やや陽が傾き、水泳大会も中盤を過ぎた。
春香もやよいもいくつか競技をこなし、そこそこの結果を残していた。
しかし、千早は未だ何の種目に出るのかさえ決まっていなかった。
「千早、まだ踏ん切りがつかないのか?」
「えぇ……来てみたのはいいけど、やっぱりあまり気が進まなくて」
それもそうか、とシンは納得する。元々歌と関係のない仕事を嫌っていた千早がある種の見せ物でしか
ないこのイベントに乗り気にならないのは容易に想像できることだった。
ベンチに腰をかけた千早は憂鬱な溜息を吐いて再びスケジュール表を眺める。かなり時間が経ったの
で参加できる競技は徐々にではあるが少なくなってきている。
「プロデューサーからも、せめて2つは出てほしいと頼まれたけど……」
「う~ん、ちょっとそれ見せてくれないか?」
「え? いいけど……っ!?」
了承を得たシンは千早の持つスケジュール表をじっと見つめる。すでに終わった競技はもちろん、既に
参加希望が打ち切られた種目を除外していき、残ったものの中から千早が出れそうなものを探し出す。
その間、シンと千早の顔は息が触れ合うほど近づいていた。
「シンクロは経験ないと難しいし、春香とやよいも今別の種目に出てるからなぁ。800メートル自由形……
どう考えても体力的にキツイし無理か。っていうか番組としてどうなんだこれ。ん? 潜水競争があるじゃな
いか。千早は肺活量はあるし、これならいけるんじゃないか……千早?」
「えっ!? そ、そうね、確かに肺活量には自信はあるわ」
反応がないことを不審に思ったシンだったが、突然立ち上がった千早に違和感を覚えつつもひとまず
競技が決まったことに安心した。
「でも泳ぎはそこまで得意じゃないから、あまり期待は……」
「それでもいいんじゃないか? 結果とか気にせず俺は千早を応援するだけだし」
あっさりとそう答えたシンを千早は不思議そうな顔で見つめていたが、すぐに気恥ずかしそうに顔を逸ら
した。
「……だから、そういう風にされると困るというか、やっぱりあまりやる気にはなれないし」
「だったら気楽にやればいいさ。他にやることもないし、ここでエールでも送っとくよ」
もう、と呟きながらも千早はやや真剣な表情になり、プールへと視線を向ける。
「――わかったわ、やれるだけやってみる」
「あぁ、がんばってな」
「えぇ、応援の分くらいはね」
小さく笑みを浮かべながら潜水競争に挑んだ千早は、鍛え上げた肺活量と元来の負けず嫌いも相まっ
て見事に勝利を勝ち取った。
「千早さん、すごいですっ!」
「うんうん! あんまり乗り気じゃないって言ってたけど、頑張ったんだね!」
「も、もう……あんまりからかわないで春香」
千早が勝ったことで応援したかいがあったと思う反面、シンの中で緊張が高まっていった。
――決戦の刻、水上騎馬戦のエントリーが始まるアナウンスが流れた。
最終更新:2008年11月07日 00:17