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たいほうのとどろく頃に-01

たいほうのとどろく頃に


此処は日本と言う今は亡き国の村の一つ。名は雛見沢。別名大砲の村と呼ばれている。
メディカルメカニカ社製のどでかい試作型スチームカノン「ヤシマ」が神社のあった山へと設置されており
毎日決まった時間にそのどでかい大砲を装填しゲリラ根城となる隣の村へと砲撃を続ける。
そのカノンが発射される度に大量の蒸気を山一つ包むほどに吐き出しながら
村民達に不気味な印象を与えている。

と、そんな任務には就いてはいるが、別に今この村がゲリラの脅威に晒されていると言う危険な状態ではない。
村の周りには高い防壁と電流の流れる有刺鉄線で囲まれておりゲリラが侵入することはないし、そもそも
此処には今は少女数名が残るだけの第108警護師団に属する第三連隊第二隊隊第四中隊に所属する3241小隊が駐屯するのみ。
この小隊は名ばかりで要するに疎開された少女達の集まりである。
第二線級部隊であり車両も無く、MSも戦闘で使えそうなのは旧式の型落ち機体、ステルスディン一機だけだ。
一応高性能な機体らしいのだが色々条約の関係もあって今ではステルス機能も外されたただの黒いディンになっている。

今こうやって話している俺の名前はシン・アスカ。
元はプラントの赤服と言うエリートだったが今は亡きデュランダル議長の懐刀と言う事もあって
徐々にポストは本営から離れていき、今ではこんな過疎の村で小隊長ゴッコをしている。
元同僚の整備兵との手紙や電話では女の子に囲まれて幸せそうだと言われているが実際そんな事は無い。
今この村は若い男たちは皆都会地方の復興などに人手を駆られており、若い男手は少ない訳で
何か力仕事がある度に俺は頼まれる。そして、大抵頼むのは女の子であり断る訳にもいかない。
言ってしまえば肉体労働者と大して変わらないほどの重労働の日々を送っている。

「アスカさん。朝ごはんできましたよ」
「ん、今行く」

こんこんっとノックのと共に女性の声が部屋の中へと向けられる。
俺はそのままドアを開けると何時もの様に彼女は爽やかな笑顔で俺を迎えてくれた。
彼女の名前はリョーコ・アサクラ。蒼い髪にちょっと眉毛は太いが穏やかで優しい雰囲気を持つ女性だ。
今俺が住んでいる寮の2DKをルームシェアしている。女性とルームシェアと言うのは一件眉を潜めがちだが
これにはきちんとした理由がある。

「おはよう。毎朝悪いな」
「いえ、この程度は私も生活の内よ。それに今は戦争も終わって食料もちゃんと手に入るから」

彼女の役職は副長。主にサポートラインのリーダーであり、俺の大切な右腕……と言えるほどでかい部隊でも無い訳だが。
俺は一人暮らしなんてした事も無いので家事の面は全て彼女に任せている。
流石に自分の部屋は掃除をするが洗濯や料理は全て彼女の仕事でもある。
彼女は非常に家事でも仕事でも優秀で良いお嫁さんになるタイプであろう。
ただ、唯一にして致命的な欠点は

「今朝のおでんは?」
「はい、名古屋風で味噌煮込み風おでん。夜は宮崎冷汁風で行こうと思ってるんだけど、どう?」
「お、冷汁とは新メニューか。うん、今夜は暑そうだしな。それにしてくれ」

毎食料理が何故かおでんであることだ。そう、それだけならまだ痛い設定で済むのだろうが
彼女の恐ろしいところはあらゆる具在や味付けのレパートリーに奈落の底の様に幅があることだ。
毎食手を変え具を変え、出汁を変え、あらゆるおでんを出してくるので決して飽きることもないし栄養面も気を使っている。
つまり、毎食おでんと言う異常事態ですら日常と変えられる事実。これほど恐ろしいことはあるだろうか?
しかも満足し全くコレに抗議する気力も起きないという事は躾けられてしまっていると言える。
こうやってテーブルを向かいに彼女と朝食を共にするのも今では当たり前であり
逆におでんではない食卓の方が何かあったかと心配になる。

「味噌かぁ。プラントでは発酵食品はあんまし味わえなかったから懐かしいな」
「そうなんですか。良かった…あ、御飯はお代わりありますよ?」
「いや、今日の装填スケジュールは早かったからこの位で。あんまし食べ過ぎると胃がもたれそうだし」
「ふふっ。解りました。では、そろそろ準備を。着替えは何時ものテーブルの上に置いてきますので、着替えてきますね」

そういうと彼女は席を立って服を着替えに自室へと戻っていく。こんな新婚生活の様な日常も今は別の意味で慣れてしまっていた。
着替えを済まして学校兼部隊へと向かう準備をする。

かつての赤い軍服は既に無く、今はラクス・クラインを首長とする政府の方針によりプラント、連合軍共に統一されている。
そして、俺も年齢上は学徒兵扱いになるのでまるで学生服の様な軍服に袖を通していた。
今は学校の校舎が小隊詰め所も兼用されており、雛見沢神社が今は格納庫だ。
最初は村民も色々とオヤシロ様とか言う地元の神様に呪われるとか言われていたがそんなもの軍と政府の方針の前には
一般市民が歯が立たなかった。恐らくラクス・クラインの演説が利いたのだろう。今ではそれに誰も意義を唱える者は居ない。
つくづく恐ろしい人を相手に戦っていたのだと俺は今でも思う。

「……しんで」
「うん。それ、無理♪」
「おはよう。カツラさん」

玄関の扉を開けた途端差し込まれていく黒く重い刃物。大きな鋸上のモノが玄関から出た途端リョーコの首に掛けられるが
まるで寄って来た蝿を払いのけるがごとく、それをナイフで受け止めていく。
金属同士が擦れあう音を朝っぱらから響かせながらも鋸とナイフの応酬は2分程続く。
応酬と言っても大振りな鋸の攻撃、まして当てただけでは切れず引かなければいけない制約の多い武器に対して
ナイフと言う最軽量の小回りの利く武器でリョーコはそれを一切寄せ付けることなくはじき返していく事の繰り返しだった。
そして鋸を振るう女性。コトノハ・カツラは疲れてきたのか肩で息をする。それを見計らってぎゅっと俺は彼女の手を握る。

「また、悪い夢でも見たんだな。落ち着いて、俺はずっと皆を守るから。一緒だから」
「……あ。うっ、ごめんなさい」
「カツラさん。今日は装填スケジュールも早いんですからこんな朝からばてないでね。後、いい加減獲物変えたら?」

コトノハ・カツラは心を病んでいる。何でも過去虐められた経験と大事な人を友達に奪われたとかで
普段は大人しく清楚な女の子であるのだが何かのきっかけで鋸を持ち出して攻撃的になってくる。
俺も最初は物騒だと思ったのでそれを進言し、病院への療養を求めたのだがそんなことはないと上からは突っ撥ねられている。
今ドコも戦争での後遺症で精神科医は足りないらしい。また、部下へのフォローも小隊長の仕事だと言い放たれており
俺はこうやって慰めることを不定期に行っている。コレが彼女の為になっているかは解らない。
ただ、俺は彼女をほうって置く事も出来なかった。かつて悲劇の中、命奪われてしまったステラ・ルーシェの経験からだ。

「獲物を変えたら大変なんじゃないか?」
「いえ、そろそろ慣れて来たので、このままじゃ腕がなまってしまいますから」
「……アスカ君」
「ん。っと学校が始まっちゃうな。じゃ行こうか?カツラさんも疲れてるだろうけど、遅刻はダメだぞ?」
「……うん」

俺は、カツラさんを初めとした「やっかい」な人達の寄せ集めの部隊での指揮を取っている。
リョーコ・アサクラが副官で同居中なのも唯一彼女は常に精神が安定しており白兵技術が最も長けているからである。
無論、アサクラさんにも一部異常と言うか、あのコーディネイターですら勝てないナイフテクニックはドコで仕込まれたとか
なんで毎食おでんなんだとか、色々謎は多いのがそれでも背中を任せられる唯一の女性だからだ。
命と毎食おでんを選べと言われて俺は命を選んで、早三十日。そう、俺の命がけな女難の日々を続けて既に一ヶ月が経っていた。





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最終更新:2008年07月04日 04:12
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