「いいか、デス子? この人はプロトさんと言って、俺の教官だった機体(ヒト)だ」
「!? そ、それは先ほどは失礼しました」
「はっはっ、良いよお嬢ちゃん。何、アタシもまだまだイケルのが解って嬉しいさ。
どうだい、シン坊。アタシを身請けしてくれないかい?」
「そ、ソンナのダメですーーーーーー!」
「ミウケって何だ?」
「ふふっ、尻の青いシン坊にはまだ早い話だったかね」
「マスターは知らなくて良いんです!」
ほんのつい先刻の事だ。俺が彼女を招きいれて荷解きの手伝いしている最中
デス子が包丁持って部屋に乗り込んできた。俺は空気を読めずに慌てる事しか出来ない中
結局、それを杖一本で捌いてしまうプロトさんの現役っぷりを見ながらも当て身の一撃で沈むデス子。
気が付いた後、事情を説明した現在。俺と彼女とデス子は卓を囲んで酒宴と言う事になっている。
勿論、呑んでるのは彼女だけで俺達はちゃんとしたノンアルコールのドリンクを酌み交わしている。
酒を飲んでいると段々としおらしくなるというか、今まで見せた事の無い女っぽさを少し感じさせる中
ふと、そういえばまだ聞いてなかった事が頭の中を過ぎってくる。
彼女は今、プラントで新兵達を訓練している筈だ。結構な距離だし、実際プロトさんにも疲労の色が伺えた。
「そういえば、プロトさん」
「ん? なんだい、シン坊」
「何でわざわざオーブまで? プラントからは大分遠かったでしょうし」
「なんだい、こんなロートルばあさんは理由が無きゃ来ちゃいけないってかい?」
「い、いえ。そんなんじゃ」
「マスターはそんなつもりじゃぁ」
「ああ、解ってるよ。いや、暇が貰えたからね。 折角だからシン坊に約束を果たして貰うと思ってね」
僅かに彼女が首を俯けたまま、酒でそうなったのか赤面しているのか良く解らない頬の赤味が
視界の中へと入ってくる。ソレを聞いたデス子は動揺が隠せずにグラスがガタガタと震えている。
全く、プロトさんが着てからどうもデス子の様子がおかしい。
俺が補助で腕を持ったり、体を抱きかかえる度に目をキョドらせて落ち着かない。
おかしいなぁ。最近の戦闘MS達は救護や介護訓練も受けさせないのろうか。
人命を救うのは軍としての基本だというのに。まして、教官は目が悪い。それなのになんでだ?
俺はそんな疑問を頭の中に渦巻いているとでデス子は彼女へと耳打ちをしている。
目の前で内緒話ってなんだよっと思ったが、彼女は目で”黙っとき”と送ってくるので暫くじっとしている。
「約束……まさか、婚約!?」
「ははっ、そりゃ良い。こんなばあさんを貰ってくれるなら将来安泰だね」
「じょ、冗談じゃなくて本気です!」
「ふふっ、シン坊は優しいけど、そんな甲斐性は無いさ。安心しな。 そりゃ、アタシは初めてのオンナ(機体)だけど、それは過去の事だしね」
「は、初めてですか!?」
「おい! 何、話してるんだよ。ヒトの前でこそこそと」
「乙女の相談中です!」
「はははっ、こりゃ良い。アタシも嬢ちゃんに掛かれば乙女仲間入りかい」
デス子は内緒話の間に目をグルグルとさせながらもそれを弄ぶのを愉しんでいる様で
結局、終始笑いの耐えない歓談のまま酒宴は幕を降ろした。デス子と二人で皿を片付けながらも
彼女はテレビを見ていたが……ふと、何かニュースが流れるとソレを黙って消してしまった。
一瞬、彼女の表情に哀愁が見えていたがすぐソレも消えたので見間違いか……それともあれか。
やっぱり目が見えなくなっているのが堪えているのかもしれない。
目が見えないっていう感覚は俺には解らない。何せコーディネイターで視力もばっちり両目2.0。
まぁ、軍人の試験にパス出来るには最低ラインなんだけど、彼女もソレくらい元は見えていた筈だ。
実際、視力を失い世界が見えなくなってから彼女は教官の任務に入っている。
どうしようもない視力と言う力の衰えから戦線から外されるのはやはり辛いのだろうか。
夜になって客間の無い狭い部屋なので彼女をベットに、俺はソファーで寝ることにした。
「プロトさん。冷えますよ……ん、俺のベット臭かったですかね」
「まぁ、男の匂いなんて久し振りだったからちょっと興奮しちゃってねぇ。
それより、なんだい? 夜這いする甲斐性も……ま、こんな老いぼれじゃあねぇ」
「……約束思い出したよ」
「ん?」
「”オーブの海と夕焼けを見せる”って奴でしたね。
今は少し寒いけど、夕焼けは綺麗ですし空気も澄んでるから良いのが見れますよ」
「……思い出したかい。シン坊」
深夜中々寝付けない所、物音と足音ですっかり目が覚めてしまう。
俺は背を向けたまま眠っている振りをしつつも彼女が何をするかじっと待ってみた。
ふらついた足取りでソファーへと近付いた後、逢った時の様に俺の顔をペタペタと触ってくる。
ソノ顔つきも、その気配も何もかも刻み込む様に、傷だらけでマメだらけの手ごつごつした手で
俺の肌を撫でてくる。何かぽたりっと液体が頬を伝うのが感じられたのでそれをきっかけに起きた振りをして
声を掛けた。何故か解らないがその悪戯の水と共にふと彼女と交わした”約束”を思い出すことが出来た。
それは訓練で失敗したときの日、彼女が俺を励ました言葉。
”例え、場所は違えども生きて夕日を拝めりゃそれで良い。ちゃんと太陽さんは見ていてくれる”
コロニーから睨む太陽を見つめながら、人工的に作られる夕日に俺は首を左右に振って告げた言葉に対して
”オーブの夕日はもっと綺麗だった! こんなのは偽物だ!”と言ったことから始まったのだ。
今にして言えば、何と言う田舎根性丸出しと言うかバカと言うか、情けなくなってくる。
「ええ、……考えてたら、自然に」
「アノ頃からシン坊ははねっ帰りだったからね。折角、人が励ましてやったってのにさ」
「……すいません」
「ま、其処もシン坊の可愛い所さね」
「……明日」
「ん?」
「明日一緒に見に行きましょうか」
「そうだね……ふふっ、デートとしゃれこもうか」
「ええ、ちゃんとエスコートして見せますよ」
最終更新:2008年07月22日 19:08