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ちぇりーぶろっさむ・ですてぃにー -03

  • 幕間『朝倉純一の憂鬱』

「……かったる」

 昼休みも終わりに差し掛かった頃、朝倉純一は自分の席で呟いた。
 教室内は後数分で授業が始まるとは思えない騒がしさ。
 まあそれもそのはずで、黒板にはデカデカと『自習』の二文字があったりするのだが。
「ねえ朝倉。これ何の騒ぎ?」
 純一に席の近い水越眞子が話しかけてくる。
 眞子はシンが来る前に教室を出ていたし、その後は屋上で鍋をつついていた筈だ。
 だから事態を知らないのだろう。
「さーぁ。俺にはさっぱり」
 とりあえず適当に返事をする。
 眞子は訝しげに純一に視線を投げつつも、自分の席へ帰っていった。
(つっても。間違いなくシン絡みだろうけど……)
 ただ、純一にわかるのはそれだけ、そこまでだ。
 騒ぎの中心にシンが居る事はわかるが、実際にシンが何の罪で追われているのか全く知らない。
 生徒間で囁かれている内容は伝言ゲームのごとくバラバラな内容ばかり。
 女子更衣室に忍び込んだとか、テスト問題を盗んだとか、誰かの貴重品を盗んだとか――
 純一は別にシンを疑ってはいる訳ではない。
 ただシンがトラブルに巻き込まれやすい体質だという事は知っているので、今の状況は何となく理解できた。

(何にせよ……シンも災難な事で)

 始業の時間になったが、教室の騒ぎは止む気配がない。
 ぐるりと教室を見回してみる。
 午前と違い、杉並と音夢の姿がない。
 杉並は昼休みの初期に姿を消していたし、音夢とは食後に別れた。
 帰ってきてないという事は、二人とも騒ぎに参加したと見ていいだろう。
 ちなみにさくらも昼休みから何処へと消えている。
(さくらはまあシン側かな。杉並はさっきの様子だとシンに付きそうだけど……音夢は堅物だからなぁ)
 席を立つ。
「あれ、朝倉どこ行くの?」
「……んー。トイレだよ、トイレ」
 眞子に適当な返事を投げて、純一は教室を出た。
 さくらにしろ杉並にしろ、生粋のトラブルメーカーだ。協力がプラスになるかどうか疑問が残る。
「…………かったるい」
 呟いて純一は歩き出した。

 さてとりあえず

  • 幕間終了


 ――俺が何したっていうんだよコンチクショウ

 掃除用具入れのロッカーの中、心の中で吼えてみる。
 校舎内に忍び込んでから小一時間程経過している。
 追っ手には外に逃げたと思われているのか、校舎内に俺を探している人間はほとんど見当たらない。
 だが生徒やらが多くて動き難いが。
(放課後まで待つ…………いや、駄目だ。犯人に逃げられちゃ意味が無い)
 そう、俺は犯人を捕まえるつもりで学園に居残っている。
 逃げるだけなら簡単だ。だけど見に覚えのない疑いをかけられたままじゃ気分が悪い。
 それにさくら達に迷惑がかかるような真似だけは避けたい。
 だから、俺が取る道は一つ。

 この騒ぎの真犯人を捕まえて、俺の無実を証明する事。

「人が急に少なくなった……午後の授業が始まったか」
 俺は極力音を立てないように、廊下の隅の寂れたロッカーから這い出た。
 周囲に気配が無い事を確認してから、学園の見取り図を広げる。
「ていうか俺は何したことになってんだろう……?」
 実は未だにそれが何なのか解らない。
 立ち聞きした分では覗きとか泥棒が主だった。
 どちらにしろ不名誉な事だが、とにかく情報が足りない。
 最低限、俺が何の容疑で疑われているかだけでもはっきりさせておきたいところだ。

「お困りのようだな」

 ――声。
 見つかったか!? と高速で声の方向へ振り向く。
 予想に反し。そこに居たのは教師などではなく一人の男子生徒だった。
「アンタ……確か杉並とか言ったっけ」
 元男子生徒A(仮)。教室の窓に張り付いている俺に『話を聞きたい』と声をかけた変人だ。
「こんな所で何してる?」
 俺の問いに杉並はニヤリと笑い、意外な言葉を述べた。
「無実の罪で追われているのだろう? 俺でよければ力を貸すぞ?」
 提案事態は魅力的だ。
 この杉並という人物は、情報通という点に置いて度々朝倉兄妹の話にあがっている。
 今はとにかく情報が欲しい。だが、
「信用できないな。アンタは部外者の俺に協力して何のメリットがあるっていうんだ?」
「何、俺はお前に興味があるだけだ。過度な報酬は望んでなどいない。
ただ上手く事が運べば、少々俺に付き合ってもらうことにはなるがな」
「…………」
 あくまで等価の取引という事か。
 考える。
 助力を請うのも悪くは無いかもしれない。実際このままでは手詰まりだ。
 それに杉並が俺を貶めたいならわざわざ声をかける必要は無かった筈だ。
 ただ教師なり用務員なりに俺の居場所を教えればいい。

「忠告しておくが、この学園の風紀委員のしつこさを甘く見ないほうがいいぞ、シンとやら。
俺の見立てではお前は卓越した運動能力を持っているようだが、それでは不足だ。
特に朝倉妹のしつこさなどそれはもう靴の裏に張り付いたガムの如く――」
 多分杉並はだからこそ助力が必要だと繋げるつもりだったのだろう。
 だが言葉を言い終わらぬうちに、それは誰かの声と足音で遮られる事となった。

「――――誰がガムですって?」

 足音に鈴の音を混じらせて、一人の女子生徒がゆっくりと歩いてくる。
 チ、と心中で舌打ちする。よりによって厄介な奴が……!
「さあアスカ君。この騒ぎについて、職員室でたっぷり説明してもらいます」
 にじり寄る朝倉妹。
 しかし悪評に定番のある杉並は例外とするにしても、朝倉妹のような”一般人”にこうも容易く見つけられるとは。
 俺はここまで来るのにも痕跡は残していないし、人にも見られていない筈だ。
 知らず知らずのうちに、俺の感覚も衰えていたのかもしれない。
「杉並君を見張っておいたのは正解でしたね。必ずアスカ君に接触すると思いました」
 この世界平和だからなぁ……ってオイ。
「厄介ごとを引き連れてきた事に対する弁明は?」
 朝倉妹を指差しつつ、杉並をジト目で睨む。
「ふっ。流石は朝倉妹といったところか」
「聞けよ人の話を」
 マズイ。状況は最悪の方向に進みつつある。
 抜け目のない朝倉妹の事だ、既に教師陣への連絡も済ませているに違いない。
 こうなったら……
「杉並! 取引成立だ! その鈴リボンの足止めは任せたからな!!」
「よかろう」
「誰が鈴リボンですか!?」
 朝倉妹に背を向けて駆け出した。とにかく此処から少しでも離れよう。
「くっ――だがその展開は予想済みです! 美春!」
「了解です、音夢先輩――!!」
 朝倉妹の掛け声と同時、通路の先の曲がり角からオレンジ髪の女の子が出現する。
「さあ! ここは通しませんよ――!!」

「ダストボックス。デッドエンドシュート」

 立ち塞がる女の子の頭上めがけて通路の脇に転がっていたゴミ箱を蹴り上げる。
 舞い上がったゴミ箱は天井にぶつかった後落下し、オレンジ髪の女の子の顔に綺麗に嵌まった。
「ああ! 前が見えません――!!」
 排除完了。そのままゴミ箱ゾンビの横を走り抜ける。
 後ろで朝倉妹が何か叫んでいるのが聞こえるがが、追ってくる気配は無い。
 杉並が上手く足止めしているのだろう。
 ――俺はそのまま、全速力で通路を駆け抜けた。


 朝倉妹の追撃はかわしたものの。

「結構ヤバいな……」
 校舎外壁にピタリと背を付け、足音が通り過ぎるのを待つ。
 よりにもよって廊下の両側から来るとは。
 咄嗟に窓から外に出たはいいが、この様子だと中に戻るのは危険かもしれない。
 ルートを考えていると再び足音。今度は外!
 校舎内に戻るか!? いや今入ればさっき通った連中に見つかる可能性がある。
 予定とは随分離れるがしょうがない。ここは一旦逃げを優先――!!

「――こっち。こっちです」

 バタバタと足音。
「どうかしたんですか?」
「――ああ白河か。不審な男を見なかったか、黒髪の」
「いえ。私はこっちから歩いて来ましたけど……そういう人は見ていませんよ?」
「そうか。見かけたら教師に通達するように。危険かもしれないから決して近付くなよ」
 足音が遠ざかる。

「もう大丈夫だと思いますよ?」
「……そうみたいだな」
 ずりずりずりと茂みから這い出て、髪やら服に付いた木の葉を払い落としつつ立ち上がる。
「あー、えっと」
 言葉に詰まる。
 目の前にはロングヘアの女の子が一人。頭に被った白い帽子が印象的だ。
 何と話しかけたものか。まずは礼を言うべきなのか。ていうかそもそも誰だ?
「私、白河ことりって言います。シン・アスカ君……ですよね?」
「え? ああ、そうだけど」
 何やら絶妙なタイミングで名乗ってくれた。
 というか俺名乗った覚えは無いんだが、この子は何で俺の名前を知ってるんだろうか。
「朝倉君に頼まれたんですよ。友達が面倒ごとに巻き込まれてるから、見かけたら助けてやってくれって」
 またしても絶妙のタイミングで俺の欲しい返答。その言葉にああと納得する。
 なるほど朝倉の知り合いだったのか。
「まあ、何にせよ助かった……ありがとう」
「いえいえ」
 満面の笑みを浮かべる白河ことり。その笑顔は凄く自然で、可愛らしかった。
 黒い笑顔の似合うどこぞの鈴リボンとはえらい違いだ。

 ……ん、白河ことり?

「あぁ思い出した。そういや朝倉兄妹とかさくらが言ってたな、風見学園には歌の上手いアイドルが居るって」
 思い出した思い出した。アイドルだ、アイドル。風見学園のアイドルの白河ことり。
 どっかで聞いた名前だと思った。
「そ、そんなに連呼されるほど、大したものじゃ……」
 恥ずかしそうに俯く白河ことり。
 そこまで連呼してるつもりは無いけど。まあそういうのを気にする性質なのかもしれない。
「あぁごめん。ところで、聞きたい事があるんだけど」
「何ですか?」
「俺が何で追われてるか知ってる?」
 俺の一番欲しい情報。
 でも一応聞いてみただけで、実はあまり返答は期待していない。生徒の間には噂しか流れていないようだし。

「女子更衣室の進入及び窃盗容疑ですよ」
 だが、俺の予想に反して白河ことりはキッパリ言い切った。

 再び移動を開始してから五分後。
「ええと」
 後ろを振り返ると、そこには何故かついてきた白河ことりが居る。
 足を止めて、溜息を一回。しょうがない、ちょっとキツくても言っておこう。

「……もうついてこなくていいよ。実際、俺一人の方が動きやすいしさ」
 とにかく迷惑はかけたくない。

「助けてもらったのには感謝してるけど、これから飛んだり跳ねたりする時とか多分あるし」
 一緒に居るのを見られるだけで向こうの立場も悪くなるだろう。

「ほら。アンタ運動得意そうじゃなさそうだしさ。こっから先は居ない方が」
 だから、いっそ嫌われるくらいの言葉と勢いで言ったつもりだったんだけど。

 なのに何故か、眼前の白河ことりはすごく可笑しそうで。

「……何が可笑しいのかぜんっぜんわかんないんだけど」
「いえいえ、何でもないですよ?」
 またも満面の笑み。
 なんか見透かされてるよう思うのは気のせいだろうか。
「でも、ここまで誰にも見つかってませんよね?」
「それはそうだけどさ」
 確かに。俺が一人で行動していた時と違い、今まで誰にも見つかっていない。
 ニアミスは何度もあったが、その都度その都度白河ことりの的確な指示によって事なきを得ている。
 それほどまでに、白河ことりのナビは的確だった。
「大丈夫ですよ。迷惑なんて思ってませんから」
「だけどさぁ」
「ほら、じっとしてると見つかるんじゃないですか?」
 俺を追い抜いて先導するように歩き出す白河ことり。
 ……確実にペースを握られてる。
 俺は再度溜息を吐いた。本当にどこまでニブったんだろう。
 同い年の女の子にまるで歯が立たないなんて。

 これでも一応、元”軍人”だし。”ザフト”の”赤服”だったんだけどな

「ゃ――――え?」
 物凄い勢いで振り向く白河ことり。表情が明らかにただ事じゃない。
 俺が何かしたのだろうか? もしくは気に触ることでも言ったのか?
「え、何? お、俺何かした? 何か気に触ることでも――!?」
「……い、いえいえいえ。何でもない、何でもないんです! ごめんなさい、驚かせちゃって」
 互いに微妙な間合いを保ちつつ叫びあう俺と白河ことり。
 俺は何をやっているんだろう?
「あ! だ、誰か来ます! 多分、先生達があっちから――!」
「げ、とりあえず逃げるぞ!」
 謝るのは後だ!
 白河ことりの手を引っ掴んで、走り出す。
 俺が全速力を出したら多分ついてこれないだろうから、あくまで補助するくらいの速さを心がけつつ。

「何だろう、今の。ノイズ、みたいな…………?」

 走っている途中に、白河ことりが何か言っていたのはわかった。
 けど、その呟きは小さすぎて聞き取れなかった。

 追っ手をかわし、隠れるという行動を繰り返す。
 事件現場の更衣室には行きたいが、万が一犯行現場に居る所を見られたらもう言い訳出来ない。
 とりあえず事件の全容を掴むのが先決。
 必要なのは犯行現場の状況、犯行時間、盗まれた物品が何なのか。
「という訳で、白河には情報収集を手伝ってもらいたい」
 俺は自由に動けない。だからこそ白河は職員室や更衣室等で情報を仕入れてもらうよう頼んだ。
 これなら安全だろう。

「アスカ君はこれからどうするんですか?」
「とりあえず、外部から進入した形跡が無いかとか調べてみる。内部犯か外部犯かで対処変えなくちゃいけないしな。
あと出来れば杉並と合流したいけど……難しいだろうな」
「了解っす。そういえば、アスカ君って何で疑われてるんですか?」
「いや何か。校舎の外壁登ろうと思って。紐ひっかけるのにちょうどいい場所探してうろうろしてたらいきなり追いかけられる羽目に」
「それは疑われても仕方が無い気が……」
「えぇー」

 校舎内に消えた白河を見送る。
 まずはさっきも言ったとおり、外部からの侵入者が俺以外に居ないかどうかの確認からだ。
 進入した痕跡が無ければ、内部犯である可能性が高い。その時は白河からの情報待ち。
 その間に、挙動不審な人物や犯行に使用された道具類でも見つけられれば御の字だ。
 増える追っ手に減っていく時間と、状況はよろしくないが、白河という協力者も得られた。
 まだ希望が消えたわけじゃない……!
「よし! 行くか――!」
 駆け出すために足のバネを力いっぱい引き絞り、地面を踏み締めて、蹴る。
 その時だった。

――ぴんぽんぱんぽーん

 鳴り響くのは、放送を告げるチャイム。

『シン君聞いてる~? こっちで解決したからもう出てきても大丈夫だよ~』

 そして響き渡る家主の声をきっかけに、絶望的なまでに脱力する俺の身体と精神。
 今まさに翔けださんとしていた俺の身体は若干空中にあって。
 俺はずべっしゃーんなんて冗談みたいな音を立てながら、思いっきり地面と激突した。

 事態は、俺の知らぬところでとっくに解決していたらしい。


「…………目茶苦茶疲れた」

 夕焼けで染まった桜並木を歩く。
 疑いは晴れたのだが、学園に勝手に入ったことでこってり絞られたせいでもうヘトヘトだった。
 あと事件の真相はあまりにもくだらないので割愛する。

 簡単にまとめると『鍵の閉め忘れ』と『勘違い』と『動物』だ。

「ま、何にせよよかったじゃないか。大事にならなくて」
「……まあな」
 朝倉に投げやりに返事をした。もうあまり気力が残っていないせいだ。
 今の面子は朝倉兄妹、さくら、杉並。
 あとゴミ箱ゾンビ――じゃなかった、天枷美春。朝倉達の後輩らしい。
「あぁ。朝倉とさくらには礼を言とおかないとな。正直すごく助かった」
「まあ気にすんなよ。まあどうせなら今晩のおかず一品増やしてくれると嬉しいがな」
「元々はボクがお弁当忘れたせいだしね」
 用事があるとかで途中で別れた白河にも、今度改めて礼を言っておかないとな。

「ああそうそう。鈴リボンに恨み言を言わないといけなかった」

「ま、まだ根に持ってるんですか……というか! 鈴リボンだけは訂正を要求します!!」
 あーあーきこえなーい。
「しかし鈴リボンとはなかなかに的確な呼び方だな。シンとやら、天枷ならどういう呼び名になる?」
「その呼び方を定着させないで下さい! 仕方ないでしょう委員会の仕事だったんですから!」
 鈴リボンを無視して、天枷美春をずいと俺の前に突き出す杉並。
 数秒間だけ見て、俺は一つの単語を口にした。

「オレンジヘアバンド?」

「ま、まるで私の本体がヘアバンドみたいです!?」
「じゃあコイツは?」
 今度は杉並でなく、朝倉がずいと俺の眼前に一人の少女を突き出した。
 俺は反射の速度で相手の容姿の特徴をまとめ、一つの単語に収束させる。
 そして、その単語を口にした。

「ロリツインテ」
「うたまる。やっちゃえ」

「しまったつい本音痛ででででで――っ!!」
 全く反応できなかったとか、そもそも何で居るのか。
 もしかして最初から居たのかなんて数々の疑問を爆砕するほどの激痛が俺の顔面を襲う。
 多分今俺の顔には三次元を侮辱したようなフォルムをした謎の生命体が張り付いているんだろう。
 噛み付かれているのか引掻かれているのかわからないが、とりあえず顔面が凄く痛い。
 洒落にならない。

「おぉ、怪奇・顔面猫男」
 杉並は後で絶対ブン殴るとして。
「痛ででででっ! と、とにかく誰でもいいから何とかしてくれ――――――ッ!!」
 俺の絶叫から数十秒後。
 ベリなんて音と共に俺の顔面から引き剥がされる謎の生命体。
「た、助かった…………サンキュ-朝倉」
「とりあえずお前が正直すぎる人間だってのはよくわかった」
「……つい」
「まあネタ振った俺にも微妙に責任あるしな。それはさておき――頑張れ」
 純一がついと、ある方向を指差す。
 その指の先には――仁王立ちする小さな大魔神が居た。

「ふーん。そういう事言うんだ、シン君は?」

「ま、待て! とにかくその投擲体勢を解いてくれ!!」
 右手に鷲掴んだ白い謎物体を振りかぶりながら俺ににじり寄るさくら。
 眼が実に本気である。
「見たまんま言っただけだろ!?」

「人の身体的特徴けなす人ボク嫌い!」

「うおお!?」
 高速で投擲された白い謎物体が俺に飛来する。小柄のさくらの何処にそんな力があるのかという剛速球だった。

 ……もしかしてあの謎物体が自力で飛行しているんじゃないだろうな。

 それはさておき! 今度はさっきとは状況が違う。見えていれば避けられるッ!!
 軌道は単純、一直線。
 俺目掛けて一直線に飛来する白い謎物体を身体を捻ってかわす。
 白い謎物体はそのまま俺の背後にあった木目掛けて飛んでいった。
 だが
「――何ィッ!?」
 木に激突した瞬間、ゴム鞠の様に跳ねて再び俺目掛けて飛翔する白い謎物体!
 こいつ本当に猫か!?
 違う! これは猫じゃない! もっと恐ろしい何かだ!!
 とにかく迎撃する為に、身体の向きを180度回転させて白い謎物体に向き直る。
 避けても跳ね返ってくるなら――今度は叩き落してやる。
 ぐ、と腰を落とした瞬間。
 後ろから不意打ちが来た。
「!?」
 加重が一気に身体に加わる。後ろからおぶさるように組み付いてきたさくらによって乱される俺の重心。
 そしてバランスが崩れに崩れた俺は迎撃体制なんて取れる筈も無く。
 ベチンと音を立てて、俺の顔に白い謎物体が張り付いた。
 今度は激痛が襲ってこない。そのまま微妙な沈黙が続く。

「………………えーと。ゴメンナサイ」

 沈黙に耐えかねて俺は口を開く。
 顔に張り付いていた白物体が剥がれる。多分主の頭の上に戻ったんだろう。
「ぶー」
 おぶさったままのさくらが家の方向を指差す。どうもこのままおぶって帰れ、という事らしい。
 ……マジ?


「……こういうのは朝倉に頼めよ」

 ただいま同級生の女の子(見た目幼い)をおぶっての帰り道という罰ゲーム執行中。
 恥ずかしい事この上ない。
「お兄ちゃんは乗ろうとしても避けるもん」
 さくらはどうもまだご立腹らしく、返事の声が堅い。
 仕方が無い。今晩は少し気合を入れて夕飯を作るとしよう。

 ちなみに何時の間にか居なくなっていた朝倉兄妹の分は無い。白湯で十分だ。

「シン君は避けなかったね。避けれたのに」
「避けたら危ないだろ。転んだらどうするんだ」
 ――そんなにちまっこいのに、と続けようとして慌てて言葉を切ったのは秘密だ。
「こどもあつかいはんたーい」
 さくらがぐわんぐわんと上体を揺らし、慌てて落としそうになった。
「揺らすな! 落ちるぞ!?」
「はんたーい、はんたーい」
 うなー、うなーと白い謎物体もわる。
「はんたーいはんたーい♪」
 ノってきたらしい。そのまま歌うように言い続けるさくら。
「はんたーいはんたーい、ゆうかいはんたーい♪」
 今何か大変な台詞混じってなかったか!?

「ああ――もう! いい加減にしろ――――ッ!!」

 結局家に着くまで合唱は続いた。
 後日、ご近所の人の俺を見る視線が微妙に冷たくなったのは気のせいだと思いたい。




デスティニーだったもの「 」

フォース  「デスティニーちゃ――――んッ!?」
ソード   「ほ、ほら! お前の出番だぞ! 次回予告コーナーだぞ!!」
ブラスト  「……これが本当のフェイズシフトダウン、か」

つ原稿

アイシア  「えーと。向こうが取り込んでるので私が……」

『最初に言っておく! 投下遅くてあとやたら長くてゴメンナサイ!!
 さて。微妙すぎる伏線と共に桜の島の歌姫登場の回をお送りしました。
 次回は今回の純粋な続きである、シンが学校に通う事になる話。
 もしくは芳乃家での最初の一週間の話。そのどちらかになる予定です。
 とはいえ最近忙しくなってきたので投下が遅れるかもしれません。
 戻ってきたら『あぁ、居たなこんなヤツ』な感じで思い出してやってください』



デスティニーだったもの「 マスターノバカー」





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最終更新:2008年07月21日 00:18
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