1
注意事項
- 原作での出来事が起こらなかったり、順番が違う可能性もあります。
以上の注意点を了承し、許容できるのでしたら未熟ではありますが本作をお楽しみください。
世界には多数えきれない生き物が過ごしています。
ですが、どんなものにも永遠はありません。
万物に寿命があるように、世界にも寿命がありました。
それを知ったどんな生物よりも狡賢い悪魔達は大変困りました。
世界が壊れてしまえば悪魔は勿論、どんな生物も生きていくことはできません。
そこで悪魔達は生み出してしまったのです。
他の生物を生贄にして世界を存続させる狂気の力を……
―――バッドエンド城
「クソッタレェッ!!」
自身でも何てざまだとウルフルンは吐き捨てる。
ピエーロが復活するもプリキュアに敗れ、自信を含む幹部達も敗北。
さらに新たな力『デカッ鼻』を使うも再び敗れるという醜態。
これだけでも腹ただしい事なのに、さらにもう一つ気に入らないことがある
「いったいあのヤロウはどうしたってんだよ!?」
ウルフルンの疑問、それはピエーロを復活させるために最後のバッドエナジーを捧げようとしたときのことだ
「どうです三幹部の皆様?
ピエーロ様復活の最後の糧がプリキュアのバッドエナジーとはなかなかな趣向でしょう?」
三幹部達は自分たちで達成できなかったプリキュアを打倒したことに内心穏やかでなかったが、
確かにこれ以上の趣向はないのは事実なので凶悪な笑みをうかべていた。
「へっ、随分粋な計らいだな」
「プリキュア共の悔しそうな顔が目に浮かぶオニ」
「さあ早くピエーロ様にバッドエナジーを捧げるだわさ!」
「ええ、もちろんですと……」
ガゴンッ!!
「……おやぁ?」
今のはバッドエナジーが捧げられた時に刻まれる時計の音だ。
しかしどういうことか、プリキュア達のバッドエナジーはまだジョーカーの手の中にあるにも関わらず。
三幹部はもちろん、ジョーカーでさえ戸惑わずにいられない事態だ。
(これは一体……?)
その時だ、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきたのは。
全員が凝視する中、闇の中からゆっくりと姿を現したのは緑色の鎧を纏う者だ。
それもただならぬ実力者だ。
鎧の造形もどことなく悪魔を連想させる威圧感を持ち、背部に細長い樽状のポッドを接続されている。
「これはこれは、まさかあなた様が最後のバッドエナジーをご提供して下さったようですね~?」
「万が一の保険だ。
今まで煮え湯を飲ませてきた相手のエナジーを奪うのはリスクが高いからな。」
鎧から発せられる声はくぐもっているが、男の声で若く聞こえる。
しかしあまりにも感情を感じさせない声だ。
会話の内容から二人は知り合いのようだが……。
「まあ、お気持ちはわかりますがねぇ~……」
ジョーカー自身、もしその任務を三幹部が行うと聞けば、同じような行動をしたかもしれない。
しかしそうなるとこのバッドエナジーをどうしたものか、と思考しようとするも、
「使い道がなければそのバッドエナジー、俺が頂いてもいいかな?」
「……ふむ」
正直、バッドエナジーはピエーロ復活のため以外にも『あかんべぇ』を生み出す『鼻』の材料、三幹部・ジョーカーの能力を上げるために
も役立つので正直惜しい。
しかし―――
「わかりました。
貴方なら有効に使っていただけそうですからね」
ピエーロ復活に貢献した以上報酬を払うのも構わない。
これで拒み関係に溝を作るのは正直避けたかった。
それに正直言って『協力者』である『彼』がどのようなことに使うのかも興味があった。
「感謝する」
それだけ言うとバッドエナジーを受け取り、再び闇の奥へと姿を掻き消していった。
「それっきりじゃねえかよあの鎧野郎が出てきたのは!」
「そうオニ!なんにもしないなんてせこ過ぎるオニ!」
「あたしだって発明の傍ら戦うっていうのにだわさ!」
こればかりにはアカオーニ、マジョリーナも同意せざるを得なかった。
ジョーカーからは協力者と聞くが、せいぜい最後のバッドエナジーを献上した程度だ。
仮に何らかの助力をしていたとしても、復活することが可能とはいえ、ピエーロが敗北した時点では意味がない。
いっそのことこれからどこかにいる『協力者』とやらを見つけて、と思った時だ。
「ウルフルンさぁ~ん、お早いお帰りでお疲れ様です」
何処からともなく、ジョーカーがウルフルンの目の前に現れた。
神出鬼没な現れ方には慣れているとはいえ、さすがに心臓に悪い。
「おいジョーカー!テメェあの『協力者』って奴の……!!」
「それなんですが皆様、大変なご朗報がございます!」
大げさに両手を広げ、普段から真意の読めない笑みを浮かべているジョーカーがあからさまに嬉々とした感情が表れている。
「バッド・エンド王国の『協力者』様から、とてつもないほどに素敵でユニークな贈り物がございまぁ~す!!」
狂気を多分に含む声を上げ、手を闇の奥へと向けることで三幹部の視線を促す。
視線の先は以前『協力者』が奥へと消えていった方向だ。
―――カツン、カツン
―――足音だ
『協力者』がこちらに来るのかと思ったが―――
違う!
足音の数が多い。
音からして五人だ。
ゆっくりと闇から出てきた姿を見て三幹部は驚愕し、ジョーカーはさらに顔を愉快とばかりに歪める。
その姿は一見するとよく知る相手だが、大きく姿が違う。
―――天使の羽ではなく、蝙蝠の羽をイメージしたティアラ
―――それぞれの色のアイシャドー
―――扇情的な体のラインを強調する黒タイツのようなコスチュームとキュロット
宿敵のプリキュアを『光』とするならこちらは『闇』。
それほど彼女たちからでる『悪』としてのプレッシャーが滲み出ているのだから。
「ご紹介致します皆様。
バッドエンド王国の『協力者』様がプリキュア達のバッドエナジーから生み出した……」
「バッドエンド・プリキュアです!!」
バッドエンド王国の『協力者』であれば、自室くらいは与えられる。
しかし、この空間は『協力者』以外は全て闇に包まれているため他に何があるのかは定かではない。
得体のしれないの強大な力がある、ということは何となくだが感じ取れる。
もしかしたらこの闇はその力を隠すためのものではないかと錯覚してしまうほどに。
『協力者』が向ける視線の先、暗くてよく見ることは不可能だがそれは五つの宝石と思われる物体が見ることができる。
光が全くないこの空間で輝くことはないのは当然なのだが、それを差し引いても黒く淀んだものだ。
「もうすぐだからな……」
とても価値があるものと思えないが、『協力者』はその宝石をひどく愛おしそうに語りかける。
ジョーカー達との対応と比べるのも愚かに思えるほどに感情を込めた声は、まるで恋する少年のように感じさせる。
(そして、必ず『世界』を―――)
内に秘めた決意、それを成し遂げるまで『協力者』は止まらない。
己の目的を成就する為なら、全てが『混沌』に包まれようとも―――
第一部『スマイルプリキュア』
プロローグ―――『混沌』へ誘う者―――
2
無様に転げまわり、泥にまみれても、光を掴もうとする姿
それを見たらどう思う?
無様と笑うだろうか―――
現実を見れない者と呆れるだろうか―――
醜いと罵るだろうか―――
それとも――――――
「……また、夢か」
何となく見ていた、という感覚だけが残っている。
理不尽な運命から必死にもがく誰かの夢だ。
もしかしたらバッドハッピーのみならず、他の四人も見ているのだろうか。
(いや、それより早く行かないと……)
他の四人より寝坊していたため、早急に日課を熟さなければならない。
悪の構成員と聞けば、大抵は悪巧みをしそれを実行するというのが基本ではないだろうか?
しかし明確な意思を持つ生命ならばそれ以外にやることだってある。
今バッドエンド城から響く戦闘音もそうだ。
相手は全身を黒に染められたマネキンの様なもので、頭部にあるはずの髪や眼といった部品は一切ない人形。
拳に炎を纏い、人形の胴体に叩き込むバッドサニー
人形からの攻撃を防御し、触れた瞬間に電撃を放つバッドピース
人形の右足からの蹴りを、同じく右足の蹴りで相殺し、左足で連続蹴りを放つバッドマーチ
剣を武器にする人形の斬撃を氷剣で防ぎ、打撃による反撃をするバッドビューティ
それをバッドハッピーを除く4人が1対1で戦っているのだ。
「遅いわよバッドハッピー!」
「ごめんごめんバッドビューティ。少し寝坊した」
何故こんなことをしているかというと、単純に彼女達BEプリキュアの実力不足からだ。
「もぉ~!
何でこんなに訓練ばかりやらないといけないの~!?」
バッドピースの文句はわからなくもない。
生み出されてより休息等を除き殆どが修行に使われている。
未だ役に立てていないという焦りからくる不満だ。
「仕方ないだろう。
今の私達では分が悪いのだからな……」
バッドマーチが悔しさを隠さない感情こそがこの場で修行を行う理由だからだ。
BEプリキュアが創造された時に使われたバッドエナジーはプリキュアの物。
プリキュアという特殊な戦士からのエナジー故に、生み出された彼女らはかなりの実力を誇る。
しかしそれは既に『過去』の力だ。
ジョーカーと五人がかりで戦って敗北したにも拘らず、今ではジョーカー及び三幹部を一対一で勝利している。
創造主である『協力者』から『今』のプリキュア達の戦闘記録を見せられ、今のままでは勝敗が見えているのは明らかだった。
だからこそ彼女らは修行という悪者らしからぬ行為をしているのだ。
「いやぁ~!バッチリ日焼けしたオニ!!」
バッドピースもそれはわかっているので渋々ながら立ち上がろうとした時だ。
アカオーニがバッドエンド城に戻ってきた。
どうやら海に遊びに行ったついでにバッドエナジーを回収してきたらしい。
日焼けしてしてきたとのことだが、正直見分けがつかないのでどうでもいい、とバッドサニー・マーチの顔に現れていた。
「鬼さん、何で『ご主人様』の部屋の方から来るの?」
そう、アカオーニは『協力者』、BEピースの言う『ご主人様』の部屋の方向から来たのだ。
「いや~うっかり戻る場所間違っちゃったオニ」
たしかに三幹部は地球へ出現・撤退する時は転移能力を使うのだが、日焼けしたことに浮かれすぎて転移位置が狂ったのだろう。
寝坊した自分が言えたことではないが、幹部としてそれでいいのかBEハッピーが口を開こうとした時だ。
本来の部屋の主である『協力者』が来たのだ。
BEプリキュア達の様子を見に来たのかと思ったのだが、身に纏う気は尋常ではない。
「……こだ」
かろうじて聞こえる程度の声にも関わらず、恐怖に支配される。
込められている感情は怒り。
怒りで我を忘れそうになるのを必死に理性で押さえつけて絞り出した声に実戦経験のないBEプリキュア達は完全に立ち竦んでしまい、声さえあげることもできない。
アカオーニでさえ恐怖の色が浮かんでいる。
そして『協力者』の眼差しの先は―――アカオーニ
「俺の部屋にあった宝石は、どこだッ!!!」
一瞬、まさに刹那の間だった。
第三者の位置で見ていたBEプリキュア達には緑光の軌跡がアカオーニの元へ移動したようにしか見えなかった。
そう認識した瞬間には『協力者』の右拳がアカオーニの腹部に叩き込まれ、反対側の腰部が突き破らん程に盛り上がる。
「ひっ!?」
バッドピースのあげる悲鳴も無理もない。
次の瞬間には自分たちにも、そう思わせるほどにの怒気なのだ。
奇襲だったとはいえ、肉体派であるはずのアカオーニがただ一度の攻撃で体中に脂汗を浮かべる。
地に膝をつく、というところで左手が首を掴む。
「もう一度言う。俺の部屋にあった五つの宝石をどこへやった?」
ジワジワと首を締め付けてくる左手を両手で引き離そうとするもかなわない。
「し、知らないオニ……くしゃみで外……に」
もしこれがウルフルン、マジョリーナの私物であれば怒鳴りこそすれそれで結果的には問題はなかった。
だが、目の前にいる彼は違う。
怒りに身を任せ、頭を砕こうと……
「『協力者』さぁ~ん、朗報がありまぁ~す!」
それを邪魔をしたのは、ジョーカーだ。
「……何の用だ?」
「そんな不機嫌全開な声を上げずに~聞いてくださいよ~」
ふざけている様で、ジョーカー無駄なことはしないことはわかっている。
このタイミングで出てきたということは……
「あなたの大切な宝石がどの辺に落ちたか、目星をつけましたよ~」
ならば用はないとばかりに解放したアカオーニに目もくれずジョーカーに詰め寄ろうとするが……
出来なかった。
自室に一瞬目を向け、すぐに視線を変えた先には……、
「バッドエンドプリキュア、最初の任務を告げる」
『協力者』から言い渡された任務、『いかなることがあっても五つの宝石を持ち帰ること』
(彼にとって、捨てられた宝石はとても重要な物のようですねぇ……)
『協力者』がバッドエンド王国、ジョーカーと出会ったのはまだプリキュアが出現して間もない時だ。
傷だらけの状態でピエーロの間に空間が裂け、現れたのだ。
溢れ出る闘気は衰えを見せず、迂闊に仕掛けようものならこちらの命を落とすとわかるほどの相手なのだ。
そして共に出てきたのは黒い巨大な球体だ。
十メートル以上はあり、全体を細かな赤いラインに覆われ脈動しているのを見ると、心臓を連想させる。
そして黒い球体にはケタ外れの力が内包されている。
それこそ完全復活したピエーロを遥かに凌ぐほどの……
(まあ、こちらに協力していただけるのは嬉しい限りなのですが)
交戦は得策でないと察し目的を聞いてみたのだが、結果的にそれがバッドエンドに大きな変化をもたらした。
彼は莫大なエネルギーを必要としている。
それはマイナスエネルギーであること。
バッドエナジーを強制的に徴収する能力は非常に都合のいい能力であること。
バッドエンド側の技術を得ることを条件に、そちらに協力することが決まった。
(おかげで三幹部などよりも頼れる者を引き込めたのはいいのですが、正直心臓が止まるかと思いましたよ)
勘ではあるが、『協力者』は目的を達成しても牙をむくことはない。
互いに敵対などすればどちらかが消える、最悪共倒れになるのはわかっている。
ならば干渉しすぎない程度の関係で問題はないだろう。
それを許せるほどに、『協力者』の実力もそうだが能力にも興味深い。
バッドエナジーから生み出す生命はよくて『あかんべぇ』程度の知能しか持たない。
しかし『協力者』が生み出したBEプリキュアには『感情・心』がある。
仮にジョーカーが同じように作り出したとしても、精々上辺程度だ。
それでさえ多大な時間と高度な技術が必要であり、
複数の色を混ぜ合わせ、再び各色に戻すほどの手間がかかるのだから、その分強力な『鼻』を作ったほうが利口だ。
(実際、『協力者』さんは完成させたわけですが……)
『感情・心』がある利点は非常に大きい。
それは敵対しているプリキュア達がどんどん強くなっていることが証明している。
最も……
(兵力を作るのではなく、『感情・心』を生み出す実験だったのかもしれませんねぇ……)
都会では感じることのできないほどの澄んだ空気の下で、大人たちが屋店の準備を進めていく。
数日後のお祭りの準備のためだ。
「ありゃ?」
輪投屋のオヤジが自分のスペース付近に目についた物があった。
それは鎖で繋がれた五つの宝石。
「こんなの、景品に入れてたかなぁ?」
不思議に思うも、そのまま景品の箱に入れてしまった。
黒くまったく光らなかったことから玩具の類だろうと判断したからだ。
だがもしも『わかる』者から見れば、それは唾棄する程の愚かな行為。
まるで拘束するかのような装飾をされている卵状の宝石。
それら五つの宝石から発する、深い深い絶望のエネルギーを方内包していると知らず……
3
Bハッピー「ね~シン、一緒にデートしようよ~
世の不幸物を嘲笑いながらさ」
Bサニー「待ちや、それならうちとや。
余分なモン全部燃やしながらっちゅうんはどうや?」
Bピース「はいはい、なら一人で行けば~?
それより~、私と行こうよ~。デートの後の休憩所で……キャッ♥」
Bマーチ「抜け駆けをするな……!
私とシンの邪魔をするなら叩き潰させてもらう……!!」
Bビューティ「その通り、シンと逢引をするのはもっとも美しい者、つまりこの私……」
BM・S・P・M「冗談はクレオパトラみたいな化粧だけにして(せえや・しろ)」
ワーワーキャーキャー
シン「いい加減にしろお前ら!!
喧嘩するなとは言わないけどそんなんじゃあ勝てる戦いにだって……!」ガミガミ
~全員正座させて説教中~
ジョーカー「三幹部は役立たず、頼みのBEプリキュアもあの様。
このままでは私の胃がバッドエンドに……」キリキリ
4
みゆきの祖母の家にいられる日も今日で最後。
ウルフルンが乱入するというアクシデントがあったものの、無事撃退することができた。
最後の締めとしてお祭りに参加しているのだが……
「あの人大丈夫かな?」
それはウルフルンを撃退した後のことだった。
―――数時間前
「にしてもウルフルンの奴、何があったんやろな?」
ウルフルンが現れた時、何故か水浸しになっていたことが切欠だった。
言い分からして何者かによってそうされたらしい。
では誰がやったのか?
それが気になってプリキュア五人が川原に来たのだが……
「それらしい人いないねぇ」
やよいの言うように、数日前に野菜を食べに来たときのままにしか見えない。
諦めて帰ろうとみゆきが考えた時だ
「……あれ?」
祠の近くに誰かいる。
少し距離があるため正確にはわからないが、自分たちより1、2歳ほど年上と思われる少年が仰向けで寝ていた。
ほかの四人も気付いたようで、視線をその少年に向ける。
「へえ、私達以外にもここに来てる人がいたんだ」
田舎だけあって子供の人数が少数になりだしていたため、
この数日彼見かけなかったこともあり、自分たちと同じように旅行に来ていると感じたが、
「……様子が変じゃない?」
最初に異変を感じたのはなおだ。
運動神経が良いように、視力もまた良い。
故に少年の異変に気づいた。
その後みゆきの祖母、タエの家に身元不明の傷だらけの少年が運び込まれたのはすぐだった……
「でも、お医者さんが問題ないって言うから大丈夫だよ。」
やよいの言うように医者が診察した限りでは出血の痕跡があったが、
不思議なことに傷跡などは全く見られなかったそうだ。
ただ気を失っているだけのようなので、タエ自身の申出でそのまま目を覚ますまで保護することになった。
「そうだね。
よ~し、じゃあ最後の旅行の日をいっぱい楽しんじゃおう!」
「……の前に、みんなを探さないとね」
そう、あろうことか他三人のあかね、なお、れいかとはぐれてしまったのだ。
「うん、大阪の時みたいでウルトラはっぷっぷー」
「まったく二人はドジクル~」
「……なんでだろ、何故かこの日だけはキャンディに言われたくない。」
「うん、私もだよみゆきちゃん」
まあ、大阪に比べれば大した広さではない。
楽しみながら三人を探そうとした時だ。
「!?隠れてッ」
みゆきがやよいの手を引き、人ごみの中へ隠れる。
「ど、どうしたのみゆきちゃん?」
「あそこ、射的屋のところ」
みゆきの指差す先、それはコルク銃を構えるマジョリーナの姿だ。
三人ともその姿に驚きはしたものの、これまでの三幹部のことを思えば遊んでいる光景は珍しくない、
と思える自分らが悲しかった。
しかし問題はそこではない。
マジョリーナに話しかけている二人の少女、
プリキュアの姿の自分達キュアハッピー、ピースと瓜二つの存在が驚きを占めていた。
「ね~お婆ちゃん、お願いだからお小遣いちょうだ~い」
「うるさいだわさ!あたしゃ今『納豆餃子キャラメル』を狙ってるんだから邪魔すんじゃないだわさ!」
みゆき達の想像通り遊びに来たマジョリーナだったが、
目当ての納豆餃子キャラメルが当たらずイライラしていたところに
あの気に入らない『協力者』が生み出したバッドピースに小遣いをねだられてくるのだからたまったものではなかった。
「ケチ~」
「バッドピース、もういいから。ごめんねマジョリーナ」
頬を膨らませるバッドピースの手を引き軽く頭を下げるバッドハッピーはマジョリーナから離れていった。
「まったくやかましいったら……ありゃ?」
全弾撃ち尽くしていたため追加の弾を購入しようとしたところ、持っていたはずの財布がないことに気がついた。
「……バッチリ?」
その問いに答えるように右手に持っている『財布』を見せるバッドハッピー。
バッドピースを囮にしてマジョリーナの財布を抜き取ったのだ。
「状況が状況だったからこんなつまんないことしたけど、盗られる方がマヌケってことね」
「ほんとほんと。こんな可愛い私が頼みを断るんだから当然だよね~」
「……それ、自分で言う?」
「どどどどういうこと!?」
「わわわわかんないよ!」
プリキュアの自分達にそっくりの人物に驚きなのに、あろうことかマジョリーナにスリという凶行をしたのだ。
これで慌てるなという方が無理だ。
「もしかして六人目以降のプリキュアクル!?」
「でも、どっちかというと偽物なんじゃないの?」
スーパーヒーローのお約束ともいえる敵が用意した『偽物』
そう考えた方がプリキュアに似ているのもまだ納得がいく。
というより、犯罪を行う者が同じプリキュアの仲間とは思いたくはなかった。
「こうなったら後を追うクル」
「「うん!」」
「せやから、それはうちらのなんや。お願いやから返してーな」
「お嬢ちゃん、嘘はいけないよ」
さっきからずっとこの繰り返しだ。
ジョーカーから教えてもらった地点を捜索したところ、意外に早くも目的の宝石を見つけることができた。
しかし輪投屋の景品として並んでいたのには驚かされたが、無難に宝石を落としてしまったので返してほしいと頼んだのだが……
「お嬢ちゃん達、いくら欲しいからって嘘はいけねぇな」
とまったく信じてもらえなかった。
正直強引に奪うという方法も考えたのだが、生憎この地にはプリキュアがいるため余計な騒動を起こしてこちらに引き寄せるわけにはいかない。
逆に正攻法で商品として受け取ろうにも金がない。
そこでこの場に来た時に偶然見かけたマジョリーナから金を貰う為にバッドハッピー・ピースが行き、
バッドサニー・マーチ・ビューティの三人が商品を取られないように待っていたのだ。
モデルとなったキュアサニーの性格を幾分トレースしているため、待っている間に何度も交渉しているのだが結果は惨敗。
正直このオヤジを焼き尽くしたい程腹が立っているが、自分たちの『主』の為にも何とか我慢をしていた。
(自分の店の景品をまともに把握していないとは、なんと愚かな……)
バッドビューティはその能力に恥じぬ程の冷めた視線で射殺さんばかりに睨んでいたが、
(バッドマーチ……?)
この場でずっと動くことのなかったバッドマーチがオヤジに向かってゆっくりと歩きだした。
バッドサニーとオヤジは未だ話し込んでいるので気付かず、バッドビューティは何をするつもりなのかと思考し、
そのためバッドーマチが行った行為、『オヤジの頭部に蹴りを打ち込む』という行為を止められなかったのを心から後悔した。
そしてその凶行を偶然見かけたあかね、なお、れいかが駆けつけてきたのは最悪としか言いようがなかった。
(恨むで、バッドマーチ……!)
(恨みますよ、バッドマーチ……!)
「あら、気が付いたみたいね」
布団に寝かせていたはずの少年がいつの間にか目覚めていた。
不思議なことに、傷だらけだったはずの体にはそのような痕跡はなく十分な健康状態と見てわかる。
あろうことか、ボロボロだったはずの服も岐津ひとつない状態になっている。
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
男の子が持つには不似合いなピンク色の携帯電話を閉じ、タエに礼を述べる。
だがその表情はひどく落ち込んでいるようだ。
気にしないで、告げると同時に『世界』が変わった。
星の宝石を散らばった夜から、赤い絶望に満たされた世界へと変異した。
そのことに少年は酷く驚くが、もう一つ奇妙な気配を察知した。
自分と戦っていた『敵』と似た気配を。
「なにかとても賑やかになってるみたいだけど、貴方も行くんでしょ?」
普通の人なら絶望に落ちてしまうはずなのに、タエと少年はそんな気配は見られない。
「はい。
どうしても行って確かめないといけませんから。」
少年は行かねばならない。
たとえ『世界』が違っても理不尽に命が奪われようとするなら、
まして自分の『敵』がいるかもしれないならば。
「それとこれ、大事なものでしょう」
タエが渡したのは少年の数少ない持ち物の一つであった宝石を手渡す。
そう、あの『協力者』の所持していた宝石と同じ形状のものだ。
違いは透き通ったクリスタルのように白く輝いている。
「そうそう、一つだけ聞かないといけなかったわ」
「何ですか?」
「私は星空タエ。もし何かあればいつでも訪ねに来てね」
「ありがとうございます。俺は……」
「シン・アスカです」
燃える様な真紅の瞳の少年は異変の地、祭りの場へと駆け出した。
5
「……ついてきてるよ」
言われるまでもない。
バッドピースの言うように自分達の後方から後を追ってきている二人と一匹の気配が感じ取れている。
「まいったなぁ……」
あまり考えたくはないが、待機している三人の方にもプリキュア達と遭遇している可能性もある。
しかも向こうはバッドサニー、ビューティならともかく
良くも悪くも短絡的なバッドマーチがいる以上、何らかの騒ぎを起こす可能性が高い。
一刻も早く合流しなければならないのに、後をつけてくる奴らにはマジョリーナと一緒にいるところを見られた可能性があるため、
プリキュア達の妨害は確実に受けるだろう。
(お願いだから大人しく待って……)
その願いも虚しく豹変する世界。
それはマジョリーナがバッドエンド空間を展開したことを意味する。
「……あのババァ」
「顔怖いよバッドピース」
(本当に、どうしてこんなことに……!)
バッドマーチが輪投げ屋のオヤジを蹴り飛ばす。
これはまだわかる。主の所有物を我が物と勘違いしている輩に対しては正直焼き尽くすか凍らせるかの時間の問題ではあった。
プリキュアであるサニー、マーチ、ビューティがこの場に来たのは最悪の状況とはいえ想定内だからまだいい。
問題は……
「行けぇアカンベェ!何もかもぶち壊すだわさ!!」
これだ。
マジョリーナが生み出したアカンベェがよりにもよってこちらにまで攻撃を仕掛けてきたのだ。
どうやら祭りを楽しむことができず、しかも財布まで失ったらしい。
バッドハッピーが聞けば大笑いするような話だが、こちらにまで攻撃してくるのはたまったものではない。
元々彼女達の主のことを気に入らなかったからこれを機にBEプリキュアも、といったところだろう。
「ちょっとあんたら!色々聞きたいけどバッドエンドの関係者やろ!?
一体どうなっとるんや!?」
「じゃかぁしいッ!アカンベェと戦うんはそっちが本業やろ!?とっとと片付けい!」
足から炎をジェット噴射のように飛行しながら二丁の銃により火炎弾を発射し援護をするバッドサニー。
これは本物の銃ではなく、祭り等で用意されるコルク玉を発射する物だ。
BEプリキュアはオリジナルの属性能力だけでなく、アカンベェの源である『鼻』の能力を応用した『手に取った物を武器として使う能力』を持っている。
現在のアカンベェをのように、『お面・輪投・水風船』で驚異的な肉体と武器として使えるのだから、
彼女らの『主』によって与えられた能力は非常に大きなプラスである。
最も、バッドサニーは射撃は不得手で直撃は期待できないが。
「貴方達が何者かより、今はアカンベェを!」
「言われるまでも……!」
(ないッ!)
生み出した二つの氷槍をアカンベェの両目を狙い射出する。
しかし伊達にバッドエンド王国の主戦力ではい。
両手に装着された巨大な水風船で氷槍を叩き落とす。
(本当に、バッドマーチは余計なことを……!)
五つの宝石が繋がれた鎖をバッドビューティの首元にかけている事が唯一の救いだった。
(本当に、忌々しい……!)
自分達の『主』をあそこまで感情を出すほどの大切な宝石。
それを自分の物と勘違いをしていた下衆に蹴り飛ばしたことには何も後悔はない。
だがそれ以上に気に入らないのは三幹部だ。
バッドマーチの中では強い者が正義という良くも悪くもシンプルなものであり、
『主』に尽くすのも自分たちBEプリキュアの生みの親以上に実力が高いからこそだ。
特にアカオーニに対して見せた力の一端。
あの場でBEプリキュアに生まれたのは間違いなく『主』に対する畏怖だ。
しかし唯一違った感情、『陶酔』していたのはバッドマーチだけだ。
あれこそが自身の直球勝負の具現と言うほどのものだった。
だからこそバッドマーチは『主』の為に戦うことができる。
「私の、『ご主人様』の邪魔をするなぁ!!」
たとえそれが同じバッドエンドの陣営といえど『主』の邪魔をするなら遠慮などしない!
―――すごい状況だ。
プリキュアとBEプリキュアの各三人、本来戦うべき物達が共にアカンベェと戦うなど誰が思うだろうか。
しかし問題はこれからどうするかだ。
この状況に飛び込んでもしも財布のことがばれてしまえば余計に手に負えなくなる可能性が高い。
「あの……」
背後から掛けられた声。
バッドエンド空間を展開されたときに変身したキュアハッピー・ピースだ。
「あは☆、奇襲しないなんてずいぶん余裕なんだね?」
性格故なのだろうが、随分となめられたものだ。
「あの、貴方たちはバッドエンドの……」
「別にどうでもいいでしょそんなこと」
もうわかっているハズだ、と切って捨てるバッドハッピー。
ハッピー達にとっては気になるだろうが知ったことではない。
「二人共!人のものを盗むなんて悪いことなんかしちゃダメくる!」
(鬱陶しいことを言ってくれる……!)
「そうね。ごめんなさい」
「うん!だからその財布を返しに……」
「だからさ」
キュアハッピーの右腕を両手でつかみ……
―――身代わりになってよ!
想いっきり投げ飛ばされた。
「ハッピー!?きゃあっ!!」
驚いた隙を狙ったバッドピースの蹴りが直撃し、ほぼ同じコースでハッピーの元まで飛ばされてしまった。
「ハッピー!、ピー……!」
「ついでに貴方も行きなさい!」
本気ではないが、キャンディをハッピーたちの元へ蹴り飛ばす。
オリジナル
「相手を信用するんなら心が綺麗な人にしなよ、私」
「「いたたた……」」
「くるぅ~……」
戦場のど真ん中に投げ出された形となり、一時場は硬直する。しかし……
「マジョリーナ!
そいつらが財布を盗んだ犯人だよ!」
奪い返したと言わんばかりにマジョリーナの財布を見せるが……
「馬鹿にするんじゃないだわさ!
そいつらに人の物を盗むなんて器用な真似できる筈ないだわさ!」
「……ごもっとも」
正義の戦士のプリキュアが財布を盗むというせこい小悪党な真似などしないだろう。
ましてや全員バカ正直が服を着て歩いているようなものなのだから。
「もうなんでもいいだわさ!アカンベェ!!」
マジョリーナの命令に頷き、胴体の輪投げを射出する。
狙いは無差別。
この攻撃にはさすがに全員驚愕し回避に移るが、
「しまッ……!」
辛うじて避けられたがすぐ横に着弾した衝撃に体制が崩れるバッドビューティ。
その時だ。
鎖が切れ、五つの宝石がバッドビューティから離れ各々が宙に待ったのは。
それを視認したBEプリキュア達は怒りを孕んだ視線をアカンベェに集中させる。
『何てことするのよ!!』(すんのや!!)
BEプリキュア達の掌から発するビームがアカンベェに直撃し数メートル程吹き飛ばした。
それを最後まで見届けることはせず、宝石へと五人が駆ける。
『主』の大切な宝石を地面に落とすわけにはいかない。
)))
オリジナルより低い能力、そう感じさせないほどの加速。
散らばった宝石をBEプリキュア達が辛うじて手にした時だ。
『!?』
突如脳内に映し出された映像、ノイズ塗れの中で視認できたものがたったひとつだけあった。
―――あれは、『ご主人様』……?
鮮明に見ることは不可能だが、緑色の鎧を纏い、背に二つのポッドを装着している姿は確かに彼女たちの『主』の姿をしていた。
だが違和感を感じる。
鎧のデザインがわずかに違うような―――
『―――ッ!?』
刹那の間に脳内に流れた映像に戸惑うも、BEプリキュア達は後方へ下がり合流する。
今の映像は気になるが、それどころではない。
この隙に急いで撤退しなければならない。
「何やってるだわさ!早くまとめてやっつけるだわさ!!」
多少辛そうだが、それでもまだ余力があるアカンベェ。
倒しきれないことに幾分ショックではあるが問題ではない。
宝石を回収した以上即時に撤退をする……その時だ。
―――何かがアカンベェの前に降ってきた!!
あまりの衝撃に土埃がおこり、視界が一時見えなくなる。
視界が晴れた先には―――
縦に真っ二つにされ粒子化していくアカンベェと―――
真紅の鎧を身に纏った大剣を持つ戦士だった―――
「に、似てるだわさ!」
たった今アカンベェを両断した戦士は違いは多くあれど確かに鎧の造形が似ていた。何者かは知らないが、味方ではないのは確かだ。
唯一の戦力が敗れた以上撤退するしか道はない。
BEプリキュアもまた驚きのあまり動くことができなかった。『主』に似ていることもあるが、何故か赤い戦士から目を離すことができなかった。
『赤い戦士』が連結されていた大剣を解除しプリキュアとBEプリキュアを交互に見る。
マジョリーナは撤退し、プリキュアは『赤い戦士』に気を取られている。
オリジナル
(とんだ顔見せになったけど、自己紹介は次回にとっておくよプリキュア)
一体どうなっているのか。
これはプリキュア、みゆき達全員が抱いた疑問だ。
自分達にプリキュアにそっくりな戦士達と出会い、アカンベェを倒した『赤い戦士』。
あの後プリキュアに似た五人はマジョリーナ同様姿を消しており、
『赤い戦士』も大剣を背に取り付け、その場から走り去ってしまった。
そして昼間に保護した少年、『シン・アスカ』も姿を消していた。
わからないことだらけだ。
いや、一つ訂正すべき点がある。
―――バッドエンド王国との戦いはさらなる苛烈になることだ
「よく、無事に戻ってくれた」
そう言い、宝石を受け取るBEプリキュアの主である『協力者』。
鎧に隠されているが、穏やかさを僅かに感じられる。
それほどこの宝石が大事なのかと五人の中に暗い感情が生まれるも、すぐに振り払う。
今回起こったイレギュラーである『赤い戦士』のことを伝えなければならないからだ。
容易くアカンベェを倒した実力はとてつもなく高く、あまりにも危険だ。
「……そうか」
しかし『協力者』はそれほど驚いた様子は見られず、むしろ納得したように感じられる。
『赤い戦士』のことを知っているのだろうか?
「今日は迷惑をかけた。休んでくれ」
宝石の捜索を自分で行えなかったことが『協力者』の心を大きく沈ませていた。
故に休むように言ったのは幾分自分に対してのことでもあった。
―――しかし
「あの、ご主人様の『名前』を教えていただきたいのですが……」
BEプリキュア全員の疑問をリーダーであるバッドハッピーが問うた。
―――完全に失念していた―――
今まで一人でいたが故にそんな基本的なことさえ忘れてしまっていた。
しかしどうしたものか。
今更『かつて』の名前を名乗るつもりもない。
ならば伝えられる名は一つしかない。
「……『カオス』だ」
そう告げる『協力者』、否カオスの心中にあるのは『赤い戦士』のこと。
(たとえ異世界であろうとも、戦えない者を守る為に戦うというのなら……)
(俺を倒してみせろ……!
インパルス、シン・アスカ!)
カオスによって引き起こされる運命にプリキュア達は?
そして赤い鎧を身に纏った戦士は?
まだ運命は見えない……
第一話「衝撃、異世界より来りて」完
―――次回予告―――
カオス「付きうか?お化け退治」
Bマーチ「私達は相手のことを何も知らないんだ。
確実性を求めるなら一旦引いて相手の能力を図るべきだ」
Bハッピー「ねえ、もしかしてお化けが怖い?」
なお「こわいよ、こわいよぉ……」
お化け?「アハハハハハハハハハハッ!」
シン「ここはお前たちが居るべき場所じゃないんだ」
カオス「ただ破壊しか生み出さない奴が、現世に留まるな……!」
第2話「呪いに終止符を」
最終更新:2014年02月02日 13:25