「何!?」
ディエチが慌てる。
『シン 1日早いが仕事だ!!』
「宙賊(海賊の宇宙版)か?」
『ブルーコスモスのテロリストのようだ』
ギガムーヴは戦艦の集合体のようなものである。
宙賊やテロリストにとっては宝の塊のようなものだ。
そして、完成すれば貿易が開始さる。それが気に入らない輩達だっている。
『今警護隊が応戦しているが苦戦している』
「8は本体(レッドフレームに乗っている)に戻ってロウと一緒に応戦してくれ!俺は宇宙に出たらすぐにスラスターの微調整をしてすぐ行く!」
ガイアのツインアイが紅く光る。
ガイア2ndが一歩踏み出した。
「ッ!?」
何かがいつもと違う。
「分かります~?」
「・・・・はい。予想以上です。まるで血が通っているような・・・・8、もうちょい重心を前に」
これまで『飛ぶ』ことで頭が一杯だった。忘れていた快感で思わず口の端が歪む。
『こんなものか?』
「OK!」
『待っているぞ!!』
『LOGOUT』
「よしっ、大体こんなもんか。あとは外に出てスラスターの微調整を・・・」
「・・シンさん、大丈夫だよね?」
MSの戦闘というものをこの世界のディスプレイ越しでしか見たことがないディエチは不安を隠せなかった。
だがシンは不敵に笑う。
「大丈夫だよ。俺は独りじゃない、俺にはコイツ(ガイア)がいる。ん?」
シンはガレージの隅にあるディン用のショットガンを見つける。
(あれなら、使い方しだいで楽にいける。)
「ユンさーん!アレ使ってもいいですか!?」
「ん~~・・・いいんじゃないですか~」
MMI-M1001 90mm対空散弾銃を2丁とり、機体をハンガーに運ぶ。
本当はもっと準備を整えたいが、時間がない。
「ディエチ、さっきの答えは戦闘の後だ!」
「うん・・・・待ってるから」
シンは心配そうなディエチに向かって微笑みながら軽く親指を立てた後、軽く敬礼をしてサインをした。
「うん!!」
ディエチも親指を立てて見送った。
その意味はGood Luck【幸運を祈っている】
だがこの時、シンは大切なことを忘れていた。
「それではどうぞ~」
「俺の・・・ガンダム!」
すー、と息を吸い、子供のように高ぶる気持ちを抑える。
「システムオールグリーン」
鉄の体に、死んでいった少女に誓ったのだ。
戦う意思無き人々の人生を弄ぶ者を許さぬことを
「シン・アスカ」
纏った灰色に、死んでいった親友に誓ったのだ。
罪無き人々の生命を弄ぶ者を許さぬことを
「ガイア2nd」
血涙に、死んでいった家族に誓ったのだ。
力の無き人々を守ることを
「征きますッ!!」
そして、シンとガイア2ndは征く。花の“今”だけではなく“明日”も守るために
忘れられない。大切な人たちとの出会いと別れを胸に秘め
言葉にできない。大切な人への誓いと思いを背に背負い
ガ イ ア 復 活 !!
その時、ユン・セファンは
「あーー!!シールド渡すの忘れてましたー!!」
慌てていた。
「・・・どうしましょ~」
「シンさん・・・・本当に大丈夫だよね?」
ディエチはシンから貰った首飾りをギュッと握る。
「ん~心配でしたら、見てみますか?」
「え?」
「くッ・・・せっかく・・せっかく平和に向かっていっているのに・・・ッ!!」
ガイア2ndがバーニアを吹かせる。
「もう・・・目の前で守れないなんて嫌なんだ!!」
シンとディエチがシャトルに乗って通った軌道はすでに戦場と化していた。
『ギガムーヴ警備隊 なんとしても死守するんだ!!』
数多くのシビリアンアストレイJGカスタムが飛び。
『ジャンク屋ども、そこをどけェェェ!!』
ダークダガーLがドッペルホルン連装無反動砲を撃った、1機のシビリアンアストレイJGカスタムのひび割れていたシールドが限界を超え砕ける。
『くッ!』
もうだめだ、という声とともにダークダガーが1機のシビリアンアストレイJGカスタムにビームカービンを向ける。
『青き清浄なる世界のために「アンタ達がいなくなれ!!」な・・・』
突如背後に現れたガイア2ndがダークダガーLの脇腹に肘撃ちの要領で黒い爪を突き刺した。
途中からスラスターを使わずに移動し、黒い爪にビームコーティングせす゜に攻撃されたため熱源センサーが反応せず気付けなかったのだ。
黄色いバイザーから光が失われ、ガイア2ndのマスクに血(オイル)が飛び散る。
止めに黒い爪を突き刺したままビームコーティングすると反対の脇腹から2本のビームの爪が突き出た。
「大丈夫ですか!?」
『あ・・・ああ』
シビリアンアストレイJGカスタムのパイロットは敵よりも返り血でマスクを濡らしたガイア2ndに恐怖した。
「早く下がって下さい! 8、敵機はあと何機だ?!」
状況を知るため8を本体から呼ぶ。声も既に怒りと憎しみに染まっていた。
p『目視情報を照り合わせると、あと13機』
「訂正が必要だな・・・」
背後からエールダークダガーL2機がビームサーベルを振り上げて向かってくる。
ガイア2ndは左手にもった対空散弾銃を2回発砲と同時に右手で左腰のビームブーメランをとって投げた。
ダークダガーL2機はシールドを構えて散弾に備え急停止した瞬間、ビームブーメランが横から2機の胴体を真っ二つに切り裂き去っていった。
パシッとビームブーメランを右手で受け止め、ガイア2ndは向きを変える。
「あと11機だ」
敵機2機の推進剤の爆発を背景にして。
爆発でできた影の中、紅いツインアイが怪しく光る。
Bi『シン!ロウから通信だ!』
『すまねえがこっちのほうの援護を頼む! 連中、連携がとれてて近づけやしねえ』
「了解ッ!」
シンは指定されたポイントにガイア2ndを飛ばす。
左手に散弾銃、右手に2連ビームライフルを持ち替えて。
デブリの物陰に赤い巨人の影があった。
「ククッ・・また楽しもうぜ!! シン・アスカ!!」
混沌の影が忍び寄っていることをシンはまだ気付かないでいた。
ガイア2ndが着くとそこはビームの飛び交う一進一退の状況になっていた。
「8、あと敵機は何機だ?味方の被害は?」
『あと9機だ。こちらに死者はまだ出ていない』
(2機、警備隊にやられたのか・・・・なるほど、だから少し慎重になっているのか)
「ロウに伝えてくれ。囮になって敵を誘い込む!」
『了解!!』
「目の前には9機。エール、ランチャー、ソード3機づつの3個小隊・・・・いける!!」
ガイア2ndのバーニアを吹かす。
左手の散弾銃を敵機達の中心あたりに適当に残り4発全て発砲、すると予想通り散開した。
ガイア2ndは散弾銃を投げ捨て、2連ビームライフルをフルオートに切り替え両手で持ち、散開中の敵2機を狙い撃つ。
エールダークダガーL2機はシールドで防御するもののそれ以外の箇所に着弾し行動不能になった。
(これでいい。あとは・・・)
『コーディネーターめ!!』
ソードダークダガーLがゲシュベルトベールを振り上げて向かってくる。
「アンタ達が連携戦のプロなら、こっちは・・・」
シンは慌てていない。ガイア2ndはMA形態時頭部の顎にマウントさせてあったもう1丁の散弾銃を左手で持ち、ソードダークダガーLに向けた。この距離なら狙い撃つまでもない。
「対連携戦のプロだ!」
今度は一気に5発発砲、威力不足から大破しないまでもソードダークダガーLの動きが止まる。それでも慣性の法則によりこちらに近づいてくるソードダークダガーLに駄目押し、最後の1発をコックピットにゼロ距離射撃し、持ち直した散弾銃の銃底を斧のように黄色いバイザーに叩きつける。
黄色いバイザーの破片がキラキラと光っていた。
散弾銃をまた投げ捨て、2連ビームライフルを右肩のアーマーにマウントし、すぐにMA形態に変形し逃げていった。
「じゃあな。」
わざとチューイングを全開にして、全員に聞こえるように言った。
そして、これを見たブルーコスモスのテロリストたちは
『あのコーディネーターをやれ!!』
『『『『『『青き清浄なる世界のために!!』』』』』』
かんかんであった。
「ククッ・・・ついてこい!」
p『まったくお前は・・・』
シンは笑いながらガイア2ndをデブリの上に走らせジグザグに跳ばせた。8はどうして自分に関わる人間はこんなのばかりなのかと嘆くと同時に面白がっていた。
ガイアを宇宙で使うのは初めてだが、すでに8のサポートによりスラスター類の微調整も済んでいるので問題はない。
宇宙では飾りといわれている足を十二分に発揮しての進み方はフォースインパルスやデスティニーとは違った面白さがあった。
やがて大型のデブリの前にさしかかるとガイア2ndは適当な小型デブリを利用しV字に跳躍し曲がる。
テロリストは、急に止まった。
『フッ、罠にはめようとするなど、小賢しい!』
『うんうん。確かに、シンの奴せこいところがあるからなー』
『そうだろう。では討つぞ、我らの敵を!』
『誰と?』
『何を言っている!!私とお前とでだ!!』
エールダークダガーLが振り向いた瞬間、白銀に光る刃により真っ二つになった。
レッドフレームの菊一文字(ガーベラストレート)だった。
切り口からパイロットが出てきた。シンは相変わらずデタラメナ剣技と刀だと感心する。
『お前は一体誰だ!?』
『俺はロウ・ギュール、ジャンク屋だ。無駄な殺しはしない』キリッ
「・・・・」
キリッとかっこをつけるロウを見たシンは、これがなきゃ本当にカッコイイのにと呆れた。
『よう!シン、久しぶりだな!』
「はい、お久しぶりです。ロウさん」
『やめろって。お前が敬語を使うと気持ち悪い』
「ひっでー」
『「ハハハッ!!』」
『我らが同志をどうした!?』
『ああ、おたくのお仲間なら。ほら、あそこ』
『な!?』
レッドフレームが指差すとそこにはバラバラになったダークダガーL達だったものがあった。
ようは簡単、後ろからレッドフレームが斬り進んだのである。
シンが討った2機は指揮を担当する者達であり、その2機を失わせることで指揮命令を軽薄化させたのだ。
(MS部隊がいることはどこかに母艦もいるはず・・・・けど見当たらない。見捨てたのか?・・・それに1機足りない)
「こいつらは一体?」
Pi『データと一致した。連合の脱走兵だ』
「ファントムペインのなりぞこないって奴か?」
p『そういうものだな』
「そっか・・・。」
“ブルーコスモス”・・・・それは結社の名前ではなく、思想の名前である。
シンがもっている印象は、「青き清浄なる世界のために」と言えば何をしてもいいと考えている狂った集団というものだ。
『うわああああ!!』
『!?』
突如デブリに隠れていたダークダガーLがビームサーベル振り上げて奇襲してきた。
「やっぱりいたか」
だが、ガイア2ndのビームサーベルモードにしたビームブーメランにより右腕を切り捨てられる。
「普通1個小隊、MS3機が基本だ。それにしちゃあ1機足りないと思っていたけど・・・。」
しかも、ご丁寧にビームサーベルとスラスターを使っての奇襲である。
センサー系も大幅に改良されたガイア2ndの前では丸見えだったのだ。
出てくるまではジャンク屋組合のMSかどうかはわからなかったが・・・。
シンの心の中に黒く爛れた感情が生まれる。
この暴れたがっている感情は抑えられるものではなく、むしろ暴れさせたくなるものだった。
(こいつらが・・・・こいつらみたいなのがいるから、ステラは・・・ッ!!)
ガイア2ndがビームブーメランを逆手に持ち直した。
無論コックピットを貫いてパイロットの命を絶つためである。
『お、おい!シン!!』
ロウが止めようとするがもう遅い。
「いなくなれよ」
地獄の底から響いてくるような冷たい声と共にビームサーベルを振り下ろす。その時・・・
『シンさん!!』
ディエチの声が聞こえた。
「ッ!?」
貫いたのはダークダガーLの左肩だった。
『シンさん!!ねえ応答してよ、シンさん!!』
「くッ!!・・はぁーッ!・はぁッ・・・ディエチか?・・・どうしたんだよ?」
何でもないように平然を装う。
人殺しの顔(表情)を見られたくない。
『シールド忘れたみたいだけど大丈夫なの!?』
「俺は・・・大丈夫だ。1発も被弾していない」
『そう・・・良かった。』
「ロウ、先に帰ってもいいか?」
『あ、ああ』
「サンキュー。あとテロリストの母艦が近くにまだいる可能性があるから、警備隊に注意するよう伝えておいてくれ」
『分かった』
通信を切って、スラスターを吹かして向きを変える。
帰る途中パイロットスーツの中が嫌な汗で気持ち悪いことに気付いた。
「見られてない・・・よな?」
人を殺す場面だけはずっと隠してきた。
自分の顔を震える左手でゆっくり覆う。
この鬼は怯えていのだ。
「タイミングが悪すぎるッ・・!
・・・・あの優しい子が見ていいものじゃないのにッ・・・!!」
恐い・・・・人殺しの顔(表情)を見せて怯えさせることが恐い、怖がられて失うのが恐い、怒りや憎しみで人を殺すドス汚れた部分を見られるのが恐い。
「ハッ・・結局、1番隠していることが多いのは俺じゃないか。・・・・お前はいいよなぁ」
自分自身を嘲け笑った。
ガイアが羨ましかった。
自分も戦っている時の怒りと憎しみに染まった顔をマスクで隠せたらどんなに楽なのだろう、と想像する。
ガレージに着き最初に迎えてくれたのはディエチ・・・・ではなくユンだった。
「お疲れさまです~よく使いこなせましたね~」
「え・・ああ、こいつ(8)が戦闘中にOSをベストなのにしてくれましたから・・・。」
「8さん、お疲れさまです~」
『なんのなんの!!』
「あのユンさん。・・・・ディエチは?」
キョロキョロとあたりを探すがいない。
いつもなら「おかえり」と言ってくれる筈なのに・・・・。
「あー・・・ディエチさんなら、あちらですよ。」
ガイアから降り、ヘルメットをとるとドアの影にディエチを見つけた。
シンは無理して笑顔を作った。
「・・何やってんだよ。ほら・・荷物を部屋に運ぶぞ」
「・・・うん」
ディエチの顔はまた暗くなり、シンを避けているように見えた。
シンには分かっていた。
ディエチの目が“怖い”と怯えていることを
「どうしたんだよ?・・・・ディエチ」
用意された部屋でシンはシャワーを浴びて着替えた後、ディエチに恐る恐る聞いた。
ディエチが自分を怖がらずにいてくれることを、シンは賭けたかった。
「え?なんのこ・・・ごめん!!さっきのシンさん・・・・怖かった」
戦闘経験の少ないディエチにとって、シンの戦いは未知のもので、1人で戦っている時のシンは生まれて初めて見る『本物の人殺し』だった。
炎のような怒りと憎しみを胸に秘めながら、その戦いは獣のように速く機械のように正確で戦術的。
傭兵であるから戦闘はすると聞いてはいたが、実際に見るのは初めてであり、残酷な一面を見たことにショックを受けた。
あれは脱走兵を“敵”として割り切って戦っていたのではない、“ブルーコスモス”という単語を聞いた瞬間から、「青き清浄なる世界のために」という言葉を聞いた瞬間から、“獲物”として狩っていたのだ。
(私達もそれなりにやってきた・・・・あの小さな子供にヒドイこともしたッ・・けどあれは・・・ッ!)
だがシンのやっていたことは明らかに異質だった。
そして、1番怖ろしいのは今すぐそこにいるシンが“いつも通り”のシン・アスカであること。
つまりシンにとって“アレ”がいつも通りのことであったこと。
「見てたのか。そっか・・・・見られたか」
賭けは簡単に崩れた。目が空ろになり、「脆さ」と「危うさと」いう言葉が連想できる。
(出撃する前に一言いっておけば・・・・)
自分の愚かさを呪いたかった。
「・・・うん。・・ゴメンなさい・・ッ」
ディエチはシンの顔をまともに見ていない。
それだけで十分、シンは辛かった。
しかし、守ってもらった味方でさえ恐怖するのだ。
誰がディエチを責めることができようか?
「俺こそ・・・・隠していてゴメン。怖かったよな?」
淋しい笑いだった。
確かに半分は隠すために仕事の時は遠ざけた、半分はディエチの安全のために遠ざけた。
「・・・・。」
「俺は確かに・・・“人殺し”だ! しかも憎しみで人を殺すことに慣れた最低の人間だ! 覆す権利も、覆す気もない!」
声を荒げて言った。戦っている時のように瞳には怒りと憎しみの炎が宿っている。
そこにディエチの知っている“シンさん”はいなかった。
ただいるのは戦場で血涙を流す悪鬼“羅刹”だけだった。
「ひッ・・!」
「・・・ッ!?」
いつのまにかディエチは泣きそうな顔をしていた。
それに気付いたシンの胸が苦しくなる。
「・・ッ・・・・ごめん」
そう告げるとシンはディエチに背を向け、ドアに向かって歩いていった。
殺した理由は聞かれない限り言わない、言えばただの言い訳にしかならなくなると思ったから。
「しょうがなかった」とは言わない、シンが言えばディエチは納得するかもしれない。
それでは自分と同じように『人を殺す・人が死ぬ』ことが当たり前のだと認識する人間になる可能性があるから。
声を荒げたのは・・・・戦いのあとに残る罪悪感から。
「シンさん・・・・どこへ行くの?」
「MS操縦のシュミレーションに行ってくる。・・・今夜はガイアのコックピットで寝るから戻らない」
恐怖の元凶である“人殺し”を遠ざける・・・・
これが今の自分に唯一できるの優しさであると考えた。
「あと1時間ぐらい経ったら、A8を持って樹里さんのところへ行ってくれ。まず・・・樹里さんと2人で宇宙に出て、それから色々教えてもらうよう頼んでおくから」
「・・・ゴメンなさい。」
ディエチはその配慮に気付くも・・・・辛かった。
「あとディエチ」
「何・・・?」
「自分を責めないでくれ、俺を怖がるのは“マトモ”な証拠なんだ。・・・・本当言うと俺は安心しているよ」
最後に振り向いて哀しい微笑みを見せ、軍服を羽織って出て行った。
赤い軍服と一緒に哀しさを羽織って歩いて出て行った。
「シンさんの・・・・バカ。わたしのオオバカ・・・ッ!!」
ディエチには、軍服の赤が血の赤に見えた。
だがその赤い血は返り血なのか、あるいはシン自身の流した血なのかは分からなかった・・・。
ただ1人になった部屋の中、ベッドの上で膝を抱えて座り、顔をうずめた。
寂しくなって目から涙を流して泣いたが、いつものように涙を受け止めてくれる背中はいなかった。
「そうだ・・・・樹里っていう人に会わなきゃ」
シンの好意を無駄にしてはいけない、そう思って足に力を入れて立ち上がった。
「そして、シンさんに聞きたい・・・・ッ!!」
『シンさん』を、文字通りこの世界で1番信じられる存在を信じたいのだ。
シンがくれた翡翠の首飾りを握り締めて、歩を踏み出した。
ディエチもまた少しづつではあるが、強くなっていた。突然飛ばされた異世界C.E.での様々な経験がディエチをたくましくさせた。
それは人なら誰もがもっている機能、“成長”である。
「シン・アスカ・・・・これが俺の現実だ。」
移動中シンは夢を見たがっている自分の心に言い聞かせた。
「ここにはロウがいるから、ここで“さよなら”かもな。まあ・・・・ディエチが決めることだし」
不幸中の幸いなんだ、と無理やり思うことにした。
あの時みたいに胸にスカスカした感じがして、不愉快で悲しくて・・・・痛かった。
「それでも俺は・・・」
心に痛みを感じても止まるわけにはいかなかった。
「止まったら・・・・俺が殺してきた人たちの“死”が無駄になるんだ。」
前に進むしかなかった。
「俺が戦わなきゃ・・・・戦場でもっと多くの他の人たちが死ぬんだ。」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた。まるで呪いのように
運命(Destiny)の
悪役(Heel)は独り歩いていく
必死に振り向いてくれようとしている花に気付かずに
最終更新:2010年05月18日 01:32