第一話 キオクノカケラ
ベッドに寝転がると疲れが体中から溢れ出て来る。まるで体が鉛の塊の様だ。
疲れが取れないのは、眠るのが怖いからだ。 目を閉じれば懐かしい思い出が蘇って来る。
平和だったあの時。幸せだったあの時。 手を伸ばせば届きそうだけど、伸ばせば一瞬で崩れ去ってしまう。
目に染みる程青い空。眩しいばかりの太陽。 世界が反転して、現れるのは崩壊の記憶。
空は黒煙に埋め尽くされ、天を炎が焼き焦がす。 焦熱の果てに見えるのは、小さな小さな手。
それは俺を誘う様に手招きをしている。 全てを失った日の記憶。
幸せだった日々の崩壊と運命を破壊された粉々に打ち砕かれたつぎはぎだらけの記憶。
何一つ助ける事の出来なかった悔恨の記憶。 約束を守る事の出来なかった慚愧の記憶。
全ての記憶が俺を苛み、絶望へと突き落とす。 瞳を閉じるのが怖い。記憶が蘇る事が怖い。
肉体が安らぎを求めても精神が拒否をする。 だから、眠る事が出来ない。
――ちゃん、お兄ちゃん――
マユの声が聞こえてくる。
俺を恨んでいるのだろうか。俺に助けを求めているのだろうか。
携帯の中のマユは微笑むばかりで何一つ答えてくれない。
我等が主人公シン・アスカが思い悩んでいる時、我等がヒロインルナマリアはマイクを片手にブツブツと何やら呟いていた。
音声の先は内緒でシンの部屋に取り付けたスピーカーだ。
「……ルナマリアさんと生きる事がお兄ちゃんの幸せ。それは絶対無敵の正義なの。だから、お兄ちゃんはルナマリアさんと幸せになって
ね……」
ふとした事で、ルナマリアは自分の声が、シンの妹のマユの声と瓜二つだと知った。
そこはやっぱり思春期の女子。行動力なら誰にも負けない。
シンが私を好きになる様に睡眠学習させてしまえば良いと励んでいるのだ。
シンの苦悩をつゆ知らず、お気楽極楽少女は進む。
命短し恋せよ乙女。
ちなみに我等が主人公シン・アスカが幾ら苦悩しても、そこはやっぱり思春期の男子。
眠くなったらバタンキュー。
本日の女難:寝不足。
第二話 平和な日常
我等が主人公シン・アスカは焦躁としていた。
クラスメートの女の子と話していても、ヨウランやヴィーノの一緒にちょっぴりHなグラビアを見ていてもルナマリアが何も言って来ないからだ。
昨日は卍固め、一昨日は見事な迄に美しい人間橋を描く飛龍原爆固めと散々な目にあったのに、今日はどうした事か何もない。
ルナマリアが今日のシンの行動を知らない筈はない。
彼女は常にシンの視界の中にいた。間違なく知っている筈だ。
悩んでみても仕方無いと思ってみても、そこはやっぱり思春期の男子。気になってしまうお年頃。
ルナマリアの行動を反芻してみる。
卍固めは痛かった。
しかし首筋に感じた彼女の太股は、柔らかくて温かくて良い匂いがして気持ち良かった。
飛龍原爆固めは通りかがったレイが万年筆を口に突っ込んでくれなければ、舌が丸まり喉に詰まって死ぬ所だった。
しかし、彼女の胸の膨らみは弾力があり、ツンと尖った二つの果実の感触にドキドキした。
今日は一体なんだろう。ルナマリアに選ばれし者の不安と恍惚、我にあり。
しかし待てど暮せど何もない。待たされる時間は一瞬だけど永遠の苦行。
真綿に首が締められる様な恐怖がシンを苦しめる。
頑張れ少年、ハードな青春。ルナマリアは隠れて見守っている。
そんな訳で我等がヒロインルナマリア・ホークは影に隠れてシンを見守っている。
一昨日昨日とやり過ぎたから、今日はおとなしくしていようと思っていたら、シンは何故か悩んでいる。
きっと私の事を考えているのね。もう少ししたら弓を引く様に打つ魔性の鉄拳ナックルアローで愛していると告白しようと考えながら青春の握り拳。
お気楽極楽暴走乙女はいつでもどこでもレッドゾーン。 明るい未来がまっているかも。
本日の女難:女難中毒の禁断症状
最終更新:2008年07月11日 17:01