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ツンつん×デレでれ 7話

「ねぇ…シンの好きだった人ってどんな人?」



私は出来る限り、可能な限り、許す限り自然な態度を取ったつもりだった。
声が多少裏返っていたり、頬が熱い気がするが、きっとこれは気のせい。
どうしても聞きたくて、でも聞くのが怖くて、聞いたら聞いたで反応が怖くて一晩徹夜してしまったのも、まぁ特に深い意味は無い。
シンが訓練を終えて、缶コーヒーを飲みながら一人きりになる時間を確実に確保すべくエリオを買収(キャロの着替え写真)したのも、
このタイミングに話かけたのもは単なる偶然。
深い意味は無い。



                                              ……………無いんだってば!!

それで、私はさり気無くアイスティーの缶を手にしながら偶然風に辺りに来たという感じでシンに近付いた。
当然、普段はいない私にシンは目を丸くしたけれど、予めその辺の対応には抜かりない。
シンの「どうしたんだよ、こんな場所に」という質問に対して即座に、「いや~スバルと訓練してたら熱が入っちゃってさぁ、
それでやっぱり訓練の後って水分が欲しくなるよね。そうだよね?それで偶然風が気持ち良さそうなところを見つけちゃって、
それで来てみたらシンがいたってわけ。そういうわけ」といった感じに、私はシミュレートしておいた言葉を捲くし立てた。


…………うん、わかってる。わざとらしいって…………自分でもちょっと「あいたー」って思ったもの…………


でもしょうがないでしょう!!
汗に濡れた前髪とかのかかり具合がちょっと色っぽいとか、
夕日に照らされて男のくせにやけに白々と映える色白な肌とか、
あと、鎖骨のくぼみに伝っていく汗が艶めかしいとか、
風に乗ってシンの匂いがして頭が真っ白になったりとか、
女の子だってそういう、色々悶々とした衝動みたいなのがあるのよ。

男ばかりだと思うな!!!(逆ギレです)


それで、結局、妙に意識するというか、落ち着かないというか、むずむずするようなくすぐったさを覚えるというか、
心音が激しくなっていくというか。


そういう色々な色々を飲み込みながら、ようやく私は冒頭の言葉にこぎつけた。
そしてこぎつけてから後悔した。
言った私の言葉、声は自然なようでも、その会話自体が不自然だったら意味が無い。

それはそうよね。

フォーメーションの話というなんとも年頃から考えれば乾いた話題から一転して「ところでさぁ、好きな子いる?」というような、
修学旅行の女子かお前は!!な展開は唐突にも程がある。
でも結局、この前の自販機でシンの奴が『亜麻色の髪の女の人』の事をほのめかすのがいけない。

そう、シンが悪いのだ!!

あんな風に切なそうに、嬉しそうに、あんな初めて見るような顔で話されたら気になるに決まってる。
上下巻の映画の上巻だけ見せられたような、解決部分だけを破られていた推理小説を読まされたような気持ちでは任務に障る。
そうだ、決してシンだから気になるとか、シンの事をもっと知りたいとかそういうのではない。
仲間……そう、同じチームを組んでる仲間として、知っておくべきことであって、それによって(以下略)


それで、私の言葉にシンは最初、真っ赤なルビーの滴みたいな瞳を丸くさせていた。
その表情を見て、一瞬私は『消えてしまいたい!!』と思った。
直感的に踏み込むべきじゃないと思えたのだ。
シンの口から「関係ないだろ」と吐き捨てるように言われると思えて、急に私は怖くなった。
でもシンはそんな言葉を吐く事はなかった。
何かを確認するように瞑目する。
自分の心の中にある何かに、心に住む誰かに確認を取るような、そんな一種儀式めいたピンとした空気が一瞬だけ生まれる。
瞳を開けたシンに、ぞくりとするものを抱く。
紅の瞳、夕日の光を集めたような瞳が、一瞬酷く据えた匂いを発する血溜まりに見えた。


真っ赤な穴


そう表現出来るような瞳。
私は、この目の前にいるシンが、私の知っているシン・アスカなのかと我が目を疑った。
そして、私は畏怖と言葉に出来ない ――― 恍惚を同時に抱いた。
何故だろうか、私は妙な確信を持ってしまった。
今のシンを見たのは自分だけ、今のシンが見ているのは私だけだという恍惚、優越感。
シンはそんな私の女としての浅ましい悦びなど知るはずもなく、すぐにいつもの表情に戻る。


「そうだな……綺麗な…長い髪をしてて……虫も殺せないような……っていうか虫を殺したら泣きそうな、そんな人だった」
「付き合って………たの?」
「ん~~」

シンは空になっている缶を見つめる。
口元に淡い苦笑、だけど嬉しそうな苦笑を浮かべている。


「戦争中だったからな………映画に行ったり、ショッピングに行ったり、そんな事は出来なかった……」


缶からつとシンが視線を移す。
その遠くを見るよううに、遠くにいる誰かの顔を見るような視線に、何故だろうか胸が痛む。
私はすぐ傍にいるというのに、一体何を見ているのだ、そんな自分勝手な思いが湧き上がる。
自分でも無茶苦茶なことを思っているのだと重々承知している。


「馬鹿みたいに何度もシミュレーターで訓練する人だったから、それに付き合って。遅くなったら向こうの部屋に泊まって……
そんな事の繰り返しだったな……」
「泊まるって……?」
「言わせるなよ、馬鹿。まぁ………お前が思ってるような事だよ」


気恥ずかしいのかシンは俯く。
私は予想していたくせにガンと頭を金槌で殴り付けられたような衝撃を受けていた。
今はもういないというのに、まだ見ぬその女性に言いようの無い感情が芽生える。
この感情が何か知っていて、私はあえて目を逸らす。



「その人はどうなったの……?」


「……………いなくなった……もう……どこにもいない……」




ぞっとした。
奈落の底を見て、堕ちて、そこから更に深い闇の中を見たような、そんな声だった。
一瞬私の目の前にいるシンから出た言葉だとは思えなかった。
べこりと音がして、音がした方に視線を向けるとシンの手の中にあった空き缶が拉げていた。
一体どれくらいの力を加えればそんな形になるのだろうか。
シンはフッと息を吐くように笑う。
まるで全てを失って、もう何も無いとでもいうように。
自分は空っぽだと哂うような笑みだった。


私はそれが無性に気に障った。




「まぁ、聞いてて面白い話でもなかったか」


「なによ…」


「ティアナ?」


「アンタは今は機動六課のメンバーなんだからね」


「え……」


「そんな自分は何処にもいないです。みたいな顔してるんじゃないわよ!!馬鹿シン!!!」


「な、何だよ!!急に怒って…わけわかん ―――――― ッ!?」



ガチッという音が頭に響いた。
当然だ。
初めてなのだから。


初めてのキスなのだから。



「ばーーか。馬鹿シン。大馬鹿シン!!」




私は唇を離すと踵を返した。
呆然とするシンの顔を見ていたらきっと心臓が口から飛び出していただろう。

今を全然見てない顔にムカついた。

いない人ばかり見ている瞳にムカついた。

自分のいる世界を信じていない笑みにムカついた。

私が傍にいるのに、全然私を見ようとしていない事にムカついた。



色んなムカつきが綯い交ぜになって私に思いもよらない行動を取らせた。




それもこれも全部シンが悪い。馬鹿シンが全部悪いのだ!!



羞恥としてやったりという感情がぐつぐつ、ぐるぐるとしたまま、私は隊舎を駆け出していた。





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最終更新:2009年04月06日 02:35
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