朝の登校。傍目から見たら俺は両手に華で、内心は片手に手錠、片手に盾で学校へと向かう。
カツラさんは俺の手をぎゅっと握っているが隣に何食わぬ顔でクールに決めている
リョーコへとちらちらと殺意の視線を向けている。
もう、何時ものことで慣れてしまった自分に人間の適応力の高さを噛み締める中
今は珍しいガソリンタイプで動く年代モノのバイクの排気音が後ろから響いてい来る。
まるで雷の様に隣をすり抜けた刹那、背中に携えたギターで俺の頭に打撃を当てようとするが
流石にもう慣れ始めた俺はリョーコのサポートも無く回避する事に成功した。
空を切るギターの手応えにチィッと大きな舌打ちをこちらの方まで聞かせなると共に急ブレーキをかける運転手。
ピンクの髪の毛に猫の様なぐるぐると忙しなく動く金色の目。
俺たちの担任教諭兼教官のハルコ・ハルハラは
苦々しく俺の方に視線をぶつけながらも手を上げて何時もの言葉を吐くために待っていた。
「おーーぅっ、シンくん。今日も両手に美人さんを連れてるたぁーやるねぇ」
「ハルハラ先生も毎朝そんな嫌味を。ほんとあんたって人は」
「もう、ハルコって呼んでって言ってるでしょ?ま、別にアタシは良いんだよ。特別だから」
「国家公務員だろうと、生徒を毎朝ギターで殴ろうとするのは止めろよな」
「あらあら、アスカさんも上官に対する口調じゃなくまってますよ?一応担当教官なんですから」
「アサクラっちも一応とか止めてくれなーい?ちゃんと免許取ってるわい!」
「先生、生徒と同じ時間に登校してて…その、そろそろ8時になりますよ?」
お互いギスギスした毒舌の応酬をしている中、カツラさんの間に入れた言葉に急に顔を青ざめた後
ハルハラ先生はじゃあっと片手を挙げてそのまま学校へとバイクを飛ばしていった。
俺は朝ッはらからこんな濃度の濃い人物たちに振り回される事にはいまだ慣れておらず
会話の最中もずっと頭を抱えている。ソレを見かねてのカツラさんのフォローは実に痛み入る。
何時もこの位安定していれば良いのだろうと心底思うが、世の中そうそう上手く行かない事を俺は一ヶ月の経験から感じ取っていた。
教室に入ると俺は女難の第二ラウンドへと突入する。
先手を掛けてきたのは金髪切れ長の目を持つ女子。俺の首周りを掴みかかり
カツラさんから引き離すとそのまま背中に寄りかかる様に顔を抱き寄せて報告書を見せる。
「隊長。おはよう御座います。今日の分の弾薬の種類と方角の指令です」
「う、うん。えーと、ふむ。このルートか。ってことはE02地区への砲撃になる訳だな」
「そうですね。なかなか此処の隔壁が破れないのと、敵側の修理速度も上がってる様です。地下シェルターで何か動いてるらしいと」
「もう少しあのカノンも精度が上がればなぁ。アレじゃルナと大して変わらな――」
「ま、徐々にプログラミングと修繕部品。報告を重ねるしかないでしょうね。っと此処の部分なんですが」
「なぁそれと、クドウ。あの毎回報告が迅速なのは良いんだけどさ。そのそんなに体を寄せると色々と当たるから、そのな……えーと」
「当ててんだよ。気にすんな、サービスだよ。サ・ァ・ビ・ス。えーと、そうですね。それと、整備状況はこの様な感じで現存だと86%のんぐぅっ」
「はい、クドウさん。それは整備班長の私に報告してね」
今こうやって俺に抱き着いている女はモモカ・クドウ。
整備班で一番の腕利きと言う訳でも無く仕事は最低限。むしろ、美貌に気を使っている方のが大きい。
けれど、学校の成績は優秀で才女として名を轟かせている。人当たりも良く、男女共にかなりの人気があるのだが
俺は諸々の事情により苗字を呼び捨てにしている。それが彼女を「友」と言う一線から引いておきたい所以でもある。
頃合を察したのかコトノハさんが再びぶち切れ鋸モードになりそうな所をリョーコは報告書と共に引き剥がしていく。
相変わらずのフォローに頭を下げながらも、本日の砲撃予定地点の指令書に目を通しつつ
もようやく自分の席に着けたのだが、それでも絶えることなく女子より複数の視線がぶッ刺さる。
幾ら男が少ないからと言って何でこうも俺にばかり向けてくるのか?
だが、何時までもそんなへタレた事は言ってられない。それでも俺は学業もそうだが仕事で此処に来ているんだ。
リョーコは隣で報告を聞きながらも何時でも迎撃態勢を整えている中、気を引き締めなおす。
「あー、では今日は一時限目から砲撃任務だ。各自準備が出来次第、雛見沢神社に向かうぞ」
「ハルハラ先生は今日も遅刻でしたから多分校長に絞られているわ。だからって私達まで遅延は許されないからね」
「はぁーい」
俺の言葉とリョーコの発言が教室に響いて数秒クラスの全員がそれにそれぞれの感情を込めた生返事を返していく。
そう、このクラスが一個小隊なのだ。整備班は一部交代制でやってはいるが
基本的にオフェンスラインもサポートラインも皆この学業カリキュラムを中心とした生活スタイルに統一されている。
そもそも、夜襲すら起きる事も無い戦況。俺を含めて、オフェンスラインを行える生徒は数が少ない人員。
殆どが整備兵や事務兵ばかりの小隊なので結局は学業優先、学生のついでに兵士をやっているというスタンスになっている。
そして、俺たちが唯一兵士へと戻る時間『砲撃』は今からほんの数時間の間だけなのだ。
―幕間 ~その頃校長室にて―
「うぃー、いやーー困った困った。校長、まぁーーた外しちまったよ」
「まぁ急く事もないが大分見切られてる様だな?大丈夫かね?ラハルくん」
「うーーん、まぁまた、チャンスはあるでしょ。アサクラッチもその内飽きてくるだろうしガードも緩くなる」
「さぁ、そうなれば良いのだがね。ま、何年でも待つさ。地球が燃え尽きる事に比べればこの程度の退屈な日常など」
―場所は変わって 雛見沢神社―
雛見沢神社。元は日本神道と言うの宗教施設の一つであったのだがそれも今は見る影も無く
格納庫の一部となっている。文化遺産の保護も減った暮れも無い。
どどんっと正面に構えるのは試作型スチームカノン「ヤシマ」。山全体を縛る様に張り巡らされる配線コードに
それらを維持する為の巨大な冷却炉や弾頭入れる倉庫、正確に砲撃運用する為の台座。
ちょっとした要塞の様になっている。少年少女である俺達の中での唯一の非日常がこの大砲をぶっ放す事だ。
僅かに残った賽銭箱と社に俺たちは少しの小銭を投げ入れて、願掛けをした後作業を再開する。
この神社は結構山の中にあるのだが流石にこう毎日駆け上がっていれば、いい加減慣れたモノだった。
リョーコ達、整備班の点検も終わったのか俺にGOサインが出される。
目の前に俺が乗ることを待つ巨人。ステルスディンは起動された紅の瞳をまっすぐ向けながら俺を待っていた。
「って、おい。狙撃手はドコいった?」
「朝は居ましたね。誰か見なかった?」
「えぇ?サボり?いや、そりゃあの人普段からやる気無いけど」
「あ、それじゃあたしが代わりに乗っちゃお――」
この機体は実は改造してあって二人乗れる様になっている。その際実際の狙撃などを行うのを上部座席に座る狙撃手。
下部座席、俺が乗るところは機体全体のバランスやエネルギーなどの割り振りなどの火器管制を行っている。
実際、俺もディスティニーやインパルスに乗っていた頃はランチャーを使ってはいたのだが、この大砲はそんな手軽に扱えるものではない。
この上部座席に乗る狙撃手一人が欠けるだけでこの任務は頓挫してしまう為、場は騒然としていた。
そんな中、予備のパイロットの女の子がそう告げようと俺へと駆け寄ってきた瞬間に銃声が響く。
鳥たちが一斉に飛び立ちながらも、こつっこつっと軍靴の音で石田畳を奏でながらもその長い黒髪を揺らしながらも神社へと現れる。
「――りの獣ど――牧ジョ――の畜生ども 空を駆ける荒鷲どもにいたるまで~♪」
「重役出勤?いや、こーいう場合って上官出勤って奴だっけ?准尉殿?遅刻とは良いご身分で」
「はぁ、またか。いいわけは後で聞く。準備は出来てるからすぐにでも乗り込むぞ」
「最後まで歌わせてくれないなんてケチだわ。それに、小隊長殿も私が朝弱いのは知っている筈ですわ」
「解ってるけど、遅刻は厳禁だ。いい加減、俺をそう子供扱いするなよ。後、他の連中に示しが……ほらな。はぁぁ~」
「朝が弱いのを知っている?それって(ヒソヒソ」
「朝まで一緒にいた?(ヒソヒソ」
予備パイロットの嫌味ったらしい言葉をどこ吹く風として彼女は
挑発的で誤解を招く言葉を放つ。それにより更に別の意味でぴりぴりと現場の空気が緊張に包まれていった。勘弁してくれ。
俺はその現状を察知するのにも慣れたのか大きなため息一つで意識を戻す事が出来るようになった。
何だかかんだと言っても所詮、噂話ってのは一気に広がってあること無い事が膨れ上がっていきそして、消えていく。
閉鎖されている世界とは言え、それでも情報の循環は常に続いており結局数日でまた話題やネタは入れ替わってしまう。
戦時中や戦争が終わった平和の合間だろうが女の子の喋ることと言うのは一定している。
そして、思い返せば一ヶ月前、彼女との出逢いが女と言う存在の恐怖と難解さを教えてくれた第一号であった。
最終更新:2008年07月04日 04:12