「やっと終わったぁ………!」
時は既に夕刻。早朝からデスクに張り詰め、やっとこさ書類の整理が終わり一段落。
今日は早番であったとはいえ、長時間デスクワークをしていれば自然と身体の至る所が凝る。
いつも書類の山と過ごすのが日課と、冗談まじりに呟いていたはやて部隊長の気持ちが少しわかった気がする。
こんな事毎日続けていれば、流石に頭がどうにかなりそうだ。
ともあれ、一先ず今日の仕事が片付いた俺は、室内を後にした。
―――とりあえず、頭を休めたい。俺はとりあえず一服すべく、コーヒーでも飲もうかと思い自販機のある所へと向かう。
相変わらずだだっ広い建物だなぁと思いながらも、しかし最近はそれに馴染んできている自分がいた。
―――――この世界に来て、もう何ヶ月経ったのだろうか。
暖かい人達に囲まれて、こんな忙しい毎日も楽しい日常の一部と思えてきている。
あちらの世界に居た時の俺なら、きっと考えられない事だろう。いや、きっとこんな風に笑えていない。
あの人達のおかげで、俺は今こうして充実した毎日を過ごしていけるのだろう。
皆の過剰なスキンシップにはいつも困ってしまうけど。
「―――あれ、誰かいるのか?」
いつの間にか目的地に着いた俺は、既に先客が居る事に気付く。
自販機前の腰掛けに座っているその人は、俺のよく知る人物だった。
「ヴィータさん…?」
綺麗な赤髪、そしてあそこまで小柄な局員は少ないので、おおよそ見当がつく。
―――本人の前なんかで言えば折檻決定だけど。
ヴィータさんは、スターズ分隊副隊長兼戦闘教官でもある俺の上司。また鉄槌の騎士として名高い魔導士。
小柄な体躯で華奢ながらも、その外見からは想像も出来ないほどの驚異的な戦闘力で、前線へと赴き戦果を出している。
「はぁ………」
しかしそんな肩書きとは裏腹に、予想以上に落ち込んだ姿がどうにも目に映っていた。
普段、厳しく強気な彼女の印象とは真逆すぎて随分感情の落差を感じる。
さっきから様子を見ているが、溜め息ばかりで頭を抱えており、顔色も優れていない。
「あの…ヴィータさん?」
その姿を見て心配に思い立った俺は、とりあえず声を掛けてみることにした。しかし全く反応が無い。
こちらに気付いていないぐらい、考え込んでいるのだろうか。
「………あのー、ヴィータさーん!」
今度は大きな声で呼びかけると、流石に気付いたのか、ぼうっとした表情でこちらに振り向いた。
「…ん? ……っておぁぁああああッ!! シ、シン何時の間にいたんだよ!?」
先程の沈んだ表情が嘘のように、度肝を抜かれたかのごとく驚いていた。
何かとんでもない所を見られたような、ヴィータさんはそんな驚き方をしていた。
ようやく俺の存在に気付いた彼女は、茹蛸のように顔を真っ赤にして焦っている。
普段キツいイメージのある彼女からは想像も出来ないほどの事だった。
「何時って……まぁ、さっき来たばかりですけど?」
「な、何だって…? うぐぐ…私とした事がぁぁっ………!」
今の状態を余程他の人に見られたくなかったのか、ヴィータさんは更に落ち込んでしまった。
な、何か悪いことしてしまったのだろうか…?
まぁ別に悪いことしたわけでは無いけど、こうも落ち込んでいる姿を見せ付けられると、どうにも胸が痛い。
とりあえず俺はヴィータさんの隣に腰掛けて、事情を聞くことにした。
「一体どうしたんですか? 何か随分落ち込んでるみたいですし…」
「い…いや…それはだなぁ………」
話そうかどうか迷っているいるのか、恥かしげな表情でヴィータさんは言い渋っていた。
よっぽど誰かに聞かれたくないのか頭を掻いて考え込んでしまっている。
しかしすぐさま意を決したのかのように、俺の方へと振り向いた。
「………いいか、誰にも言うなよシン? 絶対に約束だぞ!!」
他言したら殺すと言わんばかりの表情で、ヴィータさんは俺に釘を刺してくる。
いくら何でもそこまで…と思おうとすると、ヴィータさん怒った表情をしていた。
そして、俺の頬を思いっきりつねってきた。
「痛ててててっ―――! 何すんですかぁっ!」
「顔に出てるんだよ馬鹿! 私にとっては凄い深刻な事なんだぞ!」
そう言ってヴィータさんはもっと力を込めて頬をつねって来た。
小柄な体躯から想像も出来ないほどの、とんでもない激痛が俺の頬を襲う。
「あ、謝ります謝りますからともかく離して下さい…! 頬がちぎれるっ!!」
俺がそう叫ぶと、フン、と鼻を鳴らしてヴィータさんはようやく離してくれた。
ただでさえ力が強い人だって言うのに、頬をつねられるぐらいでも半端ではない痛さである。
本気でやられた日には顔面すら無理矢理捻られそうで怖いぐらいだ。
相変わらず何て言うか…いや、止めておこう。これ以上酷い目に遭いたくない。
「…全く、お前が悪いんだからな」
「いってー………。と、とりあえずワケを聞かせてくださいよ」
離してもらったといえ、先程の激痛の余韻が残っており、俺は頬擦った。何なんだあの馬鹿力は…。
とりあえずそんな状態になった理由を尋ねるが、しかしヴィータさんは周囲をキョロキョロと見回していた。
そして、俺の耳元へと顔を寄せてくる。
「いや、なんだ……その…ここではちょっと話しにくいんだよ…。
できれば何処か人気の無いところで…」
余程誰かに見付かりたくないのか、俺の耳元へ小声で囁いてきた。
ヴィータさんの提案に、俺は場所を何処に決めようか、試行錯誤を開始する。
あまり人目の付くところは厳禁だ。かといって、まだ他の局員は余裕で勤務時間。
うーむ、何処かに移動しようにも、人目につかないところといえば―――――。
「……あ、そうだ! だったら俺の部屋でどうですか?」
「え…でもシン、お前まだ勤務中じゃないのか?」
ヴィータさんは心配そうに見詰め返すが、俺は自身ありげに胸を張った。
「大丈夫です。今日は他の皆よりは先に仕事は終えてるんで問題ありませんよ。
それに、今の時間帯に行動すれば、誰かに見付かる事はそんな無いでしょうしね」
「そ、そうか。すまん、助かるぜシン………」
俺の言葉に、ヴィータさんは安堵するが悠長な事は言ってられない。
さっさと寮へ移動しなければ。
俺はヴィータさんを案内すべく、少し警戒心を高めて歩き出す。
―――まぁ、実際に悪い事はしたわけじゃないけど、でも何となくバレてはいけないような気がした。
「―――――それで、一体どうしたんです?」
俺はヴィータさんを自室へ招きいれ、とりあえずお互い座って事情を聞くことにした。
聞くところによれば、ヴィータさん曰く、それは今日の朝が発端だったらしい。
苦虫を噛み潰すような顔付きで、ヴィータさんは重い口を開き、淡々と喋り始めた―――――。
―――――それは今日の朝に遡る。
カーテンの隙間から覗いた朝日の光を浴びて、私は目覚めた。
清々しいくらいに眩しい太陽は、重い目蓋を優しく開かせてくれる。
ベッドから身体を起こし、私は大きく背伸びをし、さらに大きな欠伸をかいた。
「ふわぁあ~、もう朝かよ……ったく」
昨日の疲れが残っているのか、或いは睡眠不足なのか、欠伸が止まらない。
昔とは違い、私は今は一人で眠っている。
六課設立以前からも、はやてと私は管理局の職務の多忙により、昔みたいに一緒に眠る機会は激減していた。
はやてと会う以前はそれも平気だったのに、はやてと離れてから寂しさを改めて実感した。
それでも、はやてとの都合が合えば、そういう機会が無いわけではない。
それに、今は六課の一員としてはやてと一緒に戦える。それだけでも充実した毎日だった。
―――とりあえず過去を振り返るのは今度にして、私はベッドから降りて支度を始めた。
瞬間。ブチ、と何かが破れたような音が聞こえた。
まだ寝起きなので意識が微妙な感じだが、私は周囲を見た。―――特に問題ないじゃん。
気のせいか、と安堵した私は手元を見る。
「ん……? あぁぁああああああああっ―――!!?」
まだ早朝であるのも関わらず、私は盛大な叫び声を上げてしまった。
しかし近隣に迷惑になると気付いた私は急いで自分の口を塞ぐが、今の現状を見て落ち着いてなどいられなかった。
「あ、あぁ…はやてに買ってもらったヌイグルミがぁぁ…」
手元にあるのはヌイグルミの左手。先程破れた音というのは、ヌイグルミから来たものだったのだ。
よく床を見ると、破れた箇所から綿がこぼれ、見るも無残な姿となった兎のヌイグルミだった。
あまりの出来事に、へなへなと腰が抜けてしまった私は、顔が青ざめていく。
誰かに相談しようにも、シグナム達がこういうの得意だと思わないし、なのは達もティアナ達の面倒見るので精一杯だ。
ましてやこの事がはやてに知られてしまったらアウトだ。
部下にそういうの得意な奴いるかもしれないけど、こんな事頼んだら私のイメージが崩れかねない。
かといって自分で直せる技術なんかありはしないし―――――。
やばい、どうすれば。そんな台詞が私の頭の中を駆け巡り、心で叫びが胸中を木霊した。
「―――――で、今に至るわけだが。
とにかく理由はわからないんだ…ただ、朝起きたらあぁなってて…。
うあーっ! そんなにも寝相悪かったのか私って!?」
ヴィータさんは一心不乱に頭を掻き乱して、唸り続けていた。
どうやら、俺が見つけるまでの勤務中もずっとヌイグルミの事が頭に離れず、仕事も集中出来なかったそうだ。
それで落ち込んだ様子を見かねたシグナム副隊長達に諭されて、仕事を早めに切り上げてさせてもらっていたらしい。
大まかに事の筋を説明された俺は、何故かどうでも良い事が頭に思い浮かんでしまった。
―――えっと。話を整理する限り、その兎のヌイグルミを抱いていつも寝ているって事だよな。うん。
「………おいシン。今私の事子供っぽいと思っただろ?」
またも考えてる事が読まれてしまい、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「…い、いいえ滅相もございませんっ―――!」
「私は嘘が大嫌いなんだぜシン………」
―――俺は考えた事が丁寧に文字で表示されているのだろうか。それとも顔に文字が書かれているのか。
ってそんな事を考えてる場合じゃなかった。
鬼神の面相でフラフラと立ち上がるヴィータさんの姿に、俺は冷や汗がダラダラと流れてくる。
「この野郎! 人が相談してるってのに余計な事ばっかり考えやがって!!」
違いますと咄嗟に否定したが、それが完全に付け焼刃の嘘だってバレており、ヴィータさんはさらに怒り出した。
やはり、小柄な体型であることにコンプレックスを感じているのだろうか。
以前も同じような事があった際は訓練に無理矢理連れて行かれ、こってり搾られてしまった。上官に対する不敬が理由とかで。
馬鹿な事を考えてしまった過去の自分を無駄に批難しながらも、振るわれる拳骨に俺は歯を食いしばって目を閉じた。
―――――しかし、何時まで経っても一向に拳骨は来なかった。
不審に思い警戒しながら目を開けると、ヴィータさんは半ば自暴自棄な表情をしている。
「はぁ…いいさいいさ。どーせ私は子供だよ……あーあ………」
普段ならば拳骨もらうトコなのだが、予想以上にヴィータさんは落ち込んでいた。
怒る気力さえも失ってしまったのか、溜め息ばかり吐いている。
聞けば、はやて部隊長に初めてプレゼントされた代物らしい。
それを今でも大事に持っていた事は非常に健気に思えたが、それが今朝になって大変な事になっていたのは言うまでもない。
大切な物が壊れてしまうのは、俺も痛いほどよく分かっていた。
一瞬だけマユの携帯が浮かび、辛い思い出が頭を過ぎるが今は振り払った。
ともかく、この状態の彼女を放っておくわけにはいかない。
それに普段色々お世話になってもらった分、こういう時にこそ手助けしないと。
この世界に来て学んだ事だ。戦う以外にも皆の笑顔を護れること。
それが些細な事であっても、だからこそ支えあって助け合う事が出来る。
俺は頬叩いて気合を入れ直し、すぐさま行動に移すべく立ち上がった。
「お、おい……どうしたんだシン?」
ヴィータさんは頬を叩く行動に少し驚きながら、そして俺を不安そうに見上げた。
普段の彼女がこんなに弱気な態度を取るほど、よっぽどあのヌイグルミが大事だったのかもしれない。
だからこそ、俺は出来るだけ彼女の不安を消せるよう、精一杯の笑顔を見せる。
「ヴィータさん。そのヌイグルミ、今すぐ俺の所へ持ってきてくれませんか?」
俺の話に意図がいまいち掴めないのか、ヴィータさんは困惑している。
―――――だからもう一度、彼女にわかりやすく言ってあげた。
「だから、俺が直しますよ。普段お世話になってるお礼も兼ねて。
一応これでも手先は器用なんで、実はそういうのも結構得意ですからね、」
「………え、えぇっ!? お前マジで言ってるのか!?」
俺の言葉にヴィータさんは呆気に取られていた。
そして数秒考え込んだ後、俺が言った事を何度も小声で復唱して、驚愕の声。
なんだか期待を裏切られたかのような声を上げるので、俺は肩を竦める。
「……というか、そもそも相談してきたのはヴィータさんでしょうに」
ヴィータさんの言動に呆れて溜め息が出る。しかし彼女はじっと俺を見詰めていた。
「―――――ほ、本当に…本当に直してくれるのかシン…?」
先程とは違った、本当の意味での期待と不安が入り混じっている。
お前を頼ってもいいのか。彼女から溢れる感情がそれを訴えかけている。
俺の不安にいつも真剣に考え、答えてくれた仲間達。仄かな理由でも、少しずつ恩返しをしていきたい。
「ご心配なく、大丈夫ですよ。……その、昔ですけど…ヌイグルミを直した経験もあるので。
―――ともかく、出来れば早めにお願いします。ヌイグルミと同じ色の糸を購入したいので。
それに、今ならまだ市街地で必要な道具買えそうですから」
俺の言葉を聞いてヴィータさんは、ぱぁっと年相応の少女のように顔を輝かせた。
その幼い表情から、妹の事を思い出してしまい、胸がちょっとだけ痛む。
ヌイグルミを直した経験があったのも、元々マユが持っていたヌイグルミを俺が直してあげた事があるからだ。
「わ、わかった! すぐ持ってくるからちょっと待っててくれっ!」
少しだけ感傷に浸っている俺をよそに、ヴィータさんはそう言い残してドタバタと急いで部屋を出て行った。
危なっかしい走り方だったので少し心配だったけど、でも彼女の前で思ったらまた怒られてしまうかもな。
「…ふう。早番だったからゆっくり休めると思ったけど……これは徹夜になりそうかもな」
ヌイグルミを買ってから十年近く経っているらしいし、おそらく所々傷んでいるはず。
こうなったら徹底的に直してみよう。
それと、夜食とコーヒーも用意しなくてはいけないなこれは。
しかし裁縫道具なんて何処にあるかわからないしなぁ。
それに秘密を漏らさない為には、誰かから借りるわけにもいかない。
―――――うーん、給料日前だけど仕方ないか。
―――――翌日。私はシンの部屋に来ていた。
ヌイグルミを快く引き取ってくれたシンは、一人市街地に向かっていった。
私も一緒に着いて行きたかったが、シンに止められて私は自室で大人しくしていた。
手伝おうにも、私の事を気遣ってくれて、シンに任せっきりになったのである。
その後もずっと気になっていたけど、無理矢理眠る事は出来た。
いつもより早めに起床し、ともかく私は居ても立ってもいられなかった。
シンが一夜漬けで直すと言っていたのもあるが、どうなったのか不安でしょうがない。
だけど、彼の身を案じないワケではない。無理を押し通して作業を続けているのだから。
そう思いを巡らせて、私は今こうしてシンの目の前にいる。
―――胸の鼓動が治まらない。不安と期待が胸中を渦巻いて、私の心を支配していく。
でもそんな中、シンはニコニコしながらヌイグルミを取り出した。
「―――――はい、ヴィータさん」
「ほ、本当だ……綺麗に直ってる!」
言葉通り、綺麗に元通りになっていた。
昨日の酷い有様が嘘のように、いやそれすら無かったかのように戻っている。
それと同時に、ここまで出来るシンの器用さに私は驚いた。
「破けたというより、単純に糸の解れからあぁなったんでしょうね。
元のように縫えば全然大丈夫でしたよ。他も外れないよう補強もしておきました」
一人感嘆していた私に、シンは説明を度々入れてくれた。
確かに触ってみると、前よりも縫合部分が所々良くなっている。
それに妙にフカフカしてると思ったら、彼がわざわざ綿の中身を新しく取り替えてくれたらしい。
別に無理してそこまでしなくても良いのにと言うが、彼はやるなら徹底的に直したかったと恥かしそうに喋っていた。
でも、そんな不器用で一生懸命な彼の気持ちが私は嬉しかった。
「当分持つと思いますけど、また何かあったら言ってくださいね」
「うんっ………ありがとうなシン!」
私が素直にお礼を言うと、彼はそっぽを向いてこんなの朝飯前です、とぶっきら棒に言い返してくる。
自然と笑いがこみ上げてくる。私が言うのも何だが、彼ももう少し素直になればいいのに。そう思えた。
―――今度飯でも奢ってあげようか。いや、他にも色々お礼をしてあげないと。
しかし彼の様子を見る限り、予想通り顔色が優れていない。
目蓋の下には隈が出来てるし、眠たそうに少しふらついている。
私は心配になって声を掛けるが、彼は強がって見せていた。
馬鹿だなぁ、と思いながらも単純に心配をかけたく無いのだろう。
「すいません、起床時間まで少しですけど眠ります……」
「いいって、気にするな。あんまり遅かった私が直々に叩き起こしてやる」
その言葉にシンは少しだけ笑みを溢すと、瞳を閉じてあっという間に眠りについた。
そのへんの子供よりもよっぽど寝付きが良いんじゃないかと思えて、私は寝顔を見詰めながら静かに笑っていた。
そして出来るだけ起こさないよう、最後にシンに呼びかける。
「おやすみな、シン………それと…本当にありがとう」
彼の耳元で出来るだけ優しく呟いてみる。
慣れない事はするもんじゃないかな、と自嘲気味に私は笑った。
柄にも無いことしたとは思ったけど、彼の寝顔を見てある事が浮かぶ。
―――もしかして本当は聞こえているんじゃないだろうか。
今の彼に限って狸寝入りなんて無いだろうけど、自分のした行動が途端に恥かしくなってきてしまった。
胸が熱くなるのがわかる。でもそれがとても心地良かった。
それが何であるのか、今の自分には理解できない。
―――でも、今日はいつもより気分が良かった。
私は心地の良い胸中のまま、静かに彼の部屋を出て行く。
とにかく、誰かに見付かる前にさっさと戻らないと。
せっかくシンが気を遣ってくれたワケだし、私は早足で自室へと向かっていく。
馬鹿みたいに軽い足取りも、迎えた朝日も、そんな優しい全てが私を包んでいる。
そんな気持ちを与えてくれた不器用な少年に心の中で、もう一つのお礼を言ってあげた。
<おまけ>
「……あのさ、はやて。ちょっと良い?」
「ん、どしたんヴィータ?」
「はやては、好きな相手にお礼するとしたら…その…どうする?」
「……ん~? 随分変なこと聞くんやねぇヴィータ?」
「い…いや、実はキャロに相談されてだな。ごめん、出来れば他言しない方向で…」
「ふーん、なるほど。プレゼントは相手の好みにも寄るから、何とも言えへんけど…。
私だったらせめてキスぐらいはしてあげたいなぁ」
「ぶふっ!!? き…ききき…キス…?」
「極論や極論。女の子なら許される切り札やと思えばええよ。
まぁ、でもあの子達がそういうの出来るとは思えへんし…まだ早いかも知れへん。
―――――っていなくなっとるし! あかんでヴィータ、あの子達に言ったらあかんよっ!!」
――――その後どうなったのかは、貴方の想像の赴くままに。
最終更新:2008年09月22日 13:11