第6話『花の道しるべ』
怖がっている樹里(シンが昔デスティニープランに関わっていたため)にディエチのことを頭を下げて頼んだあと、シンは迷いながらまたガレージについた。
ガレージに着くと見知らぬ連合のMSが2機追加されている。1機はランチャーダガーL、ともう1機は・・・。
「105ダガーに・・・新しいストライカーパックか?」
普通の105ダガーのカラーの青が普通より濃い、多分エースパイロットのものだろう。
背中には見たことも無い赤紫のストライカーパックがあった。
「どうした?105ダガーは古臭いか?」
突然、豪快で渋い声の壮年の男がシンに声をかけた。
髪は金髪、パイロットスーツを着ていることと105ダガーについて話してきたことから105ダガーに乗ってきた連合の者だと推測する。
「いえ、105ダガーは傑作機だと思います。乗ったこともありますし・・・」
乗ったこともあるし、ゲシュベルトベールには命を助けられた。
「ほお・・・どうだった?」
「“動き”に関しては、ザクに引けをとりませんでした。それに胸の装甲はラミネート装甲だから、あまり重くもなくバッテリーをあまり食わないのに直撃でもない限りパイロットの生存率が高くていい機体だと思います。」
出した答えは何のへんてつのない現実主義者にとっては当たり前のこと。
今はなきある部隊にウィンダムではなく105ダガーではなくチューンアップバージョンのスローターダガーをつかい名前の通り虐殺を行っていた部隊があった。
シンは知らないが、目の前にあるモーガンの105ダガーも見た目は初期と変わらないがウィンダムが開発された後も改良を加えられ続けた最新式であり、ウィンダムよりも性能は上である(初期との外見上の違いといえばサイドアーマーにウィンダムやダガーLのようにビームサーベルの他にクナイを標準装備していることぐらい)
背中のガンバレルストライカー2は試験的に開発されたものであり、簡単にいえばエグザズを折りたたんでそのままストライカーパックにしたようなものである。
だがその当たり前の答えは、シンにコーディネーター特有の高慢さがないことを壮年の男に悟らせるには十分過ぎるものだった。
「いいのか? コーディネーターが連合の機体をそんなに褒めて」
「今の俺はザフトじゃなくてただの傭兵です。それにぶっちゃけウィンダムやダガーLのほうは“棺おけ”だと思ってますけど」
これもまた正直な答えだった。
「ハハッ!!正直な奴だ。気に入った!!」
「オレはモーガン・シュバリエ。戦車乗りだ」
「傭兵のシン・アスカです。」
2人は挨拶の握手をした。だが・・・
「シン・アスカ」
「モーガン・シュバリエ」
「「・・・」」
互いの名を聞いたとき電流が走り、握手をしながら互いになにかを思い出そうとしていた。
「「あああーッ!!!」」
同時にお互いを握手していないほうの手で指差しながら思い出した。
「お前が『羅刹』か!!」
「元連合4大エースの内の1人、『月下の狂犬』!!」
「「フッフッフッ・・・」」
2人は不気味な笑い声を発し、握手している手にギリギリと力を込めた。
2人とも笑顔だが、コメカミに血管が浮き出ている。
「はじめまして・・・いや。お久しぶりと言っておきましょうか!!」
「そうだな・・・久しぶりだな!!羅刹!!」
「シンでけっこうですよ!!狂犬さん!!」
「モーガンでいいと言った!!」
普通に言えばいいのに2人はわざと声を張り上げた。
ディエチと出会う前。
この2人は初見ではない、敵として会っているのだ。因縁の・・・・あの砂漠の戦場で。
生身で会うのは初めてだが。
アスカ小隊、最後の戦いの相手の1人として。
「なんで、アンタがここに?!」
「脱走兵を引取りに来ただけだ!! 手続きは部下にやらせているがな!!」
「よくもあの時、動けなくなった俺にミサイルの雨を降らせてくれましたね!!」
嫌味に聞こえるようにわざと敬語を使う。
「お前こそ、よくもMS1個小隊で部隊を壊滅してくれたな!!」
ちらりとモーガンはシュミレーターを見た。
「アレで決着をつけようじゃないか。シン」
「いいですよ。丁度やるつもりでしたし」
漫画だったのならビキビキッ、という擬音が入っていただろう。
宇宙空間に2体のダガーがいた。
宇宙空間を選んだのはもちろんモーガンであり、目がキラリと光ったことにシンは気付かなかった。
片方はガンバレルダガー、片方はエールダガーで左手にゲシュベルトベールを手にしていた。
『この攻撃にどう反応する!!』
ガンバレルダガーはいきなりガンバレルを切り離し、ビームライフルを合わせて攻撃してきた。
「なにをッ!!」
エールダガーはビームを全てシールドで防御し、すれすれで回避しできるだけ移動しない。ビームを回避できないわけではない、してはいけないのだ。
すればモーガンの思うつぼである。
モーガンのはじめの攻撃は、追い詰めるための攻撃であることは経験済みだった。
死ぬほど痛い思いもした。
『“あの時”よりも強くなっているな、シン!! そんなに強くなってどうするつもりだ、エドのように『英雄』にでもなるつもりかッ!!』
ガンバレルダガーは、エールダガーの頭上に回りこみレーダーに映らない角度からビームを撃ちこむ。
「なんでエドさんを知っている!?」
『オレはエドの元教官だ!! 答えろ『羅刹』、なぜ強くなろうとする!? 』
「俺は『ピエロ』だ!! 力のない人達が・・花の笑顔を守れればそれだけでいい!!」
アイツのドラグーン対策の経験、レイ(レジェンド)とのシュミレーターの経験、常に多数の敵と戦うことが当たり前だった戦線の経験。
それらが常に全方位に意識を集中させる能力を育てていた。
エールダガーはスラスターを使って急回転しながらそれをかわし、背後でこちらをねらっていたガンバレルをビームカービンで撃ちぬき。
「そこだ!!」
下のガンバレルを撃ちぬいた。
『フンッ!!』
そう思った瞬間、ガンバレルダガーはガンバレルストライカーを切り離した。
ガンバレルストライカーは機首を展開してエールダガーに特攻する。
「な!?」
しかも残ったガンバレル2機のコードがエールダガー動きを封じていた。
『チェックメイトだ!!』
そして、モーガンの105ダガーがビームライフルでこちらに狙いをつけている。
「なんてな!!」
コードはゲシュベルトベールをも巻き込んでいた。
ゲシュベルトベールのビーム刃を展開してコードを切り、持ち直して特攻してくるガンバレルストライカーを斬り捨てる。
『それそれそれ!!』
だがその隙を逃すはずがなく、105ダガーはビームライフルを連射。
「くッ!!」
エールダガーはビームをシールドで防ぐと、シールドを105ダガーに投げつける。
105ダガーは左半身をずらしてシールドを回避するが。
「はあああ!!!」
エールダガーがゲシュベルトベールを両手で構え、エールストライカーのバーニアを全開にして突っ込んできていた。1
05ダガーにビームサーベルを持たせる隙すらつくらせない。
『・・それが』
かつてフリーダムを墜とした必殺の突きである。
『威勢がいいな!! だが』
必殺の突きはシールドごと貫いた。
「な!?」
105ダガーの左肩を。
いや正確には貫く瞬間シールドをワザと左肩の位置におき、錯覚させたのだ。
「まだだ!!」
エールダガーは左手で右腰のビームサーベルを抜き、至近距離で振り上げる。
勝負を見た人間なら誰もが予想しない2段仕込みの攻撃であり、これで決まったと思うだろう。
『まだ甘い!!』
105ダガーは半身ずらす。左肩丸ごとと頭部を斜め半分を切り取られている。
「しまった!!」
だが右手に持ったビームライフルの銃口はエールダガーのコックピットをゼロ距離で捉え、光を放った。
敗北を告げるブザーが鳴り響く。
「・・負けた」
「フム・・・最後の2段仕込みの攻撃はまさしく“必殺”だ。だが・・・まだまだだ!!」
「何が・・・・何がたりない!?」
悔しかった・・・・実戦なら死んでいた。守れずに死んでいた。
「熱くなりやすい感情は捨てろとは言わん。しかし、身をまかせるな! ブルいそうな足に込めろ!!そして・・・」
モーガンは片目をつむり・・・。
「“ここ”はいつもクールにな!!」
勝ち誇った笑みで自分のコメカミを人差し指でトントンと軽く叩きながら言った。
「・・・なんでそれを俺に?」
「自惚れるな!! こんなもの俺が新兵に教える初歩中の初歩だ!! あと相打ちなんぞ馬鹿なことは考えるな、バカモノ!! あとの事も考えろ!!」
フリーダムをも墜としたあの突きは確かに“必殺”である。
だがあのスピードと単純さゆえに待ち構えることができるのだ。
中途半端な覚悟の者ならいざ知らず、本当に覚悟をしたものならば待ち構えることができるだろう。
シンが自身の命を軽んじている限り“必殺”にして“必死”でもある技だったのだ。
モーガンの教官としての経験がその危うさを責めさせた。
「・・・くッ・・!!!」
あの技は過去にシンがステラの仇討ちのために、フリーダムを討つためにレイと考案したもの。
当時はフリーダムが討てれば命なんていらないと考えていた。
これまで散々似たようなことは言われてきた。
だが、これまでとは“重み”が違った。
だから、言い返せない。
「あとは自分で探せ。」
シンはまだまだ強くなる。
理由は簡単、“未熟”だからだ。だから“成熟”の可能性を秘めている。
この男を刀に例えるならば、この刀にとって最高の砥石は“戦場の経験”という人の骨だろう。
つまり戦場こそがシン・アスカという刀、いや人切り包丁を仕上げる最高の工場なのだ。
初歩を教えてそれ以上教えないのは、この男には“傷つく覚悟”がある。
闇雲に走らせて色んな壁にぶつかり迷いながら自分の道を、強さを探させるのが最善だと判断したからである。
モーガンは末恐ろしくもありそれが楽しみなったのだ。
「・・・・・。」
初めて“大人”に負けた。
けど初めて自分に『個人的な感情を捨てろ』と言わなかった“大人”だった。
モーガンは話を聞いてくれた“大人”だった。
「ふう・・ちょっと一服させろ」
モーガンには分かっていた。シン・アスカは実戦なら(守るものがあれば)もっと鬼のように強い、まるで殺気を感じて攻撃を先読みする獣のように素早い。
シュミレーターだったからこそ、ワザとシールドでコックピットを防御しない、という所業ができ勝ったのだ。
実戦ならできない。
一度しか戦ったことがないのに自分用の対抗策まで練っていた。
大西洋連邦の奴らが『最凶の傭兵』と言っていたのも分かる気がした。
もし戦闘狂という奴がいたら一目ぼれものだ。
それとも・・・・戦闘狂の仲間入りか?
「どうした。喫煙所はどこだ?」
懐からタバコを取り出して周りを見回す。
「知らないんですか?」
「当たり前だ。俺はここに初めてきたんだぞ?お前も知らないのか?」
最初からシンに案内をさせるつもりだったらしい。
「俺も初めてですよ。ただここにくる迷って来る途中見ましたけど・・・」
「なら話は早い。案内してくれ」
「なんで俺が? ・・で、ありますか?」
「勝者には何かしら利が与えられるあるものだ。敗者からな!!」
最後を特に強調させる。だがモーガンが言っていることは正しい。
「くッ・・・・こちらですよ。モーガンさん」
苦虫を噛み潰した顔で使う敬語は、悔しいと言っていた。
「フフッ・・ご苦労。シン」
何かに満足した笑い方だった。
少しイラッとする。
「なあシン、少し聞いてもいいか?」
モーガンはタバコに火をつけながら聞いた。
「なんです?」
「そういえばお前、昔デスティニープランを聞いた時どう思った?」
「・・・・懐かしい話題ですね。」
「フフっ・・聞けば最後まで3隻連合に抵抗したのはお前だけだと聞いてな。一度聞いてみたかった」
「デスティニープランか・・・・」
懐かしい・・・今思い出せば、青く苦すぎるものだ。
「“鎖”・・ですかね。」
「“鎖”・・か」
「デスティニープランは人の未来を縛り付ける鎖みたいなものって感じました」
「お前は何がしたかったんだ?」
モーガンには分からなかった。
あれほどの腕をもっていればザフトで返り咲けなくとも、他の組織に入れば十分優遇されるだろう。
テロリストにでもなれば勢力図を塗り替え、官軍になることも夢ではない。
ガルナハンやオルテガ共和国など守られた人間の一部はシン・アスカを『英雄』と言っている者もいる。
だから聞いたのだ。
「明日がほしかったんです。俺は・・・・その鎖で明日散るかもしれない力のない人たちの命をつなぎとめられるなら、それでいいと思ったんです。まぁ・・見事にボロ負けしちゃいましたけどね」
「なんだ。俺はてっきり、正義のため、なんて答えると思っていたぞ」
「“そんなもの”皆もっていますよ。軍もテロリストも自分勝手な正義の塊じゃないですか。俺が新兵だった時に戦ったザラ派テロリストもそうでしたよ」
「ほう、覚えているのか?」
「ええ。というよりあれは聞かされたっていうのかな? 家族が殺されたって・・・俺には悲しいぐらい理解できてしまう理由でした。だから俺は“悪役”なんです」
「相手の正義を認めたうえで潰すからか?」
「はい。俺に正義なんて旗はいらない、守れるだけいい。俺が殺してきた相手は漫画のような機械や怪物じゃない、みんな人間なんです。ただ救いがあるとしたら、みんな覚悟のできた人間だった、という点でしょうかね」
「殺す覚悟と死ぬ覚悟か・・・・戦場で戦う意思のある者には当たり前の覚悟だな。」
たとえできていなかったとしても、自分の意思で戦場にでれば強制的にできていることになる。
「でも、力のない人たちにはそんなの知ったことじゃない。そんな覚悟はさせちゃないし、理解させちゃいけない、知る必要さえない。それが軍人の仕事でしょう?」
「・・・・。」
正論だった。
軍人は他国の軍人と戦うためにいるわけではない、自国の民間人を守るためにいる。
現実はそうはいかないが。
「キレイ事を夢見るバカだな」
「キレイ事を現実にしたいバカなんだと思います」
「はぁー」
モーガンはため息をつきながら思った。
これほど軍人に向いている気質の若者がユーラシア連邦に何人いるのだろう、かと。
そして、今の弱体化したユーラシア連邦に何が必要なのかと。力だ。
「なんでそこでため息なんですか?」
「シン、ユーラシア連邦へ来ないか?」
地球連邦軍は全てナチュラルで構成されているわけではなく、シンのような地球で生まれたコーディネーターも当然いる。つまり戦える者ならば容易に入れるのだ。
モーガンは会話の中でシンがプラントのために戦っていたわけではなく、力のない人たちのために戦っていたことを知り提案した。
「・・・・どういう意味です?」
「お前ほどの腕ならもう一度“空”へ飛べるぞ。」
「・・・・もう一度“空”に」
“空”という言葉に揺さぶられた。
心臓の鼓動が速くなっているのがわかる。
正規の軍に入れば“アイツ”と戦場で敵として出会えるかもしれない。
“空”への羨望と復讐心が容赦なく冷静な判断を奪おうとする。
「ちょっと一服いいですか?」
「ああ、いいとも」
モーガンは余裕の笑みで許可した。決まった、と思った。
シンは「どうも」と言いながら震える手で内ポケットに入っているタバコを約1ヶ月半ぶりに取ろうとした。
するとなにか一枚の紙切れも一緒に握りとっていた。
「ッ!?」
一枚の紙切れに書かれた文字を見ると、タバコと紙切れを再び懐に戻した。
そして、敬礼をした。
「すいませんがお断りします。」
正直に言うと後悔が無いといえば大嘘となる。
こんな話は滅多にない、千載一遇のチャンスを自分でフイにするなんでオオバカのすることだ。
だが・・・・。
「ほう、なぜだ?」
「確かにもう一度雲の上の空を飛びたくないと言えば嘘になります。けど・・・・それじゃあ、雲に遮られて俺が守りたかった花が見えなくなるから・・・・」
「だから、誰にも縛られず地べたを走っていたいというのか?」
「はい。それに今、俺はもう1つのある依頼の最中なんです。名前を知っている花でさえ守れないようじゃ、名前の知らない花も、どんな小さな花もこれから俺は守れないような気がするんです。」
「フンッ・・・本当にバカな男だ」
「オオバカなんですよ。俺は」
オオバカである。
もしかしたらこの後ディエチはシンの元を去っていく可能性もあるし、最終的にディエチが家族と再会するということもまた別れであり、どんな場合でもシンの元には何も残らない。
残るのは行き場を失った復讐心。
「・・だが、いいバカだ。面白い!!ならその依頼を達成してから来い!!」
「達成しても行きません!!」
挑む眼差しと不敵な笑みは“青さ”と“将来性”を連想させる。
「おお、そうだ!!」
「まだ何か?」
「(タバコは)吸わないのか?」
モーガンは1本差し出した。
「へ?」
突然の話題を変えられ調子が狂う。
モーガンは熱くなりやすいシンの性格を完全に手にとっていた。というよりモーガンは楽しんでいる。
「・・・タバコは吸いませんよ」
ディエチが匂いを嫌がるので止めた。というより止めさせられた。
でもなぜ持ち続けているのかが分かるのはまた今度。
「ほう、酒は飲むのか?」
「最近はまったく」
ディエチが来てから“あの夢”を見なくなったので飲む必要はない。
というよりこれも止めさせられた。
「最近、女は抱いたか?」
「いいえ」
抱きはしないが、昨日まではディエチに背中から抱きつかれていた。
「愚かだなあ。お前は」
タバコ、酒、女、体には悪いが男には必要なものだ。
特に明日どうなっているか分からない男達には、なおのこと。
「俺自身そうだと思います」
(けどあの娘が笑ってくれるなら。たとえ独りでも俺は・・・・それだけでいい)
まぶたを閉じて深呼吸を一回、カッと見開くと紅い瞳には再び熱が宿っていた。
(それにしても・・・くくっ)
タバコにかるく貼り付けられていた紙。
それにはディエチの字でメモが書かれていた。
【体に悪いから 吸いすぎないで】
一体いつから貼り付けられていたのか分からない。
一体いつから自分の体調管理をしていたのか分からない。
一体いつから心の奥に入られていたのか分からない。
(まったく・・あの子(ディエチ)は体には優しくても、心には優しいのか、そうでないのか・・・分からないな)
ディエチという存在に簡単に人生を振り回される自分が可笑しかった。
だけど・・・・悪い気分じゃない。
(さっきは言い過ぎたし、とりあえず後で謝るか。もう・・・・ダメかもしれないけど)
間違った行動はしていない、つもりだが後悔はしていた。
その瞳は、さっきとは明らかに違う強さを秘めていた。
「ほお・・・いい目だ。」
「え?」
「さっきよりよっぽど面構えが良くなったぞ。どうした、何か悩み事でも振り切ったか?」
「ええ。紙切れ1枚で簡単にッ」
いつもの笑みが自然に出てくる。
もっともその紙切れを仕込んだ者はこの世界どんなに価値のあるものよりも、復讐よりも心に重い(思い)ものであった。
「もう一度シュミレーションをしてみるか? 次はお前が勝つかもしれないぞ?」
「付き合ってもらいますよ。俺はもっと強くなりたい」
「フフッ・・・前言撤回だ!! お前は腕づくでもユーラシア連邦に連れて行く!!」
「やだね!! ミナさんがコエーもん!!」
今だけは復讐のために死んでいく道より、彼女を守って家族に会わせる為に生きる道を選んだ。
(今は・・今だけは・・・・これでいいんだよな? )
心の囁きは死んでいった者たちに許しを請う罪人の叫びのようだった。
※
「へっくしぃッ!」
「どうした?風邪か?」
「さあ? 風邪は引きにくい筈なんですけどねー」
■ ■
「8、シンさんはなんであんなこと言ったのかな?」
あんなに辛そうに。
『自分で考えることだ』
「・・・そう」
『私が知っていることはシンは優し過ぎる男だということだ』
「シンさんが優しいのは分かるけど。なんで過ぎるの?」
『君は名前の知らない人間や会ったことのない人間のためにあそこまで怒りや憎しみに染まれるか?』
「それは・・・・」
無理だ。あの小さな子でさえ見捨てた自分にはできないことだ。
『裏を返せばアイツは赤の他人のためにそこまで悲しんだり涙を流すことのできるということだ』
「・・・・」
『弱く、脆く、愚直という欠点。感情で動き、戦う姿は実に人間らしい』
「・・私は、どうすればいいのかな?」
『何がしたい?』
「それは・・・・シンさんの真意が知りたい。なんで私を戦闘や兵器から遠ざけるようなことをしているのか」
あの怒鳴り方はまるで拒絶させるためのようだった。
『なら直接聞けばいい。アイツは君に嘘をつかない』
「んー・・・・自分で考えてみる。なんか8の言った通りに行動したくない」
『反抗期か?』
『フフフッ まあいい。成長の証として受け取ろう』
「8・・・・やっぱアンタの親はドクターだよ」
特に不都合な物事を楽しんでいるところが。
ディエチは樹里のもとに訪れた。
先ほどまでの涙を拭い、顔を洗って泣いた痕を消しているあたり逞しさがうかがえる。
心はそうはいかいないが・・・。
「あの・・・ディエチ・アスカです。今日からよろしくお願いします」
「あなたが8とシンが言ってた子ね。私は山吹樹里、よろしくね」
多くの人が好印象をもちそうな明るい笑顔で樹里はディエチを迎えてくれ。
その後、じーとディエチを見つめた。
「あの・・どうかしましたか?」
「いや~予想してたより普通だな、と思って」
「え?」
「だって8とシンに関わっている子だから、どんな子かなーって」
(8はともかく、シンさんどう思われてんだろう?)
『ロウと一緒にいるお前が言える言葉ではないな』
「まったく・・・あんたは」
人の揚げ足をとることが好きなのだ。
呆れるしかない。そういう奴なのだから。
「そういえば、持ってきてあげたわよ。8の“本体”」
『すまないな』
見た形はそのままだが、本体には細かい傷がたくさんあった。それは思い出ともとれた。
「これが・・・8の“本体”」
『私は、今日からディエチと一緒に行動する』
A8が小休止状態になり、本体に文字が表示される。
「え!?またどっかいっちゃうの?」
『ロウの了承はとってある』
まわりに支障が無い限り相手の意思を尊重するのがロウ・ギュールという人間である。
『これは私の意志だ!!』
「そう・・まあ、8らしいわ」
自分の意思で誰かに協力するのが8という存在である。
樹里はディエチに8を手渡した。
「それじゃあ、今日は私と一緒に乗るだけだけど何か分からないことがあったら聞いてね」
「はい、お願いします。樹里さん」
「うん、よろしくね♪」
樹里は好印象を与える笑顔で応えた。
ディエチと樹里と8の前に白とオレンジを基調としたMSが立っていた。
「これもガンダム?」
フェイスガードが装着しているがそれはまさに、ガンダムフェイスだった。
左肩にはジャンク屋組合のマークが描かれている。
背中には羽の形をした推進剤タンクが備え付けられている飛行ユニットがつけられていた。
『シビリアンアストレイJGカスタム。ジャンク屋組合オリジナルMSだ』
「アストレイ? 確か・・・・王道でない道」
以前8から聞かされた言葉を思い出す。
「そうね。実際は武器を装備しているけど、ジャンク屋組合の皆はね、作業用MSとして使って欲しがっているの」
『ディエチ、君に乗ってみて欲しかった』
「まあ、ぶっちゃけ私も8のサポートがなきゃ操縦できないんだけどね」
『樹里も乗りたがっていたからな』
【いなくなれよ】
(や・・やめて)
ノイズ混じりであの時の言葉がよみがえる。
【俺は確かに・・・“人殺し”だ! しかも憎しみで人を殺すことに慣れた最低の人間だ!】
(聞きたくない!)
モノクロの映像の中、唯一の色は瞳の紅。
【覆す権利も、覆す気もない!】
(何でそんなこと言うの!?)
【自分を責めないでくれ、俺を怖がるのは“マトモ”な証拠なんだ。】
(何で・・・・ガイアガンダムもシンさんもそんな哀しそうにしているの?)
【・・・・本当言うと俺は安心しているよ】
(なんでそんな寂しそうに笑えるの?)
【泣けよ・・・泣きたい時は泣けばいい・・・・家族に会えない辛さは、俺も分かるから。・・・・でも、希望は捨てるなよ。家族に会えるまで俺が君を守るから・・・・俺を信じろ】
(あんなに熱くて優しかった背中も嘘だったの?)
「どうしたの?」
「え?あ?あの・・・・いい写真だなあ、と思いまして」
ディエチはいつのまにか樹里の話を聞かずに物思いにふけってしまっていた。
話を聞いていなかった、とは言えずにコックピットの中に貼っていた写真を見つけて話をずらす。
昔、ジェスが初対面の記念に撮ったロウと樹里の2ショットだった。いい笑顔だった。
「ああ、これはね。昔、火星に行く前に撮ったもので――」
<<以下、長時間にわたる蜂蜜のように甘いガールズトーク。というより惚気話>>
「へー、以外ね。シンってもっと怖いイメージがあったんだけど」
「本当は優しいんですけどね」
「「目つきがねー・・・」」
■ ■
※さっきのシーン
「へっくしぃッ!」
「どうした?風邪か?」
「さあ? 風邪は引きにくい筈なんですけどねー」
■ ■
「ねえ、あなたシンのことが好きなの?」
「え?」
「だって、シンの話をしている時、笑っていたわよ?」
「・・・」
「最初の暗い顔が嘘みたいに」
「・・・」
見抜かれていた。
「何かあったのなら、相談にのるけど・・・」
「・・・・実は、さっき初めて戦っているシンさんを見たとき怖かったんです。怒りや憎しみで戦っているようで、終わりの無い復讐を続けているようで、悲しくなるぐらいにいつもと変わってしまっていて・・・。」
「あー・・・“あれ”ね。シンは初めて会った時から、ああだったけれど。ロウもね、気にはしているようなんだけど、何も言わないんだよね」
「見ているとなんだか哀しくなって」
「でもね。確かと言えることがあるよ」
「何です?」
「シンがあなたを大切に思っている、ということ。」
「シンさんが・・・・私を?」
「さっきもね、私に頼みに来た時も一生懸命だったよ。ただ・・・私と代わってくれって志願してきた男の人たちに拳銃を向けるのはどうかと思うけど」
「ここでもやっちゃったんですか!?」
「どこでもやっちゃうの!?」
「よく・・・・」
「最低でも1秒は考えるようにしたほうがいいよ。・・・・0.33秒で拳銃を抜く人なんて初めて見たしね」
『ディエチに他の男が言い寄ってくるたびに抜いている』
『あと0.03秒縮めれば暗黒街の殺し屋として十分やっていける腕だ』
「は・・・はは」
乾いた笑いが、
「・・・すいません」
辛い。
「まあ、とりあえず。先輩から言えることは、相手の気持ちになって考えてみること」
「シンさんの気持ち・・・・。あの・・・・もし分からなかったら?」
「分からない、そんな時は」
「そんな時は?」
「隣にいてあげるだけ。それだけでいいんだよ」
「隣に?」
「自分は独りじゃないって知ると安心できるでしょ?」
説得力があった。
「・・・・」
理解できた。
“世界で独り”ということがどういうことなのか知っていたから。
冷たい雨の中で体温と腕と胸で包んでくれ、赤の他人の自分の悲しみとその涙を背中で受け止めてくれ、孤独と絶望を打ち砕いてくれた紅い瞳を知っていたから。
「人は独りじゃあ生きていけない。だから互いに足りないものを補いながら、必要としながら生きていくんだよ」
自分はこの世にいないほうがいいのではないのか? そんなことを考えていたとき。
お前がいないと楽しくない、と笑って手を差し伸べてくれたロウを思い出しながら樹里は言った。
「あと認めてあげなきゃ。シンが戦って、守られた人がいることをね」
「・・・・私はシンさんに守ってもられてばっかりです。帰りを待つことしかできない」
うつむいて表情が暗くなった。
「でも。誰かが帰りを待ってくれなきゃ。“帰る理由”がなくなっちゃうよ?」
「・・・・ッ!!?」
その一言でディエチは初めて気付いた。
時々感じたあの何ともいえない感じのシンの雰囲気の正体。
ただいま、と言っている時のあの穏やかな表情・・・・シンも孤独だったのだ。
ならさっきの自分のやってしまったことは・・・・。
「どうしたの!?」
「え?」
「なんで泣いているの?」
いつのまにかディエチは自然に静かに泣いていた。涙が粒となってコックピットの中を舞う。
「・・・・私、知ってたんです。“独り”、ということがどういうことなのか・・・・“孤独”っていうことがどんなに、辛くて痛いのか・・・分かっていた筈なのに。それなのに・・・・ッ!!」
シン・アスカを拒絶した。“独り”に、つき落とした。
「んーなんだか、分かんないけど。悪いことをしちゃったと思ったら、謝ってみたら?」
「でも・・・・分からないんです」
涙を拭いながら言う。
「分からない?」
「なんだか・・・シンさんはワザと――」
最終更新:2010年08月08日 17:48