一方通行 / 8:12:02 / 第七学区
打ち止め「ねぇ起きてぇ、ってミサカはミサカは人妻っぽく旦那の起床を促してみる」
第七学区のとあるマンションの一室。
十歳ほどのあどけない少女が、必死にベッドを揺さぶっていた。
正確には、ベッドの上で布団を被って寝転がっている、白髪の少年を。
打ち止め「ねぇねぇってばぁん、ってミサカはミサカはいやらしい声でいやらしく旦那の起床を……」
一方通行「それ以上喋ったら廃棄処分されたダッチワイフみてェな体にしてやンぞ」
教育上に多分の問題がありそうな言葉を吐きながら、白髪の少年が起き上った。
ボサボサの髪の毛と、気だるそうな表情で、不良のような雰囲気を出している。
目つきは非常に悪く、その瞳は、血のように赤い。
打ち止め「あっ、やっと起きたんだね!ってミサカはミサカは嬉しそうに叫んでみたり!」
一方通行「とっくに起きてたけどな。いつまで経ってもてめェがやかましいから二度寝もできねェ」
打ち止め「えええっ!? それはいくらなんでも酷過ぎない!? ってミサカはミサカは涙目になってみたり!」
少女の方は、喋り方こそ独特ではあるが、振舞いそのものは理性的で、子供らしい可愛らしさも残している。
一方通行「っつーか何なんだよ何なんですか朝っぱらからグダグダとやかましいなテメェは。
久し振りにココに帰ってきたっつーのによォ」
打ち止め「あ、そうだよそうそう! なんか外の様子がおかしいんだよ!
ってミサカはミサカは玄関の方を指さしながら訴えてみる」
一方通行「あン?」
白髪の少年―――通称『一方通行(アクセラレータ)』と呼ばれている―――は、
相変わらずやる気のない顔で、部屋の玄関に視線を向ける。
しかし、その赤い瞳には僅かな力が宿っていた。
一方通行「……何が、どうおかしいって?」
打ち止め「うーん、なんかね、空気がピリピリしてるっていうか、雰囲気がおかしいっていうか……
ってミサカはミサカは煮え切らない返答を返してみる」
幼い少女―――こちらは『打ち止め(ラストオーダー)』と呼ばれる―――は、
『強能力者(レベル3)』相当の発電系能力者(エレクトロマスター)である。
空気中の静電気、電磁波等を感じ取ることも可能で、そういった『雰囲気』の変化には敏感なのだ。
一方通行「自分で分かってんならもうちょいマシな事言えよ……」
一方通行はようやくベッドから立ち上がり、寝衣のまま玄関へと向かう。
そして、ドアノブに手を掛けた。
打ち止め「あ、それと、こっちの方が重要なことなのかも知れないけど……」
打ち止めの声に、手を止めて振り返る一方通行。
一方通行「?」
打ち止め「学園都市外の『妹達(シスターズ)』が全てミサカネットワークから分断、
加えて学園都市内に居る『妹達』も、ネットワークには繋がっているものの通信に応答してくれない個体が増えてきてるの、
ってミサカはミサカは困った顔で現状を説明してみる」
ミサカネットワーク。
それは、学園都市第三位の超能力者(レベル5)『超電磁砲(レールガン)』のDNAを元に製造されたクローン軍団、『妹達』が、
脳波リンクによって作り出すネットワークのことである。
本来なら20000人存在した『妹達』だが、とある『実験』により現在は約10000人ほどしか残っていない。
『打ち止め』とは、製造番号20001番の『妹達』に与えられた呼び名。
『妹達』の上位個体であり、ミサカネットワークの管理者でもある。
そして白髪の少年、一方通行も、それらの『妹達』とは決して無関係ではない。
一方通行「……なンだと?」
それはどういうことだ、と一方通行がその疑問を口にする前に。
玄関のドアが、サブマシンガンの銃撃によって、粉々に破壊された。
打ち止め「っ!?」
打ち止めは、慌てて身を隠す。
突然の銃声にも対応出来るあたり、場馴れしていると言うべきか。
破壊されたドアの向こうには、一人の警備員(アンチスキル)が立っていた。
腰まで届く長い黒髪に、モデルのような長身とスタイル、口に咥えた煙草。
そして―――顔から流れる、大量の赤い液体。
打ち止めは、遠目に見るその警備員の顔に、見覚えがあった。
打ち止め「―――っ、ヨミ、カワ?」
黄泉川愛穂。
第七学区の高校教師兼警備員。
そして、この部屋の持ち主で、打ち止めの現保護者でもある。
黄泉川「………アー?」
普段は利発で凛々しい顔をしている妙齢の女性だが、今の彼女にその面影はない。
顔色は酷く青褪めていて、目は虚ろで、口は半開き。その両方から、赤い液体がダラダラと流れるままになっている。
黄泉川は、僅かに呻いてから、両手に持ったサブマシンガンを構えた。
学園都市謹製の、最新鋭の短機関銃。
それを向ける相手は―――
一方通行「―――オイオイオイオイ、ヨミカワァ……
だから言っただろうが。炊飯器で作ったエビフライなんざ食ったら頭おかしくなるぞっつってなァ!」
―――粉々になったドアの前に毅然と君臨する、一方通行。
一方通行。それは、学園都市内の者ならほとんどの人間が耳にした事がある名前だ。
たった一人で軍隊と肩を張る化物達の中の、更に群を抜く化物。
学園都市の誇る超能力者(レベル5)、序列第一位。
体に触れた『ベクトル』を自在に操作する能力。その能力名が、『一方通行(アクセラレータ)』。
核爆弾の直撃をも防ぎ切り、地球の自転を丸ごと相手にぶつけることすら出来る、最強の超能力者。
サブマシンガンなど、彼にとっては子供の玩具にすら匹敵しない。
現在、彼はとある事件の負傷でその能力の大半を失っているが、
首に着けたチョーカー型の電極で能力を補填している為、電極のバッテリーが続く限りは、最強の能力を行使出来る。
マシンガンの弾丸がドアを突き破る直前、一方通行は電極のスイッチを咄嗟に切り替えていた。
その電極も、『ミサカネットワーク』の力を借りたものだ。
ミサカネットワークによる並列演算により、一方通行の能力に必要な膨大な演算量を補っている。
勿論、『妹達』がネットワークに繋がっていなければ不可能な話なのだが、
何らかの問題はあるものの、ネットワークそのものは機能しているらしい。
一方通行「……」
一方通行は、誰にも聞こえないように舌打ちした。
先ほどサブマシンガンから放たれた弾丸は全て、ベクトルを奪われて玄関の床に転がっている。
本来なら、一方通行の体を覆うベクトル操作膜は『反射』に設定されている。
一方通行に撃たれた弾丸は、攻撃者へとそのまま反射される、はずだった。
しかし、一方通行は、電極を能力行使モードへ切り替えた際に、反射設定を解除し、静止させるように能力を再設定したのだ。
理由は、言うまでもない。そのまま弾丸を反射すれば、玄関のドアと同じように、目の前の攻撃者がバラバラになっていた。
かつての一方通行なら、暴君のような一方通行だったなら、わざわざ能力の再設定などしなかっただろうが。
今の彼は、違う。かつて10000人の『妹達』を虐殺した彼とは、違うのだ。
一方通行「ヨミカワァ……てめェ顔からトマトジュース流してガキビビらせて悦に浸ってんじゃねェぞ。
それとも、アレか? たかが警備員の分際で調子に乗ってっから、どっかの悪ガキに脳ミソいじられて奴隷にでもされちまったのかァ?」
皮肉った笑みを浮かべながら、赤い瞳が煌々と黄泉川を睨みつける。
警備員という役割を担う以上、犯罪者からの恨みを買うことは大いに考えられる。
加えて、学園都市第一位の元保護者、10000人以上のクローン軍団統率者の現保護者という立場の黄泉川は、非常に『利用価値』のある人間でもある。
犯罪者の誰かが、黄泉川愛穂を操り、一方通行、或いは打ち止めを襲撃させた。
一方通行は、煮えくり返りそうな腹の内で、そんな推測を立てていた。
一方通行「……チッ」
一方通行は、怒っている。
黄泉川を操り利用した事。打ち止めを危険にさらした事。その両方に。
黄泉川は、サブマシンガンを一方通行に向けたまま、引き金を引こうとはしない。
引こうとしないと言うよりは、一方通行の気配に圧されて、引く事が出来ない、と言った方が正しいだろう。
しかし、その背後に、複数の警備員の姿が現れる。
全員、手には様々な種類の火器を携え、同様に顔から血のようなものを流している。
一方通行「……にしても、てめェに命令くれたご主人様は随分ユルいアタマの持ち主みてーだなァ。
―――たかが警備員ごとき、60億人集めても、この一方通行サマに敵うと思ってンのか?」
→1、打ち止めを護る事を優先する
終了条件1:『打ち止め』を連れて第七学区を脱出
一方通行「打ち止め(ラストオーダー)! てめェはそこで布団被ってじっとしてろ!」
一方通行は打ち止めにそう釘を差してから、警備員達の顔を見る。
見知った顔は黄泉川だけだ。遠慮はいらない。手加減は、必要だろうが。
一方通行(ったく……マシンガンまでぶっ放されてんのに殺さずに済ます、
なんざどう考えてもオレのキャラじゃねーよなァ)
自嘲するように、少しだけ笑みを浮かべる一方通行。
しかし、すぐにその笑みもなくなった。
一方通行の身体が、消える。
消えたように見えるほどの、高速移動。
触れるベクトルを自在に操る一方通行には、『床を蹴る』だけでも、爆発的な推進力を生み出す事が出来る。
警備員達の目には、その動きが捉えきれない。
まずは、先頭に立っていた黄泉川愛穂。
その頭を右手で鷲掴む。
黄泉川は抵抗するように一方通行の身体を銃撃するが、その弾丸は全て静止して、一方通行には届かない。
黄泉川の体内循環のベクトルを、僅かに乱し、脳血流の低下を促す。
簡単な話だった。脳血流が低下すれば、人間は失神する。
それを狙っての攻撃、だったのだが……
黄泉川「 ア ァー?」
一方通行「!?」
黄泉川は、失神しない。
ベクトル操作を誤ったか、と一方通行は焦ったが、やがて本当の理由に気がついた。
一方通行(何だ、コイツの頭の中に流れてンのは……血液じゃ、ないだとォ!?)
黄泉川の体内に流れている液体は、血液ではなかった。
その中には人間の血液も混ざってはいるものの、大半は別の液体だ。
『血液によく似た何か』。それも、一方通行の知識にも無い、未知の液体。
それは、血液の代わりに、黄泉川の体内を循環しているようだ。
一方通行(コレがコイツらを操ってるモンの正体か?
ならコイツを抜き出してちまえば……いやァ、駄目だな。
コイツを抜いちまうと、残りの血液じゃ全然足りてねェ。単純に貧血で死んじまう)
一方通行は高速で思考を展開させ、一秒もしない間に、結論に至った。
一方通行「メンドくせェ、直接アタマぶん殴ればいいだけだろォが!」
そして、黄泉川の頭を、玄関のドア枠にぶち当てた。
考えが正しかったと言えるのかは分からないが、黄泉川は何も言えずに気絶した。
ハッとなって黄泉川を見るが、恐らく死んではいないだろう、と適当に辺りをつけて、
一方通行は残った警備員達を睨む。
警備員は、明らかに怯えていた。
その行動に怯えたのか、一方通行が纏うオーラに怯えているのかは分からない。
一方通行「……」
一方通行は何かを言おうとしたが、すぐに思い直して、口を噤む。
さっさと気絶させた方が良い、と直感したのだ。
手当たり次第に近くの警備員の首根っこを引っ掴み、
ある者はマンションの外へ放り投げ、ある者は地面に叩きつけ、ある者は直接頭を殴打して、
一方通行は次々と警備員達の意識を奪っていく。
意識のある警備員が残り一人になった時、一方通行の両手には『血液のよく似た何か』が、ベットリと付着していた。
直接触れてみても、やはりそれが何なのかは分からない。
一方通行(……まァ、分からねェモンは考えても仕方がねェ)
そう思い直して、ひとまずその液体を、身体から一滴残らず弾き飛ばした。
気持ちが悪い。そう思っただけだ。
警備員「ヒ、イヒ!? ヒヒ、ヒヒィヒャヒ!!」
警備員は傍目にもかわいそうなほど怯えている。
だが、だからと言って見逃せば、背後から銃を撃たれないとも限らない。
一方通行は、静かにその警備員に手を伸ばす。
その時、警備員が懐から何かを取り出した。
一方通行「手榴弾、ねェ……はン、ココに来て出てきた奥の手がそれかよ。つくづく笑えねェな」
一方通行は余裕綽々といった風に、ゆったりと警備員に近付いていく。
対する警備員は、形振り構わず、一方通行に向けて突進した。
そして、一方通行にぶつかる直前、その手から、手榴弾を投げ放った。
一方通行「!?」
手榴弾は、一方通行には当たらない。
一方通行の頭上を越え、その向こう側。
打ち止め「!!」
打ち止めの眼前へと、放り投げられていた。
一方通行「テ、メェェェェェェェェェェッ!!!」
一方通行は、突進する警備員には目もくれず、一直線に打ち止めの元へ跳んだ。
手榴弾よりも速く、爆発するよりも早く、打ち止めの身体を毛布ごと抱きかかえる。
直後、手榴弾が爆発した。
学園都市特製の、『中規模破壊用手榴弾』。
従来の対人用兵器としての手榴弾ではなく、障壁やバリケードごと敵を殲滅する為に用いる、破格の威力が込められた手榴弾である。
爆発の規模は、周囲10メートル。最早、火薬の塊と称しても問題無い。
更に、殺傷力のある大型の破片が周囲30メートルに飛散する。
その全てを、一方通行は『反射』した。『静止』では、自分が抱える打ち止めに被害が及ばないとも限らない。
確実に打ち止めを護り切る為に、ベクトル設定を全反射に切り替える。
勿論、抱えている打ち止めまで反射してしまうわけにはいかないので、例外設定も演算。
かくして、手榴弾の爆発は、一方通行と打ち止めを除く全てを巻き込み、マンションの一室はあっけなく吹き飛んだ。
当然、床も崩れた為に、二人はそのまま空中に投げだされる。
一方通行は打ち止めを抱えたまま、十メートルほど落下して、2階ほど下の部屋に着地する。着地の衝撃も、当然ながら『反射』した。
打ち止め「び、びっくりしたー、ってミサカはミサカは胸をなでおろしてみる」
一方通行「……安心するにゃまだ早ェみたいだけどなァ」
見ると、既にこの部屋の前にも、警備員達が集まり始めている。
一方通行「イチイチ相手にしてちゃキリがねェ。
打ち止め、そのままサルみてーに俺の身体に掴まってじっとしてろ」
打ち止め「んなっ!? サ、サルみたいって自分から抱きかかえといてそれはないんじゃないかな、ってミサカはミサカは……」
一方通行「舌噛んで後から文句言うんじゃねェぞォ!!」
一方通行は、そう言って、玄関の反対側―――部屋のベランダから、外へと飛び出した。
打ち止めは泣きそうな顔で必死に一方通行の首にしがみついている。
一方通行(だが、逃げて、それからどうすンだ……?
一体、誰がアイツらを操ってたのかも、全く分からないってのに……)
と、そこまで考えて、一方通行は気がついた。
あの爆発。一方通行は打ち止めを護るのに精いっぱいだったのだが……
黄泉川達、警備員は大丈夫だったのだろうか。
一方通行(……ッ! クソ、今から戻っても、メンドくせェことにしかならねェ……)
そうしている間にも、一方通行の身体はマンションの外へ着地していた。
周囲には、銃声と悲鳴が飛び交っている。
見れば、警備員達があちこちで戦闘を行っている。
相手は、顔から血を流した、警備員。或いは、学生達。
一方通行「……何だ、こりゃァ。
おい打ち止め、ネットワークの連中と情報を共有できねェのか」
打ち止め「う~ん……さっきから何回か連絡を取れる個体と通信してるんだけど、どうも他の皆もあんまり状況が分からないみたい、
ってミサカはミサカは報告してみる」
一方通行「まァ、そうだろうなァ、このザマじゃ」
突然、人間が顔から血を流して周囲の人間を襲い始める。
これでは丸っきり映画かゲームの世界の話ではないか。
一方通行(こういう時に役に立ちそうなのは……)
一方通行は、知り合いの顔を思い浮かべる。
グループの面々。
否。確かに戦闘能力は確かな連中だが、この状況を把握できている人間がいるとは思えない。
統括理事会。
否。これが非常事態というのなら、あの連中はとっくに保身を図っている。連絡が取れるとは思えない。
アレイスター。
否。何を考えているのか分からないようなヤツを頼りにしても仕方が無い。
なら、芳川桔梗。
一方通行「……」
否定する理由は、特にない。
一方通行の数少ない知り合いの一人であり、曲がりなりにも優秀な科学者である。
彼女なら、或いは何かを知っているのかもしれない。
一方通行(……まァ、多分知らねェだろうが)
しかし、それでも。
打ち止めを保護してくれる人間が必要だ。
一方通行が、『黒幕』をぶちのめすために。
打ち止めを危険に晒さないよう、打ち止めを護ってくれる誰かが、必要だ。
そして恐らく、芳川なら、打ち止めを護ってくれる。
護衛というには頼りないが、それでも安全な場所に隠れるくらいはするだろう。
一方通行(アイツは確か……第二学区の研究所にいるはずだったな)
一方通行は、 都合良く近くに落ちていたショットガン(恐らく付近で戦っている警備員の装備だろう)を拾う。
電極のバッテリーは、能力行使状態では30分程度しかもたない。
ここから離脱した後、電極のスイッチを切り替えれば、一方通行は歩行にも不自由が出るほどの弱い存在だ。
武器と、杖の代わりが必要になる。
そして、獣のような速度で、その場を走り去った。
目指す場所は、第二学区。
終了条件1達成(ミッションコンプリート)
最終更新:2010年11月07日 04:25