『固定相場制と変動相場制と財政政策と金融政策』

『固定相場制と変動相場制と財政政策と金融政策』

botの関係で書いた物。覚え書きとして記載する。
「固定相場制では財政政策に効果があり、金融政策には効果がある。変動相場制では財政政策に効果がなく、金融政策に効果がある」これは何故か?という話への回答。いやに長い。



これはマンデルフレミングモデルという経済学モデルから導き出されるものです
まず説明しておかなければならないことがあります。
IS=LMモデルと金融政策・財政政策についてです。IS=LMモデルというものは、閉鎖経済(鎖国国家の経済)の短期モデルです(短期モデルにおいては物価水準・賃金水準は変化せず、実質GDP・名目GDPのような「実質」「名目」の区別が意味をなさなくなり、また在庫は発生しないとして生産=所得=支出となることを前提にします)。↓の図がそれです。ここでは金利を縦軸、国民総所得(=国民総生産=国民総支出)を横軸として、貨幣市場の均衡条件・財市場の均衡条件を曲線で描いています(LM曲線とIS曲線)。二本の曲線の交点が貨幣市場と財市場両方が同時に均衡する総所得と金利を示します。
 説明しますと、
 まず貨幣市場についていえば、貨幣市場が均衡する状態とは貨幣需要=貨幣供給の状態を指します。
 貨幣需要を決定するのは、物価と総所得(モノが高ければ高いほど1つの取引に必要な貨幣は増え、所得が高ければ高いほどたくさんの取引が行われる)、そして金利(預金を引き出すと金利が貰えないため、金利が高ければ高いほど預金したままになり貨幣の必要が減る)です。
 ①ここで総所得が上がって貨幣需要>貨幣供給となった時には、金利を上げて貨幣需要を下げることになります。(=総所得が今より上がれば金利も今より上がる)
 ②では金融政策によって貨幣供給を拡大し、貨幣需要<貨幣供給とすればどうなるか。このときは金利を下げて貨幣需要を追いつかせることになります。(=総所得は変わらないが金利は今より下がる=よって図のLM曲線は全体が右に移動する)

 次に財市場の話。財市場が均衡する状態とは財需要(消費+設備投資)=財供給(消費+貯蓄)の状態、即ち「設備投資=貯蓄」の状態を指します。(右辺左辺の「消費」を削っただけ)
 設備投資を決定するのは金利です。(金利が高ければ高いほど、払わなきゃならない利子が大きくなるので資金を借り入れなくなり、投資財を買わなくなる)。
 ③ここで金利が下がりますと、設備投資の増加によって雇用と生産が上がりますので総所得が上がります。(=金利が今より下がれば総所得が今より上がる)
 ④今度は財政政策によって財政支出を拡大させるとどうなるか、財政支出の拡大とは即ち総支出の拡大につながり、短期モデルにおいては総支出=総所得なので、総所得が拡大するということになります(=金利は変わらないが総所得が増大する=よって図のIS曲線は全体が右に移動する)

それではこのIS-LMモデルに基づいて、総所得を上げるにはどうすればいいか?2つの曲線(IS曲線とLM曲線)の交点(貨幣市場と財市場両方が同時に均衡する点)を右に動かせばいい(=総所得がより高くなる点になる)のです。
このために、
財政政策においては財政支出の拡大を行います。すると財市場の説明の最後で述べたように、図のIS曲線は右に移動します(④)。するとLM曲線との交点(貨幣市場と財市場両方が同時に均衡する点)は右上に移動することになります。この均衡点では、以前よりも総所得が上昇するだけでなく、金利も上昇しています。(貨幣市場の説明の下から2行目で説明したように、貨幣市場においては総所得が上がれば金利を上げることになる(①)。貨幣市場だけを考えれば金利が上がっても総所得は上がりません)
金融政策の場合には、貨幣供給を拡大することになります。すると貨幣市場の説明の最後で述べたように、図のLM曲線は右に移動します(②)。するとIS曲線との交点は右下に移動することになります。この均衡点では、以前よりも金利が下降し、総所得が増加します。(財市場の説明の下から2行目で説明したように、財市場においては金利が下がると総所得が上がることになる(③)。財市場だけを考えれば総所得が上がっても金利は下がりません)

それではマンデルフレミングモデルに移りましょう。
マンデルフレミングモデルは、IS-LMモデルを発展させ、開放経済(貿易してる経済)に適用できるようにした経済学モデルです。これもIS-LMモデルと同様、短期モデルです。
IS-LMモデルと異なるのは、
まず国際収支の均衡を考慮することです。国際収支の均衡というのは国内に移動する資金=国外に移動する資金、つまり国際収支=0という状態です。国際的に自由な資金移動が行われる環境(完全な開放経済ですね)を前提とした場合、投資家はより運用利回りの良い国に資金を移動させます(ある国の金利が高ければ高いほど、ある国の通貨が安ければ安いほど運用利回りが良い)。すると運用利回りの良い国に資金が移動した結果、その国の通貨が高くなってしまうので、その国の運用利回りは悪くなっていき、最終的に運用利回りに差がなくなり、海外金利と国内金利が等しくなります。このとき国際収支=0となり、国際収支が均衡します。これを示す曲線を図に描いたもの(BP曲線)が↓です。水平線です。
もう一つは財市場の均衡条件(IS曲線)についてです。マンデルフレミングモデルでは、財市場の均衡条件を考える際に輸出入を考慮します。これによって変わる点が二点ほどありますが、今回の話にはあまり関係がなさそうなので省きます。

ここでご質問の本題に移ります。固定相場制・変動相場制それぞれにおいて総所得を上げようと試み、マンデルフレミングモデルではどのような結果になるか見てみます。
マンデルフレミングモデルにおいてもIS-LMモデルと同様に、総所得を上げるには財政政策で財政支出を拡大するか、金融政策で貨幣供給を拡大して均衡点を右に移動させることになります。
固定相場制においては 
財政政策で財政支出を拡大した場合、IS曲線が右に移動(④)し、LM曲線との交点が右上に移動します。そして国内金利が上昇します(①)。ここまではIS-LMモデルと同様です。
国内金利が上昇しますと、海外から資金が流入します。変動相場制であれば為替レートが変動して国内金利=海外金利となり、やがて資金移動が均衡しますが、固定相場制ではそうもいかないため、中央銀行は流入した海外貨幣を買って対応します。すると貨幣供給が拡大し、LM曲線が右に移動し、金利が下がります(②)これがIS曲線・LM曲線・BM曲線全てが一点で交わるところ(財市場・貨幣市場・国際収支全てが均衡する点)にまでLM曲線が移動するまで続き、以前よりも総所得の高いところで均衡します。よって固定相場制において財政支出には効果があります。

金融政策で貨幣供給量を拡大した場合、LM曲線が右に移動し(②)、IS曲線との交点が右下に移動します。すると金利が下降します(③)。これもここまではIS-LMモデルと同様です。
国内金利が下降しますと、海外に資金が出ていきます。これも変動相場制であれば為替レートが変動して国内金利=海外金利となり、やがて資金移動が均衡しますが、固定相場制ではそうもいかないため、中央銀行は保有する海外貨幣を売ることになり、外貨保有量が減ります。これによって貨幣供給が減りますが、また金利安によって海外に資金が出て行き続けているため、結局貨幣供給は元にもどってしまい(②の逆)、LM曲線が元の位置に戻ります。金利も総所得も依然と変わりません。よって固定相場制において金融政策は効果がありません。(むしろ外貨保有量の減り損です)

変動相場制においては、
財政政策で財政支出を拡大した場合、財政政策で財政支出を拡大した場合、IS曲線が右に移動(④)し、LM曲線との交点が右上に移動します。そして国内金利が上昇します(①)。これもここまではIS-LMモデルと同様です。
国内金利が上昇しますと、海外から資金が流入します。変動相場制ではここで為替レートが変動し、自国通貨高となります。すると輸入が増え、輸出が減少し、財需要が下がることになるため(=総所得も下がる)、IS曲線がIS曲線・LM曲線・BM曲線全てが一点で交わるところまで戻ってしまい(④の逆)、金利も総所得も依然と変わりません。よって変動相場制では財政政策に効果がないということになります。

金融政策で貨幣供給量を拡大した場合、LM曲線が右に移動し(②)、IS曲線との交点が右下に移動します。すると金利が下降します(③)。これもここまではIS-LMモデルと同様です。
国内金利が下降しますと、海外に資金が出ていきます。これも変動相場制であれば為替レートが変動し、自国通貨安となります。すると輸入が減少し、輸出が増え、財需要が上がることになるため(=総所得も上がる)、IS曲線がIS曲線・LM曲線・BM曲線全てが一点で交わるところまで右に移動し(④)、以前よりも総所得の高いところで均衡します。よって変動相場制において金融政策には効果があります。

(2015/08/28)
時間がない
最終更新:2015年08月28日 04:32