「ふぅ、これで終わりだな」
一息つき、端末からデータを保存したメモリーを取り出す。
端末の電源を落としてからオフィスを後にし、メモリーを渡すために部隊長室へと向かう。
“古代遺物管理部機動六課”。
現在俺、シン・アスカが属している…っていうよりは『保護されてる』部隊。
この部隊は、既に滅びた古代文明の遺産であるロストロギア、その中でも主に『レリック』と呼ばれる
種類の物を回収・封印するために設立された部隊らしい。
正直なところ、このような説明を受けても最初は理解すらできなかった。
というのも、俺はこの世界の人間ではないからだ。
廊下を歩きながら俺は今までのことを思い返していた。
元の世界での戦いの日々、家族の死、仲間の死、護り切れなかった少女、上官の裏切り…。
そして、そいつと戦い敗北したこと。
その直後に意識を失い、目を覚ました時にはここの医務室のベッドだったこと。
行き場の無い俺を保護してくれ、嘱託扱いの隊員としてくれた隊長達。
優しく接してくれる六課の隊員達。 元の世界の事は気がかりだったが、俺はここで比較的穏やかな日々を送っていた。
「これでこの件についての報告書は完成やな。お疲れ様」
微笑みながら労いの言葉をかけてくれたのは機動六課を統べる八神はやて部隊長。
この世界に来て間もない俺の世話を何くれとなくしてくれた人だ。
その気持ちはありがたかったが、ほんの少し年上の女性に保護されたという状況は、
少々複雑な気持ちを抱かせる。
「ほんまにごめんな。雑務を押し付けてばかりで…」
「いえ、俺がここでできることはこんなことぐらいですし」
こちらの世界ではMSのような大型兵器の運用はあまりされておらず、出撃しても小回りが利かなく
あまつさえ味方の行動の障害になってしまう可能性があるらしい。
「でも、あの機体…デスティニーの力が必要になる時がくるかもしれへん」
「その時はシンにも出撃してもらうことになるから承知しておいてもらいたいんや」
――言われるまでもないことだった。
ジャスティスとの戦闘で大破してたはずのデスティニーは、こちらの世界で発見された時には
まったく破損しておらず完全な状態だったらしいのだ。
後で聞いた話によると、どうやらロストロギアの効力によって機体が修復されたのだろうというのが六課の見解らしい。
ロストロギアはデスティニーに溶け込んだような状態で、実質封印状態になっているため
周囲への悪影響は心配ないらしいが、大型兵器であることやロストロギアの影響を受けたことから
機動六課に回収され、パイロットである俺は一時の拘束状態を経て現在保護扱いとなっている。
「…はい、俺とデスティニーにできることがあるならどんなことでも」
遭難者のような状態になった俺を保護してくれた六課には恩もあるし、
何より自分が手に入れた力を何かの、誰かのために使うということに誇りみたいなものを感じるようになっていた。
「うん。シンならそう言ってくれると思っとったけど、やっぱりちゃんとシンの口から聞けると安心できるわぁ」
ほっと安堵の溜め息を吐きながらはやて隊長はわずかに姿勢を崩す。
「ごめんな?疲れてる時に長く引き止めてしまって」
「あ、いえ。俺なら大丈夫ですから。それでは失礼します」
軽く一礼をし、背を向けて退室しようとする
――が、ふっと気になったことがあったので再度はやて隊長と向き合い口を開く。
「あの~」
「ん?どないしたん?」
「前から気になってたんですが、俺ってよく部隊長室に呼ばれてる気がするんですけど」
そう、嘱託扱いになってから俺はよく部隊長室を訪れている。
今回のような仕事の用の時もあれば、一緒にお茶をしないか、などといった
他愛のない事でも呼ばれたりする。
「ちょっとしたことでも隊員とコミュニケーションを取りたいと思ってるんよ。他意はないで」
「は、はぁ…」
あからさまに付け加えられた最後の一言が怪し過ぎる。 何かはわからないけど『他意がない』とは思えない。
「シンは私と顔合わせるのが嫌なん?」
「ちょ、そんなこと言ってないじゃないですか」
「無理せんでええよ。 そっか、シンに嫌われるようなことしてしもうたんやな」
淡々と言いながら立ち上がり、横を通り過ぎていく。
「待ってください!俺の話も聞いて――」
止める間もなくはやて隊長は出て行ってしまった。
なんでこんな風になるんだろう。 俺はただ疑問に思ったことを聞いただけ…のはず。
何だか釈然としないが放っとくわけにもいかないと思い、部屋から出る。
すると、目の前にふよふよと浮かぶ物体。 否、確かこの人は
「えっと、確か…リイン曹長?」
はやて隊長のユニゾンデバイスであるリインフォースⅡ。
初めて見た時にはちっちゃい人間が宙に浮いてて驚いたけど、今では普通に会話をするようになっている。
「むぅ~」
あまりそうは見えないが、怒っているみたいだ。 嫌な予感がする。
「えっと、その」
「よくもはやてちゃんを泣かせましたね!どんな言い訳しようとリインは許しませんです!」
そう早口で言い放ち小さな本――蒼天の書を開く。
浮かび上がる白い三角形の紋様。
逃げようとリイン曹長に背を向けるが、その途端急に寒気を感じ始める。
「頭を冷やして自分の行いを悔いるですーっ!」
「ちょい待ちリイン!やり過ぎやぁ!」
医務室で目を覚ました俺はシャマル先生の診察を受けた。 どうやら背中を霜焼けしたらしい。
けど霜焼けというにはやたら背中が痛い。 凍傷とか低温火傷でも起こしてるじゃないか?
失礼かもしれないがシャマル先生にそう聞いたところ、
思いっきり背中を平手打ちされ、強引に霜焼けと診断された。
しかもしばらくの間、分隊副隊長の2人に無視されたりキツく当たられたりした。
なんなんだよ、もう…。
「ちょっと困らせたかっただけやったんやけど、まさかリインがあそこまでやるとはな…ちゃんと謝っとこ」
最終更新:2008年08月01日 20:35