「私がデスティニーの精ラクスですわ。よろしくですわ」
シンはへんてこな場所に立っていた。
目の前には精霊とは口が裂けても言えないようなが桃色が浮いている。
胸は平ら、心は原黒の桃色電波だった。
どこだここはと辺りを見回すが見知った場所ではなかった。
「ここはあなた様の夢の中の世界ですわ」
桃色電波の発言にシンは納得したように手を叩いた。
──ああ、成る程。確かにここは夢だ。
シンは合点がいったという表情を浮かべていた。
「だが、あなた様は戻れませんわ。一生ここで生き続けますわ」
桃色電波は急に怖い顔をする。
目から怪電波を放ちシンをラクシズに入れるべく洗脳を開始していた。
シンは形容しがたいような表情でデスティニーの精を見る。
だんだんと夢見心地な気分になっていく。
──ラクス様万歳。
と次の瞬間物陰からデスティニーの精は撃たれた。
見事な射撃だった。種死最終回のレイも真っ青である。
桃色電波の頭は破裂して絶命した。
ここに悪は滅び去った。
「危ないところだった。そいつは偽物だ。私が本物のデスティニーガンダムの精だ」
わかめっぽい頭皮をした男が立っている。
──デュランダル議長そっくりだな。
そんなことを考えながらシンの意識が朦朧となる。
夢は所詮夢だ。いつかは覚めるものだ。
そのままシンの意識は途絶えた。
意識が再び戻って来た時にはベッドの上だった。
夢から醒めたようである。
変な夢を見たなとシンは目を擦る。
目が醒めても辺りはやはり見覚えのない場所だった。
まだ夢を見ているのかと頬をつねるが、痛覚が現実であることを雄弁に語った。
だんだんと意識が覚醒するにつれて先ほどのことが思い出されていく。
はっと、背中をさすってみるが痛みはなかった。
機械耳のようなものを生やした少女エルザによって折られた骨が再生していたのである。
というよりも折られた形跡さえなかったのである。
何ださっきのも夢だったのか、とシンは安心していた。
動く度に軋むベッドがシンの心を不安にしたが、よくよく考えれば異世界への転移など有り得ない話である。
シンはおんぼろベッドから飛び起きて、辺りを伺う。
重力がシンの体を圧迫する。ここが地球であることは明らかだった。
ならば、誰が何のために地球に連れてきたのか。 ここは地球のどこなのか。
それを調べるのが先決だった。
「おぉ! 起きたのであるか少年! 我が輩嬉しくて失禁しちゃいそうである。
失禁したら掃除は少年に頼むのである。おらさっさと働けやこの奴隷が!?」
夢で聞いたような声だった。
シンは落ち着いて素数を数える。
だが、そこはやっぱり人の子である。
気になってしまうことは定めと言えよう。
シンは振り向いてはいけないと分かりつつも振り向いてしまった。
そこにいたのは筋肉隆々の緑髪の男だった。
夢にまで見たキ○ガイ。ドクターウエストである。
「もう動けるロボか。流石博士の創った怪しげな装置ロボ。骨を一瞬で再生させるなんて」
後からやってきたのはロボ娘エルザである。
「ふふふっ……そうであろうそうであろう。この大・天・才ドクターウエストにはナポレオンの辞書の言葉はないのである!
恐ろしいは我が才能! 我が才能に世界中が嫉妬!」
ドクターウェストが高いテンションを出せば出すほど逆にシンのテンションは下がっていく。
「てかここはどこ何だ?」
「少年! 凡人にしてはなかなか良い質問をするではないか。だが、このドクターウエストには劣るがな。ぷぎゃー!」
会話になっていなかった。
やはり、キチ○イと人類とでは交信は不可能なのだろうか。
シンはドクターウェストと桃色電波が対話をする姿を思い浮かべる。
あまりの酷さにシンは思わず笑みを浮かべてしまった。
「お主笑ったな!? 親父にも笑われたことないのにぃ!?にっ二度も笑った!?」
「博士大丈夫ロボ。私が毎日博士のことを嘲り笑っているロボ」
「おぉ、そうか。なら安心だな。あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
常識的に考えて笑いどころじゃない。
だが、それすらも笑いどころにするのがこの男ドクターウエストだ。
終始圧倒されっぱなしであった。
シンは落ち着くために素数を数え始める。
素数は己と1でしか割れない孤独な数。人々に勇気を与えてくれる。
──2、3、5、7、9、11。
9は素数ではない。
だが、誰も突っ込みを入れないため頭の中で続行していた。
勿論シンは9が素数でないことには気づいていない。
そんなことに気づかないでも落ち着くことは出来たのだった。
「で、ここはどこなんだ?」
「おぉ! すっかり忘れていたのである。ここは我が輩の研究所である
世界の中心のアーガムシティのそのまた中心なのである
我が輩の優しさに全米が泣いた! いや、全米が土下座した!」
全米号泣を越えた全米土下座── このようなキャッチフレーズが使われることは永遠にないだろう。
「アーガムシティ……聞いたこともないな。やはり、ここは異世界なんだな」
一応ザフトのエリートであるシンは世界中の有名な都市の名前くらいは覚えていた。
アーガムシティなる都市は世界には存在しない。
いや、そもそもアメリカという国そのものが既になかった。
「ふむ、異世界人と会うなどやはり我が輩は神に愛されているのか。神すら我が輩の才能に嫉妬?」
「とりあえず、その話は置いといて今度はそっちの話を聞かせて貰えないか」
シンがそう言うとドクターウェストは雄弁に語り始めた。
アーガムシティ、大十字九郎。ブラックロッジ、大十字九郎。覇道財閥、大十字九郎。デモンベイン、大十字九郎。
話の半分は大十字九郎なる男だった。
どうも、ドクターウエストが一方的にライバル視しているようだ。
大十字九郎なる男が哀れでならないとシンは思った実際哀れであるが……。
「そういえば、そこのボゥイの名前を聞いていなかったな。ヘイ! そこのボゥイ! その名を聞かせたまえ」
「シン……シン・アスカだ」
異世界で拾って貰った恩があるためにシンも無碍に扱うわけにはいかなかった。
きちんと自分の名前を名乗る。
「我が輩は100億人に一人の大・天・才ドクターウエストである!
こいつは助手のエルザだ」
「エルザロボ。よろしくロボ」
シンは二人と握手をした。
「そういえば、シン・アスカが乗っていた兵器も保護しておいた。見に行くであるか?」
「はい」
デスティニーのことだとすぐに分かったシンは力強く返事を返した。
そうとなれば、話は早い。
ドクターウエストが先導して、研究所を歩いていく。
「さっきはごめんロボ。つい強く叩きすぎてしまったロボ。反省しているロボ」
エルザはすまなそうな表情を浮かべる
シンはというと優しげな笑みを浮かべ、エルザの頭を撫でる。
子供をあやすようだった。
「気にするな。俺は気にしてない」
シンはレイの口真似をする。
だが、クールなレイとは違い見るからに子供なシンには似合わなかった。
悲しいかなシンはその事実には気づいていなかった。
シンは一度この台詞を言ってみたかったのである。
「お前良い奴ロボね」
そう言ってシンの頭をど突く。
エルザの鋼鉄の拳はシンの脳を揺さぶった。
いかにコーディネーターとはいえ頭に鋼鉄の拳を叩きつけられて無事なはずはない。
だが、それに耐えてこそ男。それに耐えてこそのシン・アスカである。
シンの頭は悲鳴を上げるが、彼は修羅場をくぐり抜けてきた強者だ。
堕ちかけた意識をフル稼働して無理やり頬の筋肉を緩め笑みを形作った。
……そのまま気を失ってしまった。
「さあ、ついたのである! 見よ! この素晴らしき作品の数々を!」
ドクターウエストのけたたましい声に反応し、シンの頭が再び稼働を始める。
「これは……ドラム缶がいっぱいだ」
ずらりと並ぶドラム缶は美しいと言っても言い過ぎではなかった。
ドラム缶にアクセントをつけるように存在する突起物……隠すまでもない。
ドリルである。
そこにあるはドクターウエストの魂であるドリルだった。
シンも男の子である。
ドリルが男のロマンなのは万国共通だ。
ミスタードリラーなるものは子供達に大人気であるし、グレンラガンなるドリルロボは大きな男の子にも大人気だった。
シンはドラム缶ドリルに対して感動を覚えていた。
「見るのである! 我が輩が少年のロボットを改造しておいた。イッーツショータイムゥゥ!」
パチンと電源がつけられた。
シンはあんぐりと口を開けていた。
僅か体長20m前後であったデスティニーの体はその3倍は大きくなっていた。
肩にはゴツゴツとした突起物──ドリルがある。
アロンダイトも巨大化していて体長60mはあるであろうデスティニー以上の大きさとなっていた。
デスティニーはリアルロボットの王道であるガンダムからスーパーロボットに進化したのである。
だが、いかにスーパーロボットが男の子達の夢とはいえ、いきなり自分が乗っていたMSがそうなっていたら驚かない方が無理な話だ。
シンは言葉を失い呆然とデスティニーを眺めていた。
「何という天才。何という才能。この新兵器に死角はない。破れたりデモンベイン、破れたり大十字九郎!
して、少年。このロボットは何という名前なのだ?」
「で……デスティニー」
シンはドクターウエストに返答したわけではない。
ようやく言葉を取り戻したシンが変わり果ててしまった愛機に思わずこぼしてしまった言葉である。
「ふむ、ならこのハイパーウエスト無敵ロボ28号改~運命を切り開け! デスティニー!~に死角はない。ふはははははははは!!!!」
ドクターウエストの笑い声が研究所に木霊する。
対照的シンは手を地面について四つん這いになっていた。 おめでとう! MSデスティニーはスーパーロボットハイパーウエスト無敵ロボ28号に進化した!
最終更新:2008年07月15日 17:21