参照●1の事
「ギャップならシンが来る前の勤務態度で仕事をすればいいのでは?」
シグナムの、この進言に私に光明を見た!!
確かに私の勤務態度は、シンが来る前と来てからでは大幅に違う。
シンがギャップ萌えならば、彼がこちらに来る前までの様に、仕事をすればええっちゅうワケやっ!!
「これから聖王協会の騎士カリムとの会合や、定時前には戻るからそれまで間の、問い合わせや書類整理、それから会議で使う資料の整理も頼む
な、なんか分からん事あったら、グリフィスに聞くとええからな」
「は…… はい、了解です! (なんだ!今日のはやて隊長は一味違う感じが……)」
「リィン、今日はシンのフォロー頼むわ。 前線ばっかりやったから、こういった事務仕事は慣れへんと思うからな。 自分の仕事は簡単な
レポート作成だけやから合間見て上手くやってや、それじゃ行ってくるで」
「はいです! お任せなのです!! (元のマイスターが戻って来たぁぁぁぁぁぁ!!)」
こんな調子で一週間が経った……
彼女は元来有能であり、きちんと仕事をすれば、十二分に働く才女なのだ! いや、頭に超を2つくらい付けても決して言い過ぎではない!!
考えても見て欲しい。 二十歳に届かぬ年齢で、しかも前科持ち。 後ろ盾があったとはいえ、海千山千の管理局幹部を相手に立ち回り、部隊の設立に運営し運用。
部隊の幹部には、詭弁としか言えないリミッター制限を使って異常戦力を集中。
あげくに隊舎まで新築させ、それらを維持する為の予算の獲得を成し遂げる。 さらには畑違いである地上本部からも、将来有望な人材を二人も手元に引き抜き、J・S事件の際には、他所の部隊から筋を通さずにギンガを借り受て、あまつさえ指揮下に置いた程の辣腕を誇る。
暴走さえしなければ、彼女は稀代の官僚である!!! ―――……指揮官としては……まぁ、スルーしておけ
「午後一で他の課の課長と、合同で会議が入っるから。午前中に資料纏めといてな。 フォワードとスターズの両隊長からの、
訓練メニューと施設利用許可の申請書類に、目を通して判断しといてや、それくらいは出来るやろ? 元軍人なんやし。 ハンコはリィンが
持っとる。 念の為に一回グリフィスと内容の確認してからやで」
「了解です! 隊長格を除く、各隊員のデバイスのメンテナンスの日取りを、技術部と打ち合わせして書類で提出します。
戻った後で構いませんので、一度目を通した上で許可を下さい。 それからヴィータ副隊長と医務室のシャマル先生からの、
備品発注はグリフィス補佐官と検討の上で決済してよろしいでしょうか?」
「うん、ええよ。 課として必要な備品やったら発注してかまへん。 でもメンテナンスの日取りはフェイト隊長と、高町隊長と打ち合わせた上
でな。 訓練や常駐シフトとの兼ね合いもあるやろ。 シグナムは訓練無いはずやから同行してな、新参の小娘にはハッタリが必要や、いつ
もより硬い感じでよろしく頼むわ」
「了解です、主はやて。 必要以上に威圧感は出さないよう、かつ低く見られないよう努力します」
「うん、その辺と匙加減は任せるな。 シグナムなら安心やわ、んじゃ行って来るで!」
◇
ここ最近のはやて課長の仕事っぷりは凄い。 いや、凄いと云うだけでは伝えきれない程だ。
流石に若くして一つの課の長を、勤めるだけはあると思う。 バックアップとしての、彼女の有能さは、常に前線にしか居なかった俺にも
理解出来る。
魔導師としてのランクと、後衛としての資質は必ずしも同義では無い。 優れた兵士が優れた指揮官とは違うように、課長として求められるのは人望は勿論の事、他の課との折衝、予算獲得の為の交渉、下から上がって来る、膨大な申請等の処理など多岐に渡る。
補佐が居るとはいってもあくまで補佐だ。 最終的な決断と責任は課長が負う。 聖王協会の後押しがはあると言っても
あの若さで、一つの課を立ち上げたのは伊達では無いと実感させてくれる。 そもそも優秀でなければ後押しなど有りはしないのだから。
全員が退社したオフィスの中で、シンは残務処理と明日の準備をしながら、辣腕官僚と名高いはやてを待っていた。
◇
「はぁ、最近のはやては凄いな…… でも話を聞けば、元々あんな感じでバリバリ仕事してたって言うしな……
なんだかんだ言っても、やっぱり実力のあるキャリアなんだよなぁ…… 俺みたいな前線部隊の戦争屋とはまた違う優秀さだな……」
「上司を呼び捨てとは聞き捨てならんな、修正が必要かな?」
「そうやな、部下の教育も上司に勤めや」
がらんとしたオフィスで、独り言をぶちぶちと呟いていると、いつの間にか帰って来た二人の声に驚いき、慌ててシンは椅子から立ち上がる。
少し眉間にしわを寄せて、あまり聞きたくない単語が聞こえた。
「シグナムはもう遅いから、今日は上がってええよ。 修正は私がしとくからな」
「はっ、主はやて。 お言葉に甘えさせて貰います。 (今日、計画を実行に移す気ですね、主はやて。 御武運を)」
それから一時間。 シンが修正される様子は無く、オフィスではせわしなくキーボードを叩く音だけが響いていた。
シンはちらりと横目で、課長席で仕事をするはやてを盗み見る。
ここ一週間で見慣れたけど、相変わらず仕事中の彼女は凛々しく、覇気に満ちていた。
「ふぁ~今日の仕事は終わりや、シンもお疲れ様な」
「お疲れ様です、はやて隊長」
「まだ一つ仕事が残っとるんやけどな」
「ここまで来れば付き合いますよ」
仕事終え、ゆっくりと背伸びをし、少し意地の悪い笑顔を向けながらはやては、シンに向かってまだ仕事は終わっていないと告げる。
対するシンは、少し皮肉げに唇を歪ませながら返事を返した。 勿論、まだまだやれますよ。 っと云う意味を込めて。
「えぇ心掛けやな、でも残した仕事はシンの上司に対する暴言の叱責やで?」
「げっ!」
「まぁ、そうビビらんと。 ペナルティはちょっと遅いけど夕飯奢りでええで、食堂やなくて私な、行きたい店あんのや」
「うぅ…… こうなったら仕方ないです、でも手加減して下さいね?」
「それは保障出来んなぁ、まぁシンの態度次第で決めような」
「了解です、それじゃ行きましょうか」
はやては故郷である、地球の料理を提供する店を希望した。 なんでもここミッドで、近年で数を増やしているらしい。
やはり故郷の味は懐かしいのだろうか? そんな事を考えると、少しだけ、ほんの少しだけオーブとプラントをシンは思い出した。
だが当面の問題は、感傷よりサイフだ。 一体どんな店なのだろうと、身構える気持ちでシンは目的の店をはやてと目指して歩いた。
そんな気持ちとは裏腹に、はやてが行きたいとねだった店は格式ばったものでは無く、街の小さな食堂と言った感じの気さくな店。
ファミリーレストランよりはちょっとだけ高いが、味は確かで量も多い。 雑誌には掲載されないが確かな店。
とははやての弁。
「シンはこういった雰囲気の店の方が居心地ええやろ? まぁ私もあんまお上品なとこはちょっと苦手やねんけどな。
カリムには申し訳無いけど」
制服の上着を脱いで、ネクタイを軽く緩めながら、微笑んで話すはやて。
仕事時のはやてととは違う、優しい所作にどきりとしながら椅子に腰掛ける。
ディナーのセットメニューと、ワインの中に果実を入れた物を頼んで、料理が来るまでの間に話をする二人。
料理が来てからも話は弾み、互いの料理を分け合うなどをしながら、さらに話は弾んだ。
店を出てから隊舎に戻る二人で歩いた。 大した距離では無かったし、なんとなくはやてと歩きたい気分になったのだ。
お互いにタクシーでぱっぱと帰って、笑顔で手を振りまた明日、と言うのは味気無い。 同じような気持ちだったのか、
はやても笑顔で了承をする。 ほんのり赤い頬は少しだけ飲んだアルコールのせいか、あるいは別の感情のせいか。
隊舎に向けて、ゆっくりと歩きながら、先ほどとは変わって二人ともなにも話さない。
「なぁ、シン?」
「ん? なんですか? はやて隊長??」
「いまは勤務時間やないから、隊長は付けんでええよ。 これは隊長命令な」
「思いっきり矛盾してますよ、それ…… でも、その……努力します。 は……はやて」
久しぶり思えるほどに、ゆっくり流れる時間の中で、掛けた声ははやてからのもの。
呼び捨てなんて始めてで、言って赤くなるシンと、言わせておいて赤くなるはやて。
煮えた頭ではやてが、ちょっと言いずらそうに、そしてかすれる様な小さな声でシンに問いかけた。
「手……繋いでええかな?」
「え? あ……はい」
まともにはやての顔を見れなくなったのか、ちょっと怒ったような顔で、視線を逸らしたシンを見てはやては微笑んだ。
ちょっと短気で、ぶっきらぼうなこの少年は、実は誰よりも優しくて、純粋だ。 赤くなった頬を自覚しながら、同じように頬を赤くして
そっぽを向いているシンの顔をちらりと盗み見た後、しっかりと繋がれている手を見てはやては思った。
(計画通り!!、シンの中で私の株はうなぎ登りやぁぁぁぁ!!今日で行くとこまで行ってもいい位の高感度やでぇぇぇぇ)
隊舎に到着して、手を離そうとしたはやてにシンは思わず手を握る力を強めた。
「え?」
「あっ! その、すいません…… はやて……」
慌てて握った手を離してシンは考える。 ここ最近のはやては信頼に足る上司として、評価を改めてもいた。
以前のようなぐうたらな上司はそこには存在せず、キャリア官僚として、そして何よりも六課の長としてのはやてが居た。
そして、そんな凛々しい彼女は、今はアルコールのせいだろうか、頬を赤くして驚いたようにしながらシンを見つめ返す。
その顔は戸惑いと、ほのかに嬉しさを浮かべていた。
「そないに慌てて離さなくてもええのに」
「えっ、あ…… その…… すいません……」
「謝らんでもええよ、それとな…… まだ修正は終わりやないで?」
「はい、すいません。 って後はどうすればいいですか?」
「ここ最近な、私仕事頑張ったやろ? それのご褒美も一緒に欲しいなぁ」
少しいじけた様子で、小言を言った後、はやてはシンの手を握りなおして、目を閉じた
シン「(や、やばい…… マジで可愛い。 最近はバリバリのキャリアって感じだったのに、今は普通に可愛い女の子で……)」
目を閉じて、可愛らしくキスを要求するはやては信じられないほどに魅力的で、ぐつぐつ煮えた頭でシンは恐る恐るはやての肩に手を置き、
自分の方へ寄せる。 そして自分も目を閉じてゆっくりと……
(きたきたきたきたきたぁぁぁぁ!!!! 一週間もの長い間、なのはちゃんやフェイトちゃんの用にガッツきたいのも我慢して、これでもかって
ぐらい仕事した甲斐があったてもんや!!)
邪な考えとは裏腹に、二人を包む空気は恋人のそれ……
唇が僅かに触れそうなその瞬間、桃色の魔力弾が精密射撃でシンをはやてからブッ飛ばす!!!
「気になってたんだ、ここ最近のはやてちゃんの態度……」
そこでなぜだかはやてではなく、シンにアクセルシューターをブチかます、管理局の白い悪魔が空気を揺らめかせながら、ゆっくりを現れた!!
ジャーンジャーンジャーン!! げぇ!!なのはちゃん!?!? とははやての弁
はやてでは無く、シンに攻撃を当てたのは複雑な乙女心ゆえか! そこ! 冥王とか言わない!!
そして吹き飛んだシンの体が、壁に激突する寸前に金色の閃光が奔り、彼を受け止めた。
その姿、正に雷光!!
「大丈夫? シン? シンは危うくあのチビ狸に騙されそうになっていたんだよ」
ホールにゆっくりとシンを横たえてながら、フェイトが物騒な事を言う。
だがシンはあまりの痛みのせいか、状況がよく分からない。 いや、分かるはずも無いけど……
「なんで邪魔しよるんや? あ? 騙すって随分な言い草やなぁ自分ら……」
いつの間にかバリアジャケット姿になったはやてが静かに答える。
ゆらりと立ち上がる姿は、夜天の王にふさわしい。
「純粋なシンに付け込むようなやり方は良くないよ」
「それにはやてはツメが甘いよ、監視カメラの存在と当直を忘れてたの?」
「シグナム達を抑えとして置いといたはずなんやけどな」
「「いまの私達に敵はいない!!」」
それもそのはず、クロノに頼んで(脅して)リミッターを解除しているのだから、解除していない副隊長と医務室官と犬っころなんぞ、
燃え上がるこの二人の敵では無い。
「シグナムは強敵だけど今は医務室でシャマルと一緒に寝てるよ」
「ザフィーラとリィンもね」
「あの子達の敵討ちもせなあかんわけやな……ん? そういえばヴィータはどうしたん?」
「そういえば見てないね、まぁ居ても敵じゃないけど」
「けど、そんな事どうでもいいよね? 覚悟は出来てる? はやて、私は出来てるよ」
ヴォルケンリッター随一の突貫娘の不在を、怪訝に思いながらも三人は魔力を解放していく。
最早シンに止めることなど出来ようはずも無く。 しかしそれでも、シンは!
シンは三人を止めるつもりで! 痛む体を起き上がらせて一瞬上向き!! ヴィータとバカデカイ鉄槌を見た!!!
「はやての頼みとはいえ納得いかねぇぇぇぇ!! ギガントシュラァァァァァァァークッ!! 往生せいやぁシィィィィィィィィンッッッ!!」
眼前の友達にして恋敵へ意識を集中していたせいか、戦闘モードで対峙していた三人は、反応が遅れて振り向くのが精一杯。
シンは振り下ろされる鉄槌を見て『おいおい、それなんの冗談だよ? 流石に俺に死ぬんじゃね?』なんて事を思った。
「非殺傷設定とかあれの前じゃ意味無いだろ、常識的に考えて。 どうみても魔力ダメージだけじゃ終わりそうも有りません、
本当にありがとうございました。 こりゃ死んだな、俺。 マユ、ステラ、レイ、ミネルバの皆。 いま逝くよ」
死の瞬間、走馬灯が流れるという。 それは脳が過去の情報を超高速で検索し、事態を回避する手段を探す一種の防衛本能だ。
巡る回しく流れ映像、ゆっくりとさえ見える、自らを襲うハンマーを見ながらさよならをした過去の人達に、会いに行く覚悟を決めた。
いま、会いに行きます…… 黄泉返りは流石にムリポ……
数日後
「はい、シン。 あーんして」
「あのな、ティアナ。 見舞いは嬉しいけどそれはちょっと……」
リンゴを剥いてシンに差し出すティアナに、シンは恥ずかしそうに断る。
そこで彼女の剥いたリンゴ並みに真っ赤な顔と、必死な様子を感じ取れないから君はダメダメな奴なんだよ。
微妙な空気が流れる病室、場違いに元気な声の侵入者が来るまで、そこは青春の甘酸っぱいモジモジ空間だった。
「シン! 見舞いにきたよ~あれ? ティアナもいるじゃん」
「なっ! なによ! 居ちゃ悪い!? 同僚の見舞いに来るのがそんなに不自然っ!?!?」
空気読めよ!! そう言いたげなティアナの視線をガン無視して、スバルが鼻歌交じりにプロテインを取り出す。
「「なんでプロテイン?」」
異口同音で疑問を口にする。 見事なユニゾンだ。
「栄養価高いじゃん? 直りも早くなるかな~って、ミキサーとミルクも持ってきたしね。 おっ、リンゴだ。 一緒に入れるよ~
いいよね?答えは聞かないけど」
そういってリンゴとミルクとプロテインを、あっという間にミキサーに放り込み、プロテインジュースを作るスバルに猛然と
ティアナが噛み付く。 そりゃ噛み付くわな。
「ちょっと! なんであんたは人の話を聞かないの!!」
「え~別にいいじゃん、減るもんじゃないし~」
「減るんだよ!! リンゴとかバリバリ!!」
ギャアギャアと言い合う二人に、ため息を付いてプロテインジュースを飲みながらシンは呟いた。
「ここ病室なんだぜ? 静かにしろよって言っても無駄だしな…… あぁ、ゆっくりしてぇな……温泉とか。
おっ、意外にこのジュース美味しいな」
切実な想い。 叶わない願い。 せめて入院生活だけはと、願ってもそれすらも……
「「「始末書が無くならない……」」」
「当然だろ? 始末書だけで済んでることが奇跡なんだから。 あぁ、それからシンの病院は君達には教えないから、そのつもりで。
理由は分かるだろ? 流石に。 そこっ! 手を休めない!! それにしても彼の耐久度は異常だな…… ほらっ! さっさと手を動かす!」
「「「近い内に彼とは実践形式の模擬戦ね……手加減は出来そうもないかな」」」
なんでこんな課の後ろ盾についてしまったのだろう? 僅かに後悔しながらもクロノ提督の叱責は止まない。
そんなは着実に死亡フラグを立てて居る事に気づかない……
最終更新:2008年08月02日 00:38