<千早バースデイネタ~第三章・蒼い鳥の詩~>
「――ここが千早の学校か」
アカデミーとは全然違うな、などと考えながらシンは千早の通う学校を眺める。
今日は新曲発売の告知イベントがあるのだが、平日であり開始が夜のため授業に出ることとなったのだ。
そして放課後、こうしてシンが出迎えに来たという次第である。
「おっ、出てきたな……ん?」
玄関から姿を見せた千早に手を上げて自分がいることを教えようとしたが、誰かに呼び止められて千早は振り
向いてしまった。
――誰だ、あの子?
千早の傍まで駆け寄ってきた制服姿の少女を見て、シンはしばらく様子を見ることにした。
そんなに急いでいたのか、少女は大きく肩で息をしながら身振り手振りを交えて千早に何かを言っているよう
だった。何かトラブルなのか、とも考えたが少女の瞳は害意は感じられず、むしろ尊敬の輝きがあった。
そのまましばらく少女の話――傍から見ているだけで一方的にまくし立てているのは分かったが――が続い
た後、ポケットから出した手紙を両手で千早に差し出し、少女は逃げるように校舎の中へ戻っていった。
「……それ、ファンレターか?」
手紙を片手に立ち尽くす千早に近づいて背後から声をかけるが、反応がない。
不思議に思って前に回り込んで、シンは息を呑んだ。
「千早……?」
彼女は、泣いていた。
顔を悲しみに歪めるでもなく、呆然としたまま両目から涙を溢れさせていた。
「シ、ン」
ようやくこちらに気付いた千早は何かを言おうと喘ぐように口を開いたが、結局そこから言葉が出てくること
はなく、飛びこむようにシンの胸を抱きしめた。
「……嬉しかったんだな」
『誰かに認められること』が。
きっと今日この日までこの場所も千早の居場所ではなかったのだろう。
千早の受け取った手紙の重さを、シンはなんとなくではあるが理解することができた。
泣きじゃくる千早から目を離し、シンは空を見上げる。
――蒼穹の彼方、シンは一羽の鳥が見えた気がした。
青空に溶け込むような鮮やかな色の鳥が、祝福するように羽根を広げる姿。
「――おめでとう」
心からの言葉を贈り、シンはぽんと千早の頭を撫でる。
わずかに頷いたことに小さく笑みを浮かべながら、これからどう現場に向かえばいいかなと考えを巡らせた。
最終更新:2009年03月30日 12:47