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ツンつん×デレでれ 6話

「わぁ~シン兄ちゃん上手~~♪」

ギンガ、スバルと談笑しながら歩いていたティアナの耳に喜びに溢れたヴィヴィオの舌足らずな声が滑り込む。
それはギンガとスバルも同様であったらしく、三人は暫し顔を合わせると、声のする方へと向かう。
隊舎の外へと歩を進めると、そこには芝生にあぐらをかいて座ったシンと、その組まれた脚の上に小さなお尻をちょこんと乗せたヴィヴィオの姿があった。


「ああ、動くな動くなヴィヴィオ。もうちょっとだからな」

「はぁ~~い」


元気の良く素直な返事と共にヴィヴィオはお行儀良く大人しくなる。
シンは思わずティアナがドキリとするくらいに真剣な表情をしながらヴィヴィオの亜麻色の髪を櫛で梳かし編み上げていく。
余りにも真剣な表情にティアナ達は声をかけるのも躊躇いながらその光景を見つめる。
やがて、シンは一本の乱れも無く編み上げた三つ編みをそれぞれ両側で輪を作るようにしてリボンで纏め上げる。
出来たのは三つ編みのお団子を両側に可愛らしく作ったお人形のようなヴィヴィオ。
シンが後ろから手渡した手鏡を見るとヴィヴィオの顔に見る見るうちに笑顔がポッと灯を点したように浮かび上がる。
向日葵のような心の温かくなる笑みにつられるようにシンも笑みを浮かべる。



 ――――――― ッ!?


ティアナはシンのその笑顔を見た瞬間、胸を鷲掴みにされたような息苦しさを覚える。
紅の瞳を薄っすらと細め、何かを懐かしむような、何か眩しい物を見るかのような儚く淡い笑みである。
ちろりと横目で見ると、薄っすらと頬を朱に染めたギンガとスバルの横顔が目につき、「ムッ」と面白くない何かがティアナの胸に湧き上がる。
それが何かわからないまま、再び視線をシン達に向けると、ヴィヴィオの左右異なる大きな瞳とかち合った。


「ああ~~~!!お姉ちゃん達だ~~~」

「ん?ああ、お~い」

その声につられるように、シンもまたティアナ達に視線を向ける。
さっき浮かべていた笑みは既に消えていた。
それにホッとしたような、残念なような感覚を抱く。



「シン君~何してるの?」


スバルが元気良くニコニコと笑いながら、まるで大好きなご主人様に会った犬のようにシン達の方に駆け寄って行く。
「転ぶわよスバル」と嗜めながらギンガもそれに倣う。
そこでようやく、取り残された事に気付いたティアナは慌てて駆け出す。




                             ◇




ヴィヴィオを膝に乗せたままシンはギンガ達を見上げる。
スバルはしげしげとヴィヴィオの髪型を見つめると、シンにキラキラとした視線を向ける。
余りにも邪気の無い瞳に、シンはウッとたじろぐ。
シンにとってはスバルのその瞳は非常に好ましいと同時に眩しいものであった。

自分の血の色の瞳とは大違いだな……

鬼の目と言われて虐められ、虐め返していた子供の頃の記憶が蓋を開けかけたところで無理矢理シンは蓋をし直す。
子供の頃の思い出はシンにとってはそのまま悲劇の揺り戻しに繋がる。
いい加減挽き肉になった両親の姿を瞼の裏に浮かべるのは遠慮したいところだ。
そんな事を思っている間も、スバルやギンガ、そしてティアナは興味深気にヴィヴィオの髪を見ている。
こんな事を言っては彼女達に失礼ではあるが、やはり彼女達も女の子なのだなという感想をシンは抱く。
『向こう』に居た時はよくメイリンがこの手の話題を振りまいていた。
そこに琉菜とミヅキが加わり更に嗜めるつもりがルナマリアも加わって更に盛り上がっていた。
エイジもカミーユも、ちんぷんかんぷんな話題を遠巻きに見ていた。

そして『彼女』は……

不意にシンの鼻腔の奥に彼女の甘やかな香りが甦る。
肌の柔らかさ、熱い吐息、目尻から零れ落ちた涙を拭った時の感触。
身体の芯を熱く、激しく揺さぶるような衝動に、一瞬シンは飲まれそうになる。


「ねぇ、シン君てば!!」

「あ…え…ああッ」


微かに頬を膨らませたスバルの表情にシンはハッとなる。
今しがた、悲劇の揺り戻しは勘弁被ると思ったばかりだというのに。
それなのに、自分はまた二度と戻らぬ物を求めようと考えていた。
自分の愚かさに吐き気を堪えながらシンは何食わぬ顔でスバルを見返す。


「悪い、何だっけ?」
「もう、ちゃんと聞いててよ!!だからヴィヴィちゃんにしたみたいにギン姉の髪も何か作ってやってよ」
「ちょ、ちょっとスバル…ッ」
「それで私の髪は……無理だから、ティアの髪も何かしてあげてよ!!ね?」


ぽんぽんと元気よく飛び出るスバルの言葉にシンが呆とすると、途端にスバルの表情が曇る。


「駄目…?」


それを見てシンの胸に言いようの無い罪悪感がよぎる。
咄嗟にシンの口を肯定の言葉が突いて出た。



「あ、ああ勿論構わないぜ」

あっさりと肯定され、その後頬を染めたギンガと、耳まで真っ赤にしたティアナが髪を弄られ、それを羨ましげに見ていたスバルが途中でシンの膝の空いたスペースに頭を乗せてシンを慌てさせるという賑やかな光景が六課の職員達に見かけられた。


                              ◇


ガコン

音を立てて落ちたコーヒーを自販機から取り出すと、シンはプルタブを取るや否や、流し込むように半分程飲みきる。
深い溜息を吐くと、壁にもたれたシンはそのまま力尽きるようにズルズルと座り込む。
ヴィヴィオの髪を弄ってやったのはほんの気まぐれであった。
それが、自分の心にも油断があったのだろう、あれほどの揺り戻しに遭うとは、とシンは冷たい缶を額に付ける。
二口目を、唇を湿らせる程度に口に含んだ時だった。

「今日はどうしたのよ」

視線を微妙に外しながら声をかけてきたのはティアナであった。
シンはそれを見上げながら、口元を微かに緩める。

「ああ、高町教官が案外バリエーションが無いみたいでな。それでヴィヴィオが三つ編みの仕方を聞いてきたついでに髪をちょっとな」

ふ~ん、と生返事をしながら、ティアナはゆっくりと歩み寄る。
何も言わずにティアナはシンの横にストンと腰掛ける。

拳二個分。

不思議な距離だった。
けれども、パーソナルスペースに敏感な筈のシンは、不思議とその距離の近さに心地良さを覚えた。
ティアナは目の前の壁を見つめながら呟く。

「アンタがあんなに器用なんて……何か意外…」

ぽつりと漏らされた言葉に、シンは瞳を細めて、同じく壁を見つめながら呟く。

「妹の髪を結ってやるのが俺の仕事だったんだ……」
「そっか…それでアンタあんな笑顔してたのか……」
「あんな笑顔?」

「ヴィヴィオの髪を結った時のアンタ、泣くのを堪えるように笑ってた……」

「そっか…まだ引き摺ってるんだな…」
「それって…妹さんを?」
「それもあるけど……そうだな、それもあるんだけど……………いいや、何でもない」

頭を振って、不意に漏らしそうになった心の声をシンは飲み込む。
その仕草に、ティアナは不満気に、もどかしげにシンを睨む。


「言いかけて止めないでよ…」

「何でも無いって。ただ……昔……死ぬほど好きだった人の髪がヴィヴィオに似てたんだ。綺麗な亜麻色で……ははは、何言ってるんだ俺」


グいっとコーヒーを飲み干すとシンはくずかごに空き缶を放り込む。
綺麗な弧を描き、缶はくずかごに心地良い乾いた音を立てて入る。
シンは立ち上がるとティアナを見下ろす。

「悪い。マジでどうでもいい話だったな。じゃあな」

そう言って、何かを振り切るようにシンはその場を後にする。



それからしばらくして、ティアナは膝を抱え込み、その間に顔を埋める。



「何よ…ばか……何でもなくなんてないじゃない………」


胸の痛みの正体に気付かぬまま、ティアナは呟く。
込み上げる嗚咽が、それから間も無くして伽藍の空間に溶けていった。






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最終更新:2009年04月06日 02:32
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