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転移戦隊しゃどうみら~ 幕間その四《日常》

 転移戦隊しゃどうみら~ 幕間その四 《日常》

 原始の姿を残す大密林。丈が10メートルを超すであろう木海に真紅の狙撃者は身を沈めていた。
 RGC-034ラーズアングリフ。Type34とも呼ばれる陸戦・砲撃戦闘用の人型機動兵器である。
 その圧倒的なパワーであらゆる地形を走破し、無慈悲なまでの火力と超越者の如き射程で敵対者を殲滅す
 るそれは、正に兵器という物の体現者であった。
 だが、ラーズアングリフは身を潜めていた。兵器としての自らよりも更に強大な天敵を怖れるように。朽
 ち果て、自然に飲み込まれた古代の遺跡のように。そして、どれほど待っていただろうか。大海を進む神
 話の巨人のごとく、大密林をかきわけながら狙撃手の目標が姿を現した。
 EG-Xソウルゲイン。格闘戦での戦闘力を追求した特機である。
 鎧であり、恐るべき打撃力の源ともいうべき、人工筋肉に包まれた金属の巨人は悠然と歩を進める。その
 姿からは傲慢ともとれる絶対の自信が感じられた。

 ラーズアングリフのパイロットはコクピットの中で息を殺していた。密閉された空間での呼吸音など、い
 くらあの巨人だとて聞き取れるはずは無い。だが、極度の重圧はそのような正常な思考を、パイロットか
 らあっさりと奪い去っていた。そして本来なら我慢比べであるこの戦闘を、早期に終結させることをパイ
 ロットに選択させた。こちらに背を向け、ゆっくりと歩み去っていくソウルゲインの後ろ姿を見つめなが
 ら、狙撃者のパイロットは思考を加速させ、頭脳を回転させる。

 ――フォールディング・ソリッドカノン?
 却下。動き始めを補足された場合、確実にバレル展開は間に合わない。

 ――マトリクス・ミサイル?
 却下。広域分散型の攻撃手段では、アレ相手には軽すぎる。

 ――ファランクス・ミサイル?
 却下。同上。

 ――リニア・ミサイルランチャー?
 却下。牽制用の武装など、意に介さず突き進んでくるだろう。

 ――残された武装は?
 ……

 出力状態を、静粛戦闘待機から最大戦闘状態に瞬時に変え、ラーズアングリフは木海から飛び出した。マ
 ニュピレーターに握られているのは一振りの白刃。敵に接近戦を許した時を想定されて装備されているシ
 ザースナイフ。人間でいえばコンバットナイフにあたる武器だ。ソウルゲインを相手取るには貧弱な武装
 、といってもいい。
 ラーズアングリフのパイロット――シン・アスカが選んだのは奇策であった。機体の性質上、相手は接近
 戦を挑んでくるとは思わないはず。そこにつけ込み、相手の急所に全力で先制かつ必殺の一撃をたたき込
 む。どれほど強大であろうと、人の操縦するマシーンである以上弱点は存在する。更に言えば、シン・ア
 スカには突撃癖が有り、接近戦を好むという性格でもあった。
 五百メートルほどの距離を一瞬で詰め、陽光で煌めく刃を左脇腹の辺りに突き出す。
 ――狙いは動力部。ここを潰せば!
 だが、その目論見はあっさりと崩れ去った。
 左回りに反転したソウルゲインは、反転しながらの左膝の一撃でラーズアングリフの右腕を粉砕し、シザ
 ースナイフごと吹き飛ばした。更に、体の回転の乗った、膝を引く動きと連動した右腕の肘打ちによって
 吹き飛ばされる。ラーズアングリフの二倍近い巨体と最新型人工筋肉の柔軟性から繰り出される打撃は、
 それだけで生半可な火器よりも凶悪な、必殺の一撃となる。乗っていたのが頑強、重装甲のラーズアング
 リフではなく、軽装甲のアシュセイバーならバラバラになっていただろう。
 激しい振動に見舞われるコクピットの中で、シンが必死に機体を立て直そうとしていると、通信回線から
 男の声が漏れ聞こえた。

 《発想は悪くなかったが……俺とソウルゲインを甘く見すぎたな》

 ソウルゲインパイロット、アクセル・アルマー。今の彼には、普段の陽気な面影など一切が無く、冷静に
 して冷徹な、シャドウミラーの戦闘隊長としての姿しかなかった。
 こちらに向き直るソウルゲインに背筋が凍り付く。咄嗟にシンは後退を選んだ。距離をとり、自分に優位
 なバトルフィールドを形成しなくては。だがしかし……

 《逃がさんぞ! 玄武剛弾!》

 アクセルの叫びを音声認識システムが確認し、ラーズアングリフに向けて突き出した両腕の、手首の部分
 のブレードと一体化した装甲が腕を軸にして回転を始める。小規模の竜巻を纏った両腕は猛烈な勢いで射
 出され、後退しようとしているラーズアングリフに突き刺さり、目標を完全に粉砕した。

 爆炎に包まれるラーズアングリフを見下ろしながら、アクセルは手元のコンソールを操作し、呟いた。

 「目標は完全に破壊。全作戦を終了する……以上」
 《了解。シミュレーションの終了を確認》

 機内スピーカーからの合成音による確認のメッセージが終わると同時に、戦闘によって薙ぎ倒され、荒れ
 果てた大森林が蘇る。ソウルゲインの眼前には、原型を留めないほどに破壊されたはずのラーズアングリ
 フが、傷一つ無い姿で立っていた。
 アクセルは回線をラーズアングリフに繋ぎ、普段の陽気な口調で話しかけた。先ほどまでの張り詰めた雰
 囲気は完全に消え去っている。

 「ようシン、なかなか惜しかったんだな、これが」
 《全然、惜しくないですよ》

 ふて腐れたようなシンの声が返ってきた。予想通りの反応にアクセルはつい笑いそうになったが堪えた。
 負けず嫌いのシンは、模擬戦に負けた後はいつもこんな感じなのだ。そして、付き合いも長くなってきた
 アクセルは、こんなシンの宥め方も充分に心得ていた。

 「しっかし、ラーズで接近戦を挑んでくるとはねぇ……お前さんの突撃癖も此処まで来るとたいしたモン
 だ。思い切りも良いしな。ラミアちゃんあたりは怒りそうだが――」
 《まったくでございますです》

 突然、通信に割り込んできた声にアクセルは驚く。更にソウルゲインのレーダーには新たな動体反応。ア
 クセルが空を見上げると、そこには太陽を背に、一体の天使のシルエットが浮かび上がっていた。
 言うまでも無く、それはラミア専用の特機、SMSC-アンジュルグである。

 《シン。その迂闊な突撃癖は、死に直結するとあれほど言っただろう?なのに何故――》

 いきなりラミアのお説教が始まった。
 こうなると長いからな~、と思い、まあガンバレシン。怒られるのは若者の特権だ。などと、妙に年寄り
 ぶった事を考えながら、アクセルはシンの乗機に視線を戻す。ラーズアングリフは空を見上げたまま、ピ
 クリとも動かない。心なしか、落ち込んでいるようなオーラを放っている。ラミアちゃんもタイミングが
 悪ィなぁ、何て考えていると突如、ラーズアングリフが戦闘機動をとった。

 「へ?」

 驚いたアクセルが再び空を見上げると――

 シンは素早く回避行動をとり、大量にばらまかれ地上に降り注ぐシャドウランサーを回避する。必死に回
 避を続けるシンの耳に、死神の宣告のごときセリフが飛び込んできた。

 《いくら言っても分からないようなら、直接たたき直すしか無さそうだ。私を相手に最低でも30セット
 は付き合ってもらおうか。何、苦しいのは最初だけだ。すぐ楽に、気持ちよくなってくるぞ?》

 ふふふふふ、と不気味な笑いすら聞こえてくる通信にシンは泣きそうになった。回避ポイントを探し回る
 シンの視界に、のたうち回るソウルゲインの姿が入った。最初の一撃がよほどいいところにはいったので
 あろう。更に流れ弾も何発か喰らっている。
 ――てか、直撃弾が多くないか?
 ラミアほどの技量があれば、無駄な目標を除外し、シンに対して適度な弾幕を張ることが可能なはずだ。
 もしかして狙ってやってるのか?そんな事を思い始めた時

 《ふふふふふ、隊長にもお仕置きが必要であったりしちゃったりするかもしれんですわ》

 壊れた口調でとんでもない事を言い出した。ラミアの言語回路は今日も絶好調のようだ。
      , ,
 《ふふ、うちのシンがあんな闘い方をした原因はきっと隊長だったりしちゃうはずなのよ。それを拙者が
 矯正するのにどんだけ苦労してるかアクセル殿も理解するべきなのね~》

 敬語を話すときにのみ、異常をきたすラミアの言語回路ではあるが、今日の壊れっぷりは最早、言語モー
 ドの設定が狂っているというレベルではなかった。相当に怒っているようだ。
 刹那、弾幕が止み、シンは逃げながら空を見上げた。アンジュルグの手には弓が握られている。
 ――マズイ。
 咄嗟にシンは両肩のマトリクス・ミサイルをアンジュルグに放った。飛翔する大型のミサイルケースの弾
 頭部から大量の小型ミサイルがばらまかれ、アンジュルグに殺到する。
 ――このタイミング、当たった!
 だが、結果は残酷なものだった。ミサイルが接触する瞬間にアンジュルグの輪郭がぼやけ、霧散した。ア
 ンジュルグに組み込まれている分身機能が発動したのだ。

《リミット解除》

 ミサイルの大群をやり過ごしたアンジュルグの手に光る一条の閃光。シンも何度か見たことがある、アン
 ジュルグの必殺技。その名は――

 《コード、ファントムフェニックス!!》

 放たれた閃光は、全て焼き尽くす幻影の不死鳥へと姿を変え、圧倒的な破壊を伴い、地上へ舞い降りた。
 閃光と巻き上がる粉塵、さらに大轟音。破滅的な暴力の余波によりモニターが一時的な死を迎え、機体
 も吹き飛ばされる。中の人間をシェイカーに掛けるように。
 数瞬の混乱状態から意識が覚醒し、シンは直ぐにダメージチェックをおこなった。

 「つ……機体は……まだ、動く? 思ったよりもダメージが無い」

 転倒した機体を起こしながら、周囲を確認してシンは驚いた。大森林は巨大なクレーターに姿を変えてい
 たのだ。ラーズアングリフはクレーターの縁の部分。どうやら直撃を外されたおかげで無事なようだ。
 そのクレーターの中心部に、大の字になってぶっ倒れているソウルゲイン――ボロボロという形容詞がぴ
 ったりだ――を踏みつけてたたずんでいるアンジュルグの姿があった。

 《隊長、これに懲りてシンの無茶を助長するような発言を慎んでくださるとあたくしとっても嬉しいんだ
 よ?ねぇ、ボクの話、ちゃんと聞いているのかな、かな?》
 《……う、うーん……ら、らじゃー……っす……》

 死にそうなアクセルの肯定の返事とともに、ソウルゲインは仮想空間から溶けるように消え去った。アン
 ジュルグがラーズアングリフに向き直る。クレーターの中で対峙する二機。だが、シンは機体の中で震え
 っぱなしで、おまけに今すぐ泣きそうだ。

 《さあ、次は君の番だ。ふふふふふ、今日の私はとことん止まらない!》

 狩る者と狩られる者の一方的な死闘が幕を開けた。

 シミュレーションルームの様子を見に来たエキドナは、呆れがたっぷりと詰まった溜息をもらした。仮想
 空間の様子が映し出されたスクリーンには、暴れ回るアンジュルグと逃げ回るラーズアングリフの姿が映
 し出され、スクリーン備え付けのスピーカーからはラミアの笑い声とシンの悲鳴、破壊の怒号が絶え間な
 く鳴り響いている。早々に退場したアクセルはシミュレーター・コクピットの中で完全に伸びていた。
 エキドナは、スクリーン観賞用の小さな椅子に腰掛け、模擬戦も見ずに何かを熱心に操作している大男に
 声を掛けた。手に持った、大柄な体に不釣り合いな正体不明の携帯端末のような物が気になったのだ。

 「ラミアたちもそうだが、お前は何をしているのだ、ウォーダン・ユミル?」
 「我はメイガスの剣なり」

 そういって、手に持った物をずずいとエキドナに突きつけた。白を基調としたボディーに小型のプラズマ
 画面。画面の中では可愛らしくデフォルメされたソフィア・ネート博士が手を振っている。プリントされ
 たロゴには「メイガスといっしょ♪」と書かれていた。
 無言でウォーダンにそれを返し、エキドナはフラフラと部屋を後にした。心の中で、どいつもこいつもと
 悪態をつく。今日はシンのシミュレータ訓練を合同で行うはずではなかったのか? それなのに!!
 そもそもトップのワカメからしてアレなんだと半ば八つ当たり気味な思考に発展する。
 ――それとも。
 変われない、馴染めない自分がおかしいのだろうか。

 「レモン様……私は壊れているのでしょうか?」

 悲劇のヒロインの様な表情を浮かべ、誰もいない廊下で一人芝居を始める最新型の人造人間。レモンが見
 たら「あなたも充分、馴染めてるわよ」と言ってくれるであろう。

 「とりあえず、ストレスの緩和が必要だ。今夜はシンを抱き枕にして回路の負荷を和らげよう」

 うんうんと頷きながらエキドナは去っていった。
 シャドウミラー隊の日常はいつもと変わらず、平和であった。

 続くんだな、これが





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最終更新:2008年09月23日 20:07
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