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上条当麻3-1

 雨あられと放たれる電撃を、上条の幻想殺しと、ステイルのルーン魔術が打ち消していく。
 反撃にとステイルの伸ばす炎剣は、しかしヒラリヒラリと空中で避けられる。
 バランスの悪い造形ではあるが、空中の機動性はかなりのモノだ。

ステイル「なるほど、これが神裂の言っていた、屍人の『変異体』というヤツか。
      不死の再生力に加え、完全にヒトを逸脱した造形、更に異能まで加わるとなかなか厄介だな……」

 ステイルと御坂が一進一退の攻防を繰り返している間に、上条は走って御坂の足元まで辿り着く。
 しかし、低空――およそ地上5、6メートルだろうか――とはいえ、空中を飛び続ける御坂に、上条は打つ手がない。

上条「ぐっ……ってか、敵が空中にいるんじゃ俺の幻想殺しでもどうしようもねーぞ……!
    ちょっと降りてこい、御坂ーっ!」

 上条は御坂に向けて叫ぶが、返ってくるのは冷徹な雷撃だけだった。
 それを見て、やはり、目の前の異形は上条の知っている御坂美琴ではない、という事実を確認させられる。

上条「……御坂」

ステイル「何をボーっとしている、上条当麻!
      空を飛ぶ相手に駆け寄ってどうするつもりだ、相変わらずの単細胞だな君は!」

上条「あぁ!? いやだって他にどうしようも……」

 炎を避けながら、雷撃を放つ羽根の生えた御坂。空中を蝶のように舞い続ける。
 雷撃を掻き消しながら、炎剣を放つステイル。ルーンが描かれたカードを、湯水のように周囲にばら撒いていく。
 両者の戦力は、ひとまずの拮抗を見せていた。

ステイル「いいか、よく聞け!
      コイツのように、人型から変異した『変異体』の屍人には、必ず付近に行動を統率する『頭脳屍人(ブレイン)』が存在する!
      というよりも、『頭脳屍人(ブレイン)』からの信号が無ければ、コイツら『変異体』は動けないんだ!」

上条「何だよそれ!? そんな話、どこから……」

ステイル「神裂が言っていたんだよ! 実際に『確かめてみた』とも言っていた!」

上条「『確かめて』……」

 上条は、先刻の神裂を思い出す。
 あの疲弊した表情は、幾度となく『屍人』達を相手にしてきたから、だったのだろうか。

ステイル「だから君は、その『頭脳屍人』を見つけ出して、倒せ!
      僕がこの羽根アタマにやられないうちにな!」

上条「やられないうちに……ってなんだよそれ!
    それなら俺が御坂の相手をして、お前がそのブレインってのを探せばいいだろ!
    コイツの相手なら俺の方が慣れてる、絶対にやられたりしねえ!」

 辺りかまわず乱れ撃ちされる電撃をいなしながら、二人は会話を続ける。

ステイル「なら聞くが……君は、コレが人間だった頃、『殺し合い』をしたことがあるのか?」

上条「!」

ステイル「『殺し合い』は、君が日常的に行っている『じゃれあい』とは違うんだ。
      この化物は、目の前の人間を、確実に殺すつもりで攻撃を行ってる。
      君は、その攻撃に、その『殺意』に、耐えきれる自信があるのか?」

 上条は、御坂のことを思い返す。
 いつもいつも、何かしらの理由を付けて喧嘩をふっかけてきた御坂。
 けれど、それは所詮ただの喧嘩。じゃれあいのような、ただの喧嘩でしかない。

 いつか、鉄橋の上でお互いの意地を張り合った時も。
 上条は御坂を殴るつもりがなく、御坂も上条を殺すつもりがなかった。

 御坂と、命をかけて『殺し合った』ことなど、一度だって無い。あるわけが、ない。


ステイル「そして何より、君は、この化物を――――この子を、殺したくないんだろう?」


上条「……ステイル」

ステイル「ならば、さっさと行け。
      僕がこの子に殺されず、僕がこの子を殺してしまわないうちに、一刻も早く『頭脳屍人』を見つけ出せ!」

 いつのまにか、また雨が降り始めている。
 赤い雨は、サアサアと天から降り注ぎ、二人と一匹の身体を濡らす。

 赤い雨に遮られ、上条からはステイルの表情が上手く読み取れない。

ステイル「頭脳屍人の特徴は、『頭部』に何らかの変異がある、ということだけらしい。
      形態も多種多様で、一見では判別がつかない個体もいるということだ。
      そして、発見されるとすぐさま逃亡を図る個体も多いらしい。注意しろ」

 手短に目標の特徴を伝えるステイル。
 上条はそれを聞くと、顔を上げ、走り始めた。

上条「絶対に、絶対に死ぬんじゃねーぞ、ステイル!」

 そんなお約束(テンプレ)染みた言葉を残して、上条はその場を走り去る。


御坂「ギョギュゥェゥッ!!?」


 走っていく上条の姿を見て、御坂が歪な声をあげる。
 そして、後を追いかけようと頭部の羽根を羽ばたかせるが――――


ステイル「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ―――― I C R M M B G P 」


 ――――突如として現れた、炎の巨人に、行く手を阻まれた。
 降り続く赤い雨を蒸発させながら、紅の魔人は、御坂と相対していた。

ステイル「さぁ、我慢比べといこう。
      僕は君を殺さない。けれど、魔女狩りの王(イノケンティウス)もまた、君程度のちゃちな電撃じゃ破れない」

 魔女狩りの王、イノケンティウス。
 摂氏3000℃の炎の巨人を自在に操る、教皇もかくやと言われる、最高峰の魔術。
 あの幻想殺しですら、正面から打ち破ることはできなかった、ステイル・マグヌスの切り札(テトラカード)。

 強力な魔術には相応の下準備が必要である。
 魔女狩りの王の場合には、魔術を行使する範囲において、ルーンのカードを散布して力場を形成するという行為を必要とする。

 ステイルは、御坂の存在を確認した直後、ルーンのカードを大量に取り出して、周囲にばら撒いていた。
 ラミネート加工済みのカードは、雨によって威力を弱めることもなく、魔女狩りの王を顕現させる土台を作り上げている。

 そして、その場に残されたのは、ステイルと、御坂。

 御坂は、何度か魔女狩りの王に向けて電撃を発したが、全て掻き消された。
 やがて無駄と分かると、今度はステイルへと向き直る。

ステイル「そうだ、それでいい。君の相手は僕で、僕の相手は君だ。
      お互い、知らない仲の方が『やりやすい』だろう?」

 ステイルは、薄く自嘲するように笑んで、御坂を見た。
 御坂は、キチキチと虫のような口を鳴らして、ステイルを見た。

 空からステイルを見下ろす御坂の手には、一片のコインが握られている。


上条「……っ、……っ、……っ」

 上条は、建物の陰に身を潜め、荒れる呼吸を抑えつけながら、必死に整えていた。

 周囲には、数体の異形が歩きまわっている。
 どれも、未だ上条の存在には気付いていない。

上条(アレが……『変異体』、ってヤツか……)

 頭部には触角のようなものが生えて、『犬』のように四つん這いで地面を這い回る屍人。
 捻れた身体と両手足で、『蜘蛛』のように地面も壁も関係無く歩き回る屍人。
 御坂と同じ、頭部や背中から昆虫のそれにも似た『羽根』を生やし飛びまわる屍人。
 とてつもない『怪力』と、針金細工のような長い両手を持つ、巨体の屍人。

 どれも、人間とは大きくかけ離れた、異形の造形。
 あの中のどれかが、ステイルの言う『頭脳屍人』なのだろうか。

上条(……いや、違うな)

 上条は、思考する。
 限界に近い体力と、疲弊しきった精神を奮い立たせ、至極冷静に思考する。

上条(『頭脳屍人』ってのがコイツらにとって重要な指令塔だってんなら、こうも単純にあちこち歩き回ってるワケがねえ。
    それなりの『護衛』がいるか、もしくはどこかに隠れてるかしてねえと不自然だ)

 指令を出している、ということは、御坂が戦闘していることも相手には伝わっているはず。
 ならば、指令塔である頭脳屍人は、敵の襲撃に備えるのが当然の思考というものだろう。

上条(……待てよ。
    なら逆に言えば、『敵が守りを固めている場所』にこそ、頭脳屍人がいる可能性が高い、ってことか?)

 さほどの時間もかけず、その結論に辿り着く。
 その思考力・推理力は、上条が幾多の修羅場を、戦場を潜り抜けてきたからこそのスキルでもあった。

上条(試してみる価値はあるな……)

 上条は、建物の陰を伝い、歩き始めた。
 時間は限られている。一刻も早く、敵を見つけ出さなければならない。

ステイル「が、へぁ……ッ……!!」

 大きく抉り取られた脇腹を庇いながら、ステイルは立っていた。
 シャワーのように血反吐を吐いて、ポンプのように血液を噴出させて、辛うじて、立っていた。

ステイル「ィ、ノケン、ティウスッ!!」

 摂氏3000℃の炎の巨人が、空中の御坂へと突撃する。
 しかし。
 御坂の右手から放たれた一撃によって、炎の巨人は瞬間的に消し飛ばされた。

ステイル「また……アレか……ッ!!」

 ステイルの身体を抉り取った一撃。
 先ほどまでの、ぬるい電撃とは一線を画す、必殺の一撃。

 ステイルには、何が起こっているのか、分からない。
 御坂の手から放たれるコインの意味は、分からない。


 御坂美琴。超能力者(レベル5)第三位。
 名称(コード)、『超電磁砲(レールガン)』。
 その名にも冠された、御坂美琴の切り札(テトラカード)。

 かつて、御坂美琴が人間だった頃は、その威力は精々が音速、時折全力を見せる場合ですら、音速の三倍程度に留められていた。
 無論、それだけでも、並の戦車程度なら一発で破壊出来る威力ではあったのだが。

 しかし、今の御坂の、『理性』というタガが外れた御坂のそれは、その程度では収まらない。
 元より、『レールガン』という兵装の最大の特徴は、『速度の限界が無い』という点。
 空気抵抗・摩擦熱・電気抵抗・弾体強度……等々を考慮しなければ、理論上、その最高速度は光速に達する。

 屍人となった御坂の『超電磁砲』の最高初速は、優に音速の十倍を数えるほどとなっている。
 加速した分だけ、その射程距離は短くなり、最高速時は十メートルほどしか届かない、という短所はあるものの、
 例えば先ほどのように、至近まで迫った魔女狩りの王を消し飛ばす時には、十二分に威力を発揮した。

 遠距離の物体を撃ち抜く際には、速度を加減してやればいい。
 地上のステイルを撃ち抜いたように、一撃で破壊する事はできなかったが、それでも十分だ。

ステイル「ぐ……っ、ハッ、クソ、どうやら、カッコつけて、自分から、貧乏クジを、掴んだみたいだね、どうも。
      さっさとしろよ、上条当麻……っ!!」

 炎の巨人の残骸を尻目にして、御坂はステイルへと向き直る。
 屍人でなくとも、思考能力が衰退した状態でなくとも、そうするだろう。
 粉々に消し飛ばした炎が、瞬時に再生するなど、思わないだろう。

御坂「!?」

 消し飛ばされた筈の炎の巨人が、依然変わらぬ姿のままで、御坂の眼前に立っていた。
 その巨人の腕が、御坂の身体へと襲いかかる。

御坂「ギィ、ギャェェェェェェェェェェッッッ」

 頭部に付いた羽根が半分、焼けて落ちる。
 バランスを崩した御坂は、文字通り羽根をもがれた虫の如く、地面へと墜落した。

 魔女狩りの王は、ルーンによる結界を基体とした魔術。
 ルーンを記したカードを破壊しない限り、その炎は何度でも、瞬時に、蘇る。

ステイル「……ぐ……はッ、はッ、はッ、」

 しかし、ほぼ同時に、ステイルの膝が地に着いた。

ステイル(マズイ、な……このレベルの怪我、自然回復は望めそうにない。
      となると……)

 ステイルは、祈るように天を仰ぐ。

 赤い雨が地面を濡らし、ステイルの流した血が、それに混じり、流れていった。

 幸運にも、屍人に見つからないまま、上条はそこへ辿り着いた。

上条(……多分、この中、だな)

 そこは、やや大きめのホームセンターだった。
 入り口近くには多数の日用品が揃えられ、中には工具から食料品まで様々な物が置かれている。
 明々と電灯が点され、暗闇の学園都市の中で、一際目立っている。

 内部には、多数の屍人の気配。
 『犬』が地面を、『蜘蛛』が壁と天井を這い回り、数匹の『羽根』が空中を巡回している。
 巨大な『怪力』は、見当たらない。どうやら、『怪力』は個体数が少ないタイプらしい。

 上条は、外から、建物の軒下にあったゴミ置き場に身を潜めながら、中の様子を窺う。

上条(さっきまでの道のりと比べても、この中には屍人が異常に集中してる。
    恐らく、この中に頭脳屍人ってヤツがいる……!)

 息は整えられている。
 足も、あと少しだけ動きそうだ。
 拳も、辛うじて握れる。

上条(でも、どうすりゃいいんだ? これだけの屍人の目を掻い潜って、たった一人を探すなんて……
    クソッ、せめて中に入ってじっくり探すだけの余裕さえあれば……
    ……ん?)

 ふと、一体の屍人が、上条の目に留まった。
 まだ『変異体』となっていない、人型の屍人。
 見た事も無い顔。恐らく面識はないだろう。

 上条が目に留めたのは、その屍人が手に持っている、懐中電灯。

上条(……そうか……!)

 暗闇。
 見つからないまま。
 ホームセンターに点けられた明かり。
 懐中電灯。

 そう、屍人だって、人間と同じ。
 明かりが無ければ、物が見えない。

上条(よし! そうと決まれば……!)

 上条は、再び動き出す。
 時間はかけられない。急いで、手早く下準備を終えなければ――――

上条(――――出来た)

 数分後。
 次第に雨脚が強まっていく中で、上条は、ようやく準備を終えた。

 既に上条がステイルの元を離れてから二十分近く経過している。
 急がなければ、ステイルの身が危険だ。

 上条は、迅速且つ冷静に、行動へ移った。


上条(まず、一つ目)

 ホームセンターの裏手。
 普段は誰も気に留めない建物の外部に一つのドアがあり、その中は変電設備と自家発電設備が置かれている小部屋になっている。
 この手の設備は、内部よりも外部に、別の入り口が設けられている事が多々ある。
 このホームセンターがそうであるという確証は無かったが、しかし実際にあったのだから問題ないだろう、と上条は安堵した。

 それらの設備を――――

上条(――――思い切り、ぶっ壊す!)

 隠れていたゴミ置き場から拾った、物干し竿(今どき珍しい木製である)で、変電設備を力の限り叩き壊した。
 バチバチと火花が散る。
 更に、発電設備も壊す。何度も、何度も、物干し竿を叩きつける。

 僅かに、建物内部の空気が変わった。
 急いで上条は小部屋を出て、ホームセンターの建物から距離をとる。

 ホームセンターの明かりは、完全に消えている。
 内部の屍人達は、動揺しているのか、外へ飛び出してくる者も多い。

上条(そんで、二つ目)

 外に飛び出した屍人達が目にしたのは、遠くに見える眩い火花だった。
 バチバチと、道路の脇を照らす火花。
 様々な形態の屍人達は、その火花目掛けて殺到する。

 上条は、予め、道路脇に設置されていた風力発電の設備を数基、叩き壊しておいた。
 雨が降っていて、暗闇に包まれた状況。
 漏電による火花もあがりやすく、そして僅かな火花でも目立ちやすい。

 当然のことながら、火花のあがる場所に、上条は居ない。
 屍人達は、誘蛾灯に誘き寄せられた蛾のように、誰もいない場所をウロウロと彷徨っていた。

上条(で、ラストだ)

 ホームセンターの入り口近く、いきなり、大音量で目覚まし時計のアラームが鳴り響いた。
 ホームセンター内部にいた屍人達が、慌てたように、目覚まし時計の元へと向かう。
 火花に誘き寄せられた屍人達には、雨の音もあって、聞こえていない。

 犬屍人の内の一体が、目覚まし時計に腕を叩きつけて破壊した。
 当然、音は止まる。
 しかし、屍人達が再びホームセンターへと入ろうとした瞬間、再び、今度はホームセンターから少し離れた場所で、別の目覚まし時計が音を上げた。

 再び駆け寄る屍人達。再び壊される目覚まし時計。
 そして、三度、別の目覚まし時計のアラーム。今度は、また少し離れた場所。
 駆け寄る屍人。壊される目覚まし時計。
 そして、また別の目覚まし時計。

 順々に、段々と、ホームセンターから屍人達を引き離すように、目覚まし時計は設置されていた。
 言うまでも無く、上条の手によって。

 単に、ホームセンターの入り口近くに置いてあった目覚まし時計に目を付けただけのことだったのだが、
 意外にも、効果は大きいようだった。
 物音が出て、陽動出来るモノなら何でも良かったし、そもそも暗闇を作り出した時点で作戦は半ば成功していたので、オマケ程度の案だった。

最終更新:2010年05月31日 21:23
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