女シンin機動六課

朝。
 いつもより大分速く、シン・アスカは目を覚ました。
 目をがしがしとこすりながら布団から這い出る。
 睡魔を振り払いつつ、タオルと歯ブラシを引っつかんで洗面所へ。
 顔を洗い、歯を磨く。
 いつもより速く起きたせいか、大抵一緒になるエリオとも出会わないまま、シンは自室へと戻ってきた。
「……なんか眠気が抜けないなぁ」
 頭と身体(何故か胸の辺り)に重さを感じながらシンは呟いた。
 このまま調子が悪かったら後でシャマル先生に診てもらおうと思いながら、シンは着替えるために寝巻きの上着を脱ぎ捨てる。
 そして、自分の変化に気が付いた。

「うわああああああぁぁぁぁ――――――――――ッ!?」
 余談だが、この時のシンの悲鳴は六課中に響き渡ったという。

「どうしたんですかシンさ――ごめんさい間違えましたぁっ!!」
 建物を震わせる大絶叫を聞いたエリオが何事かとシンの部屋に飛び込み、
飛び込んだ時の倍の速度で部屋から飛び出して行った。
 一方シンは己の変化を未だ受け入れられずに呆然としていた。
 改めて鏡を見る。
 何故か髪は腰に届く程長くなっていて。 そして胸には。胸には、二つのふくらみが。

「な、何なんだよこれえええぇぇ――――っ!!!!」

 エリオが飛び出して行った理由。
 それは、部屋の中に上半身裸の”女性”が居たからである。


「エリオ君おは……よう……?」
「おっはよー、エリオ……?」
「おはよ……ええ?」
 集合場所に現れたエリオに対してキャロとスバルとティアナが挨拶を返す。
 全員最後が疑問形になっているのは、エリオの後ろに見慣れぬ女の子が立っているからである。
 六課の制服のズボンに上はTシャツ一枚。上着は肩にかけている。
艶やかな黒髪が腰辺りまで伸び、整った顔立ちと抜群のスタイルを持つ美少女がそこに居た。
 しかしながら、青汁を数十杯一気飲みしたかのような表情がその美貌をぶち壊しにしていたが。
「ねえエリオ。皆を代表して聞くんだけど、その娘誰?」
 エリオは一度横の女の子を見て、もう一度ティアナを見てからその質問に答えた。

「…………シンさんです」

「……はぁっ!?」
「うっそー、シン可愛いー!!」
 驚愕するティアナに対し、一瞬で順応したスバルはシンに抱きつこうと突進していた。
「だああぁ! 寄るなスバルっ!!」
「いいじゃん今は女同士なんだしさ――!!」
「ていうか手をわきわきさせるなぁ――!!」
 性別が変ってもシンの運動能力は健在のようで、スバルの突進はあっさりかわされる。
「あれがシン? 冗談よね。うんきっと冗談よ。もしくは夢、夢に違いないわ。男のシンが私より可愛いなんてそんなのありえないものね……」
「ティアナさん! き、気を確かにっ! とりあえずクロスミラージュを仕舞ってください!!」
 騒がしく飛び回る二人の横で、錯乱を始めるティアナをキャロが必死に止めていた。

 数分後。
「……厄日だ」
 蜂蜜入りの青汁を数十杯一気飲みしたかのような表情でシンは呟いた。
 はしゃぐスバルとヤバイ目をしたティアナを何とか捌ききり、今は医務室にてシャマル先生の診察結果待ちである。

「お手上げね。治し方が全くわからないわ」
「え゛?」

「な、なんかヘンな薬品とかロストロギアとか! そんなんじゃないんですか!?」
「薬物反応は一切無いわ。そんな効果を持つロストロギアなんて聞いた事ないし、そもそもシンはロストロギアに関わったことないでしょ?」
「じゃあ、俺は、もしかして、一生、このまま……?」
「今のところはそうなるかしら。大丈夫、女の子ってのも楽しいものよ♪」
「――――――」バタリ
「あら気絶しちゃった」

※シンの性別反転が六課全域に知れ渡るまでの所要時間→三十分

 受け入れがたい現実に敗北し、シンが意識を手放してからきっかり一時間後。  シンは今部隊長室に居た。
 些細な用事で来た筈なのだが……部屋には非常に重苦しい空気が充満している。
 もはや息苦しさを覚える程のプレッシャーを放つのは三人の娘達。
 彼女達の名前は八神はやて、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン。 六課の隊長三人であった。

「……黒のゴスロリ」

 沈黙を打ち破るかのごとく、フェイトが口を開いた。 口にした単語は非常にアレなのに表情が至極マジである。
「黒髪長髪に赤目……この要素に最も合うのはこれしかないと思うんだ……!」
 この隊長ナニ口走ってんだろうとシンは思ったが、言葉には出さなかった。
「フェイトちゃんの気持ちはわかる。でも、私は譲る気ないよ……今のシンにはピンクのフリルだって!!」
 フェイトの隣に座ったなのはが口を開いた。無駄に熱の篭った口調である。
 視線でぶつかり合うなのはとフェイト。  そして、二人の中央にて未だ沈黙を守るはやて。
(何でこんな事に……)
 事の発端はシンがはやてに言った、

『今後どういう服装で過ごせばいいのか』

 という質問である。
 男性用の制服でいいのか、女性用を着なければならないのかという簡単な質問だった。
 だというのに、それはいつの間にか『今のシンに一番似合う服は何か』という論議にシフトしていた。
 ……ホントに何故だ。

「まあ落ち着きや、二人とも……」

 ここにきてはやてが口を開く。
 今のなのはとフェイトを炎に例えるならば、落ち着き払ったはやては正に氷そのものである。
 その異常な落ち着き振りに対し、二人からはやてへ怪訝そうな視線が向けられる。
「二人の意見はどっちも正しい……それは仕方の無い事や。人の数だけ好みはある……でもだからこそ、このままじゃ一生結論が出えへん」
 はやてが目をつむったまま言葉を続ける。
「というか私思うんよ。前提が間違ってるんやないか、って」
 相変らず落ち着き払ったはやての姿に、シンは少し希望を持った。
 もしかしたらはやてはこの論議を正しい道に戻してくれるのでは無いか、と。

「ちなみに私はセーラーを押すで」
 とりあえずこれは聞かなかった事にしたが。
「それはさておき……そもそも、や。何でシンに着せる服を一着に絞る必要があるんや?
 逆に考えるんや。満足するまで色んな服を着せればいい、と」
 ――あれ、何だか嫌な予感がするぞとシンは背筋が冷えるのを感じた。
 というか何故そこで残りの隊長二人はハッとしたような顔になるのだろう。
「さて……ここにシャマルから預ったシンの診断書がある。その最後の一文にこうある」
『何故か今のシンにはリンカーコアがあるみたい。今なら魔法使えるんじゃないかしら』
「魔法が使える→デバイスが使える→バリアジャケットが出せる→ジャケットは任意に変更できる……つまり!」

「自 在 に き せ か え で き る ん や――!!」

 やーやーやー。
 ばーんと机を叩いて一連の流れを高らかに宣言するはやて。 瞬間、シンは次の行動を決めた。
 ――逃げよう。
 直感ともいえる危機察知能力で、シンは逃亡を決意。 脚のバネを精一杯引き絞り、ドア目掛けて一直線に駆け出した。
 スバル&ティアナ戦にて運動能力が落ちていない事は実証されている。 隊長相手でもフイをうてば逃げる事くらいはできる筈……!
 だがしかし。
「うわぁっ!?」
 走り出そうとした瞬間、何かに足を取られて前に大きくつんのめる。
 何事かと足を見ると、シンのやや細くなった足首を桜色の環がガッチリと捕まえていた。
「せ、設置型バインド!?」

「――どこに行く気だったのかな?」

 それはとても甘い声だった。だというのに、何故こんなにも恐怖を感じるのだろう。
 ギギギと後ろを振り向くシン。 そこには、蕩けるような笑顔の隊長三人娘が居た。
「駄目じゃない、逃げちゃ……」
「こわくなーい、こわくなーい……」
「恥ずかしいのは最初だけやー……」

「そ、そんなに着せ替えがしたいのかっ! アンタ達はああああぁぁぁ――!?」

 シンの最後の抵抗に等しい慟哭は、誰にも届かなかったという。

フリード「クキュー!(続く!)」

昼時。
 多くの人で六課の食堂は賑わっている。 一心不乱に食事を貪る者、仲間と楽しく談笑するもの、
 そこには多種多様な人達が居る。 共通しているのは只一つ、みんな”楽しそう”であるという事だ。
 その中に周囲とは正反対のオーラを発する少女が一人。
 名前をシン・アスカという。
「…………………………はあぁぁぁぁ」
 腰まで届く黒髪は両サイドで結ばれてツインテールに。 服装は所々にフリルをあしらった紺のワンピース。
 相当酷く恥ずかしく屈辱的な格好である。
 だが先程までの苦行に比べるとまだマシと思える辺り……シンの感覚も既にマヒを始めているのかもしれない。
 というかここ仮にも軍隊だろう。制服じゃなくていいのか。

 ちなみに最初に着ていたTシャツとズボンは”剥ぎ取られ”た。 以降、行方が知れない。

「しっかしまあ……」
「似合ってるねー」
 対面に座るティアナとスバルがシンを見て言った。
 少し前。
 シンは昼食という大義名分を振りかざし、最凶三人娘の魔の手から脱出した。 そして逃げるように転がり込んだ食堂でフォワードメンバーと
 バッタリ遭遇。 一緒に昼食をとる事になったのである。
 スバルには抱きつかれて撫で回され。 ティアナには哀れむような視線で見られ。
 エリオとキャロからは『すごく似合ってます!』と間違ったフォローをもらった。
 散々だった。
「ねーねー、シン」
「……何だよ」
 身を乗り出してくるスバルにシンはなげやりに答える。
「他にどんな服着せられたの?」

「それはやなー」

 シンが答えるよりも速く、スバルの問いに答えが割り込んできた。
 質問に答えたのはシンでなくはやて。食事の乗ったトレーを置いてシンの隣に座る。
「……居たんですか部隊長」
「今来たとこや。なのは隊長とフェイト隊長も来るで」
 言葉の通り、なのはとフェイトも直ぐにやって来た。
 なのははティアナの隣に、フェイトはキャロの隣にそれぞれ座る。 三人揃ったせいで先程までの苦行を思い出し、シンは少し青くなった。

「さっきのスバルの質問に答えると……こんな感じや」
 はやてがそう言った瞬間、周囲に小さなウインドが大量に出現した。
 ポストカードサイズのそれ。
 その総てが先程まで行われていた着せ替えフェスティバルのものである。
「ぶっ!? な、何なんだよこれはっ!?」
「当然、全部デバイスに記録してあるでー。ほいほいほい」
「アンタって人はあぁぁぁぁ!!!」
 シンの咆哮など意に介さず、はやては更に画像データを展開する。 端的に現すとゴスロリとフリルと制服のオンパレード。
「わー、この服可愛いー!」
「せやろせやろ。私の一押しや」
「これなんかティアナも似合いそうだよね。今度着てみる?」
「な、なのはさんっ! 冗談止めて下さいよっ」
「二人はこれどう思う?」
「うわぁ可愛い服ですね――エリオ君にも似合いそう」
「キャロ!?」
 というか隊長陣もフォワード陣もそれを肴に談笑し始めるのはどうなのだろう。
 シンはというともう吼える気力も阻止する気力も無くし、机にぐんにょりと突っ伏していた。
 ……何か外野もチラチラこちら(表示されている画像)を見ている気がする。
 まあ気のせいだろう、きっと。 うん気のせいだ。
「ふふふ。場が盛り上がってきた所でリーサルウェポンの登場や」
 ――まさか
 背筋を冷たいものが流れる。シンには一つ、最悪の心当たりがあった。
 談笑していたフォワード陣も自信満々なはやての様子に興味を持って注目する。
 隊長二人は予想が付いているらしく『あー、あれかあ』という顔だった。
 痛烈なまでの嫌な予感。シンははやてを止めようと試みるが、
「ちょ、待っ――」
 結果的に間に合わなかった。
「ほんならいくで……ほい」

 一瞬、場の空気が凍りついた。

 画像に映っているのは無論シンである。
 髪型は今と同じツインテールだが、まず服装が壮絶だった。
 水着の様な服に、赤のベルトで留められたピンクのミニスカとニーソックス。そして身体を覆う黒のマント。

 つまり、フェイトの昔のバリアジャケット。

 またそれらの服はサイズが小さく非常にキツキツで、アングルは上から。
 よって顔を真っ赤に染めた露出過多の美少女が涙目の上目遣い、
 小さめのマントで身体を必死に覆い隠そうとしているという非常に妖しい事になっていた。

「うぅわあああああああああああああぁぁぁぁぁ――――ッ!!!!!」

 予感的中。最大のトラウマが発動して頭を抱えて絶叫するシン。
 朝から叫びっぱなしなシンだが、この時の絶叫は今日最高の絶叫だった。

 ちなみにフォワード陣のリアクションは
「あはは、シン顔すごい真っ赤――!!」
「こ、これは……」
「えい」
「――ッ!!!!!」
 上から順に
 無邪気に楽しそうなスバル。
 何故か頬を染めて食い入るように見入るティアナ。 エリオの目に可愛らしい指を深々と突き立てるキャロ。
 断末魔の絶叫と共に目を押さえて悶絶するエリオ。 といった感じである。
「いやー、これの破壊力は今見ても恐ろしいなぁ」
「はやてなんか鼻血出してたもんね」
「や、八神部隊長……この画像後でクロスミラージュに送っといてもらえますか」
「あれ? 何でティア顔赤いの?」
「昔はフェイトちゃんもあれ着てたんだよ、キャロ」
「そうなんですか。昔のフェイトさん……ちょっと見てみたいなあ」
「目が! 目がぁ――!!」
 転がっているエリオを除いて、より一層話に花を咲かせる女性陣。
 だが、その楽しげなオーラを侵食するように周囲に黒いオーラが満ち始める。
「ふ、ふふふふ。はははは……」
 オーラの発信源たるシンが、乾いた笑い声と共にゆっくりと顔を上げる。
 その変化に真っ先に気が付いたのは、対面に座るスバルとティアナの二人だった。
「シンの目から……」「光が消えてる……!?」
 乾いた笑いが止み、シンがゆらりと立ち上がる。
 シンは視線を何処にも向けず、ふらふらと歩き出し――

「薙ぎ払ってやる! すべてええぇぇぇぇ――!!!!」

 高らかに絶叫し、ずだだだ――っと弾丸の如く走り去った。
 残された面子はその姿をしばらく見守っていたが、ふいにフェイトが何かに気が付いた
「あっちは格納庫……? そうか! デスティニーを持ち出す気なんだ!!」
 その場の全員に戦慄が走る。 デスティニーの兵器としての戦闘力は既に周知の事実。
 更に今のシンは精神が相当イっている節があるため、何をやってもおかしくない。
 隊長達の判断は迅速だった。視線を一度だけ合わせた三人はそれぞれ行動を開始する。
「フォワード陣ついてきて! シンがデスティニーに乗る前に勝負をつけるよ!!」
『了解!!』
 目潰しから復帰したエリオも含め、フォワード陣がなのはに勢いよく返事を返す。
 はやては司令室へ、なのはとフェイトとフォワード陣はシンを追って駆け出していった。

「……平和ねぇ」
 少し離れたテーブルで、騒がしい一団を眺めながらシャマルが呟いていた。

 結局、デスティニーへの搭乗は阻止できたものの。 シンを無力化するのにそれから一時間を必要としたという。

インゼクト「……」(無数に集まってつづくの文字を作っている)





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最終更新:2008年08月08日 02:15
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