シンがシャドウミラーに入隊して早一ヶ月。
日課となっている訓練を終え、シンはシロガネの甲板へと足を運んだ。
満天の星空と漆黒の大海の中に白銀の船体は静かに浮かんでいる。
手すりに背を預け、シンは星を見上げながら溜息をついた。
「夢が怖いから眠りたくない、って情けないよなぁ」
あの日、家族を失って以来、シンはそのときの情景を夢でよく見るのだ。
それ以来シンは睡眠という行為に恐怖抱いていた。できることなら眠らずに過ごしたい。
だが眠らないで過ごすことなど人間には不可能であるし、いつも訓練で疲れた体に押し寄せる睡魔に
よって、結局は抵抗虚しく眠ってしまうのだ。
このような場所で愚痴を吐いていても意味の無いことなどは分かり切っている。
それでもシンは部屋に戻る事をためらっていた。
と、そこへ
「シン。こんな所で何をしているのだ?」
「ラミアさん…」
シンが視線を下げるとラミアが立っていた。たぶん、見回りでもしていたのだろう。
「浮かない顔をしているが、どうかしたのか?私で良ければ話を聞くぞ」
「実は…」
連日の悪夢に弱きになっていたシンは悩みを打ち明けた。
人に話してどうにかなるとは思えないが、何かしらのアドバイスをもらえるかもしれない。
藁にも縋る気持ちだった。
「ふむ、なるほど…」
あごに手を当てて、むーっと考え込むラミア。
そして、とんでもない提案をだした。
「ならば君が寝付くまで私が添い寝をしよう。このような事例には添い寝がベストだとデータに出ている」
「…へ?ええええええぇぇぇ?!」
シンはラミアの発言の意味を理解すると、顔を赤くして驚きの声をあげた。
ラミアが人造人間であることは既に聞かされているが、シンからしてみれば人間にしか見えない。
その上、外見は誰もが認めるであろう美女なのだ。健康な男子であるシンにとって刺激が強すぎる。
「遠慮はいらない。君の世話をするように言われているし、これは私自身の意志でもある」
ラミアはシンの手を掴むと、そのまま部屋に向かって歩き出した。
シンはまだ思考が回復していないのか、ほぼ無抵抗でラミアに引っ張られていった。
その夜、久しぶりに悪夢を見ることはなかった。
だが別の理由で寝付けずに翌日、寝不足でフラフラになっているシンの姿があった。
彼の悩みは当分の間、解決しそうに無いようだ。
最終更新:2008年09月23日 19:51