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日々、幻想の地にて-後篇

「――――――鬼に絡まれて大怪我したんだよ」

 こっちに来てからの生活は、一言で言うと”大変”、それに尽きる。それでも充実していたし、改めて振りかえれば笑い話として酒の肴に出来る。
 ただ。
 ただし。
 その中には。
 おもいだしたくない、きょうふのきおくもいくつかあるのであった。
「鬼って……萃香か?」
「まあアレ以外に地上に鬼は居ないものね。何か怒らせるような事でもしたの? 確かに鬼は凶悪な種族だけれども、加減はわかってる筈よ」
「知るかよ……ああ……あの時は……本当に死ぬかと思った…………おまけにあの後も見かけられたら喜々として絡んでくるし……もう何なの鬼って……もうやだ怖い……鬼怖い……!!」

///

~夏の終わり頃秋の始まり頃~

「ふーん、そっかそっか。今のが”素”なんだね。なるほどなるほど」
「いや、何なんだよアンタ。いきなり何……」
「――――うん。ちょっと本気で行くから、出し切る前に死なないでねー」

「は? え、ちょ」

///

 テーブルに突っ伏して鬼怖い鬼怖いと連呼しながらぷるぷる震えだしたシンを見て、魔法使いと人形遣いは思わず顔を見合せた。
「……重症だぜ、こりゃ」
「みたいね。どうしたものかしら」
「叩けば直るんじゃないか?」
 魔法使いと人形遣いが物騒な会話を続ける横で、シンの頭の上に居たデスティニーが引き抜いた長剣で思いっきりシンの頭を殴りつけた。悲鳴もなく昏倒するシン。デスティニーはもう一度シンの頭を長剣で殴り付けた。
「あれ、何の話してたっけ?」
 シンはむくりと上体を起こし、頭をボリボリとかきながら呆けた様子で周囲を見回す。そして眼前の二人に向かってぽけっとした様子で問いかけた。
「まさか本当に直るとは……」
「…………………………」
 魔理沙は若干引き気味で、アリスは目を閉じながら額に手をやり溜息を吐いていた。シンは訳がわからずハテナ顔で首を傾げる。そのせいでデスティニーは頭の上からズリ落ちそうになり、慌ててシンの髪を引っ掴んでいた。
「ああ、そうだそうだ。確か永遠亭の話だったよな」
「永遠亭に行く原因がすっとばされてる気がす、」

「永 遠 亭 の 話 だ っ た よ な!!」

 魔理沙の言葉を遮ってシンが絶叫の音量で宣誓した。普段前のめりな魔理沙だが、シンの余りの剣幕に押されて若干後ずさっていた。アリスの方はもう諦めたのか飽きたのか、何時も通りの冷え切った視線でもってシンを刺していた。
 ちなみにもうちょっとシンを追い詰めたら景気よく種が割れていたのだが、シンをはじめその場の面子にそんな事が解る筈もなく。ただ一機それを知る運命はやれやれだぜーとシンの頭の上でヘッドを振っていた。
「怪我自体は割と直ぐに治ったんだけどさ、持ち合わせなかったから返済してた」
「紅魔館の次は永遠亭で働いてたのか? 本当に忙しい奴だなあ、お前」
「いや違う。働いてったっていうか、何か新薬のテスト? に付き合ってた。あそこは結構楽だったなあ、たまに薬飲んだら後は普通に生活してれば良かったし」

///

~同時刻の永遠亭~

「今だからぶっちゃけるのだけど」
「何ですか師匠。藪から棒に」
「前居た彼ね、貴方より倍の濃度のモノを投与してたのよ。いやね最初は普通の濃度だったのよ。ただあんまり効果が出ないから、ちょっとずつ増やしていったら最終的に……」
「…………あの、アイツ私が副作用でのた打ち回ってる横でケロっとした顔してた気がするんですけど。むしろ私看病されてたんですけど……人間でしたよね?」
「そのはずなんだけどね……もう少し詳しく調べておけばよかったわ。とりあえず次に顔を出したら拉……コホンコホン、引きとめておいてくれるかしら?」
「は、はぁ……」

/// 

 そういえば鈴仙は元気だろうかと、シンはぼんやりと思いだしてみる。
 鈴仙・なんたらいん・イナバ……確かこんな名前だった筈だ。呼ぶ時は常に『鈴仙』だったし、本名を聞いたのは一回だけなのでシンの記憶は既に相当曖昧である。
 妖怪らしいが、容姿はとても人間っぽい。兎の耳が頭の上にぴょんと出ている以外は。ただ服装がブレザーというか学校の制服っぽい、シンの見慣れた類のモノだったせいか、どこか親しみやすかった。後何より常識人だったし。とても珍しい事に常識人だったし。
気難しいとこもあったが、常 識 人だったし。
 人見知りが激しいらしく、態度はそっけなくかつ刺々しいのが鈴仙だ。だが会話が高確率で成立するのが素晴らしい。当時のシンは感動で危うく落涙する所だったのだ。何せ鬼に問答無用でボコされた直後…………鬼怖い鬼怖い鬼怖い鬼怖い鬼怖いおににに、

 ドカッ。ばたっ。ドカッ。むくっ。

 空気を読んだデスティニーの精神修正(打撃)がシンの頭に叩き込まれる。シンは再度突っ伏して、また起き上った。魔理沙とアリスがまたかよ的なオーラでシンをうすら寒い視線で見ていたが、シンは気にしていないというか気付いていなかった。構わず急に切れた思考をいそいそと復旧させる。
 とまあそんな訳でシンは鈴仙に対して相当に友好的な印象を抱いているのだ。境遇が似ていた事もあってか、それなりに接する機会も多かったし。会った直後よりは大分打ち解けられたと思う。
「うーん、そういえば永遠亭の方にも長いこと顔出してないけど、鈴仙の奴元気かなあ。あいつ何か病弱らしくてしょっちゅう体調崩してたんだよ」
「「…………」」
「何だよその微妙な顔。俺なんか変な事言ったか?」
 コイツ駄目だわー、的な表情でただ無言な魔理沙とアリスに反論する。直後同時に溜息を吐かれた。何だろう、この理不尽な感じは。
 少しむっとしたのでシンはもう少し食い下がろうとするが、頭の上が騒がしくなったので思いとどまる。正確には頭の上に居るデスティニーが何かソワソワしだしたのだ。
「デスティニー? どうかしたのか? いててて、髪を引っ張るな」
 マスコット化した相棒は、シンの髪をぐいぐいと引っ張り何処かに誘導しようとする。引っ張られる方へと視線を向けると入口のドアが見えた。
「何なんだよデスティニー……誰か来たってのか?」
 このままだと大量の髪の毛が引っこ抜かれかねないので、シンは立ち上がって入口へと向かう。デスティニーはシンの頭の上から飛び上がり、顔の斜め上辺りに浮かんでいる。
 とにかく外に出て確認しょうかと思い、ドアに近づく。

 バンッ――――ガヅッ!!!

 ドアが開いた。唐突にドアが開くのはさっき白黒が入って来た時と似ている。ただ今回は距離が違う。魔理沙が入って来た時、シンはドアノブに手をかけられるほどドアに近かった。故に開いたドアにプレスされた訳だ。
 では今回。シンとドアの間にはまだいくらか距離があった。故に開いたドアは一見するとシンに当たらないように見える。
「……ガヅッ?」
 体には、届かなかった。けれども歩くために前へと踏み出していた足。爪先、足の指。開いたせいで移動したドアの下の方が、神経の集中した足の指にとんでもない勢いで叩きつけられた訳で。
 理解した瞬間、シンの身体に電流走る(神経の痛覚伝達の為の電気信号的な意味で)。
「――いっづぅぁあああああァァイイイイ!!!!!!???」
 抑えられない絶叫を放出しながら激痛に悶えたシンは床をごろごろごろーッと転がり回った。ドアからテーブル方面に転がり戻る、まず到達した魔理沙に箒で受け流され、アリスの方へ。そして大量にスタンバっていた人形達に思いっきりぶっ飛ばされて部屋の隅にすっ飛んだ。どんがらがっしゃーん。
「優しく受け止めてくれとはいわない! せめて勢いだけでも止めて欲しかった!!」
 激突の衝撃で身体の上に降って来た荷物を思いっきり跳ねのけながら立ち上がる。未だ爪先に残る激痛のため、片足立ちでぴょんぴょんしながらのシンは切実な訴えを少女二人に放り投げる。
「やだぜ」
「嫌よ」
「ちくしょう!!」
 淡白な否定と蔑むような拒否が返ってきた。吐き捨てつつ、開いたドアの方向へ顔を向ける。入口に立っているのは一人の青年だ。シンよりは年上だろう。やや浅黒い肌と、赤系の瞳を持った青年。その傍らにはデスティニーとよく似た”存在”が浮遊している。
 ガンダムマイスター――刹那・F・セイエイ。妖怪の山に勝手に引っ越してきた(迷惑過ぎる)守矢の神社に居候している青年で、一応シンとは友人関係にある。
 ちなみに傍らのフルメタルプラモデルは00(ダブルオー)ライザー。元はデスティニーと同じMSらしいが、シンの知るMSと似ているのは形くらいだ。事実、00ライザーはデスティニーと違い”キラキラした粒子”を振りまきながら浮遊している。

「ガンダムの気配がしたから来た」
「どういう気配だよ!?」

 意味不明な理由を平然と当然と言い放つ刹那に怒鳴り返した。付き合いはそこそこ長いが、シンは刹那と会話してその真意を汲み取れた事は驚くほど少ない。元々この地の住人ならまだわかるが、シン同様外来人なのに。
 一方主が吹っ飛んだにも関わらず、庇うどころか駆けつけすらしなかった相棒のデスティニーさんは入って来た00ライザーとメンチの切り合い――互いの頬に突き刺さる拳。いわゆるクロスカウンター。互いに景気よく吹っ飛ぶフルメタルプラモデル共。毎度毎度顔を合わせるたびに挨拶の様にやっている恒例事業だった。
 とまあ顔を合わせる度に物理的に衝突するのだが、仲が悪いかと思えばそうでもなく。たまに一緒に遊んでいたりもする。
「おー、刹那じゃないか。久しぶりだなー」
「……ふう。今日は来客の多い日ね」
「済まない、邪魔をする」
「いいわよ別に」
 当然の様にテーブルに付く刹那。シンも未だ釈然としないままテーブルに戻った。刹那にはシンと同様に珈琲。魔理沙は紅茶のお代りを要求していた。アリスは口では小言を、表情こそ気だるげだったが、ちゃんとお代りを入れて魔理沙に渡す。
「で。結局何しに来たんだよ、刹那。いくらお前がガンダム馬鹿でも、デスティニーの気配だけで魔法の森くんだりまで飛んで来た訳じゃないだろ」
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
「そこ(※ガンダム馬鹿)を拾わなくていい……」
「夕飯の買い物というミッションプランを遂行中だったんだが……人里に向かう途中でシンの気配がした。久しぶりだから顔を見たくてな」
「ああ、そうか。わかった。でもまずノックを覚えような。後ドアはゆっくり開けよう」
「ガンダム……」
「何だその斬新なしょげ方……」
「あーあーシンが刹那いじめたー」
「大人気ないわね」
「あっれー被害者の俺が悪い事になってるーなんでだちくしょー」
 完全に分が悪いのでそう吐き捨てた後珈琲を一気に喉に流し込んだ。刹那に悪意は無いと思うが、ニヤニヤしている魔理沙は絶対に確信犯だ。アリスは適当に流しているだけかもしれない、凄くどうでもよさそうだし。
「はいはい俺が悪い俺が悪い。んで刹那、夕飯の買い物なら時間良いのか? もう結構いい時間だぞ?」
「その事で、さっき重大な問題が発生した事に気付いた」
「問題?」
「買うものが書かれたメモを……忘れてきた…………」
「またそんな古典的なうっかりを……で、どうするんだ? 取りに帰るなら急いだ方がいいぞ、もう大分陽も傾いてるし」
「いや、その必要は無い。トランザムを使う」
「……何でトランザム」
「早苗に声を届けて買う物を聞く」
「ここから妖怪の山まで結構距離……ああできるんだろうなあ、00ライザーならできるんだろうなあ。スゲー、GN粒子スゲー……」
 遠い目で今までの00ライザー伝説(正確にはトランザムライザー)を思い出して、やや遠い目になってみたりする。そんな感じで耽っていると、服の端をくいくいと引かれた。
 何事かと振り返ると魔理沙が手を伸ばしてシンの服を引っ張っていた。
「なあなあ、『とらんざむ』って何の事だ?」
「あれ。魔理沙は見た事ないのか?」
「無いな、ていうか刹那とはあんまり戦った事ないし」
「まあ刹那もそんなに好戦的じゃないしな……まあ何ていうかなあ。結局スペカなんだけど、元々は高濃度の粒子を一気に解放することで機体性能を時間制限付で急激に高める機能で――」
「何言ってるかさっぱりわかんねーぜ。もう少しわかりやすく説明してくれ」
「速くなる。強くなる。赤くなる」
「だいたいわかったぜ!」
「まあ実際はそれだけじゃなくて、他にも色々と副残物があるんだけどな。パッと見はそんな感じだよ」
「へえ。何だか面白そうだな! 刹那、見てみたいからやってみせてくれよ」
「……部屋を散らかさないでね」
「まあ結局粒子がアホ程噴き出るだけだから何か壊れる事は無いと思うけど……しかしそのためだけにトランザ…………ム?」

///

~秋が終わる前の守矢の神社~

「00が押されている……!? だが、俺はお前をガンダムと認める訳には!!」
「ああくそ話が通じねえ! 何なんだよアンターもー!! そもそも何で戦ってるのかがイマイチわかんない! まあここじゃあよくある事だけどさ!!」
「刹那君ー、そろそろご飯ですよー。あれ、シンさんも居たんですか」
「あ、早苗さん。今ちょっと取り込んで」


「ト ラ ン ザ ム!!」


「…………あの刹那さん。なにこの空間」
「ここは、量子の集中する場所だ」
「説明になってない………………ていうか何で裸!? 何これ精神世界とかそういうノリか!? 突拍子無いのには慣れたつもりだけどこれ斬新過ぎるだろ!!」
「解る気がする……何故俺がこの世界に来たのか……」
「話 を き け こ の 野 郎」
「俺は……変革しようとしている……」
「駄目だコイツ」
「………………ひ、」
「もしかしてこれ周囲の人間も巻き込……ああ嫌な予感」
「ひゃあああああああ!!!??? 何、何ですかこれ――!!!???」
「案の定早苗さんが被害に遭ってる――!! 刹那! 何でもいいから早く解除しろ!! このままだと現人神の奇跡が降り注ぐ羽目に!!」
「ガンダム」
「……できないのか?」
「ガンダム」
「出来ないのか! 出来ないんだな!! ああ早苗さんダメですスペカ広げないで!!避けるためにそっち見ないといけなくな――……ああわかったよくらうよ! 目え瞑ってちゃんと全部くらえばいいんだろ!! こんなんばっかだドチクショウ!!」

///

 ――全弾直撃余裕でした。

 持ってて良かったビームシールド&VPS。トランザムというキーワードによって苦い記憶が脳裏にフラッシュバックし、シンは顔を手で覆って机に突っ伏した。ちなみに言っておくがちゃんと”見てない”。ギリギリ危なかったけど見なかった、ズタズタにのされはしたが、その辺りだけは自分を褒めてあげたいシンである。
 後補足しておくと、刹那がシンを襲ったのにはちゃんと理由があった。どうもVLから噴き出る赤い光が疑似GNドライブ――刹那の世界では敵対勢力の証だったらしい――に見え、それで勘違いしたそうだ。誤解が解けた後は出身世界が違えど、MSパイロット同士なんだかんだで気があった。今では友人といえる仲である。
 刹那が00と融合し(?)、バインダーやその他の装備を身に纏う。魔理沙は今から始まるトランザムに興味深々なのか。椅子に腰掛けて、足をぶらぶら揺らしながら刹那を見ている。
アリスの方は最初『外でやれや……』と密かに呟いていたが、もう諦めたのか魔理沙同様刹那の動向を見ている。
 魔理沙はまあ言うまでもなく人間の女の子である。実態は態度のデカイコソ泥だが。
 アリスは魔女で人形遣いな訳だが、見た目は人間の女の子そのものである。
 ちなみにアノ不思議空間は刹那にも制御で来ている訳では無いらしく、発動するか否かは完全にランダムらしい。可能性的には発動しない方が高いのかもしれないが、万が一ここでト裸ンザム空間が発動してしまったら。

 死ぬよ
 えっ?
 この状況じゃ死ぬ

「………………」
 目頭をぐりぐりと揉み解しながら、シンは深く深く溜息を吐く。そして何時の間にか摘んできた花を束にして、上海の方にそーっと近付こうとしていたフルメタルプラモデル(デスティニー)を引っ掴んだ。
「てっくせったー! という訳で止めろ刹那アアアアァァ!!」
「うおっ、何をする!? くっ、離せ……! このままミッションを失敗すれば俺がガンダムでは居られなくなってしまう!!」
「その前に俺の命が風前の灯なんだよ!! だからトランザムはダメゼッタイ!!」
「おいおい、期待させといて今さら中止は無いぜ」
「却下! やっぱり駄目! この状況は死亡フラグにも程があるんだよ!!」
「何で赤くなってるんだ?」
「あ゛ー……! 知るかっ!! とにかく駄目ったらダメだ――!!」
 ぽんっと音を立てて刹那と00の融合が解除される。シンがあまりにも必死なので、刹那は渋々ながらも引き下がってくれたらしい。
「しかしこのままでは俺は……」
「あー、うん。要はこの場でトランザムしなきゃいいんだ。もうちょっと離れてからやってくれれば」
「わかった。では俺は」
「じゃあ私も」
「魔理沙は駄目」
 外に出ようとする刹那。その後に続く様に立ち上がった魔理沙の肩を、反射的にわっしと引っ掴んだ。
「おいおい、私だってトランザムっての見てみたいんだよ」
「駄目」
「何だ、珍しくやけに頑なだな。お前何か隠してないか?」
「………………駄目ったらだめだって」
 訝しげな様子でシンを見上げる魔理沙。シンは顔を逸らしながらそれだけ返答する。その様子に更に魔理沙が疑惑を深める。
「じゃあ何で駄目なのかを言ってくれよ。いくらなんでも理不尽過ぎるぜ」
 それは確かに正論だ。

 A.裸にされる可能性があるからです

 ただ理由を言うのは大変心苦しいというか、普通に言いたくない。というか言ったらそれこそ理不尽にブッ飛ばされる気がする。シンが。何も悪くないのに。
 どうしたものかとシンはあーうーと唸り声をあげ、魔理沙はシンから視線を逸らさない。むしろより一層見つめてくる。

 ――もはや愛を超え

「!? こ……この禍々しい感触は……っ!」
「ど、どうかしたのか刹那ー?」
 急に刹那が声を上げる。シンはこれ幸いと飛び付いた。上手く利用すればこの場を切り抜けられるかもしれないとのセコイ思惑である。魔理沙の疑いの視線を背中に感じつつもドアの前で何かに怯えるように忙しなく周囲を見回し始めた刹那に近付く。
 近寄って気付いたのは、刹那の瞳の色だ。普段はシンと似た赤系の色の瞳だが、今の刹那の瞳は金色に発光しながら微細なパターンを描いていた。通称イノベモードである。

 ――憎しみも超越し

「奴だ、ヤツが来、」
 刹那が言い終わるのを待たずに、ガッシャアアアアアン!! と大きな騒音が室内に響き渡った。窓ガラスを粉砕しながら飛び込んできた”ソレ”は、地面を数度バウンドして跳ね上がりテーブルの上へ到達する。そして丸めていた身体を広げてオープン。ソレは自分を惜しみなく曝け出しながらテーブルの上に仁王立ちの構え。

「宿命となったァ!!!!!」

 着物の様な服装。金髪。ハァハァとめちゃくちゃ荒い呼吸。そして顔には兜の意匠を持つ仮面。おまけに入室経路は窓。言い逃れ不可能な程に不審者である。
「ヤツってアンタか――――!!」
「な、何だコイツは!?」
「窓が……」
 不本意ながらも一応面識のあるシンは恐れ戦いて絶叫し、魔理沙は何がなんだかわからずに叫び、アリスは砕け散った窓を眺めて溜息を吐いた。そして刹那は顔面蒼白で立ち尽くしていた。口をパクパクさせている感じが酸欠の金魚っぽい。
「会いたかったぞ少年……! んふふふ……しょしょしょ少年んん……いや少年のような青年んんぅー!!」
 得体の知れぬオーラを発する仮面の男(仮)。完全に刹那しか見ていない仮面の男(仮)。手をわきわきさせて刹那ににじり寄る仮面の男(仮)。今にも涎を垂らしかねない仮面の男(仮)。
 シンは引いて、魔理沙も引いて、アリスも引いて、そして刹那は絶望した。
「さあ私の愛を受け取るがいい青年んんぅ――!!」
 飛び上がった仮面の男(仮)は一旦上昇した後――両掌を合わせて空中で平泳ぎの様なポーズと共に刹那目がけて落下しつつ突進、

「獄咆「ケルベロス-42」!!」
「恋符「マスタースパーク」!!」
「トランッザムライザアアァァァ!!」(※閃剣『ライザーソ-ド』)
「咒詛「魔彩光の上海人形」!!」

 その場に居た全員が咄嗟に放った四本の光(ビーム&レーザー)は狙い違わず目標に直撃して叩き込まれる。仮面の男(仮)は断末魔もなく光の奔流に飲み込まれた。


~家屋修復中~


「応急処置はこんなもんでいいか……」
「何だったんだよあの変態は……」
 一斉射撃で開いた大穴をとりあえず雨風は防げる程度に塞ぎ終えて、シンは息を吐いた。横では魔理沙がげんなりした様子で呟いている。ちなみに魔理沙は修復作業は手伝わなかった。アリスは人形で手伝ってくれたというのに。
「……とりあえず、反射的に撃っちまったが問題なかったよな」
「大丈夫だ。奴はこの程度で死にはしない。むしろどうやったら排除できるか俺が知りたい……」
「家が……」
「まあ、天災に遭ったとでも思えって……」
 再度四人でテーブルに付く。それぞれ飲み物が行き渡る。全員が一口飲んで、ほうと息を吐いた。
「何の話してたっけ……」
「マジで忘れたぜ……」
「さあ……」
「トランザム」
「「「あー……それそれ」」」
「だがさっきの一撃で粒子を消費してしまった。チャージまでトランザムは……」
「うんまあ、しょうがないしょうがない。いやー残念だったなーハハハ」
「……嬉しそうに見えるのは私の気のせいか?」
 魔理沙がジト目で見てきたので視線を逸らしつつシンは乾いた笑いを発した。ズバリ図星である。とはいえ天はシンに味方したのか、何とかこのまま話題を流せそうだった。
 あの変態のお陰というのは、あまり気に入らないが。
「ハハハ気のせい気のせい。それにしてもアイツは何なんだろうな。何処にでも出てくるし。不死身だし。そういやこの前冥界にも居たな」
「冥界にまでヤツは出るのか……俺の安住の地は……!」
 刹那が突っ伏して呻いていた。00ライザーと魔理沙がその背中を慰めるようにぽんぽん叩いている。魔理沙もあの変態は一目見たら関わりたくない相手と判断したらしい。
 さっきの変態――通称は武士仮面。本人がそう名乗っている。ちなみにシンの方から名前を聞いた覚えは一度もない。勝手に名乗ってくる。むしろ何も聞いていないのに『私は断じてグラハム・エーカーではない!!』と訳のわからん事を叫び出す始末である。

 武士仮面が付け狙っているのは主に刹那なので、シン自体は絡まれる事はあまり無い。ただ完全に無いという訳では無く、むしろ出会ってしまったら絡まれる。
 ”刹那を探している”から会わないだけであって、会ってさえしまえば武士仮面はシンにも積極的に絡んでくるのであった。刹那と一緒に居る時に遭遇してしまうと割と手に負えない。やたら興奮してくるし。
 それを考えると魔法使いと人形遣いという実力者が同席していた現状は随分幸運といえる。シンと刹那だけだと、あの変態を一撃で倒すには火力不足なのだ。一応シンは何枚か”伏せ”を持っている。だがあの変態の為だけに晒したくはない。それらはあくまで緊急用である。
「冥界……ああ、そういえばさ」
「ん?」
 魔理沙がふと思い出したようにシンの方を向いた。
「何時の間にかお前妖夢と知り合いになってたよな」
「ああ、うん。届け物で冥界は何回か行ってるんだけどな。妖夢と知り合ったのはちょうど武士仮面見かけた時で――」

///

~少し前の冥界・白玉楼付近~

「死んだ後の世界に普通に飛んでいけるって……今更ですねわかりすぎる。ん? あれは……ぶっは、武士仮面!? 何でこんな所に!? 罪深過ぎて涅槃に召されたのか!?」

SE:剣戟

「なかなかの太刀筋……相当の使い手と見た。だが私は青年に会わねばならんのだ! そこを通してもらおう!」
「……いや何の事かわからないんですが。この先は白玉楼、青年なんて人は居ません。そして私はその庭師。侵入者を排除する役目があります、これ以上行くというのなら、」
「その頑なさ、やはりこの先に青年が居るとみた!」
「いやだから何の事(ry」
「埒があかん! さすれば!! ト ラ ン ザ ム!!」

「…………………………いや、トランザムするのはいいんだけど。脱ぐ必要、あるんだろうか…………ないんだろうな……武士仮面のする事だもんな…………仮面と褌一丁かあ……キッツイ画だなあ…………誰が得するんだこの画…………」

「ひぃ!? く、来るな! それ以上来たら本当にき、斬り捨てる! わ、わわ私に切れないものは……」
「きりすてええええ」
「あんまりないいいいぃぃ――!!!」
「ごおめええぇぇんん――――!!!」

 みょーんみょーんみょーん……――

「わあー綺麗な放物線……じゃねえー!! おーらいおーらーい!」


///

「「「無茶しやがって……」」」
「オーイ死んでない死んでない。妖夢まだ生きてるから」
 半分だけど。
 まあこれは元からか、とシンは心中で呟いた。というかどんだけ考えても半分幽霊ってのがイマイチ理解できない。まあ考えてもわからん事はここじゃあ山の様にあるが。
 一回その辺りがどうしても気になって止まらなくなった事がある。その時は妖夢にくっついた半霊を調べようと思って、あれこれ弄り回してみた。結果凄まじい勢いで斬られまくる羽目になった。流石は二刀流の達人というか、一瞬の出来事である。

 ちなみに『戦闘技術』という括りならシンはそこそこ立ち回れる。だが『剣術』という括りでは、特に妖夢に圧倒的に劣る。シンの主武装(アドヴァンスド-アロンダイト)は剣のカタチこそしているが、実際は盾というか斬れる鈍器として振り回すのが”正しい”武装であるし。
 しかし何故斬られたのだろうかとシンはぼんやり思案してみた。別に減るもんでは無いと思うのだが。妖夢いわく色々と減るらしい。何が減るのだろうか。
「それで武士仮面はどうしたんだ、そのまま召されたのか!? 頼む! そうだと言ってくれシン……!」
「だったらさっき出てきて無いだろ……まあそう思いたい気持ちはわかるけどさ。追っかけたらトランザム後で息切れしてたから、射撃でちまちま削って倒しといた」
 その後は冥界から適当に放り出したので何処に流れ付いたのかは知らない。たださっき何事もなく登場したところを見るに、適当なとこに漂着したんだろう。チッ。
「せこいな……」
「何とでもいえ。粘液が酸性の輩と接近戦なんて御免だよ」
「あの仮面実は妖怪じゃないのか……?」
「目覚めたのだよ武士道に」



「獄咆「ケルベロス-42」!!!!」
「恋符「マスタースパーク」!!!!」
「トランッザムライザアアァァァ!!!!」(※チャージ? 純粋種の力(ry)
「咒詛「魔彩光の上海人形」!!!!」


~家屋修復中~


 二度目の応急処置を終え、シンは陰鬱とした表情で他の三人を振り返った。意志は言葉にせず、目だけで伝える。

 ――話題に出すと、また出かねないから、以降完全にあの変態の話題は無しで。

 グッとその場の全員が親指を立てて無言の肯定を示す。
 その瞬間、皆の心は確かに一つになっていた。
「…………もう、普通に戻る事にする」
 家の外。酷くやつれた表情で刹那がそう言った。再度00と融合した事で出現したドライブとバインダーからGN粒子を散布しつつ、軽く浮いている。
「気をつけろよ」
「気をつけてな」
「気をつけなさいね」
「ああ……ありがとう」
 何に、とはシンも魔理沙もアリスも言わない。言ったらまた出て来かねんからだ。刹那はやつれた顔でそれだけ言うと、GN粒子を煌めかせながら飛んで行った。
 まあなんだかんだでトランザムが完全に有耶無耶になった事だけは、あの変態に感謝しておこう。と、シンはこっそり不謹慎な事を考えてみたりした。
「ちょっといいかしら」
「ん、どうかしたか?」
「貴方これからどうするの?」
「とりあえず予定は無いな。今日はもう遅いから仕事探すのは明日にした方がよさそうだし……そもそも次何処に行くかも決めて無いしな」
 思案しながらシンはアリスに返答する。顔を出したい所はなんだかんだでたくさんある――この一年でたくさん出来たので、そこらを適当に回ろうとは思っている。
 そこで何かしら仕事があれば請け負うし、無かったら無かったでそれでいい。目的はあっちへこっちへ飛びまわる事だけだし。もう季節は春になっているので、それは十分できるだろう。ちなみにシンは冬が余り好きでない。力尽きた後、適当に寝ると凍死しそうになるからからだ。後上空飛んでるとめっちゃ寒い。
 でも雪景色は綺麗だと思う。

「じゃあちょっと頼まれてくれる? 家の修理。流石に二回連続でぶっ飛ばしちゃったからそう簡単に直せそうにないのよ」
「ああ、うんオッケー。じゃあ代金代わりに泊めてくれ」
「いいわ」
「交渉成立っと…………あー、どうするかな。この様子だとちょっと準備要るかな」
 見事に大穴の開いた家屋の壁面を眺め、シンは唸り声を上げた。シンも一応便利な物置(デスティニーの中)にあれこれ工具とか詰め込んではいるが、足りるかどうかなかなかに微妙だった。
「お、じゃあ私も泊まるかな。何か面白そうだし、ついでに本も何冊か借り……」
「じゃあ手伝え」
「うん。やっぱ遠慮しとくぜ」
「このやらー」
 即答で意見を取り下げた魔理沙に対して小声で悪態を付いておく。まあ『借りる』ってワードが出た時点で窃盗フラグであり、それを折るためにワザと言った訳だが。
「まそれは置いといて、俺ちょっと人里行って道具とか資材とか揃えてくる。手持ちのじゃ足りそうにない」
「そうね、それなりに大掛かりなものになりそうだし」
「まあ帰った後にもう少し直せば一晩くらいはどうにか出来るだろ。じゃあ行ってくる」
 背中で広がったウイングからVLの光が噴き出ると同時にシンの身体が浮き上がる。デスティニーとはさっきの砲撃から融合しっ放しだった。
 夜の空気を切り裂きながら一気に上昇した。
 生身(?)で空飛ぶなんて突拍子無い事も今ではすっかり慣れたもんである。沈みかけた太陽の微かな光に微かに目を細めた。そしてひたすら伸びる”向こう”を見る。
 そりゃ物理的には果てがあるのだろう。ただシンの考える限りこの空に果てなんて無い。例えばAからBへ飛んだとする。その後BからAへ飛んだとしても、目的があっての行動ならそれは”前へ進んだ”事になる。問題なのは距離とか方角じゃや無く、何を思って飛ぶかだ。だから果てなんて無い。
 見上げると瞬きだした星がいくらか見えた。少しの間だけその場で星を見る。夜は一気に世界に広がった。気が付けば世界は月と星の光だけで照らされている。
 ”ここ”の空はとても澄んでいるから星が綺麗に見える。寝る前に地面に寝転んで満点の星空を眺めるのは、地味に今のシンのお気に入りだったりする。

「――――なあ」

 声がした。何時の間に同じ高さまで上がってきたのか、愛用の箒にまたがった魔理沙が居た。常に被っているトンガリ帽子を指先でクイと上げる、なんて気障な仕草をしていた。
「んー、何だよ」
「久し振りにやろうぜ」
 シンの問い掛けに対し、魔理沙が言ったのはそれだけ。後は人里がある方向をクイと指さす。それだけでシンは魔理沙が何を言いたいのかを理解する。
「ああ、そう言う事か……そうだな。いいな、久し振りに」
 人里の方向を向く。魔理沙が箒にまたがったまま姿勢を深く落とす。シンは前傾姿勢に、背中の翼から噴き出る光が一層強まった。
「「競争、だ」」
 完全に同時に放たれた言葉が合図。
 空気を叩くような音と主に、二人揃ってが一気に急激に加速する。夜の空を箒に跨った魔法使いと、光の翼を羽ばたかせる運び屋が翔け抜ける。総ての景色の通過は一瞬。後に残るのは風切り音の残響と、光翼の残光のみ。
 果てが無いから終わらない。終わりというものを認めないから終わらない。何時までもただ真っ直ぐ真っ直ぐ飛んでいく。
「――あっ、この! 魔法で妨害するのは反則だぞこのやろ――!!」
「勝ったもん勝ちだぜ!」
「どわああああああ――!? 速度勝負の途中で弾幕はるヤツがあるか――――!!!」

 真っ直ぐ。自分に真っ直ぐ。思う事に真っ直ぐに。この世界はそんな連中に溢れている。そしてこの世界はその連中を受け入れる。
 世界の名前は幻想郷。
 忘れられたものが流れ着く場所。
 総てを受け入れる楽園。
 そんな世界は少年にとって――文字通り”楽園”だった。

「もうあったまきたぞこの野郎! 輝符「E.B.M」!!」
「お、やる気か! 受けて立つぜ!!」
 まあ気持ちが真っ直ぐでも、見た目は相当ジグザグしているのだが。






「――――で、気が付いたら夜が明けてたと」
「本当スイマセンでした……!」

 翌日。あからさまに不機嫌な様子で、かつ背後に無数の人形をスタンばらせている人形遣いに土下座して謝っている運び屋が居た。



EXステージ1『アフター・ザ・トランザム』

「「早苗が泣かされたと聞いて」」

「やっぱ来たァ! ていうか濡れ衣ですよ! 俺その場に居ただけなのに!!」
「何があったかはよく解らないけど、とにかく二人ともぶっ飛ばしてくれって泣き付かれちゃったしねえ」
「あーうー。ちなみに刹那君に早苗からの伝言『晩御飯抜きです』だってー」
「この世界に……神は居ない……!」
「目の前! ×2!!」
「あれはアッシュとガンキャノ(ry」
「おい馬鹿止めろ」
「…………」
「…………」

SE:ピッ
  Easy
  Normal
  Hard
ニア Lunatic

「――アハハハハ言わんこっちゃねえハハハハハ」
「どうかしたのか」
「わからねえならいーよ……ちくしょー、気合い入れて行くぞー刹那ー……」
「了解。00ライザー、刹那・F・セイエイ――」
「シン・アスカ、デスティニー……」
「「この場を切り抜け(ry」」

ピピチューン

「ウボアー」
「ガンダァァァム」



EXステージ2『人形遣いの素顔』

「うーん。どれがいいものか……」
「お、シンじゃないか。アリスの家に居るなんて珍し……写真広げて何してんだ?」
「よう魔理沙。ああうん、ちょっと選別」
「というか写真機なんて持ってたんだなお前、天狗連中からちょろまかしたのか」
「お前と一緒にするな。自前だよ自前。つってもデスティニーの持ってる機能ちょいとイジった即席だけどな」
「相変わらずこの小さいのは便利だな。私も一機欲しい位だぜ……で、結局何の写真……って映ってるの全部アリスか?」
「うん。いやほら、アリスって人間に対して割と友好的なのに、何かイメージ悪いんだよな。人里行くとわかるんだけど……だからその辺のイメージ払拭しようと思って――」

「人形と話してる時とかの満面の笑み撮っといたから射命丸さんの新聞にでも載「魔符「アーティフルサクリファイス」! 戦符「リトルレギオン」!! 戦操「ドールズウォー」!!! 咒詛「魔彩光の上海人形」!!!!」


「……おー飛んでる飛んでる。あれで死なないんだからアイツすげーよなー」
「魔理沙テメ呑気に見てないで助けウボア――――ァ――――…………」
「おお、見えなくなったぜ」



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最終更新:2009年12月20日 23:01
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