「ん? 烏天狗か、何のようだい? 天魔からの手紙? ふむ……なるほどね、ちょっとまってなさい」
「……待たせたわね、之を天魔に、八坂と諏訪の神の返書と伝えて渡しなさい」
「…どうしたの? まだ何か用があるのかしら?」
「旧地獄跡の御神体についてと、地中に住む人間についての話が聞きたい? 地獄烏から私が大本だって聞いてきたって?」
「ふ~む、いや、別に話す事はやぶさかではないんだがね、この話をするには一つ条件を出さざるをえないね」
「条件? なに、簡単な事さ、とある一枚のスペルカード、危険すぎて神遊び、弾幕ごっこのほうがわかるかい? それには使えないカード」
「話の途中に、このカードによる弾幕を一度受けてもらう、まぁ安心しな、たった10秒のスペルカードだ、その気になれば避けきれるかもしれないさ」
「どうやら異論は無いようだね、それじゃあ話をするとしようか」
「そうだね… まずは地中の人間、シン=アスカについてどれだけの事を調べてきたんだい?」
「ふむ、外界の人間で、大量の人間殺戮者の可能性があって、不思議と妖怪を引きつけている人間…ね」
「まぁ、確かにその調査に間違いはない、が、厳密にはシン・アスカの生きた世界は、この幻想郷の外界とも異なる、異次元と言う方が正しいくらい」
「嘘じゃないよ、まぁ、厳密に言えばある種の並行世界ともいえるだろうけど… 外界からこの幻想郷に入った私たちをお疑いかしら?」
「あぁ、別に怒っちゃいないよ、アンタの反応が正常さ、私だって、最初にアレとシンをこの目で直に見たときは信じられなかったからね」
「ん? 何で見ただけでそんな事が解ったのかって? ……生憎だが、それは話せないね、どうしてもというなら、諏訪子を説得してみな、あの子が今も持っているはずだ」
「何を持っているかって? そうだね、はっきり言えばシンにとって最も抉られたくない悔恨の歴史かな? 興味本位で覗くだけなら、やめておいた方が身のためだよ」
「…まぁ、話に戻ろうか、私がシンと出合ったのはそう遠くじゃないよ、ここ一ヶ月前位だ、河童達が持て余している核融合炉の様子を見に行こうと思ってね」
「流石に幻想郷随一の科学力を持つ河童とは言え八咫烏の、太陽の力をそのまま相手なんてできなかったってことだろうね、完全に煮詰まっていた様子だった」
「それで、以前作り変えた旧地獄の地脈の流れを制御して河童達が今使える範囲の力だけを上手く抽出させようと思って旧地獄に降りていったのさ」
「そしたら驚きだ、外界でも、この幻想郷でも決して生み出せぬ化け物が地中で朽ち果ててたじゃないか、私は思わず興奮したよ」
「ん? その化け物は何かって? さっき言ってた御神体さ、本来の名はデスティニー、運命の名を冠する巨大な機械兵だよ」
「あんな巨大な、人型のような機械兵器なんて河童の力でもありえないって? だから言っただろう、外界でも幻想郷でも決して生み出せぬ化け物だと」
「それでまぁ、私は圧倒的な技術の結晶であり、核融合の力を動力とするデスティニーをみて興奮のあまり九十九神として私の傘下に加えようとしたのさ」
「九十九神位は知ってるだろう? 長年生きている物でなければなりえないって? それは厳密には違うね、九十九神は道具に宿った心が魂となり化けた物なんだ」
「ただし、道具に心を宿すには人間が愛情を注がねばならない、そして心が魂へと成熟するには膨大な時間がかかる、それ故に99年生きた道具だけがなると誤解されるがね」
「だが、私は神だ、如何に外界で信仰を失いこの地に降りてきた身であるとしても、九十九神へと成長させることは児戯に等しい」
「しかし、デスティニーは私の呼びかけに応じる事はなかった、いや、厳密には私の呼びかけに反応しながらも、それを断ってきたのさ」
「神の誘いを断る理由? あぁ、簡潔な答えを返してくれたよ、『これ以上、マスターを傷つけ、悲しませたくはない』…とね」
「私はその言葉を聞いたとき、思わず畏敬の念を覚えたね、その気高くも悲しく、儚くも揺ぎ無い、主に忠誠を誓う兵士の、いや、戦士の心を感じたから」
「そうして私がその思いを汲んで九十九神にするのを諦め、せめて朽ち果てる前に一度飲み交わそうと誓おうと思い今一度デスティニーに語りかけようとした時だね」
「デスティニーに集中してたせいか、その時は気づくのが遅れて既に私の直ぐ近くにアイツが、シン・アスカがやってきていたのさ」
「まぁ、シンは一人じゃなかったね、地霊殿の連中と一緒だった、その手に地中の熱に負けぬ花を持ってね」
「それを見た瞬間私は理解したさ、シン・アスカはその日、この気高き戦士に『トドメ』を刺しにきたのだと、そして、その戦士は主からのそれを待ちわびていたのだと」
「…あぁ、納得できないさ、あれほどまでに主を思い、愛し、忠誠を尽くしてきたであろう戦士を殺そうとするその行為も、それを待ち望むその心理もね」
「だから、私は直ぐに戦闘態勢に入った、この戦士にこんな形での死を与えるわけには行かないと、腑抜けきったであろう主に鉄槌を下してやろうと」
「……わかってるよ、所詮その思いは私の独り善がりだってね、でもね、あそこで納得するわけには行かなかったんだ、私の誇りと、信念にかけて」
「私は確かに農業の神ではあるが、軍神でもある、それも大和三大軍神と一人と語られるほどの、ね」
「…私が軍を率いた上での信念、それは不要な殺戮は排し、気高き士には敵であろうと味方であろうと敬意をもって接する」
「まぁ、之はあくまで軍を率いる上での話さ、それ以外の場所でこの信念を強引に貫くつもりもない、御堅いだけじゃあ信心を得られることはないからね」
「…じゃあ何で意地になっていたかと言いたそうな顔ね、まぁ、私が意地になった理由、それはシンも、デスティニーも、軍に属する存在であったからさ」
「いや、それだけじゃないね、私が知っていたシン・アスカは不器用で、我侭な子供ではあったが、己が信念は貫き通してみせる気高き士でもあった」
「だからこそ、私はあの時失望を抱いた、最後まで気高き戦士を、自らに忠誠を尽くした烈士を贈るものが、花束等と言う甘い物であったシンのその心に」
「何故そんな事を言うのかですって? 花はね、戦場(いくさば)にはあってはならぬ物なのさ、戦場に花を供えた所で、直ぐに蹂躙されるだけ」
「戦士を送るのはただ、言葉だけで良い、戦場でしか生きられぬ戦士に花束を贈る、一見それは称えている様に見えるが、ある種の侮辱でもある」
「戦士は平和の為に戦う、護りたいものの為に戦う、だが、それは自分に対して花を授けてもらう為ではない、花が平和な大地に咲く事を願って戦うんだ」
「戦場で共に駆け抜け続け、最後まで忠誠を尽くしたモノを贈る為に必要な物は花束でも、勲章でもない、ただ、共に戦ってくれた事に対する労いの言葉だけ」
「シンが、私が始めて出会った日に花束を持って来たと言う事は、シンはその日、その時まで労いの言葉を与えてなかったと言う事だ」
「何でそんな事がわかるのかって? ……主からのトドメを欲し続けていた戦士が、その主から労いの言葉を貰ってれば心を残し、この地に彷徨うなんてしないからさ」
「まぁ、今になって考えればシンも相棒の最後を認めたくなかったんだろうし、何とかして足掻こうとしたんだろう、でも、どうにもならなくて、あの日に来たんだろう」
「でもまぁ、あの時の私は完全に頭に血が上ってて冷静になれなかったのさ、シンに対して押し問答をしてた位だからね」
「押し問答の中身? ん~、まぁ、無理に隠すものでもないけど詳細を話すほどの物でもないね、一言で言ってしまえばこうなるかな」
「『何故御前は自分の半身を殺しに来たのだ』…ってね、そんな押し問答で話が進んだのかって? そりゃ進むわけないさ、ずっと平行線だよ」
「私はシンの見送りが、戦士を無益な死に至らしめるような見送りが気に入らない、シンは私の横柄に断じている態度が気に入らない
私はつかの間の平和に牙抜け、戦士としての思いを無くしたシンが気に入らない、シンは平和を否定しているような私の言葉が気に入らない
私はその心の奥でまだ火種を持ちながら自分で消そうとしているシンが気に入らない、シンは強者の理論を振るい、しかもその強者である私の事が気に入らない
私は自分の思いに目を背けてまで『平和』を取ろうとしているシンの嘘が気に入らない、シンはずけずけと心の中に押し込んでくるこの私が気に入らない
私は、護りたいと言う思いを持ちながら、無力を理由に、折れた剣が直らないと言う事を理由に諦めようとしているシンが気に入らない
シンは、絶対の力を持ちながら、無力なる人を、自分を信じるモノ以外は護ろうとしない、護るべき者を選んでいるこの私が気に入らない」
「まぁ、そんな感じで平行線の押し合いさ、それに焦れてきた私は、シンに対して真っ向勝負を仕掛ける事にしたのさ」
「あぁ、真っ向勝負さ、とは言え真正面から殺しあいなんかしてもどう足掻いても神に人は叶わない、それに地霊殿の面々に確実に嫌われるだろうからね」
「私は元々河童の技術革新の手助けの為に地中に下りたんだ、流石に之をご破談にしたら何の為に八咫烏の力を与えたかわからなくなる」
「だから、真っ向勝負は弾幕ごっこルールを利用した特殊決闘ルールを定めたのさ、その決闘ルールの内容?」
「簡単な事だよ… この…四枚、私の最高クラスのスペルカード、そのEasyからLunaticまでの四枚と、残り一枚… その計五枚をシンに向かって放つ」
「シンはこの四枚は30秒、そして後で見せる一枚は10秒間、被弾する事無く、どれか一枚だけでもかわし切れたのならばシンの勝利って訳さ」
「ただ、飛べないままのシンだとまともな決闘にはならなかったからね、私の神徳で一時的に空を飛ぶ力を与えての勝負だ」
「私が勝ったなら、デスティニーは私が強引にでも貰い受ける、シンが勝ったならば、私の力で『剣』を与える、それが決闘の条件だった」
「まぁ、当然と言うか、シンも私も頭に血が上ってたからか合意は早かったよ、そして合意して、シンが飛ぶのに慣れてきたら決闘の始まりさ」
「先ず最初の一枚目、マウンテン・オブ・フェイス~EASY~ これはシンが弾幕ごっこに慣れてないのか15秒程度で沈んだね」
「次に二枚目、マウンテン・オブ・フェイス これは23秒まで耐えたね、でも時間が近くなって安堵が出たのか見事に被弾」
「次は風神様の神徳、これは18秒、先のミスで焦りが出たのか迂闊な回避で直撃さ」
「そして四枚目 風神様の神徳~Lunatic~ これは28秒まで持ったね、回避途中で例の『アレ』が発動したのか良い回避だったよ、詰めを誤ったようだけどね」
「最後に残るはこの一枚… そうだね、これは一度体験してもらったほうがいいね、準備は良いかい? 失敗でも成功でも話は続けるから安心しなさい」
「良さそうね、じゃあいくわよ、10秒制限スペル、『建御雷神の国譲り』!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~烏天狗ピチュリ中~~~~~~~~~~~~
「ふむ、まぁ予想通りというか避けきれなかったわね、ん? 必殺スペルカードはルール違反だ? 何を言ってるのかしら、逃げ道はキチンとあるわよ?」
「え?左右上下から逃げ道を失うようなレーザーで道を絞った上で薙ぎ払いなんて逃げ道があるわけない?」
「吸血鬼が使うカゴメカゴメとレーヴァティンのスペカを同時に使われたほうがまだましだって? ン~・・・と言われてもね、逃げ道はちゃんとあるわよ?」
「まぁ、とりあえず話の続きに戻りましょうか」
「この五枚目の発動を前に、流石のシンも疲労困憊だったようね、もう碌な速度も出せず、ただ気合のみで耐えていると言う感じだったわ」
「それでも勝負は勝負、私は遠慮なくこの五枚目、『建御雷神の国譲り』を発動した、勝利をほぼ確信してね」
「あの時の私は、ただ、シンが最後まで折れる事無く落ちてくれる事を祈っていたわ、かつて、直接あった事も無いというのに、この私が士として認めた姿のままに」
「そして、シンは私のその祈りに答えるかのようにただ一直線に突き進んできてくれたよ、そして、私はそれをみながら最後の仕上げの準備を行った」
「そう、さっきアンタも喰らって落ちた真正面へのオンバシラによる攻撃さ、これは、ある一点を覗いて避ける道など無い」
「故に、シンも私のオンバシラの直撃を喰らい、その身を大地へと横たわせる…はず、だった」
「そう、はずだった、さ、シンはね、あろう事かオンバシラ発射の用意をしている私の方向にあえて加速してね、顔をすり合わせるほどの超接近を行ったんだ」
「普通そんなことなんて思いつくはずがないだろう? 目の前から巨大な攻撃が襲い掛かろうとしているんだ、普通は距離をとろうとするさ」
「…だけど、シンの行動が唯一の正解なのさ、『建御雷神の国譲り』相手には、最後の攻撃を恐れず突っ込み、残る時間を怯む事無く、その場で耐えねばならない」
「目の前から迫り来るであろう恐怖に打ち勝ち、さらに自分の周囲を巡る超高密度の弾幕に心揺らす事無く、神の威圧を一身に受けてなお震える事も許されない」
「言葉にするのは簡単、だが、これがどれほど難しい事か、そしてそれをただの一度で、ましてや満身創痍の身でありながら成し遂げた者がどれほどの勇者か!!」
「私は感動したよ、そして後悔もした、私が腑抜けたと断じた男は、もはや燻っているだけと思った男は、何よりも熱く燃え盛る機を待っていたに過ぎなかったと!!」
「あぁ、勝負はシンの勝ちさ、私が持つ最大最高のスペル、神遊びにも迂闊に使えないほどのモノを破られたんだ、いっそ清清しい気分だったよ」
「それで、その後はどうしたかって? 無論、シンに新しい『剣』を与えたさ」
「その与え方は何なのかって? あぁ、簡単といえば簡単だよ、デスティニーを諏訪子に頼んで土着神の一人にして貰ってね、シンとの間にパイプを作ったのさ」
「ん? あぁ、之だけじゃあわからないか、そうだね、言い換えれば私と早苗の関係さ、デスティニーが私、シンが早苗、運命の加護を受けて戦うのがシンってわけさ」
「それじゃあ八咫烏の力を食い尽くすって言うのはおかしくないかって? 別におかしくはないよ、最初の方でキチンといっただろう?」
「デスティニーは核融合の力を動力としている、神になる事でそのポテンシャルは当然あがるんだ、となれば受け入れられるエネルギーの量も桁違いに上がる」
「となれば、幾ら太陽の化身とも言われる八咫烏の力でも、地獄烏を介しての量じゃあ全て食い尽くされる、全力を出せば別かも知れないけど…そうなったら全滅ね」
「そ、全滅、制御を失った地下の太陽が幻想郷を丸焼きにして御終い、まぁそうならない為の制御の足であり、核の力を食らう御神体なんだけど」
「御神体に限界はないのかって? そりゃ食らうだけならあるだろうけど、シンが力を振るえばその分減るから心配は無いだろうね」
「つまりシンは早苗と同じ現人神(あらひとがみ)になったのかって? いや、現人神じゃあないわ、あくまで力を借り受けて振るっているだけの形だから」
「聞きたい話はこんな所かい? ん~・・・そうだね、一つこっちから質問をしようか、何で、シンは地霊殿に、旧地獄跡に落ちてきたと思う?」
「たかが事故であそこには落ちないさ、事故で落ちれるような所なら地上と地中が別たれていた筈がない…… わからないようね」
「答えは簡単さ、シンはね、元々居た世界では嫌われ者だったの、いや、仲間とかにじゃない、『世界』に嫌われていたの」
「戦争で勝利を得る為には『天の時、地の利、人の和』が重要って話は知ってるかな? 知ってるみたいね、なら詳しく話す必要もないか」
「まぁ、シンはもと居た世界では天の時を選ぶ『世界』に嫌われ、そのせいで地の利を得た戦も無く、人の和も『世界』が好んだ人間にかき乱されて終わった」
「『英雄』になりえたはずの存在であっても、そんな状態では足掻いた所で意味がない、理不尽なまでに逆境の風だけが吹き、敗北のみが決定付けられていく」
「…そう、シンは世界から嫌われ、弾き出された果てにこの幻想郷に、いや、地霊殿に辿り着いたのさ」
「……取材してたならわかっただろうけど、シンが来てから地霊殿の連中が偉く活気だって居ると感じなかったかしら?」
「さとり達が色ボケしているのはわかったって? あははははは、色恋結構じゃない、男と女が出会えば結局は惚れるか惚れないかの二つになるものだしね」
「まぁ、シンが来て地霊殿が活気付くのも当然さ、なぜかって? さっき言ったでしょう? シンは、『世界から嫌われた』存在だって」
「忘れたのかい? 地霊殿、旧地獄跡、そして旧都、其処に住んでいる存在たちが唯一繋がれる一本の線」
「そう、地上で嫌われた果てに、地中に住むことになった存在達、鬼は一見違うけれど、人に嫌われ決別して旧都に住んだと考えると同じ線になるわ」
「だとすれば、そんな嫌われ者たちの楽園である世界が、『世界から』嫌われた存在を快く受け入れないはずがない、そう思わない?」
「世界から嫌われ、多くのものを失い、世界からもはじき出された少年は、その先で優しく受け入れてくれる大地を見つけました、めでたしめでたし それでお話は終わり」
「いえ、厳密には終わりじゃないわね、これから先、世界に嫌われた少年と、地上の存在から嫌われた少女達の幸せな生活が始まるでしょうからね」
「さ、この話は此処で御終い、貴方もあまりしつこい取材は控えなさいね、後の物語は、彼等が幸せな音色を紡ぎだしてから楽しむのが最善でしょうから」
最終更新:2009年02月08日 12:59