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第3話 運命の出会いと再会と

第1編シン・アスカパート


日中の太陽から照り付ける日差しが、人で賑わう波止場を照らす。
ドルファン王国が招集した大量の傭兵を始めとする様々な人間が入国し、港とその周囲は喧騒に包まれていた。

「まあ、なにはともあれ、ようやくドルファンに着いたんだよな。」

騒ぎ合う人ごみの中を通りながら、黒髪赤眼の男、シン・アスカはため息交じりに呟く。
上着は青を基調とした首周りが緩めの立襟に、下は黒のズボン、というこの国の傭兵としては標準的な制服をその身にまとった男である。
一見すると独り言のようだが、あいにく彼にそのつもりはない。
シンが言葉を向けた先は、その頭のすぐ上を浮遊する羽を生やした妖精モドキだ。
それは言うなればおとぎ話にでてくるような存在。
赤い翼を背中に生やし、少女の形をしながらも身の丈は手のひらに収まる程でしかない『それ』は、
シンの頭の少し上からこちらを見下ろしている。

「ええ。色々ありましたが、ここまでくれば一安心ですね、主様。」

『それ』の口から響いたのは活力に満ちた、それでいて良く通る美しい声。
それでそいつがシンに答えた言葉のうち、『色々』という部分について思いを巡らせてみると、
思わず彼は軽い眩暈を起こしそうになった。

「どうなさったのですか? 主様。」

訝しむように問うてくる妖精モドキ。
それに対して、主と呼ばれた赤眼の男は少し物憂げに答えた。

「これまでの事を思い返してたのさ、よくあんなに無茶をしたもんだって。」

そんなシンの様子を見て、妖精モドキは何やら得心が行ったとでもいうかのように、うんうんと何度も頷く。

「まったくです。私が説明して差し上げたどうやら異世界に転移したらしい、という事実をどうしても信じられず、
船中を右往左往した挙句、文明度や様式の違いから信じざるを得なくなり、
船がドルファン傭兵志願者をたくさん乗せた便だった事から成り行きで傭兵志願者、って事にしたんですよね。」
「仕方ないだろ。あの時はああするしかなかったんだから。」

シンは斜め上を飛ぶ妖精モドキに嘆息しつつ釈明した。
無論、彼にも言い分はある。

「大体な、俺だってそんなすぐに信じられるわけがないだろ?
目を覚ませば知らない場所にいて、いきなり異世界に転移したみたいです、とか見知らぬ女の子に言われて、しかもその女の子は自分の事をMSだなんていうんだから。」
「あの時はショックでした……。主様ったら私が言う事を全く信じてくれないんですから。」

シンの言葉に対し、何やら宙に浮かぶ妖精モドキはプラチナブロンドの髪を振りながら、ヨヨヨ、と嘆くような仕草を見せる。

「当たり前だろ、MSがいきなり人間になったとか言われて、信じられるわけがないさ。
……まあ、目の前で妖精形態に変化されたり、その状態で光の翼を展開されたりしたら、さすがに信じざるをえなかったけどな。」

その時の情景を思い出しつつ、心なし憮然としながらシンは答える。
あれだけの光景を見せられれば、シンとしてもとりあえず人外の存在である事は認めざるを得なかった。
そして彼女が妖精形態に変化したとき、その背中に光の翼があった事も相まって、
全体的な配色がかつていた世界における愛機にどことなく似ている事を感じさせた。
ZGMF-X425デスティニーに。
濃いブルーを基調とする、ゆったりとした女性用の長袖上着に、穏やかな白色の長スカートをまとったその姿は、
等身大になってみると、印象的なプラチナブロンドと金の瞳、涼やかな目元と美貌が相まって、どこか良家のご令嬢かと感じさせる。

「……無論その中身は大きく違うんだけどな。」
「主さま、何か私に失礼な事を考えてません?」

思わず考えの末尾を口に出していたシンに、空中の妖精モドキはジト目で聞いてきた。

「な、何でもないさ。」
「本当ですか~?」
「ああ、本当だよ。とにかく、これからもよろしくな、運命。」

黒髪赤眼の男は元愛機の追求をかわし、その名前を呼んで強引に会話の流れを断ち切った。

よく晴れた日差しの中、シンは片手に地図を広げながら運命と一緒に今いる街、ドルファン王国の首都であるドルファン首都城塞内を歩く。
無骨なハイテク建築資材によって街並みが彩られるプラントと違い、辺りでは所々に煉瓦を使用したレトロな感じの建物が立ち並び、
移動手段としては自動車を始めとするメカニック製品ではなく、大地を蹄で打ち付ける音を響かせながら疾走する馬車の姿があちこちで見受けられた。
まさに異世界、と呼ぶにふさわしい光景である。
地球の歴史もCEから遥かに遡ってみれば同じような風景があったのかもしれないが、そんな事はシンにとってはなんの慰めにもならない。
あるいは歴史学者を志望し、タイムスリップを夢見る人間であったなら、今自分がいるのは狂喜する情景であるのかも知れず、
あまり歴史に関心のないシンとしては、出来ればそういう人間と立場を交換してもらいたい気分だった。

「思えば遠くにきちゃったんだな……。」
「何をたそがれているんですか、主様。」

逃避しかかった心は、上空の妖精モドキからの突っ込みで無情なる現実に引き戻された。

出入国管理局のチェックがあった港を抜け、今シン達が目指しているのは、この国に雇われた傭兵達が住む事になる宿舎である。
なんでも、この国ドルファンは現在隣国の内陸国プロキアと戦争状態にあり、戦力の増強の為に傭兵を世界中から招集したらしい。
戦功目覚ましき者は騎士に叙する、という破格の条件までつけて。
騎士制度にはうるさいとされるドルファン王国をして、このような措置をとらせた背景には、
相手のプロキア側に味方した一つの傭兵騎士団の存在があった。
それこそがこの世界の西洋圏でも最強と誉れ高い、傭兵騎士団ヴァルファヴァラハリアンである。
彼らはプロキアに雇われるや否や、ドルファン王国の国防前線拠点ともいえる、国境都市ダナンを即日で陥落させ、
その精強さを否応なく見せつけた。
震えあがったのはドルファン王国の首脳部である。
本来なら堅城として知られるダナンで敵を防ぐはずであったのに、それを即日で陥落させられた。
その為、国土のもともと広くないドルファンは首都城塞に至るまでの防衛拠点を失い、首都に敵を寄せ付けない為には野戦で迎え撃つしかなくなったのだ。
それは最強と噂高い傭兵騎士団を擁するプロキア軍に対し、真っ向から挑む事を意味していた。
かくしてドルファン王国は戦力の増強の為、なりふり構わず傭兵の招集に乗り出す事になったのである。

「なったのである!」
「いきなりなんだよ、運命。」
「いえ、こういう時は力強く締めるのがいいかと思いまして。」
「なんなんだよ、それ。」

ちなみに、運命は妖精形態になるとシン以外の者には見えなくなるので、
周囲から何もない所に話かける変質者と見られない為にも、会話に関しては周囲に対する細心な注意が必要であったりする。
しかしながら、運命のこの妖精モドキの姿が他の者に見えた場合、それはそれで厄介な事になるのは必然な為、
シンとしては心に折り合いをつけざるをえなかった。
シンは何やら充足した顔の運命を半眼で見やりつつ、とりあえず思う所を口に出した。
溜息の発生と同時に。

「しっかし、こんな世界に来ても戦争はあるんだな。
世の中なんてどこも変わらないのかよ。」
「まあそうおっしゃらずに、主様。
おかげで主様のようにこの世界では縁もゆかりもない人間であっても、
衣食住が保証されるばかりか、出世の可能性まである道があるのですから。」
「そういう問題じゃないだろ、運命。」

シンは腹立たしげに足元にあった小石を蹴飛ばす。
そう、何の事はない。
ほかならぬシン自身もそのドルファン王国の傭兵の一人であり、戦争の当事者になるのだから。

あらためてシンは自身が身にまとうものを見返す。
それはザフトレッドをあらわす赤服ではなく、青を基調とした首周りの緩やかな立襟と黒のズボン。
この国の傭兵となった者が支給される標準的な制服。
乗っていた船がドルファン王国への傭兵応募者達を大量に乗せた船だった事から、成り行きでシンもその中に紛れた。
傭兵になれば衣食住が保証されるという話は、この世界では根無し草にすぎないシンにとって魅力的なものであったし、
そうとでも言わずにいれば下手したら密航者として裁かれる可能性もあった。
だとしても、こんな異世界に来てまでも戦争をする事の不快さを全て飲み干せたわけではない。
異世界に来てしまった事に対する戸惑い、もとの世界には容易に帰れないかもしれないという落胆、
縁もゆかりもない異世界でただ己の生活の為に戦争をしなければならないという状況に対する不満、
それらがシンの中で苦い感情のミックスジュースを構成し、その不快な味わいは容易に飲み干される事なく胸中にわだかまる。
簡単には割りきれそうにない感情の中、シンは思わず言葉で不快さを吐きだしていた。

「こんな世界に来ても戦争か。正直やってられないな。」

そう言いながらシンが街中の十字路を通り抜けようとしたその時だった。

「きゃっ!」

不意にシンの身体に衝撃が走り、女の小さな悲鳴と物音が聞こえる。
思わずその方向を向くと、うずくまる一人の少女の姿が見えた。
年のころなら、シンと同じくらいだろうか。
学生らしき服装の、黒髪を三つ編みにした少女。
その顔はいまだ地に伏せられ、表情を伺うこともできない。

「おい、あんた大丈夫か?」

心配になったシンは思わず手を差し伸べる。
すると、目の前の少女の顔が不意にあげられた。
そしてシンの視界に、人形のような端整な顔立ちに、何かを見通したような静かな赤瞳の眼差しが現れる。
シンと同じ赤の瞳でも、少女のそれはまるで高級な宝石のように沈着な輝きを放ち、
端整な顔立ちとあいまって、どこか大人びた美しさを感じさせた。
その姿にシンは思わずみとれ、少年と少女、二人の赤瞳が一瞬の間、無言のまま重なる。
やがて三つ網の少女は、シンの格好を見て不意に視線をやや細めた。

「あなた……傭兵?」

空気を静かに通り抜けていくような、落ち着いた声で少女はシンに問う。

「あ、ああ。」

意識をあわてて現実に引き戻し、少年はその問いを肯定する。
そうしながらも、シンは内心で自身の胸の鼓動が早くなっている事に戸惑っていた。

408 :みつナイ出番創出委員会:2010/09/15(水) 21:58:16 ID:HWxoSu2A
返答を受け、少女は小さく頷くと再び口を開く。

「私はライズ・ハイマー。できれば、あなたの名前を教えてもらいたいわ。」
「俺は……シン、シン・アスカだ。」

少女の問いに対する答えが、自然にシン自身の口から流れでた。
その時、少女に向けて差し伸べたままになっていたシンの片手の掌に、不意にやや固めの感触が感じられた。
視線を下げた先にあったのは赤い革手袋に包まれたライズの掌、それがシンの差し伸べた手をとっている。
黒髪赤瞳の男は、その手を我知らず自然に握り返していた。

それは永遠ならざる生を歩む二つの存在の邂逅。
異なる世界に生き、異なる道を進んでいた二人の、本来はありえなかったはずの出会い。
それが互いにどのような未来をもたらすのか、小さな二人はいまだ知らぬまま。

「そう、シンっていうの。」

二人の視線を重ねたまま、三つ網の少女が、静かに少年の名前を復唱する。

今ここに二つの運命が交錯した。

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最終更新:2010年10月18日 17:52
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