CE74、二度の大戦が終わり、世界は平穏を保っていた。
プラント評議会議長ギルバート・デュランダルとプラントへと戻ったラクス・クライン。
そしてムルタ・アズラエル理事を筆頭とした地球連合穏健派の協力により、世界の裏に根付いていた寄生虫、ロゴス。
ブルーコスモス、ザラ派、旧クライン派のような一部の過激思想の駆逐に成功した。
プラントは国家として認められ、世界は一つに成りつつある。
……だが、CEに生きる人々は知らない。 現在の世界に歴史改変が行われた事を。
時空を超え、死ぬはずだった人を助け、運命を変えた一人の英雄がいた事を。
最後にその男が世界から拒絶され、姿を消した事を、多くの人々は知らない。
突発的思いつき企画
○○はシンの嫁シリーズ第五弾
なのははシンの嫁
昨日の敵は、今日の嫁
オーブ オノロゴ島
オーブ本島からの連絡船を下りたなのはは、日差しの眩しさに目を細める。
「11時、10分前か」
時計を見ると彼との約束の時間にはまだ余裕がある。
少し、暇を潰すのに街を見て回ろうと歩きだした。
何せ、久々の休暇でもあるのだ、少し位は遊んでもいいだろう。
そう考えていたなのはは、潮の香りに気付いた。
海に面した港町に漂う潮風の匂いは、なのはに故郷を思い出させる。
「今度休みが取れたら、鳴海に帰ろうかな」
勿論ヴィヴィオと、それに彼も一緒に両親に紹介しなくては。
まるで若夫婦と娘……そこまで考えた後、なのはは、顔を真っ赤にする。
(若夫婦って、私達はけっ、結婚はおろか、つっ、付き合ってすらないのに……)
不屈のエース・オブ・エース。
白い悪魔と呼ばれた戦場のベテラン。 なのはは恋愛においては素人だった。
ウブなその様は中学生位の少女のようだ。
顔の赤みが引いたなのはは、商店街にきていた。
洋菓子屋や服屋には目もくれず、一直線に電気屋に向かう辺りAVマニアの面目躍如である。
……というかそんなんだから19にもなって男っ気が無いのだが……悲しいかな、本人が気付く事は無い。
それは兎も角、AV機器のコーナーに辿り着いたなのはは、目を輝かせる。
買って帰っても規格が違うので使えないのだが、CE製の機器はそれを覆すほどの魅力があるのだろう……多分 。
そんな事、やっていたなのはとんでもない物を目にした。
「こっ、これは……」
なのはの目に入った物。
それはCEのアイドル。 ミーア・キャンベルの新作CDのジャケットだった。
「大きいの……」
ごくりと、唾を飲み込む。
露出度の高い衣装に包まれた双丘は正にツインボム。
親友フェイトやシグナムなら兎も角、なのはや、はやてでは太刀打ち出来そうもない。
「・・も大きい方が良いのかな」
CDを置き、両手で自身に触れて見るも、むにっといった感じで、ばいんとしたミーアには勝てそうにない。
「大丈夫、人間、胸で価値が決まる訳じゃないもん」
目尻に涙を浮かべ、「頑張れ、頑張れ、私」等と呟き始めるなのは。
異様な雰囲気を感じたのか、客はおろか店員すら近寄ってこない。
その背には哀愁さえ漂っていた。
「あれ? なのはさん……ですよね?」
聞き慣れた青年の声になのはは、思わず振り返った。
「こんな所で何やってるんですか? もしかして、もう時間……までは少しあるか?」
青年、シン・アスカは花束を抱え、不思議そうになのはの顔と腕時計を交互に見ていた。
その様が妙におかしくて、なのははくすりと笑みを零す。
「シン君こそ、こんな所で何やってるの?……第一、私シン君に呼ばれて来たんだけどな」
そう、なのはがCEへと次元を渡り、来たのはシンにどうしても付き合って欲しいと頼まれたからなのだ。
「まあ、そうなんですけどね……取り敢えず行きましょうか」
申し訳なさそうに頭を掻きシンは出口を指差した。
「あっ、こっちです」
シンに案内されたのは町から離れた海沿いの崖。
「ここは……」
崖の先端、岩壁に打ちつけられた海水の飛沫が絶えず降り続けるそこに一つのモニュメントが有った。
「あーあ、また枯れてる。……何でこんな所に建てたんだか」
慣れた手つきで潮風に枯れた花を片付け、手に持っていた花束、おそらくは造花、を静かに供えた。
「シン君、ここは?」
この場所に連れてきたシンの意図がわからず、なのはは困惑した表情を浮かべる。
「慰霊碑です。 俺の家族が眠ってる……本当は直接会ってもらいたかったんですけど」
悲しげな笑みを浮かべ、シンはなのはの顔を見た。
「……困りますよね、いきなりそんな事言われても」
その言葉に、なのはは、機動6課に来た当初のシンを思い出した。
それは、なのはにとっては何気ない一言だったのだ
「そう言えばシン君、家族に会いたくなる時はないの?」
なのはの言葉、家族という単語に、過度の接触を避けるかのように、六課メンバーと離れて食事をとっていたシンの肩がぴくりとが震える。
なのはにしてみれば、六課メンバーとの間に見えない壁を作っているシンを馴染ませようする、ほんの小さな親切心だったのだ。
だが時として親切心は大きなお節介にも成りうるという事をなのはは失念していた。
「……死にましたよ」
聞こえるか、聞こえないかの声で呟き、無表情のままシンはテーブルを立った。
「えっ?」
普段は温厚なシンが豹変した様子になのはは自分が聞いてはいけない事を聞いたのだと気付く。
「ごめんね、悪気が合った訳じゃないんだ」
「ええ、分かっています。 気にしないでください」
能面のような表情、一定な調子の声、まるで決められた文を読むだけの人形のようだ。
「シン君……」
「先に訓練場に行っています」
何かを言おうとしたなのはを遮り、食器を手に出口へと足早に去っていった。
思い返せばあの当時、なのはとシンは折り合いが上手くいかず、よく対立していた。
「なのはさん?」
急に黙ったなのはにシンは声を掛ける。
「シン、機動六課に来た頃の事覚えてる?」
なのははシンを見つめると、少し悪戯っぽい笑みを浮かべてみせた。
その笑みが何を意味するのかシンはある程度の付き合いで熟知していた。
「……覚えてます。 すみませんでした。あの時、俺、なのはさんに当たるような真似して」
恥ずかしそうに頬を染め、シンは俯く。
「いいよ、気にしないで、事情も知らなかった私も悪かったから……でもあれはショックだったなぁ」
笑みを絶やさぬまま、なのはシンを問い詰めるように頬を膨らませる。
「あの時の事ですか」
苦笑し、困った表情を見せるとシンは過去を思い出していた。
一年前、機動六課訓練場
本来、六課新人組が己を鍛え、来るべき災いに向け、準備を進めているその場は今、戦場となっていた。
正確に言えば、ある二人の間に流れる空気が。だが
指揮官たるはやて、フェイトとシグナム、ヴィータも手出し、口出し出来ずに押し黙っている。
エリオとキャロも同様だ。
そしてスバルはウイングロード上で拘束されていた
残りのメンバーの内、左腕で気絶しているティアナを抱え、右手から光の奔流を放ち、シンは上空を睨み付けていた。
全身を鎧のような白と青紫色のバリアジャケットに包み、背に大剣と巨砲を、その横に赤い羽根を備え、背後には拳ほどの6つの魔方陣があった。
シンのデバイス、インパルスの7つのシルエットの内、機動六課メンバーにも隠していた7つ目の切り札デスティニー。
対するのは瞳の中から光が消え、冷たい、普段の優しさを感じさせない、二人を見下すなのはだ。
「あんたに、あんたに凡人の気持ちが分かるのかよッ! 挫折を知らない……天才不屈の英雄様がッ」
その燃えるような深紅の瞳を憎悪の炎に染め上げて、シンはなのはを見上げ、吐き捨てるように叫んだ。
「シンも頭冷やそうか……」
「後、頼む」
その一言がシンの心に火を放った。
スバルの拘束を外し、傍らにティアナを優しく横たえると背負った大剣アロンダイトを構え、光の翼を広げる。
「インパルス」
シンはただ嘗ての愛機、現在の相棒の名を告げる。
インパルス、この世界におけるシンの剣。
バリアジャケットそのものがデバイスという発想により設計され 、機能を統括するインテリジェントデバイスのコアをベースに様々な武装、形態を付加され、地上本部で開発された新型デバイス。
シルエットデバイスとシンにより名づけられたそれは、もはやシンにとっては自身と同然であった。
「エクストリームブラスト」
シンの体が金色に変わる、一時的に全能力を底上げする秘術だ。
「シン……私に黙って、そんな魔法まで私そんなに……」
なのはの頬に一筋の涙が奔る。 その理由をシンは知るはずもなかった。
「残念ですけど、こいつはここに来る前に創ったんです。 ただ言ってなかっただけです」
「何で、何で分かってくれないの?」
枯れそうな声でなのはは呟く。 俯いているため表情は見えない。
それと同時にアクセルシューターが発射される。
無数の桜色の光弾が複雑な軌道を描き、シンへと襲いかかる。
「チッ、インパルス!」
「カオス、MWP。 ブラスト、ファイヤフライ。 アビス、フルバースト」
シンはインパルスに命じるとスピードを緩める事無く背後に魔法陣を展開。
数は三つ、深緑、黄緑、水色。
かつての仇敵と愛機の武装を模した攻撃端末、誘導弾、無数の光線がアクセルシューターを穿つ。
「伊達に一年、レジアス中将の下にいた訳じゃないんだ!」
光の翼で宙を薙ぎ、シンはなのはへと迫る。
一年。 シンがミッドチルダへ飛ばされてそれだけ経っていた。
その間にレジアス中将に拾われたシンは実戦にて鍛え上げられ、自身の持つ適応力によりすでにオリジナルの魔法を作れるまでになっていた。
レジアスの懐刀。
地上本部の虎の子。
人呼んで管理局の鬼神。
なのはが海のエースならシンは地上のエース。
「私、そんなに間違ってるかな」
俯いたままのなのはの表情は窺い知れず、レイジングハートから放たれる光の奔流、ディバインバスター。
「間違いじゃない! だけど、口で言えば分かるだろ! やり過ぎなんだよ、あんたは!」
間一髪、紙一重でバスターを避け、右手にアロンダイトを握り、左後方の深紅の魔方陣からエクスカリバーを取り出し、アロンダイトに連結。
もう一度、左手で魔方陣に触れ、魔力光と実体が半々のブーメラン、フラッシュエッジ取り出し、投げる
シールドに阻まれるも、なおも接近。
「貰った!」
空いている左手から対シールドの切り札、圧縮された魔力の槍、名をパルマフィオキーナを放つ。
「………!」
その時シンは見た、なのはの口元が吊り上るのを、レイジングハートがいつの間にか砲撃形態に変形しているのを。
(スターライトブレイカー!)
接近戦に持ち込むと読み、バスターの後、こちらの気づかぬ内にチャージを完了させるとは、流石はエースと感心するも、体は反射的に動く。
星砕きの閃光と双聖剣の斬撃。 どちらも切り札を切った形になる。
(最強の一撃ならば、その魔力光ごと切り裂く!)
シンとなのはが声にもならない叫びを上げた瞬間、訓練場は白い光に包まれ、八神隊長の叫びが聞こえた気がした。
「そこまでだ、アスカ!」
斬撃を止めたのはライトニング副隊長、シンの戦場でのお目付け役、炎の魔剣を持つ烈火の将シグナム
「駄目だよ、なのは」
閃光を逸らしたのは黄金の大剣を構えた金色の閃光、フェイトだった
「あの時は何も知らないで好き勝手言ってましたね、俺」
ばつの悪そうな顔をすると、シンはなのはの様子を不安そうに伺っているようだった。
「ううん、私もお話しよう、何て言ってティアナと話そうともしなかったから、ちゃんと二人きりでじっくり話せばよかったんだよね
シンの顔に気づいたなのはは首を振り、シンの不安を否定すると苦笑いを浮かべる。
「そうですね、俺も昔の上司が話下手な人で、膝付き合わせて話すことができませんでしたから……、ティアナも、なのはさんの気持ちも少しわかったんです」
ひどく懐かしそうにシンは語る、近くにいるのに話す事はできない。
月での戦いから数ヶ月、世界を救うため、世界の外から来たというMOCPAC、モックパックと名乗る怪しい男の誘いに乗った。
その結果、シンの意識は開戦の数年前、アカデミー時代まで遡った、知識と技術を保ったまま。
そして時空を跳躍する力を得た、世界のコトワリ理を捻じ曲げ、時空転移を繰り返し、死ぬ筈だった人を救い、世界を平和にした結果……シンは世界から拒絶された。
因果律の番台……じゃなくて番人、時間の潜行者は言った、シンが『CEで知り合いと会う事』は世界が許さない。
それがあの男と契約した負債なのだと。
シンを知っていたCEの人々は『シンがCEにいても認識できない』
因果だなと心は思う……だがシンの心に後悔は無かった、愛した世界と仲間達、救えなかった家族を救えたのだから。
「あれから色々あったなあ」
なのはは空を見上げる、生まれ故郷と同じ澄み切った青い空だ。
スカリエッティとの戦いも、もう一年も前だ。
「色々有りましたね……なのはさん。」
シンはそんななのはの顔を真剣な眼差しで見つめると、意を決したように口を開いた。
「ん、何?」
急に呼びかけられ何なのははくびを傾げる
「俺とヴィヴィオの母親になってくれませんか」
もうCEに未練は無かった。 シンには新たに守りたい愛しい者ができたのだから。
「? 私は元々ヴィヴィオのママだよ?」
なのはは不思議そうに、瞬きをする。 もう別次元のシンに匹敵する鈍さです。
「えっと、つまりですね、俺と、一緒になってくれませんか」
なのはの答えを予測していたのか、少し照れながらシンは続ける。
「……それってつまり」
其処まで言われれば、流石のなのはも気づき、頬をを赤くする。
「告白って奴です」
覚悟を決めた目付きでシンは言い切った。
『ポンッ!』と言う音が聞こえた気がして、シンがなのはの顔を見ると耳、まで真っ赤にしたなのはが慌てふためいている。
「駄目だよ! 私達、まだ付き合ってもないし!」
顔を真っ赤にして、手足をじたばたさせて、悶えるなのはをシンは可愛いなあ。 何て、思ってたりした。
「先ずは恋人からって言いたかったんですけども……ダメですかね、だったら忘れて」
「私は……!」
シンが残念そうに俯くと、なのははシンの言葉を遮るように声を上げた。
「私、男の付き合うの初めてだから……! 恋人らしい事、出来ないかもしれない! シンが他の女の子と仲良くしていたら焼き餅焼くかもしれない! 管理局の仕事が忙しくて会う時間だっても無いかもしれない……そんな、そんな私でも本当にいいの?」
目の端に涙を浮かべ、真っ赤にした顔で、なのはは、声を張り上げる。
「なのはさん、承知の上で言っているんです」
優しい微笑を浮かべ、シンは言った。
最初は境遇に嫉妬した。
方針の違いから敵対もした、保護した女の子にパパと呼ばれ、夫婦みたいだとからかわれた。
悪い気分では無かった。
正面からぶつかり合った事、ヴィヴィオのおかげでお互いを理解できた。
年上で、真っ直ぐで、可愛い人。
己の道を貫く為、師と呼べる人を救うため、一度は離れた。
娘を、無理する彼女を助ける為に無理をした。
そこで初めて自覚した、彼女が好きだと。
だから今日、自分の思いを伝えた。
「……なのはって呼んで」
嬉しそうに涙を流し、なのはは頷く。
最初は境遇が理解できなかった。
方針の違いから敵対もした、保護した女の子にママと呼ばれ、夫婦みたいだとからかわれた。
少し嬉しかった。
正面からぶつかり合った事、ヴィヴィオのおかげでお互いを理解できた。
年下で、少し捻くれてて、格好良い人。
自分の責務を果すため、攫われた娘を救うため、一度は離れた。
娘を、無理する自分を助ける為に無理をしてくれた。
そこで初めて自覚した、彼が好きだと。
だから今日、彼の思いを受け入れた。
「なのは、好きだ」
「私もだよシン」
二人は満面の笑みを浮かべる。
「「これからよろしく」ね」
この後、アスカ夫妻は、管理局に名を残す最強のコンビ。
『管理局の戦神夫婦』として伝説とまで呼ばれることとなる。
また二人の結婚式に相方を取られて錯乱したフェイトとレイが乱入したと言う噂が流れたが詳細は不明である。
最終更新:2008年12月07日 09:31