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何故人工言語を作るのか
私の創作の大きな目標の1箇は、現実世界で人々が実際に運用する言語=自然言語と同程度に運用可能な人工言語を作る事です。但し、この目標は、残念乍ら現実世界に取って意義深い物に成る可能性が非常に低い物です。何故なら、自然言語相当の質を目指して制作される人工言語が自然言語以上に役立つ事は現状有得ないからです
[*1]。それならば、自然言語を使えばどの様な場面でも事足りるでしょう、何故私は人工言語の制作に重きを置いているのでしょうか。
その理由は、言語の創造は最も根幹的な創作活動と信じていて、その事に面白みを感じているからです。一応、母語の自然言語を使っても可也詳細な創作活動をする事が出来ます。然し、それらの設定は母語の語法や文化的背景の影響を完全には排除できません。作者は、無意識に創作に曖昧性を付与して了うのです。
例えば、或る架空都市に於いて、信号の色迄も確りと考察して設定したとしましょう。反対色の概念等を調べた結果、「止まれ」は赤色で、「進め」は緑色で表すと設定しました。所が、作者は、自身の頭に思い浮かべた「緑色」は実は現実の日本で使われる青信号の色と粗同じだと気付いたのです。ならば、「信号の色は赤色と青色である」と設定し直すべきでしょうか。そうすると、潜在的な曖昧性が生じます。常識的な日本人ならば、その設定を読んだ時、作者と同じ「青色」を想像して呉れるでしょう。然し、人に依っては空の色や海の色を思い浮かべるでしょう。寧ろ後者の認識の方が客観的だとも言えます。一般に、日本語に於ける修飾語の「青」は可也緑に近い色を指す事が多いのです。日本語話者の方は、青蛙や青リンゴを想像して見て下さい。この認識は普遍的な事実たり得ないと云う事がご理解頂けますでしょうか。母語の情報は凡ゆる情報の中で一二を争う位に頭に染み込んでいる物なので、気付かずにこの様な曖昧な事例を生んで了います。突き詰めると、架空世界中の固有名詞を自然言語の単語から拝借したりそれを参考にしたりして決める事は拙いですし、。
[*1] 仮に、現実世界の使用に堪える程の人工言語が生まれたとしても、我々が古来拠り受継いで来た自然言語を捨ててその人工言語を話す事を選択する事は有得ないと見做して良いでしょう。それを実現させる為の費用や文化的犠牲は計り知れず、又実現後の利益も大して無いからです。仮令どれ程その言語が普及しようとも、それの成果は1つの自然言語としての地位を獲得する事に留まるでしょう。否、若しかすると、この予想は現在迄の歴史しか持たない我々の知性の限界に依る物で、未来には言語すら合理化される事が有得るかも知れません。然し、私は先の予想が正しいとして主張を展開します。
上記予想が正しいとして、人工言語の普及の最終局面は、それが1つの自然言語としての地位を獲得する事です。その段階に至った人工言語は存在します。自然言語と同等の役割を持つ人工言語として、現代ヘブライ語が挙げられます。現代ヘブライ語は、恐らく、p2-1の定義に合致しつつ、且つ現実世界で人々が日常的に用いている唯一の人工言語でしょう。エリエゼル・ベン・イェフダー(אליעזר בן־יהודה)の多大なる努力に因って古代ヘブライ語が時を超えて復活したのです。
尚、人工言語が自然言語同等の地位を獲得する迄に普及する事は、必ずしもその人工言語の成功と同値ではありません。人工言語の目的がそれの普及とは限らないからです。例えば、ロジバンと云う人工言語は、人間が直接会話に使える様な構造を持ち乍ら、その構造が人間の世界観形成にどの様に影響するかを調べる事を目的の1つとしています。この調査の起点はサピア=ウォーフ(Sapir-Whorf)の仮説と云う物です:
Sapir-Whorfの仮説:言語構造は、その言語の話者の世界認識に影響を与える。
p2-2
最終更新:2018年07月18日 00:32