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それはたった一つの奇跡。前編

それはあるお昼の事。

「さぁて、今日もバッチリ問題なく飛んでくれよな、ストームレイダー。」
ヴァイスは今日の午後からの輸送の前にヘリの整備に来ていた。
「あの……」
「はい?」
呼ばれて振り向くヴァイス。そこには自分でも目を疑うほどの美少女がいた。 腰まで届くような紅く長い髪、白のワンピースに薄い青の上着を羽織っている。 六課には美人揃いではあるが、こういうタイプの女性はいないとヴァイスは思った。
「少し、よろしいでしょうか?」
「あ、は、はい!何か用でしょうか!?」
考えている最中に急に呼び止められて思わず声が裏返る。
「機動六課のロビーはどちらになるのでしょうか?」
「六課のロビー、ですかい? それなら……」

簡単にロビーまでの道を教える。
「ありがとうございます、ヴァイス陸曹」
「あ、い、いえ、何なら俺が送っていきましょうか?」
「いえ、そこまでなら大丈夫です。ありがとうございます」
そういって女の子は頭を下げ、六課の建物へと歩いていく。
「ちぇっ、振られちまったか……」
呟きながらヘリへと戻るヴァイス。そして数メートル程歩いて立ち止まる。

「…………俺、名前言ったっけ?」

振り返るが、すでに女の子の姿は見えなくなっていた。

機動六課、食堂。
「ふぅ……」
シンは昼食を食べ終わり、食後のコーヒーを飲み一息ついていた。
「シン、もう食べないの?」
モグモグと口を動かしながら向き直るスバル。
「食べながら喋らない! 行儀悪い」
同じように食事を終えたティアナが注意する。
「シンさん、午後はどうするんですか?」
まだ皿に乗っているパスタをくるくるつまみながらエリオが言う。
「また見学ですか?」
食べ終わり、食後の牛乳を飲んでいるキャロ。

「流石にもう食えないって、午後からは多分オフィスで事務仕事だと思うけど」
「シン、そういえば私達の分までやってくれてるって本当?」
間髪いれずにティアナが聞いてくる。
「え?ああ、まぁな。俺は魔法使えないし、デカイのが出現した時だけデスティニーで出撃だからな。
 俺に出来ることといったら皆の分の負担を減らす事ぐらいしかできないからさ」
「「シン……」」「「シンさん……」」
シンの気持ちが痛いほどに伝わる。
「あ、みんな。ご飯中か?」
声に振り返ると、そこに隊長三名、なのは、フェイト、はやてがいた。
「どうしたんですか皆さん?」
「私達もお昼まだだから」
「それでご一緒してもいいかなって」
カチャ。とそれぞれお盆を持っていた。
「ああ、別にいいんじゃないですか。なぁ?」
「「「「はい」」」」
そして三人も席に着く。

機動六課、ロビー。
「あの……すいません」
「あ、はい、なんでしょうか?」
「食堂はどちらに行けばいいんでしょうか?」
「あ、はい、食堂でしたら……」
受付の女性は食堂までの道のりを説明する。
「ありがとうございます」
受付の女性に頭を下げ、女の子は進んでいく。

再び、食堂。
わきあいあいとしたフォワード陣+隊長陣。
「さて、それじゃ私はそろそろ行こうかな」
そういいはやてが立ち上がる。
「今日は教会?」
「カリムと対談やね、その後にクラナガンにも行ってくるよ」
「大変ですね、部隊長も」
シンが呟く。
「あはは、まぁしゃあないよ。それが仕事やしね」
「あ、いたいた。おーいシーン」
声の方向を見るとヴィータがこちらに向かって歩いてくる。

「どうしたんですか? ヴィータ副隊長」
「お前にお客さんだ」
「俺に?」
この世界で俺を訪ねてくるなんて……一体誰だ?
「おーい、入って来いよ」
ヴィータに言葉に反応して食堂に入ってくる少女。
それは、誰が見ても美少女というべきほどの美しさを兼ね備えていた。
一同はその少女の姿に見とれていた。
「あの……」
少女はシンを見つめる。
「あ、えっと……?」
正直、シンはこの子と面識はなかった。
いくらシンが朴念仁の上に鈍感の塊を塗りこんだとーへんぼくであったとしてもこのような美少女を忘れるわけはない。

「やっと、お会いできました」
「あの、君は……」
「シン・アスカ様……」
俺のフルネームを知っている。つまり向こうは俺のことを知っているのは間違いない。
だが、俺の知っている記憶の中にこんな人物はいない。
「シン? こちらの方は?」
はやての問いに答えられないシン。
「……すみません、俺、この人の事全然覚えてないんです」
覚えてない。この場合そう答えるのがあっているだろう。
多分向こうは俺と面識があるのだから、きっと何かしらの接点はあるはずなのだが、何一つ覚えていない。
「……いえ、あなた様が私の事がわからないのは仕方のない事だと思います」
「そ、そうなんですか?」
「はい」
そういった少女は悲しげな表情を浮かべる。

「なぁ、シン。ほんまに覚えてないんか?」
小声ではやてがシンに耳打ちする。
「……すいません」
だが、何度思い出そうとしても記憶の中にはあの少女はいない。
「あの……」
「は、はい」
「シン様はこれからどうなさるのですか?」
「え?あ、ああ、えと、なのは隊長何かありますか?」
「へ?えーと、特に今日はしてもらうこともないんだけど……」

実質ここでシンの出来る事は限られている。
デスクワーク、訓練の手伝い、いざという時のデスティニーでの出撃。
これぐらいである。
「それでは……お昼からはシン様はお暇になる、ということでしょうか?」
「まぁ……そうなるのかな……」
「そうだね。まぁ、緊急の時は出撃だけど……デスティニーの出番はそうそうないからね」
通常のガジェットやナンバーズ相手ならフォワードメンバーでどうにかなる。
「それでは……シン様、もし宜しければ、お昼から私とお付き合いして頂けませんでしょうか?」
「え?それはいいけど……」
「ありがとうございます」
ペコと頭を下げる女の子。
「あ、そうだ」
「?」

顔を上げる女の子。
「君の名前……教えてくれないか?」
「私ですか、そうですね…………ミコトとお呼び下さい」
「ミコト……」
その名前を聞いても、やはりシンの記憶の中にはその名前の人物はいなかった。

刹那。

ビーッ!ビーッ!ビーッ!!
「!!!」
隊舎内に響く警告音。
『東部海上、地上にガジェット発現、至急現場まで向かって下さい』
「みんな!」
「「「「はいっ!!」」」」
なのはの声に反応し急いで食堂を出て行くフォワードメンバー。
「シン!今回は海上に大型のガジェットもおるみたいや!」
「! わかりました!!」
はやての言葉を聞き、シンもデスティニーの格納庫へと向かう。
「あ……」
去り際に聞こえたミコトの声、それが聞こえたシンは
「ごめん、また帰ってきてから話をしよう!」
それだけ言い残し、走り去っていく。
「……シン様」

デスティニーのコクピットへと入るシン。
シートベルトを締め、メインスイッチを押して、電源が入る。
灰色のボディがヴァリアブルフェイズシフトの装甲によるトリコロールカラーへと変色する……はずだった。
「な、なんで……?」
メインスイッチを押してもデスティニーの電源が入らなかった。
「動けよ、動けよ……」
何度押してもその状況は変わる事はなかった。
「なんでなんだよおおおおおおおおおっ!!!!」
シンの叫びがデスティニーのコクピット内に響き渡る。
だが、灰色のボディがトリコロールカラーへと変色する事は、なかった。





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最終更新:2008年07月15日 20:01
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