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『Old soldiers never die, they just fade away.』~前編

 鉄の廊下の遠くからカツカツと金属を叩く様な音が響き、段々とそれが近付いていく。
 何かを探る様な音の反響を繰り返しながらそれに後を着いていく様にゆっくりと靴音が着いて来る。
 振り返れば、一年前と同じ険しい表情を向けている懐かしい機体(ヒト)が居た。
 もう俺は背をすっかりと超えてしまい、昔は逞しかったあの姿も今では俺より低い。
 体中傷だらけで潰れてしまった片目は一瞬周囲をぎょっとさせるが、少し刻んだ皺を歪ませながらも
 静かな笑みをたたえていく。妙齢40歳と行った所だろうか。大きなリュックを背負ってそのヒトは現れた。

「プロトさん! 如何したんですかこんな所に」
「おお、やっぱりその目つきの悪い顔はシン坊だったか。
 最近目がかすんでね。遠くから薄らぼんやり見てたんだが核心が無かったよ。
 もっと、こっちへ来てくれないかい?」

 その人の声は掠れまるで老女の様な声だった。一瞬、違和感を感じたがソノ鋭い眼差しだけは
 衰えた様子も無く彼女を間違い無く”お世話になったあの人”だと認識させる。
 ソノ女性はプロト・ジンさん。昔は全然で兵士として活躍していたが今は退役軍人で
 MSの教官をやっていた。俺もお世話になった……いや、良く殴られた口だ。
 顔を見るだけで口の中に傷が染みて痛みと共にカレーの味をジンワリと思い出してく。
 俺は彼女に近寄るとまだ筋肉衰えない体をぺたりぺたりっと形を確かめる様に触っていく。
 薄緑色の白髪の様に色が抜けた髪はウェーブの利いたショートオールバックからは
 甘い大人の女性の香りが鼻先をくすぐっていくが俺は別の事に注意が引かれていった。

「プロトさん……その目」
「ああ、片目の影響から既にガタが来てたが、ついにこっちも見づらくなっちまってね。
 おかげで軍からはお払い箱さ。それでシン坊、昔のよしみだ。暫く泊めてくれないかい?」
「え? あ、はい。って……えぇ!?」
「シン坊ならそう言ってくれると思ったよ。それじゃ、お邪魔するよ」

 彼女の目はうっすらと濁った乳白色に近い黒目で焦点が定まっていなかった。
 カンカンっと鳴らして居る音は盲目者用の杖でそれを手に持っていた事を後から気付く。
 あまりの衝撃に俺が呆然としている隙に宿泊の願いを出されて混乱したまま承諾してしまうと
 すっと手を離して肘を浮かせている。エスコートしろと言う事なのだろうか。
 まぁ、目が悪くなって間もない中、一人旅で此処まで来たのも奇跡に近いし、こういうの無碍に断れない。
 そのまま腕を組んだまま、彼女を部屋へと引率する事になった。
 逞しく見えた彼女の腕もすっかりと衰えて今ではまるでそこいらに居る少女とは全く変わり無い。
 そして、介護なんてやった事無いから女性の歩幅に合わせるというのは結構難しさを痛感する。
 何より相手は目が悪いというのが最大のネックであり、正に石橋を叩いて歩いている様な状態だ。
 一歩一歩、杖で障害で確かめながら着実かつ慎重に歩を進めていく。

「ほらほら、シン坊。レディをエスコートするのにこんな様じゃ彼女に嫌われるよ」
「か、彼女だなんてそんなの居ないですよ」
「……(どさっ」
「へ? どうした、デス子」
「う、うわぁあああーーーーーーーーん!!」

 ふと、出会い頭にデス子と遭遇する。何やら買い物袋を持っていたのだが
 それを床に落とした後、泣いてどこかへ行ってしまった。
 床に転がるジャガイモや缶詰がからからと音を立てながらも転がっていく。
 俺は鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていると、どすっと俺のわき腹に彼女の肘鉄が見舞われていく。
 一瞬刺す様なし線に心臓が止まりそうになりながらも大きなため息を吐いていった。
 彼女は大きく首を左右に振りながらも転がっていく缶を杖で止めていく。

「全く、シン坊は相変わらずだねぇ。寂しがり屋の癖につんけんしておいて
 とんと他人のことはわかってない。帰ったらちゃんと話してやるんだよ」
「す、すいません。内の奴が失礼をしちゃって」
「言葉だけで謝らなくて良いよ。男だったら誠意は行動で見せな。ふふっ。
 しかし勘違いされるたぁ、アタシもまだまだ捨てたもんじゃないねぇ」
「はぁ」
「……ほれ、さっさと拾う! 2分で出来なきゃ腕立て100だよ!」
「は、はい!」

 彼女にどやされながらも俺は散らばっていた買い物袋の中身を回収していく。
 一個一個手に取りながらも彼女はその様子をじっと見守っていた。
 自然と何で手伝わないんだとは思わなかった。
 いや、目が悪いからだからって理由で納得してる訳じゃない。
 彼女は何時も俺を見ていたからだ。後ろに感じる厳しい視線はずっと俺を支えてくれていた。
 久し振りの感覚にマゾヒズムとは違った心地よさを感じる。
 母性……と言ったら失礼だろうか。そんな温かさを俺は感じながらも彼女を部屋に招き入れて行った。





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最終更新:2008年07月22日 18:49
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