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ムキドー多重クロス-09

知りたいこと…知りたくないこと…
それは誰にでもあります…
そして私は時々思うのです。
では“知ってはいけないこと”はどちらになるのかと。
往々にしてそれを知れば後悔することになるでしょう…
けれど…真実とはそれにこそあるのではないかと…私は思うのです……


機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-
  PHASE-8「ことりと“赤”」


「さてと…帰るか」
病院を出たシンは、考え事をしながら家路につく。
別に昼食のことを考えているわけではなく、ドゥーエの言っていたこと―明日、ガルナハンで紛争を起こす―についてである。
「何とかしたい」…そういう気持ちはもちろんある。
空を見上げれば、今もなおヘリコプターが飛び交っている。
昨日の出来事の調査や片付け、もしかしたら救助活動も続いているのかもしれない。
そう思うとやはりソレスタルビーイングのやった事、やろうとしている事は間違いなのではないかと思えてくる。

しかし…

「何が正しくて、何が間違ってるのか分かるのは“今”じゃないよ」

さくらの言葉がよみがえる。
たしかにそうだ。ぶっちゃけ誰だって自分が正しいと思うことをしている。
その中で何が正しかったのかは後の歴史が証明するのだ。
だがシンはこうも思う。この理屈だと“勝った者が正しい”のではないかと。
おそらくさくらはそういうことが言いたかったのではない。“敗者”として“間違った”ことに苛まれているシンを励ますなり何なりしたかったのだろう。
だが、かつて世界から敵―間違っている国―として叩かれたオーブが今や正義の体現者となっている事実は、それを間近で見ていたシンに否応なくそう思わせる。
そういう思いから、統合軍に匹敵する力を持つ、勝者となるかもしれないソレスタルビーイングを“間違った者”とすることが出来ない。
明確な敵とは言えない。

「前の俺はどうするんだろうな……」
ZAFTにいた頃のシンには戦う力と理由があった。
それを失ってしまったことも、行動出来ない原因かもしれない。
そもそも、だ。
(あいつらが間違ってると思ったから、俺は戦ったのか…?)
今のシンにはこの疑問があった。以前のシンにはこんなことはどうでもよかったことだ。
かつてシンは地球連合軍と、オーブと戦った。
ZAFTにいたからには彼らは敵対国だったわけで、軍人として戦うのは当然だった。
だが、『シン・アスカ』個人はどうなのだろう。
地球連合は嫌いだ。家族が死ぬキッカケを作ったから。
オーブも嫌いになった。家族を守ってくれなかったから。
では、彼らの行いは間違っていたのだろうか。
地球連合はプラントに攻め入り多くの被害を出した。
その後もベルリンを焼き払うという非道を行った。
オーブは手の平を返すかのように地球連合と手を結び敵国となった。
内側にはラクス・クラインという切り札を隠し持っていた。
間違っている―そう言えなくもない。
しかし、そのどちらも彼らの立場に立てば変わってくる。
地球連合はZAFTが極秘裏に開発していたMSが怖かった。
数々の敗退により敗軍となることを恐れての強行策だったのかもしれない。
規模の小さいオーブは自国を守るために仕方なく手を結んだのかもしれない。
ラクス・クラインは文字通り切り札だったのだろう。
(あっちはあっちで、守ろうとしたのかもな……)
守るために戦う―その気持ちはよく分かる。

シンも以前はそうだった。
キラやアスランもそのために戦っているようだった。
その想いに間違ってるもクソもない。
ならば今もそれでいいと―偽の家族や俄か友達を守るために戦えばいいと思う自分がいる。
一方でそれではいけない、守るためなら他者を傷つけることは許されるのかと思う自分がいる。
何より“守る”自信が無い。
戦う勇気も失った。

自信が無いのは負けたから。
勇気を失ったのは負けるのが、そして失うのが怖いから。
(失う? 楓達をか…? いや…)
シンは自身で否定する。
彼女達を大切に思っていないわけではない。
自分のような誰かを不幸にすることしか出来ない最低のクズにも優しくしてくれるのだから。
だが、どこかでその優しさを信用仕切れていない。
どこかで疎ましく、忌々しいと思っている。

なぜなら彼女達は、

―――――大切なものを奪い、キラ達が守った、世界の一部なのだから―――――

「「……」」
「「♪」」
芙蓉家、リビング。複雑な空気が場を占める。
みんなに放置されぶーたれていたアイシア。
そこにヴィヴィオを連れた亜沙&カレハが訪ねてきた。
別にそれだけなら何も問題ない。むしろアイシアはカレハスキーなので喜んだぐらいだ。
ヴィヴィオがカレハをママと呼んだ時は驚いたが、「登場人物は全員18歳以上だしw」と納得。
しかしそこで好奇心の基「パパは誰?」と聞いたのがマズかった。
亜沙が聞かないようにしていたことに気付けなかったのもマズかった。
ヴィヴィオははなまるな笑顔で答えた。シンがパパであると。
アイシアは我を保つため、とりあえずシンのシ○プリカレンダーを7月にしてきた。
もうすぐ夏休みと勘違いし苦しむがいい。
「と、ところで! シンちゃんはまだ帰ってこないのかなっ?」
「さくら達からはもう帰るって連絡ありましたから、もうすぐ帰ってきますよ!」
「そっかーっ! じゃあ、帰ってきたらみんなでお昼にしようか?」
「そ、それがいいですね!」
引きつりながら笑顔で話すアイシアと亜沙。
黙ってるとどうしても考えてしまう。 シンとヴィヴィオの関係を。

(シンとカレハさんがシンとカレハさんがシンとカレハさんがぁぁぁ)
若干ヤンデレ思考に陥るアイシア。

(二人が会ったのってこの間のはず…普通に考えれば。でも実は前に会ってたりして…)
亜沙は様々な可能性を想定し完全にハマっている。

二人とも理由を聞けばいいのだが、「デリケートな問題かもしれない」と思い聞けない。
カレハも二人が何も聞かないので話していない。
分からないことは人に聞きましょう。

「あ、パパ♪」
「え、君は…」
シンが芙蓉家リビングに入るなりヴィヴィオが飛びついて来た。
ここにヴィヴィオがいることなど知らなかったシンは驚くばかりだ。
「あらシンさん、お帰りなさい」
「あ、カレハさん。どうしてここに?」
「それはですねぇ…」
「ふぐぅおっ!?」
カレハが事の経緯を話そうとすると、シンの襟首が思いっきり引っ張られた。
そのまま廊下まで引きずり出される。
「な、何事?」
そこで音姫、プリムラ、由夢、アイシア、さくら、楓、亜沙に囲まれる。
「ね、弟君。あの子は? パパって…どうゆうことかな? かな?」
「音姫、キャラ間違ってる…」
「どうせそーゆープレイなんでしょ」
「ぷ、ぷ、ぷ、ぷれいっ!?」
「やるね~シン君。うちのお兄ちゃんでもその手の相手はいなかったよ」
「あ、プレイですか」ホッ
「え。ここ安心するとこなの?」
当人そっちのけで『シンは幼女に親子プレイをさせてる』で決定してしまった。
「違うよ! あの子は」
「さらったの…?」
「何言ってくれちゃってんのこのツインテは!? みんながヒソヒソ話し出したじゃん!」
シンはプリムラのツインテを引っ掴んでプロペラよろしくブンブン回転させる(ちょっと楽しい)。
このままでは『シンは“さらった”幼女に親子プレイをさせてる』にランクアップしてしまう。
そうはさせじとシンは叫ぼうと息を吸い込む。
「あのー、この子は以前迷子になっていたところを私とシンさんでお世話してあげたんです。
 まだあまり言葉を知らないからパパ、ママって呼んでるんだと思いますわ」
カレハがリビングから顔を出しそれっぽい説明をしてくれる。
みんなは「それだ!」ってな顔をしてリビングに戻って行く。シンは放置。

「(´・ω・`)ショボーン」

「…というわけなのです」
リビングにて昼食を食べながら実体化したエセルによりなぜここにヴィヴィオがいるのかが説明された。
アルは本が人間になって御機嫌のヴィヴィオの相手をしている。
「あのなぁ。いくら俺を探すためっていっても危ないだろ」

シンは二人の行動をとがめる。
何事もなくその上亜沙とカレハに出会うという幸運に恵まれたからいいものの、ヴィヴィオのような幼女が一人で出歩かせるのは感心しない。
しかも今初音島は何が起こるか分からない状況にある。
「申し訳ありません。ですがこれも全て…」
「お話し中悪いんですけど」
由夢がエセルの言葉をさえぎる。
「私達はお二人のことをほとんど知らないんですが?」
由夢達はアルとエセルが本から出てきたっぽい場面しか見ておらず、魔導書のことなど何も知らない。さくらと亜沙とカレハはなおさらだ。
「あ~、そうだな。俺もほとんど知らないし、二人の事を話してくれないか?」
自分も大したことは知らないのでそう促す。
エセルはアルと顔を見合わせ、
「分かりました」


(どうしようかな)
芙蓉家の庭。そこの植え込みの中にフェイトはいた。
実はヴィヴィオを探している際、ヴィヴィオが亜沙、カレハとともに市街地へ入って行くところを見たのだ。
声をかけようと思ったのだが、そこでヴィヴィオが持っている本―魔導書―に気付いた。
(魔導書なんてどこで…。それにあの黒い方は昔見たことがある)
フェイトは“産みの親”の許にいた時、『ナコト写本』を見たことがあった。
(確か……)
「世界最古の魔導書…これさえ…この力さえ制御出来れば…!
 そのためにもジュエルシードが必要だというのに…アレはいつまでたっても…!
 でも、まぁいいわ。断片とはいえ取り出せた知識から作ったコレが完成すれば、アレに頼る必要なんてなくなる。
 忌々しい管理局を消すのも夢じゃない。
 そうなればノロマな代用品じゃない、本当の…私の本当の――」

あまり楽しい記憶ではないが、それだけに鮮明に覚えている。
(あの黒い子は黒い魔導書の化身ってところかな。だとしたら…)
“彼女”は結局制御も完全な解読も出来なかったが、本そのものの意志なら楽勝だろう。
“彼女”が切り札として用意していたもの…一般人が所持しておくのは色々と危険すぎる。
初めは魔導書の出所が分かるかもしれないと思い尾行していたが、今はそれどころじゃない状況だと判断するフェイト。
(いきなり出て行ってっていうのもなぁ…。ヴィヴィオもいるし…)
とりあえずもう少し様子を見ることにする。魔導書について話すらしいので聞いて損はないだろう。
フェイトは再び魔法で‘風の流れをコントロールして遠くの音を聞きやすく’する。
(苦手なんだよね、これ)


「?」
「どうしたの、プリムラちゃん?」
プリムラが何やらキョロキョロし出したので音姫はどうしたのか尋ねる。
「…何でもない…」
プリムラは首を横に振る。音姫も「そう」と言って別に追求しない。
「改めて自己紹介からしましょう。私はエセルドレーダ。最古の魔導書『ナコト写本』の精霊」
「妾はアル・アジフ。『ネクロノミコン』の原典『キダブ・アル・アジフ』の精霊じゃ。
 ネクロノミコンの名前ぐらいは聞いたことあるじゃろ」
「ゲームとかでなら…」
音姫が答え、シンや楓も頷く。
「名称 だ け は有名ですからね」
「マイナー本のひがみじゃのう」
睨み合うアルとエセル。シンの思った通り仲が悪いのは確実のようだ。
「え~と、それ以外には…」
楓が先を促すと二人は睨み合いを止める。
「とは言ってもな…いかんせん我らは長く生き過ぎておる。なにせ寿命なるものがないのでな。
 どこから話すのが良いか…」
「じゃ私達が質問していくので、それに答えていくっていうのはどうです?」
「うむ」
こうして『第一回 あの娘の秘密に迫れ☆魔導書の何でも回答コーナー』が始まった。

「お二人の年齢は?」
「忘れた」「気にしたことがありません」

「3サイズはアイシアより上? 下?」「同じロリ担当のクセに…!」
「下、じゃろうな…」「あなたも大差ないでしょうに…」

「よく似ていますけど、姉妹なんですか?」
「いや、精霊は皆似たり寄ったりじゃ」「我がマスターの趣味かと」
「ちょwwwおまwww」

「じゃあそのゴス衣装も?」
「いや、そうでない者(=魔導書)もおったな」「マスターの趣味です」
「断定になった!?」

「どうしてアルちゃんはお姫様言葉なの?」
「ちゃん付けするな! 妾は偉いからじゃ」
「キャラ作りでしょう。もしくはマスターの(ry」

「食事はするの?」
「なくても問題はないが食べたい!」「マスターの口移しキボンヌ」
「エセル氏!?」

「おっp」

「ストーップ! そもそもみんな何で変なことばっか聞くんだよ!?
 もっと大事なこといっぱいあるじゃん!」
「ガールズトークに男の子が口を挟んじゃダメだよ~」
「さくらはっさきも3サイズ云々聞いてたよな? 次は何を聞く気だった?」
「おっp」
「させるかぁ!」つスリッパ
「甘い! ツインテール・スラッシュッ!」ザシュザシュザシュ
「いって! ツインと言いながら3Hitだと…!?」
「今のボクはツーサイドアップの『Ⅱ』仕様。髪は3房に分かれているからね」
「数ばかりゴチャゴチャと…!」

頬に切り傷×3をつけたシンは慎重に間合いを取る。あの技は危険だ…!

「た、楽しそうだね…」
「とても仲が良いですから」
さくらVSシンは芙蓉家名物と言っても過言ではないくらい日常茶飯事となっている。
「で、他にはないのか?」「グリムテイラー」
「じゃあボクからいいかな?」「イッパンジンニヤラレルカヨ」
今まで黙っていた亜沙が挙手。「コメットレイドル」
「二人はどうしてシンちゃんの所に?」「タッタヒトリニオオゲサナンダヨ」
「うむ、それがの…シンが言うには『ナイア』とかいう女に渡されたらしい」「シャイニングエーッジ」
「らしい…って、二人は知らないの?」「クソッ、マチブセカ」
「私達は前まで別の世界にいたのです」「ズッキューン」
「別の世k「くそ、何でこんなヤt」…貴様も水没するか?」「スイマセン」
亜沙の低音な声にビビりおとなしくなるシン。さくらは「あ~あ、怒られたー」とからかう。
「あのあの、別の世界ってなんですか?」
亜沙に代わりアイシアが聞く。アルは腕を組み難しい顔をする。
「世界はひとつではない」

「目には見えんし感じることも出来ないが“世界”とは無限に存在する。
 異なる次元、異なる時間において独自の歴史を刻んでおる。
 それらはその“世界”単独で完結し、他の“世界”には通常は干渉しない。
 故に“世界”同士を行き来することはもちろん、その存在さえ知ることは出来ん。
 じゃが確かに異世界が存在している。それは確かなのじゃ」

「そうじゃろう、娘?」
アルはカレハを見る。全員それにつられてカレハを見るが、
「って何でそれがカレハさんに関係あるんだ?」
「それは…」
シンはアルに聞いたのだがカレハが答える。
「それは…“私たち”がこことは別の世界から来たからですわ」

(これは…マズイかも)
芙蓉家で交わされる会話を聞いていたフェイトは内心焦っていた。
異世界―その存在は管理局内において極秘であり、総合軍本部でも把握している者はごく少数。
つまり管理局のみ知りえているようなものである。
当然一般に情報が漏れるなどあってはならない。
(あの人がどうして知っているかは分からないけど)
特に黒髪の少年(シン)は魔導書二冊の契約者らしく、それだけでも拘束する義務がフェイトには発生している。
ヴィヴィオについては誘拐ということではなさそうだが、魔導書を所持している以上見逃す訳にはいかない。
(やるしかない…!)

「カレハ先輩、どういう…」
「どぅわ!?」
楓がカレハに質問しようとしたところでシンが黄色い輪のような物体―バインド―にグルグル巻きにされ、バランスがとれずぶっ倒れる。
「シン君!?」「兄さん!?」
みんな驚いてシンに駆け寄ろうとするが、
「動かないで!」
窓が開き、管理局の制服を着たフェイトが入って来た。
「管理局の人?」
「はい。いきなりお邪魔してごめんなさい」
「これはあなたの…?」
「ええ。彼には魔導書所持の疑いがありますから、ぶしつけですが管理局で拘束させてもらいます」
「ぶしつけすぎますっ!」
楓が喰ってかかるが、そこにヴィヴィオは走り出てくる。
「ママー♪」
「「「へ?」」」
その場にいたフェイト以外は素っ頓狂な声を出す。目の前の女性は子持ちには見えない。
「(もしかしてあの方が『びんじょー』さんでしょうか?)」
「(あー、そんな話ありましたね…)」
カレハは倒れているシンに近づいて耳打ち。
「っと、とにかく! いきなり窓から入って来た上、拘束なんて横暴です」
楓は再びフェイトに詰め寄る。シンのこととなると好戦的。
「…」
「きゃっ」
「楓…!」
フェイトが軽く指を振るうと楓にもバインドがかかる。

「魔導書との契約者はその強権を以って拘束することが義務付けされています。
この子がお世話になったことは感謝していますが、こちらも職務を放棄するわけには…」
フェイトがそう言っている中、さくらは縛られている楓に手をかざす。すると掛けられていたバインドはあっという間に霧散した。
「っ! あなた…」
「にゃはは。ごめんね~。お仕事が大事なのは分かるけど、ボクも家族が管理局に連れて行かれるのは“もう”嫌だからさ~」
「さ、さくらさん?」
由夢が普段と雰囲気が異なるさくらに声をかける。さくらは振り返って、
「プリムラちゃん。シン君の輪っか、ちょっと握ってみて」
プリムラは黙ってシンのバインドを握る。すると黄色だった輪がどんどん紫色に変わっていく。
「おお~早いね~。もう千切れるんじゃないかな?」
プリムラが輪を引っ張ると、それはあっさり千切れ消えていく。
「なっ、どういうこと…?」
「ボクがやったのはレジスト。プリムラちゃんがやったのは魔力の上書き」
「上書き!? そんなの簡単に出来るわけが…」
フェイトは驚きを隠せない。彼女は訓練を受けた正規の魔導師。魔力もかなり高い。
にも関わらずさくらはあっさりレジストし、プリムラに至ってはただ握るだけで―漏れ出ている魔力だけでフェイトの魔力を押し潰したのだ。
(契約者の家にはすごいのがいるんだね…)
フェイトは戦闘態勢に移る。
プリムラは自分のやった事がよく分かっていないようだが、さくらはかなりの魔法技術を持っているに違いない。
「ここはさ、見逃してくれない? シン君なら悪いことには使わないからさ」
「言葉だけで、『はい、そうですか』とはいかないわ」
「困ったな~。じゃあ…」
何も無い所から黒いマント―さくらが時々纏っている物だ―が現れさくらに被さる。
「諦めてもらおうかな♪」

「ハーーイ御機嫌いかがかな、ことり君?」
「??」
突然ことりの病室に青い燕尾服の女性が巨大な花束を持って入って来た。ことりと暦は面食らう。が、
「…どちら様で?」
暦はことりをかばうようにしてイスから立ち上がり問う。
昨日が昨日だけに警戒して当然である。まして相手は初対面な上怪しい格好をしているのだから。
「おっとすまない。キミに用はないんだ」
女性がそう言うと暦はフラフラと外へ歩いて行ってしまう。
「お、お姉ちゃん!?」
「心配いらないよ。ちょっと暗示をかけて外してもらっただけだから」
「暗示…? あなたは…」
ことりは不安になる。この女性は一体何をしに来たのか。自分をどうするつもりなのか。
事件のこともあり恐怖さえ感じていた。
「ボクは…シン君の知り合いさ」

その一言でことりから不安も恐怖も消える。シンの知り合いなら悪人ではない気がしたためだ。
しかし自分に何の用なのかという疑問は消えない。
「私に…一体?」
「もちろんお見舞いさ」
言って女性は花束を軽く掲げる。しかし次の瞬間には花束が赤い、血で濡れたような本へと変わっていた。
「え?」
「フフ…驚いてくれたかな? これはキミへのお見舞いの品だよ」
呆気にとられていたことりは女性から本をすんなり受け取ってしまう。
しかしその本の感触が伝わってくるなり、
「ひっ!」
サっと手放してしまう。
それはあまりにも異質。まるで本当に血で濡れているかのような感触だったのだ。
さらにことりが手放したにも関わらず、本はその場で浮いている。
「な、な、何なの……」
さっきの感触が手から消えず、思わず自身の手と本を見比べる。その手はいつものことりの手だった。
「それは『ネクロノミコン血液言語版』。魔導書さ」
「魔、導書…?」
「それの力を使えば真弓君を助けることが出来る」
「!?」
ことりは眼を見開き女性を見る。それを見て女性は満足気に続ける。
その言葉は魔法のようにことりの心を浸食していく。
「統合軍のMSが放つ赤い光。あれはニンゲンの持つ再生能力を阻害し遺伝子を破壊する可能性がある。
 あれだけの大怪我だ。普通の方法では彼女は助からない」
「そ、そんな…。でも、そんな事…」
「自分達に都合が悪いことをわざわざ公表すると思うかい?」
「で、でも、隠したってすぐに」
『全て“敵”のせいにしてしまうのさ。統合軍は、ラクス・クラインは常に正しくなくてはならない』
「ラクス様はそんな人じゃ」
『ラクス本人はそうでも『ラクス・クライン』という存在がそれを許さない。世界が求める『ラクス・クライン』はそうじゃない。キミも分かっているはずだ』
「あ…あぅ…」
ことりは言葉を失う。そして赤い魔導書―ネクロノミコン血液言語版―を見つめる。
女性の姿はすでに“ココ”にはなく、その言葉が耳からではなく頭に直接伝わっていることに気付かないほど動揺していた。
『大丈夫、キミには素晴らしい資質がある。妙な副作用や代償も必要ない。ただ願えばいい…友達を助けて欲しいと』
ことりは三度赤い本を見る。
『さあ、恐れることは無い。残酷で醜い真実に立ち向かうんだ。キミがこの現実を否定するんだ』
ことりはゆっくりと魔導書に手を伸ばす……。

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最終更新:2010年06月11日 20:45
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