第5話『悪鬼“羅刹”』
朝5時半、目覚まし時計もなっていない誰もが寝静まっている時。
「・・・・また起きちまった」
シンは起きた、目覚まし時計が鳴るまであと30分もあるのに起きてしまった。
まだ前のパン屋での住み込み生活のリズムが抜けきっていないようだ。
「はあー・・健康的になってきたな・・・」
明日死ぬかもしれないのに、酒を飲まず、女を抱かず、タバコも吸わない傭兵がいた。
シン・アスカだった。
“羅刹”や“ピエロ”と呼ばれ、最近大西洋連邦の兵士から新たに“最凶の傭兵”とささやかれはじめた。
さて、起きたばっかりだというのにキッチンからいい匂いと包丁のトントンとリズムよく野菜を切る音が聞こえる。
「あっ おはようシンさん」
ディエチだった。ジーンズに白いシャツ、オレンジ色のエプロンといういわゆる若妻スタイルである。 正直筆者にはたまりません
「ああ、おはよう」
体を伸ばしながら朝の挨拶の返事をする、パジャマ着て寝るのが当たり前になってきた。
「朝ごはんもうすぐできるから、顔洗ってきたら?」
「そうする。・・・・(ディエチに)染められてきたな」
早朝のニュースをつけて、ニュースキャスターの声を聞きながら洗面台に向かった。
『フリージャーナリストのジェス・リブル氏の【傭兵はカレーを食う】が累計売り上げ10万部を達成しました。ジェス・リブル氏は今もなお新たなスクープを追いかけているとのことです。』
歯をシャコシャコ磨きながら、遠くを見る目でシンはディエチの正体について考えた。
“中途半端なヒント”がそんなことを考えさせた。
(瞳、肌、髪の色から一見ナチュラルのように見える・・・・けど初めて会った時、手錠を壊した力からナチュラルじゃないことは確かだ。)
それも免疫強化だけのコーディネーターではない。
(他人には言い辛い過去。それは今の世の中じゃ珍しくも無い・・・けど初めて会った時の俺を“敵”として見る目。)
つまり戦闘経験のある証拠。
だが“人殺し”独特の冷たい光が瞳にない。
「あの子は俺と違って・・・“マトモ”だ。」
(そして、ディエチ・・・diechi・・・イタリア語で数字の10を表す言葉。)
人差し指の先に水をつけ、鏡に水で文字を書く。
(あの見たことも無い戦闘服についているプレートに記されていたのもⅩ(10)・・・・。)
シンには『ディエチ』という名前が本名なのかコードネームなのかさえ分からない。
(ソキウスのような連合の戦闘用コーディネーターなのか?)
それなら数字が名前なのと他人には言いにくい過去いう2つの理由に合点がつく。
だが戦闘用コーディネーターの多くはナチュラル用OSの開発によりブルーコスモスによって殺されたはず。
(じゃあその生き残りなのか?その割にはディエチは若すぎるし、MSを知らない素振りもあった。)
「ナンバー(数字)なのにノーナンバー(身元不明)・・・・。」
数多くの矛盾点により頭が混乱する。
「ディエチ・・・・君は一体何なんだ?」
シンには鏡に水で書いたローマ数字のⅩ(10)が未知を表す文字のX(エックス)にも見えた。
その時、無線機が通常回線用の音で鳴る。
「まっ・・いっか」
結局、戦闘用コーディネーターの生き残りという仮の答えで強引に自分に納得させた。
そうすることで『ディエチ』という存在に含まれる“未知の恐怖”という闇を強引に濁す。
解決したわけではないが、悩んでいたとしてもしょうがない。
「もしもし?」
『ユンです。お早うございます~』
「お早うございます、ユンさん。依頼ですか?」
『はい、今ジャンク屋組合で“ギガムーヴ”の建設を行っているのでその警護です~』
「“ギガムーヴ”?』
『宇宙貿易港ですよ。完成すれば地球とプラントの貿易が格段に容易になります。』
ジャンク屋組合には住所をもたない戦災孤児が多く色々と面倒なのだ。それに戦後なので軍に力がなく、未だに人種差別という壁があり守ってくれる保障もない。しかし、商人はそんな軍人のくだらない考えよりも商売がしたい。
「んー・・・つまり経済回復につながるということですか?」
もしできれば世界中の商人は自由に金儲けができる。そして、様々な物品が広まり戦後復興を早めるだろう。経済問題が幾分かマシになるだろう。
『そうとも言えますね~ ちなみに完成したあかつきには地球からは医療品が、プラントからは電視デバイスなどが輸出されるそうですよ~』
平和へつながる橋になる計画なのかもしれない、シンはそんな解釈をした。それにただでさえ終戦後ギクシャクしている。だから、こういう時にこういう行動が必要なのだと考えた。
(・・・・地球の盲目の人たちには文字通り“光”を届けことができるようになるのか)
「わかりました。その依頼を受けます」
『それとガイアの改修が終わりましたよ~』
「本当ですかッ!?」
『それでは現場でお渡しします~』
「行きます!すぐ行きます!!」
平和への架け橋はできる、ガイアをとりに行ける、良いこと尽くしだがこの依頼には1つ問題が残っていた。
「「いただきます」」
今朝の朝食は、ソースカツ丼と味噌汁とサラダだった。
熱々のご飯の上に千切りキャベツとコショウのきいたカツをのせ、ウスターソースを適度に垂らしただけなのに朝から食欲が進む。
「ディエチ、味噌汁おかわり。ネギ多めで」
「はい、どうぞ」
「ん、サンキュ」
ズズーと味噌汁をすすった。
この時間が好きだ。失くしたものが一時的にかえってきたような気分になる。
だからこそ、長くかかる依頼は好きではない。
だが今回2ヶ月はかかる。
「なあディエチ、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」
「ん?なに?」
「あー・・・今回の依頼は2ヶ月ほどかかるんだけど」
「・・・・2ヶ月ッ!!」
長い、2ヶ月も1人きりは辛い。
だがシンの仕事ならばしょうがない。
だが予想せぬ介入者によってその絶望は崩れる。
『一緒に来るか?』
「本当に?!」
「8!?お前何言ってんだッ!?」
『今回はロウやジャンク屋組合もいるし大丈夫だろう』
一理ある。今回はディエチの面倒をみてくれる人がいない。
ならば一緒に連れて行き、ロウやジャンク屋組合に守ってもらうほうが安全といえる。
だがそれはディエチに人殺しをする姿と自分が殺される姿と敵とはいえ人が死ぬ瞬間を見せる可能性もあった。
そんなものを見せたくはない。
「まったく、何言ってんだよ。本気にするなよディエ・・・うッ!!」
シンは持っていた箸を落とした。カラン、と乾いた音が響く。
「だめ・・・?」
ディエチがキラキラと羨望の眼差しでシンを見ている、どうやら一緒に行きたがってるようだ。
「そ、そんなふうに見ても・・」
「本当にだめなの・・?」
ますますディエチがキラキラと羨望の眼差しでシンを見ている、どうやら一緒に行きたがってるようだ。
「だ、だから、そ・・んなふうに見ても・・」
「行きたいなぁ」
ディエチがキラキラと穢れの無い羨望の眼差しでシンを見ている、本当に一緒に行きたがってるようだ。
「・・・たくっ。オーケー!!分かったよ!!連れて行くからそんな目で見るなッ!!」
半ばやけくそに応えた。
「本当に?」
「本当に!」
「本当に?」
「本当に!」
「本当に?」
「本当に!」
「本当に?」
「本当に!」
「「ヒューストン」」
分からない人はバカ殿を見てみよう。
『何をやっているんだ、お前達は?』
「気にするな、俺は気にしない」
便利な言葉だ。レイが使っていたのも分かる気がする。
「その代わり・・・・ディエチの面倒は8が見ろよ?」
(仕事中、見られなきゃいいんだ・・・・見られなきゃ)
『了解した』
「ッッッやった! で、どんな依頼なの?」
「ああ、貿易港の工事の警護」
「貿易港・・・・また海のあるところ?」
貿易港という単語から海を連想しテンションが上がる。
だがシンは、悪戯小僧のように笑いながら人差し指を上に刺す。
「いや、宇宙だ。」
「宇宙?」
ディエチの頭の上に?マークが浮かび上がった。
2人は宇宙に来ていた。
無限に広がる宇宙・・・・まあ、そんな決まり文句は、置・い・と・い・て。
ディエチは宇宙が初めてだったらしく窓からの景色を食い入るように見ていた。
「うわあ・・・無重力って不安になるね。でも・・・星がいっぱい」
「宇宙は初めてだったのか?」
「うん。地球って本当に青かったんだ」
「ここからじゃ青くて綺麗に見えるんだけどな」
実際は戦火で赤くて、人のくだらない汚い感情で覆われ、NJを撃ちこまれ、過去に幾度か巨大なレーザー砲で狙われている。
ある意味1番の被害者なのかもしれない、いや1番の被害者だ。
「なんか、広くて深くて吸い込まれそう・・・・。」
「そういえば、ディエチは2ヶ月間どうするんだ?」
帰りを待ってくれる人がいるのはありがたいが、この景色も2ヶ月間もすれば飽きてしまう。
なぜか「働かざる者、死ね」という言葉が浮かんだ。ディエチに似た声だったが、ディエチはそんなこと言わないと思い頭を振る。
『私が仕事を用意してある』
「・・・危ない仕事じゃないだろうな?」
『大丈夫だ リーアムの使っていたワークスジンを借りて樹里の手伝いだ』
「でも、宇宙は初めてなんだぞ? それにジンってとコーディネーター用じゃないか」
『私が操縦のサポートに回るし、それにただの機材運びだ』
8だけでもMSは動かせるのだ。
そのサポートがあれば訓練なしでも、ただ乗っているだけでいい。
「そっか。なら・・・大丈夫か」
内心安心する。
『それでは私は“本体”で仕事あるのでさらばだ』
『LOGOUT』
いつのまにか巨大で短い6角柱の形をした建造物が目の前にあり、その周りを様々な鉄の巨人達が行きかっていた。
「これが・・・・MS」
ディエチは初めて実物のMSを見た。
オレンジ色でスマートな人型ばかりだが微妙な違いから色んな種類があり、ガジェットにはない面白みがあった。
反面このような巨人達が戦えばどれだけの規模の被害がでるのか想像したくなかった。
そして、シンがその巨人の扱いに長け、歴戦を潜り抜けているとは普段のシンの印象とは結びつかなかった。
この時、シンが“羅刹”という鬼の名前で呼ばれているのかさえ知らなかった。
「そういえばさ。シンさんってよく“花”っていう言葉を使うよね。なんで?」
「?」
ディエチの唐突な質問に少し困惑する。
「ああ・・・・それは“人の幸せ”も“花”も勝手に咲いていくものだって考えているからかな?」
「かな?」
「実は深く考えたことはないんだ。俺にとって守りたいものは、みんな“花”なんだよ」
単純。だがこの男らしい答えだった。
「ふーん。じゃあ私も“花”ってこと?」
「そうなるな。」
迷い無しの即答。
「・・・・そう」
なんだか知らないが、体温が少し上がった。
そんなことに気付かないあたりに第3者がいれば、流石BOKUNENJINとツッコミを入れたくなるだろう。
「もうすぐ着くけど、君は一応俺の従兄妹ってことにしているから、それに合わせてくれ」
「うん。分かった」
「君の名前は?」
「ディエチ・アスカ」
「よしOK」
現場につき、迎えてくれたのはスーツ姿のリーアムだった。
「お迎えと今回の警護の依頼ありがとうございます。初めましてリーアムさん、傭兵のシン・アスカです。」
「ようこそシン・アスカさん、マスクドキャッチ内蔵貿易港“ギガムーヴ”へ。」
「シンで結構ですよ。」
リーアムはジャンク屋組合の組合長としてずっと宇宙におり、終戦後ずっと地球にいたシンとは初めて会い互いに笑顔で握手した。
「と・・・そちらのお嬢さんは?」
「ディ、ディエチ・アスカです!お世話になります!」
「あ~あなたが8が話していたディエチさんですね。ジンは久しぶりに使うので調整しておきましたから、心配はけっこうですよ」
リーアムは紳士らしい優しい笑顔で言った。
「どうもありがとうございます」
変態でもなければ、気性が荒いわけでもない、ディエチにとって初めて見るタイプの紳士的な男性だった。
シンは左手でヴォルク-47をとろうとする自分の右手を押さえていた。
リーアムは背後にある自分の命の危機の可能性に気付かないでいた。
リーアムが2人をつれてガレージへ案内する。
「・・・広い」
“ゆりかご”に比べれば小さいが広さ数K㎡である。
当たり前の感想である。
「フフッ・・これからもっと広くなりますよ」
リーアムはディエチの感想を聞いて笑いながら言った。
「え?」
「この“ギガムーヴ”は廃棄された連合やザフトの戦艦を直して改造し、つなげて作ってありますからね。ちなみにここはA・B・Cの内のBです。」
「こんなのが他にあと2つもあるんですか?」
「はい。Aは私が、Cはコバヤシマル親分さん達が担当しております。最終的には、地球のギガフロートと繋げる計画です。」
「それって・・・軌道エレベーターですか?」
シンが質問するとリーアムは笑顔でうなづいた。
ディエチにはなんのことが分からず、ただスゴイということだけは分かった。
「ロウはそれでは満足していまんがね」
「え?」
どうやらまだ先があるらしい。
「ギガフロートとギガムーヴを使って、地球から宇宙へ。ジャンクαを使って火星へと人のつながりをつなげようと考えていますよ」
リーアムは少し困ったような笑いを見せたが、楽しんでいることが分かった。
「地球から火星まで・・・。」
かつて戦争に使われ敵対していた戦艦達が手を取り合って平和のために使われる。
シンは何か皮肉に感じた。
確かに構造、コスト、構想は最適なものかもしれないが人種差別で戦争をする人間からみれば虫唾が走るものではないかと想像する。
でも、シンはそんな壮大な夢を語れるロウやリーアム達が羨ましかった。
未来を見ていることが羨ましかった。
「そういえば他の傭兵にも依頼しているんですか?」
シンが質問する。
「はい、あとサーペントテールとアメノミハシラと傭兵部隊Xから派遣してもらいました。」
「へー」
シンはアメノミハシラから仕事を仲介してもらっているが、構成員を皆知っているわけではない。
もしかしたら初めて会う人がいるかもしれない(というよりミナ、ソキウス達、ユン以外はモニター越しでしか会ったことがない)、そんな期待をもった。
「明日から陽電子シールド設置が完了するまでの警護をよろしくお願いします。」
「全力を尽くします。」
「ユンさんが中でお待ちしておいでですよ。では、私は組合の仕事がありますので。」
そう言うとリーアムは腕時計を見ながらガレージの扉の前で去っていった。
「「ありがとうございました」」
「・・・そういえばディエチはガイアを直接見るのは初めてだっけ?」
「・・・そういえばそうだね」
見せなかったのだ。どんな理由でも兵器というものにディエチを触れさせたくなかったのだ。だからディエチは中は見たことがあっても、外からは見たことが無かったのだ。
でも、もういいだろう。
「フフッ」
シンが突然笑い出した。
「どうしたの?」
「いや・・アイツの中に君がいたときは驚いたなぁ、と思って」
「そうだね」
2人はガイアの中で出会った、お互い殺気を向けての出会いもちょっとした思い出だ。
「さて俺は相棒と久しぶりの対面、ディエチは相棒と初対面といくか」
「・・うん」
分厚い扉を開くといつも通りツナギをきて、いっも通り髪をサイドポニーにしたユン・セファンがいた。
「アスカさん、お久しぶりです~。・・とそちら方は?」
「お久しぶりです。ユンさん こっちは・・・」
「はじめまして、従兄妹のディエチ・アスカです。」
「あ~従兄妹さんですか。はじめまして、ユン・セファンです。」
こちらも何の問題も無く、ディエチを受け入れてくれた。
「あのユンさん、ガイアはどこに?」
「あ~、こちらですよ~ん」
奥には相変わらず灰色の相棒がいた。
ツインアイは青から最新式強襲機用の紅になっている。
大体の形状は前に8に見せてもらったデータと同じ、作り直された制御ウイングと腰の可動翼があった。
大小4枚の翼は本体と同じライトグレー。
制御ウイングの形状で揚力を得るから、大気圏内でもそれなりに飛べるという。
ガイアジェッターの両肩に追加されていたビームブーメランはビームサーベルモードが追加されサイドアーマーにマウントされてあった。
『追加装備の一体化』は珍しいことではなく、ガイアと同じように機動力を武器とするデュエルもブルデュエルへと発展した道のりと同じだった。
「OSはもう8さんが基本的な宇宙用に書き換えてくれてますから、微調整はご自分でお願いします~」
4つの足先には刺突にもスパイクとしても使える短く鋭い2本の黒い獣の爪のようなものがついている。
「これは前々大戦で使われていたラゴゥという機体からヒントを得ました~」
「センサーとバッテリーは最新型のものに代え、冷却、間接、反応速度の改良は半端ないです。
ご注文どおり、コンセプトは“敵の攻撃には反応し避ける”というものなので、装甲は削れるところは削り、できるだけ発泡金属に代えました。
まあ最近、簡単にビーム兵器が使えるようになりましたから常に相手の攻撃を避けるのが1番安全かもしれませんね」
「・・・・つまり、敵を先に感知してやられる前にやっちまえって解釈していいんですか?」
「そうですね~。まあ、ここでの依頼は先に警備隊がまず確認しますので、アスカさんの仕事は確認が終わった後に敵の頭を強襲するのがお仕事ですかね~」
「はあ・・・」
護衛専門が強襲機を使うという矛盾点。
だがシンのように1人で戦う場合が多い場合は、敵の隙を突き、勢いで攻めることのできる強襲機がもっとも効率がいい。
それにガイア自体が元々強襲機として設計されているからこちらのほうが性能を伸ばしやすいことも確かだ。
「8さ~ん、変形してくださ~い!」
『トランスフォーム!!』
MA形態での1番の変更点は頭部だった。
目のような1対の紅いセンサーがあり、こちらにも血涙のようなラインがある。
額には菱型のメインカメラが追加され、額にあったブレードアンテナは元祖バクゥのように頭部の後方に青く大型されたものが2本ついている。
そして、顎がついていた。
「口の中に、両刃のビームサーベルを仕込んでいますから口にくわえて固定式ビームサーベルとしても使えます。あと口に他の武器をくわえさせてマウントすることもできますよ~」
「ハハッ・・・本当に犬みたいだな」
「・・・・かわいい」
「「え!?」」
ディエチのセンスは予想以上だった。
ビーム突撃砲の代わりに砲身の短いカートリッジ式120mm3連ガトリング砲に搭載されていた。
「可動するので肩に固定すればMS形態の時に正面の敵に向けて撃つことができます。カートリッジは実弾とビームどちらでも使えますよ」
「カートリッジはビームと実弾の交互でお願いします。」
「かしこまりました~」
これでラミネート装甲でもPS装甲でも威力を発揮できる。
しかも口径は120mmだから装甲の厚いザクでもまともにくらえばハチの巣にできるだろう。
だが口径が大きい分、弾数が限られるためフルで使えばすぐに弾切れをおこすのは必至だった。
元ガイアのビームライフルなみに大型だったビームライフルは、標準的な大きさになっていた。
「2連ビームライフルは少しコンパクトになっていますが、性能は変わっていません。あと勝手にフォアグリップをつけちゃったんですけど・・・・あの~大丈夫でしたか?」
「・・・・。」
シンを見てみると肩をプルプルと震わせている。
「ユンさん!!」
「はいッ!?」
ユンは最初シンが怒っているように見えたが、いきなり両手で握手され戸惑った。
「ありがとうございます!!フォアグリップ欲しかったんです!!なのに最近、エース=(イコール)フォアグリップいらない、なんて空気ができちゃったもんだから言い辛かったんです!!」
「そ、それはどうも~」
「すごい・・・ッ!!」
思わず歓喜の声を漏らす。
「・・・・でも、よく1人でやってこれましたね」
「え?」
ユンの言葉はなにか憂いをおびていた。
それはガイアに残された戦闘データを見た故の感想だった。
「調べてみたんですけど、ガイアは本来インパルスシステムの一部で、1機で行動するようにはつくられていないんですよ。」
とどのつまり、ガイア1機で12機のウィンダムを相手にしたシンの行為は自殺行為意外なんでもないのだ。それに凡庸性やオプション追加機能ならザクのほうが上である。
これまでのガイアの改良機ガイアアサルトとガイアジェッターは現地改修でむりやりオプション追加機能を増設したもの。
本家アサルトシュラウドに比べればかなり減量したとはいえその重量ではガイアの真価は発揮できないでいた。シンは真剣なユンの顔をまともに見れなかった。
「でも・・・俺はコイツでなきゃいけないんです。コイツともっと守りたい」
「この子にはもう1つのコンセプトが追加されています。」
「・・・・もう1つのコンセプト?」
「“必ず生きて帰ってくる”・・・というものです。ですから絶対にこの子を棺おけにしようなんて考えないで下さい。」
確かに棺おけにしようとしたことも幾度かある。
「・・はい」
ガイアをガイアジェッターに改修したときにシンとユンは出会ったが、あの時からなぜか頭が上がらない。
「でも、いいんですか?こんなにやってもらって」
「いいんですよ~ 前に新開発のテスト試行をやってもらいましたから~」
「え?」
ユンはいつもの調子に戻っていた。
シンは素っ頓狂な声を出し、疑問を持った。
(・・・・そんなのいつやったんだ?)
「あのすいません。俺いつそんなのやりましたっけ?」
「やってくれたじゃないですか~ マガジン式2連ビームライフルと一時的追加型ビームブーメランと一時的追加型固定式ビームサーベルの~」
「・・・・。」
うん、ガイアジェッターの追加武装全てだった。
しかもそんなの初耳である。
「説明しませんでしたっけ~?」
「受けてませんッ!!」
「ごめんなさ~い!言い忘れてました~!」
確かにおかしいとは思っていた。
“気に入った”なんて理由から、MSを保持したまま除隊できるよう交渉してくれたり、割引で改修してくれたり、後処理をしてくれたりとでき過ぎだとは思ってはいた。
だがいつの間にか新開発の実戦テストをしていたとは夢にも思ってはいなかった。
「でも、ミナ様がもう説明したと~」
(あの人か・・・・口が出せない!!)
ディエチは、ユンに頭が上がらなかったり、強く見えたり、ツッコミを入れたり、落ち込んだりするシンを不思議そうに見ていた。
「シンさん・・・・今までよく生きていたね」
「・・・・昔、知り合いに“明日”をもらっててよかったよ。本当に」
ため息をつきながら言った。
「今回も新しい実験品を使っているんですよ~ ビームコーティングクローとか~」
「ビームコーティングクロー?何ですか、それ?」
「あ、説明しておきますね~ 照明落としてくださーい!」
フッとガレージが真っ暗になった。
MA形態のガイアが右腕(右前足?)を上げる。
すると2本の黒く鋭い爪が淡い赤い色の光に包まれた。
「今、アメノミハシラが新しく開発しているビームコーティング技術です~ まあ、実体物にビームシールドの特質を与えるといえば、簡単ですかね~」
「んー・・・つまり?」
「ビームサーベルを受け止めたり、PS装甲を切ったり貫いたりできます。 もういいですよ~」
多分これはゴールドフレーム天ミナのための新開発技術だろう、シンはそう思った。
そして、同時にこの技術がゴールドフレーム天ミナの武装に追加された日のことを思うと軽くゾクッとした。
ソードシルエットのエクスカリバーの切っ先にも似たような技術はあったが、こちらは防御にも使えそうだ。
爪を包んでいた赤い光が消え、また照明がつく。
「なるほど! ん?どうしたんだよ、ディエチ」
ディエチはいつの間にかガイアを憂いの瞳でじっと見つめていた。
灰色の鋼の巨体に紅い眼もったガイアは凶悪な悪魔のようにも、ただの殺戮のための兵器にも見える。だがディエチはなんだかガイアに哀しい印象をもった。
「シンさん・・・なんで、この子泣いているの?」
しずくをこぼしているように見えた。
涙を流し尽くしても、なお血涙のしずくをこぼしているように見えた。
「・・・・。」
シンにとって今のガイアの存在は“誓い”なのだ。
シン以外誰も知らぬ、背負った哀しく重い戦いの意味。あまり口に出したくは無い。
「あ、あ~パーソナルマークの目のラインの事か?かっこいいだろ?」
なんとか誤魔化そうとする。
「そうなんだ。でも・・・・なんか哀しい感じがする」
【哀しい】とは言葉にできない悲しみという意味である。
ディエチの感性はそういう意味ではガイアの本質を正確に捉えていた。
「んー・・・ユンさん、試乗してもいいですか?」
シンはディエチから逃げるようにユンに試乗の許可を求めた。
「いいですよ~」
「じゃあちょっとパイロットスーツに着替えてきます。」
逃げるように小走りで更衣室を探して行く。
「8、シンさん何か隠してる?」
『ディエチに弱い部分を知られたくないんだろう』
「弱い部分?」
『聞けば教えてくれるだろう』
「本当に?」
『そう約束したのだろう?』
「うん」
『ならアイツは君に嘘はつかない』
『だが無邪気に聞くことが人を傷つけることもある』
そうだった。自分は戦闘機人であることなど多くのことを隠している。
それにシンにだってプライベートというものがある。
「・・・そうだね」
シュン、とするディエチを見かねた8は慌ててある提案をする。
『しかし、アレだ。』
『コックピットを見せてもらうぐらいはいいんじゃないのか?』
「本当に?」
『まあ、それぐらいならいいだろう』
「うん!頼んでみる!」
なんとか明るくなってくれ、8は安心した。
「すいません、遅くなりました。更衣室がまだどこにも無かったもんで・・・あれ?」
結局男子トイレでパイロットスーツに着替えたシンが戻ってきた。
ディエチはさっきと様子が違う。
「ディエチ、どうかしたのか?」
「べっつに~♪」
「女の子はアスカさんが思っているより、ずーと強いんですよ~」
ユンは自分のことでもないのに自慢気に言った。
シンの頭の上に?マークが浮かぶ。
「ねえシンさん」
「ん?」
「コックピットの中見せてもらってもいいかな?」
「別にいいけど・・・・つまんないぞ?」
「お願い」
ディエチは両手を合わせて頼んだ。
「はぁー・・・好きにしてくれ」
よそを向いて頭をかく。
どの道、ガイアに乗せて宇宙での操縦を軽く教えるつもりだったので良しとした。
「ありがとう」
ディエチは見てみたかったのだ。
シンの見ているもの、シンのMSという“力”の使い方を少しでも。
シンはパイロット座席に座り、ディエチは後ろからそれを見た。OSを機動させる。
『Generation
Unrestricted
Network
Drive
Assault
Module』
「・・・ガンダム?」
「ああ・・・MSの中でも、コイツみたいな顔の類はGタイプやガンダムタイプって呼ばれているんだ。」
「でも、シンさんいつもガイアって呼んでない?」
「正式名称はZGMF-X88S ガイアなんだ。」
「ふーん。じゃあこの子はガイアガンダムだね」
「ガイアガンダムか・・・・そうだな。」
「ねぇ、シンさん。今さらだけど怖くないの?」
「何が?戦うことか?」
「ううん。何者なのか分からない私が」
シンが考えながら鏡に水で書いた文字の跡を見てしまったのだ。
ディエチは不安になりながらも勇気を振り絞って聞いた。
聞けたのは今いる場所が2人の始まりの場所だったからである。
コンソールを叩くシンの指が止まる。
「・・・・正直怖い時もある。知らない部分がいっぱいあるし」
この男も人間なのだ。未知という闇を怖れるただの人間なのだ。
「・・やっぱり、そうだよね。」
「けど、そんなの当たり前じゃないのか?」
「え?」
「俺は君じゃない、俺は俺だ、俺でしかない。ディエチについて知らないことがあって当たり前なんだ。俺にだって誰にも知られたくないことだってあるし・・・」
シンはガイアに隠された“意味”と戦っている時の自分を思い出しながら言った。
「けど・・・・それでも、何も知らないって怖いことじゃないの?
それに・・・・もしだよ! もしもしの話!!
もし私が・・・・人を傷つけることしかできないモノだったらどうする!?」
ディエチは真剣な眼差しをシンの瞳に向け。シンはそれを受け止めた。
「それはないな。」
シンは目は、くだらない質問だと言っていた。
「なんで言い切れるの!!?」
ディエチには分からなかった。
もし自分がシンの立場ならそんなこと言い切れないし、自分という本人ですら言い切れないのだから。
「確かに俺は君の知らない部分が怖い時だってあるし・・・・心の底から信用しているわけでもない。でも、ディエチが人を傷つけることしかできないってのは大嘘だ。だって、君は・・・・」
その時、ウ~ウ~と警報がやかましく鳴る。
最終更新:2010年05月18日 01:29