数時間後。
現場から戻ってきたフォワード+隊長達。
どうにか大型ガジェットを倒すことが出来たが、正直シンの助力がない分はすこしきつかったようだ。
「あ、おかえりなさいませ、皆様」
廊下を歩く皆の前に現れたのは昼間の少女、ミコトであった。
「あ、ミコトさん」
「ただいま」
各々が返事をする中、ティアナが重い口を開く。
「……あの、シンは?」
その言葉に反応する全員。
デスティニーが動かない。とロングアーチから報告があった時は何があったのかと思ったが、シン自身は何も問題ないとの事だったが、やはり気になっていた。
「…………それが」
格納庫。
シンは無我夢中でデスティニーの調整をしていた。 だが、配線やOSのチェックをしてみても何も問題はなかった。
ただ一つあるとすれば、メインの部分。
最初はボタンスイッチの部分が壊れていると思ったが、何度チェックしてみてもおかしいところがない。
「くそっ……」
今日だけで何度この台詞を吐いたことか。 隅々までチェックした結果が、『問題ない』なのだから。
だが、それはあくまでも構造上の問題であって、使用するには『問題あり』なのだが。
それでもシンは納得できなかった。 そしてまた作業を開始しようとしたその時、
ピタッ。
「うわああああああっ!!!!」
「きゃあっ!!!」
シンは突如首の後ろに感じた冷たい感触に悲鳴をあげる。 そしてその声に驚き、驚愕の声がもう一つ。
声のした方向に振り返るとそこには、
「……ティア?」
ティアナ・ランスターがそこにいた。
「び、びっくりした~! 脅かさないでよ!!」
「って、それはこっちの台詞だ!!」
いきなり首筋に冷たい感触を感じたら誰だって驚くっての。
「何よ、せっかく人が夜食持ってきてあげたってのに」
「え? 夜食?」
あれからまだ数時間程しか経過してないと思っていたシンは時計を確認する。
「え!? もう10時!?」
すでに時刻は22時12分。とっくの昔に定時は過ぎている。
「そうよ、あんた昼過ぎからずっとここにいるのよ」
「……」
確かに俺は昼過ぎの出撃の時からずっとここにいたけど、まさかもうこんなに時間が過ぎているとは思いも寄らなかった。
「はい、これ」
「これ……」
そういってティアナが差し出したのは一缶のコーヒーと三つのおにぎり。
「どうせまた何も食べてないんでしょ、ほら」
それをみてぐ~とお腹の虫が鳴き始める。
「……サンキュ」
素直に受け取り、礼を言うシン。今は、お腹の虫を黙らせる事にした。
「ふぅ……ごちそうさん。アリガトな、ティア」
おにぎりを食し、空腹を満たしたシン、食後のコーヒーがとてもおいしく感じる。
「はぁ……アンタ、食事ぐらいちゃんと取りなさいよ」
ため息交じりに呆れた表情を浮かべるティアナ。
「でも、一体どうしちゃったの?」
ふっと首を上げ、デスティニーを見上げるティアナ。
「……俺にもわからない。どこか故障でもしたのかと思ったんだけど……」
シンはさっきまで自分が調べてきた結果を説明する。
「それじゃ、どこも問題ないの?」
「ああ、あるとすれば……なぜ起動しないか。それだけなんだ」
「それだけって……他の誰かに見てもらうとかは?」
「それは無理だ。この世界でデスティニーをすぐに直せる奴なんていないと思う」
なんせ、この世界に来た時、シャーリーやデバイスのメンテスタッフ達がデスティニーのデータを見て至極驚いていたからな。
無理も無い。なんせデスティニーは俺の世界、C.E.でも最新型のMSだからな。
むしろMSすらないこの世界だと、まず無理に等しい。
「そっか……」
「……俺には、これしかないのにな」
「えっ?」
突如シンが言葉を吐くように言う。
見ると、立ち上がりデスティニーの足元まで歩く。
「……俺は皆みたいに魔法も使えない、出来る事といえばデスクワークと雑用と……こいつで戦う事」
コン。と灰色の装甲をこつく。
「……こいつが動かなかったら、俺、本当にみんなの足手まといだな……」
「シン……」
「……明日も朝から早朝練習だろ? 早く帰って寝た方がいいんじゃないか?」
振り返ったシンの作り笑顔がとても悲しく思えた。 どうして、そんな風に笑ってられるの?
一番泣きたいのはシン自身のはずなのに……。
ああ、そうか。彼は自分達に心配をかけたくないと思っているのだ。 自分のせいで心配をかけるのも、かけられるのも、嫌なのだろう。
そう感じ取ったティアナは無言で立ち上がる。
そして振り返り、その場を後にしようとするが、立ち止まる。
「……シン、一ついい?」
「? 何だ?」
「あんたは、足手まといなんかじゃない……少なくとも、私はそう思ってるから……」
「ティア……」
「……だから、あんまり自分を追い詰めないでよ……」
そういい、ティアはその場から逃げるように走り去っていく。
「……アリガトな、ティア」
そのすぐ後、シンも格納庫の施錠をし、自室へと戻る。
翌日。
シンは朝食を食べた後、すぐにまた格納庫へと向かう。 そして昨日の繰り返しだと分かっていても、何度もチェックをする。
コクピットに乗り込み、OSのスキャンが実行される。 そして足元に何かあることに気付くシン。
足元に落ちてあるそれを拾い上げる。
「これは……ペンダント?」
シルバーチェーンの先に紅いクリスタルのようなものが付いたペンダントのようなものだった。
「何で、こんなものがここに……?」
シンはそれに見覚えは無かった。もしかしたらこの間六課の皆にデスティニーに乗せた時に誰かが落としたのかもしれない。
そう思ったシンはペンダントを拾い、格納庫を後にする。
機動六課・訓練室。
とりあえず近場からということで来たシン。 丁度休憩中のようだから聞いてみることにする。
「え? いや私のじゃないよ」
「私も知らないわよ」
「僕も知らないです」
「私も知らないです」
フォワード陣、全滅。
「私は知らないなぁ」
「アタシも知らない、つか始めてみたぞ」
「私も……」
「私のものではないな」
隊長陣も全滅。
「そうですか……誰か心当たりある?」
ふるふると全員が首を横に振る。
「はぁ……仕方ない、他を当たるか」
機動六課・オフィス。
だが、ここでも返って来る返事は全てNOだった。
「えーと、後乗せたことあるのは……」
記憶を思い出そうと考えながら廊下を歩くシン。 そして曲がり角をまがろうとして、
ドンッ。
「うわっ」「きゃっ」
誰かがシンにぶつかって転んだようだ。 ぶつかった衝撃で目を開け前をみる。
「あ、すいません、俺がうっかりしてって、あれ? ミコトさん?」
「あ、はい大丈夫です」
スッ。と立ち上がるミコト。
「そういえば……昨日は俺に何の用事だったの?」
「えと、それは……」
刹那。
突如鳴り響く警報。
「「!!」」
『西部にてガジェットが多数出現! 各員第一種戦闘体勢に入ります!』
スピーカーより流れるアナウンス。
「!! くそっ!!」
走り出そうとするシン。だが今の状況を思い出す。 (そうだ……デスティニーが動かない今の俺は……)
悔しさが滲み出るように体が震えている。 思わず振り上げた拳を壁へとぶつける。
「…………ちくしょう……」
そして時間が経つごとに段々と冷静さを取り戻し、今後ろにはミコトがいることを思い出す。
「あ、その……」
驚かせてしまった。そう思ったシンはまず謝ろうと口を開こうとした。
「あの……」
が、先に向こうから話しかけられてしまった。
「案内して欲しい所があるんですけど……」
「?」
格納庫。
ミコトに案内して欲しいと言われた所、それはデスティニーを見せて欲しいという事だった。
そのことでシンに生まれる疑問。 なぜ彼女がデスティニーの事を知っているのか。
そして、俺が全然知らない筈の彼女がどうして俺がデスティニーに乗っているという事を知っているのか。
まさか彼女はC.E.の世界の人間?まさかザフトの関係者なのか?
だが、そう考えると辻褄は合う。しかし、どうやって彼女はここまで来たんだ?
シンは困惑し、思案していた。
「あの、シン様はこれに乗って戦っていらっしゃるんですよね?」
「あ、ああ……」
「コクピットの方も見せて頂けませんでしょうか?」
別段断る理由も無いので案内するシン。彼の頭にはすでに彼女はザフトの関係者であると認識したようだ。
「そういえば……これって電源が入ると色が変わるんですよね?」
ああ、フェイズシフト装甲の事を言っているんだろう。
確かにザフトのMSの中でもフェイズシフト装甲を持っているのはかなり限られているから見た事が無いんだろう。
「あ、うん……一応は、ね」
だが、今のデスティニーを知っている状況では曖昧にしか答える事ができない。
「あ、このボタンがメインスイッチですか?」
うん、その通り。でも押しても何も起きないよ。何せそのボタンは昨日俺が何回押したかわからないくらい押したからな。
「押してもいいですか?」
まぁ、押しても何も変わらないから別に問題ないしな……。
「いいよ」
「ありがとうございます。……えいっ」
ポチッ。
……ほら何も起きない。
何回押しても何も変わらないんだ。それは俺が昨日嫌という程思い知らされたから……。
ましてや今目の前に見えるメーターやらなんやらが光ってディスプレイが映って……。
「あ、電源は入りましたね」
「………………ええええええええええええええええええっ!!!!????」
見る見る内に灰色のボディがトリコロールカラーへと変色していく。 コンソールを打ち込み、デスティニー全体の確認をする。
そしてディスプレイに表示される文字は、
『system all green』
……動いている。デスティニーが、動いている……。
「シン様?」
ミコトの声でハッと我に返るシン。
そしてすぐに通信を開く。
「こちらデスティニー、シン・アスカです! ロングアーチ応答願います!!」
『こちらロングアーチ、シャーリーです。シン君? デスティニーが直ったの!?』
スピーカーから聞こえるシャーリーの声、通信も問題ない。
「あ、はい! 俺にもよくわからないんですけど、なんとか行けます!!」
『了解! 今からデスティニーのOSに現場の位置を送信します!!』
シャーリーの言葉の数秒後に送られてくる添付データ。コンソールを入力し、データを開く。
「場所は……ここからそんなに遠くないな……」
「シン様?」
そして気付くミコトの存在。
「あ……えと、ミコトさん。今から俺こいつに乗って現場に行かなきゃいけないんだ。 だから、降りて待っててくれないかな?」
彼女を危険な目に合わせるわけにはいかない。それは普通当然の言葉であり対応であろう。だが、
「……シン様」
「え?」
「私も一緒に連れて行ってはくれませんか?」
あまりにも意外すぎる言葉に驚きを隠せないシン。
「なっ!? だ、駄目だ! 危険すぎる!!」
今から自分は戦いに行く。それがどれだけ危険なことか。 それをよく知っているシンだからこそ、余計に彼女を連れて行くことに反対した。
「それはよく知っています。だからこそ、あなたの戦いをここで見ていたいのです」
「ミコトさん……」
凛としたその瞳から伝わる真剣さ。
「……わかりました。だけど、危険だと思ったらすぐに降りてもらいます。いいですね?」
「はいっ!」
「それじゃ、コクピットの席の後ろにベルトがあるんでそれで固定してください」
本当はそんなものなかったのだが、六課の皆を乗せる際に、固定する為にベルトを着けたのだった。
ピッピッと新たな通信回線を開く。
「シャーリーさん! お願いします!」
『了解、デスティニー、発進シークエンスを開始!』
シャーリーの言葉の後に、大型のアームがデスティニーの両肩を掴み、移動する。
そして、カタパルトに両足を固定し、目の前のハッチがそれぞれ上下に開く。
『デスティニー、発進どうぞ!』
「シン・アスカ! デスティニー、行きます!!」
カタパルトが勢いよくレールを加速しながら走り、先端で止まる。 その勢いでそのまま宙に投げ出される。が、
シンはレバーを前に押し、ペダルを踏む。
背面のウイングが開き、紅い翼から排出されるミラージュコロイドとヴォワチュール・リュミエールの淡い光。
二人を乗せたデスティニーは青空へと飛び立っていった。
最終更新:2008年07月11日 19:06