八神沢症候群

「シン」

デスティニーのコクピット内でOSの調整をしていたら、突然誰かに呼ばれた。
視線をコクピットの外へ向ければ、そこにはハッチの上に立つ上司……矢神はやての姿が。

「はやて隊長、どうかしたんですか?」

公の場では上司と部下……。それ以上になってはいけない。
それは二人で決めたルールであった。そう、俺とこの上司は恋人同士。
この機体のお陰で、俺達は結ばれた。
……まぁ、最初はかなり散々な事ばかりであったらしいが。
あまりにも泣いて懇願されたため、よほどの緊急事態でもない限り、デスティニーは動かせなくなった。
デスティニーが無ければ自分は何もできない……と、深く落ち込んだ事もあったが、今ではいい思い出になってきている。

「えと……少しええかな?」

少々考え事に集中しすぎたようだ。
目の前の恋人兼上司は、なんだか恥ずかしそうに問いかけてきている。

「はい、何でしょう」
「いやね、大したことじゃないんやけど……」

頬を赤く染めて言いよどんでいる姿に、つい頬が緩みそうになった瞬間、

「昨日、なのはとフェイト、二人と何してたん?」

空気が凍った。目の前の上司、目が笑ってない。

誓って何も。

そう言おうとしたが、口から言葉が出てこない。その瞬間、確信した。

……呑まれてる!

この身の毛がよだつほどの寒気に、俺は心底恐怖している。
口が塞がらない。いや、逆に助かったかもしれない。
閉じていたら、間違いなく歯の根が合わなかったから。

「ねぇ、何してたん?」

もう一度問いかけてくる。見れば、目には怒りの色が。

「べ、別に何も……」

今度は話すことができたが、少し噛んでしまった。
案の定、目には疑いの色が浮かんでいる。

「……ほんまに?」
「ほ、本当です」

そう、これは本当。誓って何もしていない。
自分からは。

抱きしめられて、胸で窒息しそうになりました。
そんな事言ったら、どうなることやらわかったものじゃない。

「……本当、に?」

関西弁じゃなくなってきている。
恐怖に潰されそうになりながら、必死で言葉を紡ぐ。

「本当です」

ふ、と、今までの寒気が嘘のように晴れた。
目の前の上司、照れた笑顔。あぁ、良かった、助かった……

なんて考えは、甘かった。

「 嘘 や っ !!!!!」

もう嫌だ、という思考すらできず、俺は歯をガチガチと鳴らせていた。
目の前の上司、目の光がない。
俺が何をしたんだろうか。
ずっとはやての事を思っていても、何故か他の上司二人が寄ってくる。
自分の意思に関係無く、イチャイチャしようとする。
命の恩人である事を考えると、どうしても何も言えないのだ。
新人達にも、懐かれている、と言うには少々行き過ぎたアプローチを感じている。
しかし、俺は何もしていない。ずっと目の前の上司の事だけを見てきたのだ。

何で俺が、何で俺が、何で俺が何で俺が何で何で……
思考がループし始める。
何も考えられない。歯の根が合わない。頭が痛い。くらくらする。

こんな女難に慣れてなどいないシンは、あっさりと意識を手放してしまった。

「……。」

一方、八神はやては困り果ててしまった。
種を明かせばなんてことは無い、ただのドッキリのつもりだったのだ。
ちょっと猟奇的でイカれた田舎町の物語を偶然読み、ちょこっと真似してみたかっただけなのだ。

「……てへっ☆」

とりあえず可愛く誤魔化してみたらしい。
めでたくなし、めでたくなし。





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最終更新:2008年08月01日 19:47
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