「―――よ、シン! 相変わらず頑張ってんだな」
「あ…ヴィータ副隊長。お疲れ様です」
他の奴らよりも仕事を先に片付けた私は、息抜きに一人ブラついていた。
やる事も特に無いし、皆の様子を見ようにも邪魔するわけないはいかないし、こうして暇を持て余すしかなかった。
とはいえ、こんな状態で時間を潰すのが勿体無いので訓練場でも覗いていこうと、私は歩を進めた。
そうしたら都合の良い事にシンがいたので、今こうして声をかけたわけである。
「おぉい、別に副隊長なんかつけなくて良いって前にも言っただろ。ヴィータさんと呼びやがれ」
私が来た時点で丁度良い区切りだったらしい。
ただの訓練服姿のところを見ると、どうやら魔法調整でもなさそうだ。
そして一頻り汗をかいたシンは、タオルで顔を拭いていた。
「呼びやがれって……んな無茶な。…あー、コホン。すいませんヴィータさん」
私の言葉に、顔を上げたシンの表情は少し困っていて、その姿が何となく面白い。
「おう、それでいい。勤務中でも、こんな時まで副隊長だなんて呼ばれたら息が詰まるしな。
―――っていうか珍しいな。一人で鍛錬してるなんて、私が付き合ってやろうか?」
実は、彼の場合少し事情が違っていて、シンの戦闘訓練は私やシグナムが行っていた。
元軍人だったとはいえ、ティアナ達とは違い魔導士としての適正訓練を受けたわけではない。
六課で拾われた身で、当初は前線の予定も無かったのだが、ある事がキッカケで魔導士として覚醒したのだった。
―――――まぁ、その話は今は置いておくとして。
ともかくシンは戦闘指導するにも他の奴らとは時期がズレ過ぎてるので、こうして比較的手の空いてる私達が指導したわけだ。
とはいえ、なのは達と違って元々そういうのに慣れて無いせいか最初は色々あって大変だったのだが。
「あ…いえ。ちょいと昔の事思い返してしまって………。
何て言うかこう…とにかく気をまぎらわす為に身体動かしてたんですよ。
「…ふーん、なるほどねぇ。…てか昔って、こっちの世界に来る前の話か?
私も結構色んなとこ飛び回ったけど、お前の世界は全く聞いた事もねーからな。
ちょっとばかし興味がある」
特にヴォルケンリッターとして働いた時は、それこそ右往左往色々なとこへ行ったものだ。
技術が発展した世界、平和で秩序のある優しい世界、荒廃した世界。
しかし、シンの言う世界は私も見たことも聞いたこともなかった。
「まぁ、昔って言っても来る直前の話ですけどね。
あの時、もし俺が勝っていたらどうなっていたんだろうなぁって………」
「―――意外だな。シンにも負けた経験あんのか」
「失礼ですね…。俺だってそういう経験ありますよ」
「いやだってよ。会った時の印象じゃあ、負け戦も知らねぇ感じのクソ生意気な奴かと思ったんだが」
今思えば酷いことこのうえ無かった。
無鉄砲で口が悪いし、一人突っ走ってチームワークも乱すし、拾ったはいいがまさに問題児。
ただでさえ私はこんな性格だから、訓練中だってシンと言い争いも多かった。まぁその度にぶっ飛ばしたけど。
他にも色々な事があったが、まぁ、今はこうして落ち着いている。
訓練を通していく中で、こいつが良い奴だっていう事は私もわかって来た。
だからこうやって気さくに話すのも、シンの人柄を理解したからである。
「言ってくれますねヴィータさん。でもこっちでは負け戦ばかりですよ俺は…」
「アハハハ、確かにそうだなぁ。私やシグナムに訓練でコテンパンにされまくったし」
「実戦訓練では死ぬ思いでしたよ…。もうちょっと手加減ってものを覚えてください」
「うるせーなぁ、別にいいじゃねぇか。生きてるだけめっけもんって事でよ!」
シンの背中を強く叩くと、シンは肩をすくめて溜め息をついた。
「そういう問題じゃあ………」
「ま、それは置いといて話は戻るけどよ。
えっと…昔っていうか、こっち来る直前か? 良かったらその話を聞かせてくれよ」
シンの抗議をあえて無視し、私は忘れかけたシンの世界での話しを持ち出した。
恨めしそうな視線を感じるが、そこは気にしない。
「あとお前さっき身体動かしてたし、喉渇いてるだろ? 話のつまみついでに買ってくるぜ」
そうシンにそう促し私は自販機のところへと向かった。
その後、数分で戻ってきた私はシンにスポーツドリンクを投げ渡した。
ドリンクを手に取ったシンは、どうも、と私にお礼を言うと、運動で消費した水分を補給すべく、勢い良くドリンクを飲みだす。
随分と良い飲みっぷりに、よっぽど喉が渇いていたのだろうか。
私は目を丸くしたが、とりあえず自分も飲む事にした。
ちなみに私はというとアイスココアだったりする。
「―――――そうですね。どこらへんから話すべきか…」
(かくかくしかじか、まるまるうまうまで……)※主にシンがアスランとの最終決戦時を話しています
「―――――というわけです。あそこで俺はアスランに撃墜されたと思ったんですけどね」
「なるほどな。目が覚めたらこの世界に飛ばされてたってワケか」
シンはここに来るまでの一連の出来事を話してくれた。
彼の家族が戦争に巻き込まれ亡くなった事など、凄惨な思いをしてきた事は知っている。
そして彼が自分の世界で勃発した最後の戦い。
どのような思いがぶつかり合ったのか、悲しげに話してくれた。
「えぇ。それに結局、俺かアスランのどちらかが正しかったかはわかりませんでした」
「あのなシン、私から言わせればどっちも正しいなんて言えねぇよ。
お前からの話を聞けばどっちも間違っているといえば、どっちも正しいように聞こえる。
―――――だけど、お前は自分がやって来た事は間違ったと思っていても、信じてやってきたんだろ?」
私もヴォルケンリッターとして、はやてが主になる前から血を浴びた戦いをしてきている。
だからこそこいつの気持ちがわかったのかもしれない。
それに、自分も何が正しいのかどうか幾度と迷ったことがあるから。
「えぇ…まぁそうですけど………」
「ならそれで良いじゃねぇか。仲間を護りたいって理由はわかるぜ。
はやてや仲間達を助ける為だったら私だって喜んで泥をかぶってやるさ。お前だってそうだったんだろ、シン?」
シンはコクリ、と頷いてくれた。
最初の返事とは裏腹に、迷いなく頷いた彼の顔を見て私は満足していた。
と、シンは何か吹っ切れた表情で立ち上がった。
「なんか話したらスッキリしました。ありがとうございますヴィータさん」
「お、おう…。良いってことよ、気にすんな」
あまりにも綺麗な笑顔で振り向いた為、私は何だかしどろもどろになってしまった。
―――――まずい、何だか妙な雰囲気になった。
と言っても、シンは背伸びしているだけで、私だけがそんな気持ちになっている。
別に意識していたわけじゃないけど、何だかこういのは苦手だ、というか困ってしまう。
と、とりあえず言う事だけは言っておこう。
「あ、あのなシン。もしアレだったら、私はいつでも相談に乗ってやってもい―――――」
「―――――ふぅん、何やってるんや自分ら?」
まるで魔王の言葉のように囁かれた事に、私達はビクリと震えてゆっくりと振り向く。
そこには仁王立ちをして笑顔のまま眉間にしわを寄せ、顔にピクピクと血管を浮き立たせたはやてがいた。
「げぇっ…! は、はやて!?」
「はやて部隊長、何時の間にそこに!?」
全く気付かなかった。というか忍び足してここに来たのかだろうか。
ともかくとして、はやてが今私の眼前にいる。それだけで血の気が引いてしまった。
「んな事はどうでもええんや。ところでヴィータ、抜け駆けはあかんなぁ…私の気持ち知っててそういう事するんか?
主を裏切ってまでそんな事しよるモンには、ちぃとお灸を据えなあかんでぇ?」
バキボキ、と指を鳴らし威嚇しまくるはやてに、私とシンは竦み上がった。
ま、まずい…この状況をどうにかせねば。
「い…いや違うんだはやて! 私はシンの相談にちょっと乗ったようなもんなだけで………」
「それが抜け駆けだって言うとるんや! く~、私だってシンに相談された事も無かったんに!」
余程悔しいのかはしらないが、はやては子供のように地団駄を踏んでいた。
いや、というか私は何も悪く無いような気がしてならない。
「あとシン。せっかく訓練場にいるワケやし、少し付き合ぅてあげよか?
あ、嫌なんて言うたら即広域魔法ぶちかますので、そこんとこよろしく」
そんな私の気持ちをよそに、はやてはシンへと標的を定める。
反論しようにも、先に釘を刺されシンは口を噤んでしまう。
ガックリと肩が項垂れた彼の姿に、なんとも同情が込み上げてくる。
―――――って私も他人事じゃねー!?
「うぅ、一体俺が何したって言うんだぁ………………」
「さぁ、訓練気張るでシン。手加減一切無しの本気でやったるで。
…ちなみにヴィータは後でお説教や。覚悟しとき」
はやてに首元の襟を掴まれて嫌々ながら引きずられていくシン。
その後景と、自分が後々起こってしまう未来に深く溜め息が出る。
でも何となく心配なので、とりあえずシンが死なないよう、一応様子でも見ておくか。
―――――その時だけ何故か私の足取りがほんの少し軽かったのは、きっと気のせい。
最終更新:2008年09月06日 19:34