃をむけて聞いた。
(怖い!!コイツも管理局のヤツか!?・・・だとしたら)
「アンタ達は・・本当に人間か・・・・?」
それを言うと少女は気を失った。まるで糸の切れた、マリオネットのように動かなくなった。
「え?お、おい!・・・・アンタは一体何なんだ!?」
「ん・・・・え?」
「おッ!ようやく起きたのか・・・・たいした怪我は無かったけど、大丈夫なのかよ?」
殺風景な部屋の中、襟を開き赤い軍服を襟を開き腕まくりした青年が椅子に座りテーブルの上でナイフを手入れしながら聞いた。
少女は毛布をかけられてベットに寝かされていた。
「くっ!体が・・・」
手足をベットの角に手錠をかけられて。
「・・・・あんたは一体?」
少女は悪態をつき聞いた。
「それは、俺のセリフなんだけど」
青年は、ハアとため息をつき、手入れの終わったナイフを鞘に収めて少女に名乗った。
「シン・アスカ・・一応傭兵をやってる。」
「・・・・シン・アスカ・・・・傭兵? 管理局・・・じゃないの?」
「・・・管理局?なんだそれ?ここらへんの職場?アンタはまたどこぞのお偉いさんに雇われた殺し屋じゃないのか?」
とはいってもここは荒野のど真ん中、一番近い町までかるく3日はかかる。
(管理局を知らない?)
ドックンドックンと心臓の鼓動が大きくなる。思いつきたくないもない最悪の可能性。
(もしかして・・・・)
「・・・い、今“新暦”何年?」
「違うのか?質問に答えろよ。なんでガイアのコックピットにいたんだ?」
「ガイア?」
「アンタがいたMSのことだよ」
「違う!気づいたらあそこにいたんだ!それより、今“新暦”何年なの!?」
「新暦?今は“C.E.”75年に決まってんじゃん。」
(・嘘・・・ここはミッドチルダじゃない・・・・!?)
少女は気づきたくも無い事実に気が付いてしまった。自分は時空漂流者になってしまったこと、ここは自分のいた世界ではないこと。
気づいていないことは、ここはC.E.。強い“力”と狂った“思い”が全てのぶっとんだ世界だということ。
「・・なあアンタ、家族はいないのか?」
青年は何気なく聞いた。だが後に後悔する羽目になる。
(・・・か・ぞく・・・家族ッ! !)
「・・帰・らなきゃ・・・!!」
ガチャガチャと少女は手足を引っ張り暴れ、手錠の鎖を鳴らす。よく見ると奇妙な戦闘服の手首と足首の部分が破れて血が流れている。
だが帰れるわけがない。
「お、おい!落ち着け! !?」
ズキッと頭が痛くなる。左手で自分の頭を抑える。シンの脳裏によみがえるあの時の光景、ベットの上で暴れるステラの様子。
(もしかして・・この子もエクステンデット!?)
「・・・・おい・・アンタ・・自分がどうやって帰れるのか知っているのか?」
「知らないよ!!でも、帰らなきゃいけないんだっ!!」
涙を流しながら暴れる少女。キキキィンッと高い音を立てて手錠の鎖が切れる。少女は荒い呼吸をしながら立って血走る目でシンを睨みつけ、ドアを乱暴に開けると外に飛び出していった。するとベシャッという泥の飛ぶ音と荒々しい雨音がした。シンが外をみると少女はトレーラーの足場から滑って地面に落ちたのか泥だらけになって倒れていた。
「なにやってんだよ!」
「帰らなきゃ・・みんなのところへ・・・・」
少女は濡れた地面の上をフラフラになりながら歩こうとした。
「・・・たくっ!」
シンはブーツを履くと傘もささずに雨の中出て行った。そして、少女の後ろに立った。
「・・・そのまま野たれ死ぬだけだぞ?帰るあてはあるのかよ?」
シンの声は感情も優しさはなく、ただ事実を確認するために発せられたものだった。
「無いよ!・・分からないよ!・・ここには、お姉ちゃんたちも・妹たちも・・・・・ドクターもここにはいない・・・・。でも・・・でも・・・・帰りたいんだ!帰って、また妹たちと一緒に料理やお菓子を作りたい、一緒にお風呂に入りたい・・・・お姉ちゃんたちの愚痴を聞きたい・・・・あんただって家族がいればそう思うだろ!?」
少女は泣き崩れて、大人しくなった。
シンは、しゃがんで少女を安心させるために微笑んだ。しかし、その笑みは涙を流し、哀しみを漂わせていた。
「家族は・・・死んだよ・・戦争で。」
「え!・・・ごめ「でも!君の家族は生きている可能性があるんだろ?」・・・・う、うん」
「だったら!」
シンは少女を腕を回し抱いた。震えて壊れそうなその体を包むように抱いた。
豪雨の中でシンの体温だけが少女にとって心地よい暖かさだった。
「君は絶対帰って家族に会える!それまで俺が・・ッ・・俺が君を守る!守りきるから!!・・・・今度こそ」
まるで“あの時”と同じ光景。違うのは、少女から見えないシンの顔が志を持った少年ではなく、過去の自分に対する怒りを持つ修羅の顔だったこと。
「本・・当に・・?」
少女の顔が目のまわりを赤くはらし、上目使いでシンに問う。
「ああ! でも、俺は傭兵だ。その日その日の報酬として家事をしてもらうからな?」
「・・・・うん!」
「依頼主様のお名前は?」
「ディエチ・・・ディエチ・スカリエッティ」
少女の目にはシンの赤い瞳はまるで太陽のように映った。2人はトレーラーのホーム・パックに戻った。
ホーム・パック、このトレーラーには運転席の後ろに小さなホーム・パックがついており、「家」の機能が凝縮されている。リビングと寝室は一緒だが、簡易キッチン、シャワー、トイレが完備されている。もちろんこれは過去に「ハチ」が設計したアウトフレームのバック・ホームをジャンク組合が商品化したヒット商品であり、元アスカ小隊からシンへのプレゼントである。ちなみにとうのハチはジャンク組合から原案の報酬を得ており、個人の電子口座に貯めている。ジェスやロウはこのことを知らない。
「じゃあディエチ、傷の手当てをしなきゃならないから。シャワーの後、これに着替えてくれ。」
シンはクローゼットに向かった。
ディエチの手足には血の止まった傷が痛々しく残っていた。シンがディエチに渡したのは、白いシャツと予備の赤服。
「・・・うん」
(あ・・洗濯した後でも分かる・・・・あの人の匂い・・・)
なぜか分からないが胸が暖かくなった感じがした。
服を脱ぎ、洗濯機のなかに入れ。
ディエチは蛇口をひねって熱いシャワーを浴びた。いつも他のナンバーズと一緒に体を洗っていたからかひどく寂しい気持ちに襲われた。ディエチはまた涙が流れそうになり、顔を洗ってその気持ちを誤魔化した。初日のシャワーは味気なくすぐに終わらせた。・・・・独りでいることが怖かったから。
「うわ・・・・ブカブカだ。あれ?・・・下着どうしよう。」
ただ今洗濯中である。シンが女性ものの下着を持っているはずも無い。1人旅をしている傭兵が持っていたら、持っていたで問題だ。
「うう・・スースーする・・・。」
違和感はあるものの仕方の無いことであった。
さっきのピッチリした戦闘服からダボダボの赤服に着替えたディエチの姿は見るものが見ればズキュンとくるものであった。
「沁みるか?」
シンは消毒液をポンポンと塗り、包帯を巻いた。これで化膿の心配は無い。ディエチはシンの顔が近いのかちょっとドキドキしていた。
「ん・・・大丈夫。」
その時、ディエチの腹部がグウと音をたてて鳴った、ディエチは頬を赤くした。シンはククッ笑っていたが、頬を膨らましてジト目で睨んでくるディエチをみて笑いを殺した。
「フフッ・・・ククッ・・・ゴフンッ・・ゴメンゴメン。」
「・・・もう」
「腹減ってたのか?あとで作りおきのを暖めるから。」
「・・・すいません。アスカさん」
「ん? シンでいいよ」
「・・・ありがとう。シンさん」
呼び捨てでいいのにと思いながら、シンはシチューを冷蔵庫から取り出し温めた。
「・・・マユも生きていたら、あの位なんだよな(ボソッ)」
「なにか言いました?」
「何でもない。あ、スプーンとコップと小皿を並べてくれるか。そこの食器棚に入っているから」
「はい」
こんだては、シチューとパンとサラダだった。この夜ディエチはジェイル・スカリエッティ以外の異性とはじめて一緒に食事をした夜だった。シンはなぜか昔妹と一緒に夕食を食べたことを思い出した。
(たしかあの時は、父さんと母さんがいなくて、俺の料理が下手でマユが文句言ってたっけ)
「あー、味はどうかな?一応手作りなんだけど」
「美味しいんですけど・・・子供向けかな?」
「・・・やっぱりか」
頭を垂れるシン。子供の頃の料理の味付けを子供向けにする癖は今も不本意ながら健在だった。
「あの・・・料理も作りましょうか?」
「・・・・頼む」
シンは苦笑いをしていた。
2人はキッチンで食器をかたずけていた。シンが洗い、ディエチが拭いていた。
「じゃあ今夜から俺がトレーラーの運転席で寝るから」
「・・・え・・」
ディエチの手が止まった。今は1秒でも独りになりたくなかった。となりが誰であろうとも。
「・・・・え、だってまずいじゃんか・・・色々と」
シンの手も止まった。予想外の反応だった。
しばしの沈黙、ディエチが切り出した。
「あ、あれですよ。・・・見張り!だ、だってその日にあった人を信用する傭兵なんていないでしょ?」
(え?何言ってんだろ私?)
「そ、そうだなッ!だってその日にあった人を信用する傭兵なんていないしな!」
(あれ?何言ってんだ俺?)
2人はその後、無言で食器を片付けた。
「何やってんだよ・・・俺は。」
シンはシャワーの蛇口を開けた。熱い湯が蛇のように傷だらけの体を伝って落ちていく。
確かにシンは傭兵になって日が浅いが、それ以上にザフトにいた時は歴戦を戦い抜いてきたエースだった男だ。コーディネーターであって、コーディネイトを受けて生まれたわけじゃない。コーディネーターの両親から自然の摂理通りに生まれてきた存在。生物の摂理上コーディネイトを行わなければ、コーディネーター同士の子孫だって代を重ねていけば最後にはちょっと体の頑丈なナチュラルに落ち着く。
シンは「ナチュラルになりかけのコーディネーター」とも言える。
よって突飛抜けた能力は元から無く、ただひたすらに泥だらけになり傷だらけになり鍛え磨いてきた。確かな努力と鍛錬で実力を築いてきた男だ。まるで日本刀が折り返し鍛錬を繰り返すことによってその強度を得るが如く。
体を一通り洗いおわりシャワーを止めて鏡に映ったのは優しい兄の顔だった。
タオルで頭を荒々しく拭く。
「マユ・・・あの子、家族が生きているかもしれないんだ。絶対に会わせてあげないとな。そのためなら、『羅刹』・・・・上等じゃないか」
羅刹とは、人に害をなす鬼を食らうことで人を守る鬼のことである。
「風邪ひきますよ?」
「いいよ」
「寒くないですか?」
「ックシィッ・・・寒くない」
ベットの上、ディエチは真ん中に、シンはすみでディエチに背中を向けていた。
シンはいつもならシャツとパンツだけという格好で寝るのだが、さすがに初対面の女の子にそんな姿を見せられるわけがなくズボンをはいていた。
コツコツと時計の秒針の音だけが空間にあった。12時を過ぎた頃、シンは背中に違和感を感じた。背中が濡れていた。振り向こうとすると、ディエチの手がそれを阻んだ。
「・・・すい・ません。・・・振り向かないで・・下さい。・・・・すぐに離れますから・・。」
ディエチが泣いていた。シンの両肩を掴み、背中に頭を押し付けて泣いていた。シンは左手をそっと優しくディエチの手の甲に乗せた。
「泣けよ・・・泣きたい時は泣けばいい・・・・家族に会えない辛さは、俺も分かるから。・・・・でも、希望は捨てるなよ。家族に会えるまで俺が君を守るから・・・・俺を信じろ。」
泣いた。今度は声を出して泣いた。力いっぱい泣いた。明日からまた笑顔になるために泣いた。家族に会えるという希望を捨てないために、今思いっきり泣いた。
肩にディエチの爪が立ったがシンはただ何も言わずに受け止めた。背中でディエチの涙と泣き声を受け止めた。それしかシンにはそれしかできなかったし、過去にシンが家族を失った直後誰かに1番してもらいたかったことだった。
1時間くらいたったであろうか、泣き声は止んでいた。シンが振り返るとディエチは泣き疲れて眠っていた。シンは親指でディエチの閉じた両目に残っている涙を拭うと、頭を優しく撫でた。
「あの時の俺には誰もいなかった。でも、君は違う。家族が生きている可能性がある。君には・・・・俺がいる」
シンもそのまま眠った。
「父さん、母さん・・・・・マユ・・レイ・・・ステラ・・・・俺・・守るよ・・・zzz」
シンとディエチの旅が始まった。
最終更新:2010年02月21日 07:22