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古明地さとり編

「あら? こんな所に烏天狗が何の御用かしら? ……なるほど、彼のことを聞きにわざわざ来たということですか」

「それで… なるほど、シンが如何してここに住むようになったかを知りたいと、私を恐れながらも来るとはご苦労な事ですね」

「そうですね、後で新しいスペルカードの試運転に付き合っていただけるのでしたら構いませんよ、えぇ、言葉はいりませんよ」

「……そうですね、シンがこの地霊殿に最初にやってきたのはこいしが拾ってきたからですよ」


「はい、こいしが、拾って、です、私も最初はてっきりエントランスに飾る死体かと思ったんですけどね、生きていましたよ」


「始めてみた印象ですか? そうですね… まるで人形のようなその姿と、くすんだ宝石のような赤い瞳が少し気になったくらいね」

「ただ、流石に人間とは言え生きていますし、ペットにするつもりも無かったので返そうと思ったわけです、その時は」

「まぁ当然拾ってきたこいしは嫌がりましたし、人里のどの辺りに住んでいるか読めればお空の知り合いと言う神様に送り届けてもらおうと思ったんです」

「それで、心を読んだんですけど…… えぇ、今思い出してもトラウマ物ですよ、一面真っ暗な闇で、彼の心の奥に入ろうとした瞬間私が串刺しにされましたから」


「……普通、私が心を読んでいるからと言って攻撃はできません、いえ、攻撃しようとしてもそれを『読める』ので回避する事なんて容易なのよ」

「ただ、あの時のシンの心は、自分の心の奥に入ろうとする存在を『無意識』で攻撃してきたの、ハリネズミが本能的にハリを突き出すのと同じような感覚かしら?」

「まぁ、そんな事もあって当然心なんて読めない、しかもこいしのお気に入りだったようだから捨てるわけにもいけませんでしたからペットにする事にしました」

「ペットといっても何かあったわけではないですよ、ある意味人間達がかかる痴呆症の看病と言う方があの時期は正しい言い方ね」

「そんな生活を二週間ほど続けていた頃かしら、何となく彼を眺めていると彼の腕が僅かに揺れている事に気付いたのよ」

「その正体は至って単純、だけど私からすれば十分驚くべき事だったわ、シンは、こいしを膝枕しながらその頭を優しく撫でていたのよ」

「当然、心の動きなんて無かった、無意識ね、こいしがシンの膝を枕にしていたのも、シンがこいしの頭を優しく撫でていたのも」

「それから詳しくシンの動きを眺めるようにしたんだけど、シンの膝で寝ているのはこいしだけじゃなかったわ、お燐やお空も時々寝ていたようね」

「まぁ、流石にお燐とお空は人の姿を取っていなかったわね、それにあわせて撫でる範囲が変わっている彼の無意識も凄かったわ」

「恐らく、彼は昔から誰か親しい人を膝枕にしていたか、よっぽど大切な人を撫でていた経験があったのでしょうね」

「そんな彼の姿を見ているときにふと閃いたのよ、もしかしたら、彼が無意識に撫でている間なら攻撃されずに心を読めるんじゃないかとね」



「……まぁ、答えから言えば読む事はできたわ、えぇ、不覚にも私が眠ってしまったので半ば同調するような形で読む事にはなりましたが」

「シンの心を覗いて? ですか? そうですね、衝撃ばかりでしたよ、色々と………」

「一つ知ったのは、今では貴方達も知っているでしょうが彼もまた外の世界の住人だと言う事、特にとんでもない場所からの住人でしたけどね」

「そして次に知ったのは、彼は大切なモノを二度も、自分の目の前で無くした事、それでもなお、進み続けようとあがき続けていた事」

「そして最後に知ったのは…… そんなシンの歩みは、圧倒的な暴力で捻じ伏せられた事、そしてそのショックか何かでこの幻想郷に落ちてきた事」


「……記事にしないと言うなら詳細を話すわ、えぇ、貴方は天狗にしては多少は分別がついているようだし、いざとなれば星熊の鬼に動いてもらえばいいですから」

「覚悟はできたようね、じゃあ続きと一緒に話すわ」

「…先ほど言った大切なモノというのは、一つはシンの家族、そしてもう一つは… シンが自分の命に代えてまで守ろうとした、女性よ」

「シンの家族は戦争によって理不尽に、シンの目の前で奪われた、その結果シンは戦争を憎み、『力を持たない』存在を守ろうという思想を抱いたようよ」

「……えぇ、貴方の考えどおり、それは酷く歪んだもの、でも酷く純粋なものだったわ、さっき言った女性は彼の所属してたらしい軍からすれば敵だったそうだし」

「敵を守ろうなんて信じられないって顔ね、まぁ、私もそうだったわ、ただ、彼の心を読み深めていくうちにその理由も解った」


「……シンは、家族をなくした時から帰る場所を見失っていたのよ、だから過去の呪縛から動けない… いえ、シンにとっては過去こそが現在だったのでしょうね」

「だから、その敵の女性、彼女のシンとある意味似た境遇だったようで、そんな彼女を護ろうと心に誓ったみたいだったわ」

「そのお陰でシンの心の時計は歪つながらも動き出していたようね、少しずつ、ようやく過去と言う名の現在から動き出しはじめた……」

「ただ、その彼女もまた圧倒的な力によって殺される、無論、その殺した相手だって彼女に殺されそうだったから理不尽に責められるはずはないわね」

「でも、シンからはそう見えない、……… 『自分が護りたかった』女性を、その手に掴み、護ろうとした寸前で強引に叩き落とされた形になっていたからよ」

「その後は、余り詳しく語るほどの物でもないわね、ただ、シンが最後まで抱いていた理想は全てその圧倒的な力で捻じ伏せられ、全て潰えたというだけ」

「それが原因だったのでしょうね、帰る場所も見失って、動き出そうとした道は全て消え、過去も、明日も、現在さえもシンは見失った」

「そうして心の中に膨大なトラウマだけを抱え込んで、考える事も放棄してただ深い闇に堕ちてしまった、それが、私が最初に見たシンの闇の正体だったわ」


「…じゃあ何故今のシンは明るいのかですって? それは簡単よ、私がシンを心の奥底から救い上げたから」

「……… そんな事できる筈がないって思ってるわね? 正直なのはいいけれど、余り私を敵に回さない方がいいんじゃないかしら?」

「…… 降参よ、確かに私の力だけは無理、読む事はできても直接相手の心に干渉なんてできないわ、やろうと思えばできるけれど同調していては無理ね」

「私は…… 正直人間を見くびっていたわ、心も体も脆弱に過ぎないと、その思いは、シンの心の奥深くに降りた瞬間否定されたわ」

「…信じられるかしら? 彼の家族と、さっき言っていた女性の魂、その欠片… ではあったけれど、シンの根源を護るように彼の周囲を徘徊していたのよ?」

「えぇ、当然私が近づいたら彼らの魂は私を必死に威嚇していたわ、少年の姿のまま、成長を止めてしまっているシンの心を護るように」

「…私は、その姿を見てただ感動したわ、そして自分を悔いた、私はこいしにここまでしてあげられていたのだろうかと………」

「まぁ、貴方の想像通り、それがきっかけとなってこいしとは完全に仲直りできたわ、今では地霊殿姉妹の名を聞かない妖怪なんていないでしょう?」

「…あぁ、話がそれたわね、まぁ、そんな私を威嚇していた彼らだけど、女性の方の魂が私に頼みごとがあるって言ってきたのよ」


「その頼みは、自分の言葉をシンに伝えて欲しいと言う事と、シンに優しくして欲しい、と言う事だったわ」

「…えぇ、さっき言ったように私は直接相手の心には干渉できない、その事は当然伝えたわ、その後の彼女の言葉は、今でも覚えているわよ」

「『ステラは消えても良い、シンに、教えなきゃ、明日、ステラは、明日を貰ったって……』 念のため言っておくわ、この事、他言したら容赦しないって事、忘れないで欲しいわね」

「…そういうと彼女は、私を仲介役にして彼の心に触れるという方法を取ったわ、シンの心は、閉ざされてしまっていて今の自分では話せないといってね」

「でも、幾ら仲介した所でシンの心の壁は厚かった、進入しようとしている彼女の魂が先に消えてしまいかねない程に」

「…そんな彼女を見て決意したのでしょうね、シンの家族の魂も私を仲介して、シンの心の壁を必死に突破しようとし始めたわ」

「本当に、人間って恐ろしいわよね、自分の存在が消滅するのを覚悟の上で、大切な存在を護ろうと、救い出そうとするんだもの」

「結果を言えば、彼女の魂は確かにシンの心へと言葉を伝えたわ、伝え終わった瞬間に… 成仏していったけどね」

「その後は…… まぁ、私が無闇に語るべき事ではないわね、一言で言うならば、私と、この地霊殿がシンにとって帰るべき新たな場所へとなっていった、それだけよ」

「…之で私の語りは終わり、私が全てを語ったとしても面白くないでしょう? あら?最後に一つ質問? 私にとっての彼、シン=アスカ?」


「そうね、弟であり、兄でもあり、地霊殿を管理するパートナーでもある…… そして最愛の男性よ、これでいいのかしら? 射命丸文さん?」

「じゃあ、新しいスペルカードに付き合っていただけるかしら? 私とシンの『共同作業』の成果、新しいトラウマとして確りと刻み込むといい!!」



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最終更新:2009年02月04日 03:10
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