「…うっ…うん?…ここは?」
オーブに住む少年、シン・アスカは小綺麗な医務室で目を覚ました。
周りをキョロキョロと見渡し、自分が何故このような場所にいるのか記憶を辿った。
しかしいくら思い出そうとしても、何か良くない事まで思い出してしまいそうで気が進まない。
そうやってベッドの上で唸っていると、部屋の自動ドアが開き、一組の男女が入ってきた。
「…あ、あの」
「おう、目が覚めたか。具合はどうだぼうず」
僅かにウェーブのかかった赤い髪の男が陽気に話しかけてくる。
「え、えっと悪くないです。けど…」
「アクセル隊長。まずは状況を説明しちゃったりなんかしちゃったりしたほうが
よろしいかとぞんじますが?」
男の後ろに従っていた女が妙な敬語でアクセルと呼ばれた男に話しかける。
絶世の美女というべき風貌だが、その美しさはどこか作り物めいた印象をシンに与えた。
「ん~、そうだな。俺たちはシャドウミラー。主に人助けとトラブル処理が仕事だ」
「は、はぁ…」
いまいち飲み込めないシン。
「んで、俺たちが通りがかった所にお前さんがたまたま倒れていて、それで保護したってワケだ」
「えーと、僕はなんで倒れていたんですか?いまいち思い出せなくて」
「そ、それはだなぁ…」
アクセルがどこか困ったように言葉に詰まる。
一瞬の静寂が医務室を包むが、それは備え付けのインターフォンの呼び出し音で破られる。
「私がでますです」
「お、おう」
女が素早く対応し、何か聞かされているのだろうか。
二、三回頷くとこちらに向き直りアクセルに言った。
「隊長、レモン様がお呼びです。後の説明は私がいたしまするのでご心配なく」
「そ、そう。じゃ後はラミアちゃんにお任せなんかしちゃったりして…」
アクセルはどこかホッとしたような面持ちで慌てて出て行った。
「さて、君の質問に答えよう。なぜ自分が倒れていたのか、だったな。
それは君が機動兵器同士の戦闘に巻き込まれ、流れ弾に当たったからだと思われる」
「…え?」
「私たちもその場面に居合わせたワケではなく、君が倒れていた周辺の状況から推測したに過ぎないが
おそらく間違ってはいないはずだ。なぜ私たちが君のところに現れたのかと言うと…」
「あ、あの!」
ラミアの言葉を遮り、シンが何かに怯えるような表情で言った。
「父さんと母さんは?!それに、マユ!マユ、えっと僕の妹はどうなったのか分かりませんか!?」
「…」
ラミアは少し言いづらそうな顔をして言った。
「君が倒れていた場所の近くに三人の遺体があった。恐らくは君の家族だろう」
「そんな…そんな嘘だよ。嘘だっ!」
否定の言葉を重ねてもどうしようもなかった。
シンの脳裏には、気を失う寸前に見た変わり果てた家族の姿がはっきりと蘇っていた。
声を上げ泣きじゃくるシンをラミアはそっと抱きしめた。
泣き疲れて眠ってしまうまで、シンはラミアの胸で泣き続けた。
半日後、目を覚ましたシンを連れてラミアはブリッジへ向かった。
ブリッジにはアクセルの他に、神経質そうな黒髪の男、妙齢の美女
ウェーブの掛かった長髪の男がいた。
「初めまして、私はシャドウミラー隊総司令官のヴィンデル・マウザー大佐だ。
さて、これからの君の扱いだが…」
「あの、僕をあなたたちの仲間にしてください!!」
いきなりのシンの言葉にブリッジの空気が一瞬、凍り付いた。
いち早く復活したアクセルがシンを宥める。
「ぼうずいきなり何を言ってるんだ。お前さんはまだ気が動転してるだけだ。もっと冷静に」
「人助けが仕事なんですよね?だったら僕にも手伝わせてください。お願いします!」
「…よかろう」
「ええええぇぇぇぇ?!」
あっさりと承諾したヴィンデルにアクセルが驚きの声を上げる。
「いや待てヴィンデル!?まだ子供だぞ!?それもこんなにあっさりと」
「後で説明はする。とりあえず黙っていろ」
ばっさりとアクセルの抗議を切り捨て、シンに視線を向ける。
「我々の仕事が人助けだといったな?そう、それは間違っていない。だが、人助けだけでは無い。
次元転移技術によるトラブルなどを解決のするのがシャドウミラー最大の使命」
「次元…転移…?」
「そう、幾多の平行世界を股に掛け、次元転移の悪用を防ぐ事こそが我ら転移戦隊シャドウミラーの使命なのだァ!!」
最初に見せていた厳格な雰囲気はどこへやら。熱弁どころかへんなポーズまでとっている。
妙齢の美女は愉快気に、アクセルとラミアはどこか呆れている。
神経質そうな男など、頭痛を抑えるように眉間を押さえている。
ダメだこのワカメ、早くなんとかしないと。
「ラミア、その子の世話はあなたが見なさい」
「わ、私がござりまするでありますか?しかし、私は…」
「今のあなたなら大丈夫よ。自信をもちなさい」
「はい。一生懸命がんばっちゃうでございまするです」
「シン、分からない事があったらなんでもこの娘に聞きなさい」
「は、、はい!えっと…」
「レモン。レモン・ブロウニングよ。よろしく」
「分かりました、レモンさん」
ラミアと連れだってシンはブリッジを出て行った。
シンがいなくなった事に気づかず、熱を帯びた演説を続けるヴィンデルと呆れかえった男二人を眺めながら
レモンは愉快そうに唇を歪めた。
「ふふ…特異点、か」
シン・アスカの運命は動き始めた。
最終更新:2008年09月23日 19:37