レジェンドさんの場合
「フフッ。どうしたのだ?」
可愛らしい声に似合わない、単純明快な男のような口調。 からかうような響きを含んだ声にシンは思考を回復させた。
目の前にいるのは緩いウェーブの掛かった金髪が腰あたりまで伸びた細身の美少女。
白のワンピースに白いカーディガンを羽織り、ティーカップに優雅に口をつける姿はどこぞの良家の令嬢にしか見えない。
ここはプラントにあるギルバート・デュランダル邸。
友人であるレイ・ザ・バレルが養父であるデュランダルと二日ほど家を空けるという事で、 一人残されるレジェンドの面倒を見る事を頼まれ
ているのだ。
初めは、一緒についてきたデスティニーを含めた三人でレジェンドの入れた紅茶とクッキーを食べながら
談笑していたのだが、クッキーを限界まで食べたデスティニーは満腹感から来る眠気に勝てず脱落。
ソファーの上に横たわって寝ているデスティニーを放置して話を続けていた。
次第に会話も途切れまったりとした空気のなか、シンは何となくレジェンドを眺めていた。
そして、気が緩んでいるとき特有の取り留めのない思考が浮かんでは消える状態になっていたシンを
呼び戻したのが冒頭の言葉だった。
「え、あ、いや、ちょっと考え事」
「気になるな。教えてくれないか?」
好奇心を込めた灰色の瞳でシンを射抜く。
大したことじゃないんだけどな、と前置きをして切り出す。
「レジェンドとレイって本物の兄妹みたいだな、とか。良く似てるな、とか」
「そうか?私から見ればシンとデスティニーも良く似ているぞ?」
どこがだ?という表情でついデスティニーを見てしまう。
よほど楽しい夢でも見ているのだろうか。しまりの無い笑みを浮かべ、涎まで垂らしている。
「ますた~、エネルギー切れです~、でゅーとりおんび~むおかわり~」
間の抜けた寝言に力が抜けていく。
「俺はこんなに食い意地はっていないし、のんびりしてないぞ」
「そういう表面的な部分の事じゃない。もっと根源的な、本質としての事さ」
「…よくわからない」
レジェンドのどこか勿体ぶった様な言い様にシンは戸惑う。
だが、レジェンドは楽しそうに身を乗り出しシンに近づきながら言う。
「純粋で一途なところや本当は素直なところ、それに――」
接触寸前まで顔を近づけ、いままでに見せていたニヒルな笑みでは無く柔らかな少女の微笑みで囁いた。
「優しいところ…かな?」
そこまで言ったレジェンドが満足そうに顔を離すと、シンは顔を赤くしたまま固まっていた。
やりすぎたか?なんて考えているとシンが急に立ち上がった。
「ちょ、ちょっと顔洗ってくる」
慌てた様子で部屋を飛び出して行ったシンの様子についつい笑みが零れる。
そして、ソファーで寝ているデスティニーに苦笑しながら語りかける。返事は期待していない。
自分に言い聞かせるようなものだ。
「今日はこれくらいにするよ。戦友の君とはフェアに勝負したいからね。ただ、あまり気を抜いていると
愛しのマスターが誰かに取られてしまうかもしれない。用心するんだね」
そう言って椅子に座り直し、思考を切り替える。大切な友人たちと残りの時間をどう楽しく過ごすか。
彼女は頭の中からそれ以外の考えを弾き出し、シンが戻ってくるのを待っていた。
最終更新:2008年07月15日 17:30