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『sin A_new_life Over_Hundred_108』
ある世界に1人の少年がいた 平和を謳う国に住む少年がいた
少年は戦争に巻き込まれ家族を失った 理念を優先し、民を見捨てた国に家族を殺された
少年は力を求め軍に入った もう二度と、大切なものを失わないように
少年は強大な力を得た 守りたいと思える存在を得た
少年は大切な存在を再び失った 復讐を遂げ戦争を終わらせると決意した
少年は悪夢を見るほどに悔やんだ かつての上司と同僚の妹を、裏切り者として討ったことに
少年は迷い、悩み、苦しんだ 自分の選んだ道は正しいのかと、いつまで戦争が続くのかと
そして、平和を望む少年の最後の戦いが始まった
少年の心は限界だった 取るに足らぬ裏切り者の言葉に揺らいでしまうほどに
再び守ると誓った少女の裏切りにより 幻覚を見てしまうほどに
そして少年は敗北した 自らの意思を、自らの過去を、自らの戦う理由を、全てを否定され敗北した
そして、家族を、大切な少女を奪った敵に、自らの全てを否定した裏切り者に屈した
本来ならば少年はこれからも平和の為にその身を賭して戦うと決意し、戦っていっただろう
だがこの世界はそれを望まなかった 敵の切り札とも言える少年を見せしめとして処刑された 親友の死を知ることすらできずに
――――――そして少年は命すらも奪われた 世界のために戦った少年は世界に裏切られ命を落とした
全てを失い 全てに裏切られ 何も守れず 何も得られず その命を 失った
―――????
「此処にいたのか」
見渡す限り紅に染められた世界。白いフードの男が目の前の赤黒いフードの男に声を掛ける
「あぁ、アンタか」
「どうやら、トロンもフェイカーも『九十九遊馬とアストラル』達に敗北した。ベクターの計画が失敗に終わったようだ」
「そのベクターは何処に行ったんだ?・・・あれだけ大口を叩いた挙句失敗したことを恥じて自決でもしたのか?」
「ベクターは彼らとのデュエルに負けた後、行方を眩ませた。何処にいるかは判っていない」
「まじかよ、何やってんだアイツ・・・!」
どこまでいい加減なんだアイツは!とベクターと呼ばれた者に怒りを向ける
もともと彼はベクターに好意的な感情を向けていないのだろう
「君が彼を嫌っているのは知っているが、今は我らがいがみ合う時ではない。堪えてくれ」
「・・・まぁ、アンタが言うなら・・・」
赤黒い男は皮肉げに目を細め、此処には居ないベクターを非難する
が、
「まったく、君は信用している者と、そうでないものとの対応が違いすぎる。その点に関してはミザエルよりも・・・」
「ちょっ、わかった!わかったって!・・・全く、小言よりもまず要件を言ってくれ、ドルベ」
ドルベと呼ばれた白い男は、あんな短気な銀河眼バカよりひどいとか止めてくれ
とぼやく男を無視し、溜息交じりに会話を再開する。
「わかった・・・。先程言ったようにベクターの計画が失敗に終わり『No.』の回収に失敗した。
これはつい先ほど『我ら』の招集にて説明をしたのだが、君は来なかったからこうして説明に来たということだ」
「まあ、『居なくなったあいつら』を探すのに夢中になってたからな・・・気付かなかった。
残念だが、『この世界』にあいつらの手掛かりは本当にないみたいだな・・・」
「・・・・・・そうか。だが今は一刻を争う。君の心遣いは嬉しいが、今は・・・」
「わかってる。No.だろ?この世界が危険なんだもんな。」
(全く・・・ちょっとは素直になっても良いだろうに)
男は退屈そうに肩を竦めドルベに対する不満を吐いてしまうが
どうやら聞こえていないようで安心し話を戻す
「で、アンタが俺の所に来たってことは、さっそく俺がNo.を回収しに行くのか?」
「いや、君が出るのは後だ。今はギラグが人間界に向かっている」
「ギラグか。あいつ意外といい作戦立てる奴だから意外とイケるか?」
「そういうことだ。今は彼を信じて待とう」
「了解であります」
軽い敬礼とともにドルベの報告とも言える会話は終了し、ほんの少しの静寂が2人を包む
紅い景色をただぼうっと見つめている男にドルベは1つ提案する
「さて・・・、アリト程ではないが体力に自信のある君でも流石に疲れているだろう。
先程も言ったが君が人間界に向かうのはかなり後になる。今はゆっくりと休んでいてくれ、『アコル』」
「わかった。俺も結構疲れてたんだ、ちょっと一休みしてくる。」
サンキュー。と一言告げた直後、アコルと呼ばれた男の背後に穴が開きそこの異空間に吸い込まれていくように消えていく
高次の世界で生きる『彼ら』が持つ特異な力の一つだ
そして1人残されたドルベはポツリと呟く
「全ては『バリアン世界』の為に・・・」
そしてドルベも異空間の中に消えていった。
全てを奪われた少年は 満たされぬ魂を抱き 光届かぬ紅き世界 『バリアン世界』へと再び生を受ける
少年のかつての名は「シン・アスカ」
今生の少年の名は「アコル」
『七皇を支える影の七皇 虚皇 アコル』である
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モビル ソルジャー
第2話『赤き闘士vs紅き戦士 起動!「MS」!!』
―――――『バリアン世界』
「おーーい、アコルー!どーこだー!」
バリアン世界の何処かで何処か間の抜けた呼び声が響く
血のように赤黒いローブに身を包むアコルのそれと違い、炎のような紅いローブに身を包む少年の名は『アリト』
アコルを探して疲れという物を知らないように声を挙げている。その声に呼ばれた本人がアコルがその声に気付かないわけが無く
疲れ気味のアコルがアリトの前に現れる
「何だよアリト、五月蝿いぞ」
「おっ、居た居た!」
「ったく、今疲れてるんだからな。用なら後にしてくれよ・・・」
「デュエルしようぜ!」
「聞けよ」
アコルの言葉など聞いていないかのようにデュエルを申し込むアリト。
このバリアン世界では半ば定番と化している光景だ
アコルとアリト、そしてギラグ。この3人の仲の良さは七皇や『アコルの仲間』全員が知っていることである
直情的な性格であるアコルとアリトは元々気が合うのだろうし、そんな2人をギラグが諌めているうちに仲良くなったのである
暇があればよくデュエルをしているし、デュエルでなくとも世間話などを良く行っていた。
「だってよ、ギラグの奴は人間界に行ってんだぜ?だったらお前とデュエルするしかないだろ」
「今この世界がやばいってのに気楽だなお前・・・」
「まあ慌てたって仕方ぇし、俺はいつも通り本気で楽しくデュエルができればそれでいいんだよ!」
(言い切ったなコイツ・・・)
笑顔で語るアリトに呆れながらも―――
(断れない俺も、とんだお人よしだな・・・)
と、満更もない様子である。そこがアリトの良い部分であると理解しているからだ
最もそんなことを口に出すと何を言われるかわからないので口には出さないが
「まぁいいさ。でも本当に疲れてるんだからな?1回だけだぞ?」
「おいおい、そりゃないぜアコル! 一回と言わずに10回位やろうぜ!」
「ふざけんな!疲れてるって何度言わせんだお前!」
『いいじゃねーか!』『ふざけんな!』 と延々と子供のように言い争っている二人
やがてアリトの方が根負けしたように
「ちぇっ・・・、しょうがねぇなぁ。じゃあ今度はちゃんと付き合えよ?」
「ったく・・・、わかってるよ」
アリトが渋々ながら納得したのを見て内心ほっとしているアコルは左腕から機械でできた翼の様なものを展開しデュエルを開始しようとする
これがアコルのデュエルディスク。今の彼が知る由もないが、かつての彼をよく知る者が見れば間違いなくこう思うだろう
『デスティニーの翼とそっくりだ』と
(まあ、疲れてるとは言え友人とのデュエルだ。気合を入れないわけにはいかない。)
「よし、じゃあ始めるか!」
「おっし!全力で行くぜぇ!」
アリトの方も準備が整っているようだ。燃え上がる炎の様なデュエルディスクを既に展開している
互いの闘志は最大限に高まり、デュエルに対する気合も十分。
いざ、デュエルが始ま――――――――
「「デュエ『ちょーっとまったー!』―――ルゥ?」」
――――――――らなかった
「んぁ?」
「・・・はぁ」
突如割って入ってきた叫び声に2人の戦意が削がれる。
少女の声だ。2人、特にアコルはこの声の主をよく知っている。
アコルはまたか、と愚痴を漏らす
その直後、2人の間にワームホールが開き声の主が姿を―――
「ちょっとアリトー!!アンタうちの人が疲れてるって言ってんでしょ!
うちの人が休ませろって言ってんでしょ!休ませてあげなさいよ!
そんなうらやまけしからん事この私が許すはず無いでしょ!!
ふざけんじゃないわよこの単細胞!この脳筋!!代わりなさいよ!!
もぐわよ!!そのとんがった角全部もぐわよ!!」
―――現すと同時にアリトに対するものすごい罵倒を浴びせる。
彼女の名は『マユ』
アコルと同じ『虚皇』のメンバーである。
そして、かつてのアコル、『シン・アスカの妹』、『マユ・アスカ』がバリアンとして生まれ変わった姿である。
イモウト
「おーい、お前の嫁さんだろ、早く何とかしろよ」
「誰が誰の嫁だ。」
罵倒されている当の本人は慣れているのか全く気にしていないようだ。
それどころか普段通りにアコルと漫才を続けている
それが彼女は気に食わないようでさらに罵倒を浴びせる
「ちょっとこの脳筋!うちの旦那と何仲良くやってんの!?」
「だからお前は妹だろう・・・。」
「あ、待ってね、お兄――旦那様!!今すぐこの脳筋を殲滅するから!」
「お前も話聞けよ!仲間同士で殺り合おうとすんな!!後お前妹!お前の旦那違う!」
「はっはっは!」
「笑うなそこの脳筋!」
仲間に対する殺意、自分に対する異常な好意を隠そうともしない妹とひたすらにボケ続ける友人にツッコみ疲れたアコルは
強引に話を『マユ』に向ける。いつもの事とはいえ友人とのデュエルを邪魔されるのは気分のいいものではない
「―――で?何でお前はまた俺達の邪魔を?」
「だってお兄ちゃん、アリト達とばっかりずるいよ!偶には兄妹仲良く遊ぼうよ!結――」
「言わせねぇよ!?何を言おうとしたお前!人間界に毒されすぎだろ!」
そう、彼女は妹でありながら兄のアコルに恋愛感情を抱いている。
元々異常な程アコルを盲信していた彼女がふと、
人間界の「マンガ」と言う物に興味を抱き、とある本を読んだ結果こうなってしまったのである。
これには友人達は勿論、ドルベすらも説得を諦めている。
「ああもう!今度は一番に遊んでやるから今回は大人しくしてろ!良いな!?」
「ホント!?ヤッター!お兄ちゃん大好き!!愛してる!!!!!!
アリト、もしアンタが勝ったらどうなるか・・・」
「おいおい、無茶いうなって。デュエルは何時だって真剣勝負に決まってんだろ!」
「・・・・。」
「わかったから大人しくしてろって!」
「・・・はーい」
「お兄ちゃん、約束だよー!」 という言葉と共に消えて行くが、どうせまた何処かで見ているんだろうと妹に呆れている
だが何処か優しい表情でいるあたり彼も以前と変わらず相当なシスコンなのである
「はぁ、相変わらずお熱いねぇ」
「五月蝿いぞ。さぁ、さっさと始めるぞ」
「はいはい。素直じゃないねぇ~」
デュエルディスク
そして2人の戦士は再び互いの武器を構える
「んじゃ行くぜ!手加減なんかすんなよアコル!!」
「当たり前だ!そっちこそ負けても文句言うなよ、アリト!!」
「「デュエル!!」」
今度こそ、紅き世界の戦士2人の真剣勝負が始まった
最終更新:2014年02月02日 13:41