BIBLIOMANIAX内検索 / 「牛王と日ノ本の女王、そして道化王」で検索した結果

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  • 時夜 夜厳
    ...夜の王VS溝鼠の王 牛王と日ノ本の女王、そして道化王 速度の王
  • 牛王と日ノ本の女王、そして道化王
    勇太郎と夜巖の二人がトップ争いをしている間、後方のグループでもざわめきが起こっていた。 「ん? んん? 報告入ったよ! ええっとダンゴ状の下位チームの中で飛び出した二チームは……うわぁ」  心の底から残念そうな溜息に、何事かと手元の液晶画面を切り替える生徒たち。 「前を行く生徒たちをなぎ倒していくのは、チーム【太陽の牡牛】。乗り物は牛車じゃあなくて馬車だよ! うん、物理的に薙ぎ倒してるね! 三馬力なんだけど体感的に100万馬力って感じじゃないかなあれ!」  黒馬、白馬、そして赤毛の馬を巧みに操るのは、ランキング73位【ファラリス(燃え滾る雄牛】バーンハート・ジェンキンス。そしてその後ろ、オープンカー仕立てのクーペに乗るのは124位【グレートマザー(大地母神)】伊佐波命。 「ハッハハハハハハ! どうだよ命、俺のチャリオットの乗り心地はよ!」 「一言でいうと最低なんだけども。もう少し、乗せられ...
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    ...夜の王VS溝鼠の王 牛王と日ノ本の女王、そして道化王 速度の王 First contact崇道院早良&アルシア・ヒル 崇道院早良&冷泉神無 3バカ(万珍&厳&キャンディ) 音土けモノ屋の日常 音土けモノ屋の非日常 早良のわくわく潜入日記四十物谷調査事務所の飲み会編 篭森珠月のお茶会編 3バカシリーズ3バカの日常 旅立ちのユキヤナギ 天狗の話。 番外 早良の口演 講談「とら侍」講談「とら侍」その壱 First contact宿彌&逆襄 沙鳥&比良坂 学園都市前奏ダーククロニクル迷走編/序章 『上海暗躍』 学園都市前奏ダーククロニクル迷走編/一章 A『DETECTIVE office 乱』 First contact三島広光路&澪漂二重 History 西暦二〇五六年七月、民族間、宗教間で端を発した戦争の火種は、...
  • 9、連鎖 そして終幕へ
    9、連鎖、そして終幕へ 「……あれはなんでしょう」 「本当になんでしょうねぇ」 「あんなに沢山人が集まって……もう夜なのに」 「なにか探し物でしょうか」 「それにしては殺気立ってるような……心配ですね」 「ここは誰に伝えておいたほうがいいんじゃないでしょうか」 「よその区画に口は出したくないけれど」「同じ学園の仲間ですものね」  序列44位【フラッパラビット(悪戯なウサギ)】宇佐見ハトと、序列47位【シリアスキャット(生真面目なネコ)】音古見トモは互いに顔を見合せてうなづいた。  普段メインヤードにいる二人がスラム街に来ることはあまりない。それでも、今のこの場所の異常くらいは分かる。夜も更けつつあるというのに複数の人間が走りまわり、逆に現地の住人はおびえたように身を潜めている。 「どなたかが大規模な狩りをなさっているようね」 「獲物はなんでしょうね。ずいぶんと不穏な様子です」 「困った...
  • 白雪姫/1
    【白雪姫】 昔々あるところに、冬の最中のことでした。雪は鳥の羽のようにひらひらと天から降っていました。  一人の女王様が、黒檀の枠のはまった窓のところに座って縫い物をしていました。女王様は縫い物をしながら雪を眺めていましたが、誤って指を針で刺してしまいました。すると、雪の積もった中にポタポタポタと三滴の血が落ちました。真っ白な雪の中で、その真っ赤な色の血が大変綺麗に見えたので、女王様は一人で『どうにかして私は、雪のように体が白くて血のように赤い美しい瞳をもち、この黒檀のように黒い髪をした子が欲しいものだわ』と考えました。  それから少したって女王様は、一人のお姫様を授かりました。 そのお姫様は、雪のように白い肌と、血潮のような赫い瞳、そして髪の毛は黒檀のように黒く艶がありました。 「この子は珠月という名前にしましょう。」 女王様はその子に珠月と名づけました。 白雪姫・珠月さんは、...
  • First Contact/澪漂二重&朝霧沙鳥
       First Contact 澪漂二重&朝霧沙鳥  「あれ? 団長、出かけるの?」  「出かけるの?」  ある日の昼下がり――西区画・九龍城砦。 愛用の外套を肩に羽織った【エターナルコンダクター(悠久の指揮者)】澪漂二重に、部下である杏藤波音と花音の双子姉妹が声をかけてきた。  「ん? ああ……ちょっと中央のさっちゃんのところにな」  「今日は万具堂で、さっちゃん主催のお茶会なんだ」  二重に続いてそう言ったのは、二重の相方である【アルカディアフレンド(理想郷の大親友)】澪漂一重である。彼女も外出用のコートを羽織って、二重の隣に並んでいた。  「ふーん、じゃあ私達はお留守番だね」  「お留守番―」  常に無表情の杏藤姉妹は、どうとでもとれるような口調でそう言うと、さっさと自分の机に戻ってしまった。二重はそんな二人に苦笑して、一重の肩に腕を回すと、オフィスから出...
  • First contact/篭森珠月&ジェイル・クロムウェル
    First contact 篭森珠月&ジェイル・クロムウェル  倫敦シティ。  旧イギリスの首都。現在も世界最高峰の都市のひとつであるその場所を、十数年後に【イノセントカルバニア(純白髑髏)】と呼ばれることになる少女、篭森珠月は両親と歩いていた。  雪がちらついている。ロンドンの冬は昼が短い。まもなく、街は夕闇に溶けてしまうだろう。ちらりと珠月は隣を歩く父を見上げた。視線に気づいて、父親の壬無月は珠月に笑みを向ける。父親も母親も、子どもがいるとは思えないほど若い。外見はせいぜい二十代だ。この格好良くて賢い両親は、珠月の自慢だった。 「珠月」  柔らかな美声で、父は珠月の名前を呼ぶ。 「少しだけ人に会う用事がある。ちょっとだけ、このあたりで待っていてくれないか?」  広い公園の片隅で、父は言った。母を見上げると、母もうなづく。 「すぐに戻るわ。寒いのに可哀想だけど」 「わかった。待ってる...
  • 雪の兄弟とクロい女の子
    【おいしいゆきだるま】 クリスマスイヴの夕方、その雪だるまはうまれた。 『で…できた………!』  小さな女の子がぼくを作ってくれました。 黒くて尻尾みたいな髪の毛のかわいらしい女の子が、何故か四本の指でぼくを丁寧に作ってくれました。  こんな何もないぼくらの雪の兄弟達からその子が作り出してくれました。 背も高くなって、外が見渡しやすくなりました。とても嬉しいと思います。  『よし、もう戻ろう。・・・暗くなってきたし』 そういって女の子は不夜城の方に走っていきました。なんであそこに行くんだろう。ぼくは不思議で仕方ありません。    ぼくを作ってくれたお礼になにができるだろう…。ぼくたちはとても長い間考えました。 そして辺りが薄明るくなる頃にやっと思いつきました。  ぼくたちが美味しくなれば、きっとあの女の子も喜んでくれる、って。 そこでぼくたちは魔法使いに頼みました。 『ぼくを甘く...
  • 水上市場
    水上市場  濃い水の香りとかすかな塩の香りがする。無理もない。ここは水の上で、この水の流れは海へと繋がっているのだから。あるいは、塩の香りは海原からやってきた船が運んできたものかもしれないが。  揺れる渡し板の上で器用にバランスを取って、冷泉神無は船から船へと渡り歩く。本来なら広いはずの川の水面は、集まった無数の船によってほとんどが覆い隠されている。最新型のボートから、随分と古いエンジンを搭載したものまで形は様々。共通しているのはどれもさほど大きくはない、同じくらいの高さの船だということ。そうでなければ、船同時をつなぎ合わせて渡し板で自由に移動できるようにすることなんて、出来なくなってしまうから。  今日は不定期に開かれる水上市の日だ。市自体は、この学園都市においても珍しいものではない。西区のマーケットは毎日市が並ぶし、区画王主催のフリーマーケットやリンクが企画で行う特別市、生徒の有志...
  • その4、開始1時間
    4、開始1時間  卵大の物体が、床に着弾すると同時に爆発する。視界が戻る前に跳び出す。  あちらこちらから銃声と爆発音がする。上の階からも下の階からも音がすることから、自分が今、真ん中あたりの進度なのだと珠月は確認する。  流れるような動きで太もものフォルダーからナイフを抜き出し、そのまま投げつける。拳銃を持ったマネキン人形は、足を切断されて無様に倒れた。遠隔操作型のミスティクなのだろう。だが、どうやらこちらを確認する手段はないらしい。カメラを噴煙で覆った瞬間、動きが鈍くなった。 「意外と面倒くさいな。けど、いい訓練になる」  久々のナイフや銃の感触に、珠月はほほ笑んだ。リスクが大きくあまり多様できない珠月の能力の性質上、射撃やナイフの腕を磨いておくにこしたことはない。実際、隠れて努力はしている。クラスこそミスティックの単独履修だが、並みのスカラーやソルジャーに負ける気はしない。  時計...
  • とある恋の物語 ファヒマの場合
    とある恋の物語 ファヒマの場合 「逆襄さん!!」  嬉しそうな男の声に振り向いた、学園序列6位【キングオブインサニティ(狂気の王)】経世逆襄(けいせい ぎゃくじょう)は、笑顔のまま走ってくる武器を持った男を見て一瞬思考停止を起こした。  この場合の行動は、 ①とにかく逃げる。 ②迎撃する。 ③先手必勝。先制攻撃。 「FREEEEEEEEEEEEEEEEEEZE!!!!!!!!!!!!!!!」 ④とりあえず近付くのを阻止  幸いにも相手は律儀にぴたりと動きを止めた。驚異的なバランス感覚で足を踏み出した姿勢のまま停止する。 「どうしたんだい? 南王」 「どうかしてるのはお前のほうや! 武器持って走ってくんな!!」 「これは失礼。南王の姿が見えたのでついうっかり」 「お前なぁ……迎撃されても知らんぞ」 「まあ、はじめの一撃くらいなら避けられますよ。きっと」  ゆっくりと足を地面に下ろして...
  • 終章、閉幕
    終章 閉幕 「ってわけで、いろいろあったが今回の優勝者はモハメド・アリ!! 勝因はテーマに忠実だった点だな! もっと採点基準が細分化されてたらどうなってたか分からないな。他の出場者も見事な味と工夫でした。はい、拍手!!」  割れるような拍手が上がる。もともと学園主催のイベントではないため、遊び半分に参加していた面子が多いためか、がっかりした様子はあまり見られない。 「おしくも優勝を逃したやつらもがっくりするなよ。参加賞で、無料エステ券と温泉プールフリーパスプレゼントだ! これで日ごろの疲れを癒してくれ。では、これをもって本日のイベントはすべて終了とする!!」  ひときわ大きな拍手が起こり、それが消えると同時に人ごみがちらばり始める。審査員や参加者たちもやれやれといった表情で舞台から降りた。 「よ、春恵さん。お疲れさん」 「沁もね。私の料理うまくいってよかったよ」 「お疲れさま、珠月ちゃ...
  • Baa,Baa,Black sheep Ⅳ
     夕闇の中、いくつもの影がごちゃごちゃとした路地を滑るように走っていた。壁一枚隔てて存在する住人に気遣えないように、静かにだがすばやく、影は走る。  時折、積みあがったゴミの山や無秩序に取り付けられた看板が行く手を阻むが、影はすぐに別のルートを探してまた走る。 「くそっ、何人くらい脱出できた!?」 「分かりません。煙があっという間に広がって……そもそもいったいどうやって爆弾を仕掛けたのか」  彼らの正体は、からくも爆破を逃れたあるは社外にいて無事だったフォックスグレーシアのメンバーだった。普通なら、その場に残って仲間の救出に当たらねばならないはずの彼らは、今は細い路地を人目を偲んで逃げていた。 「ブラックシープ商会に決まっている。まさか、人を攻め込ませずに建物ごと壊しに来るとは……あの黒羊が!」  男は歯噛みした。数時間前まで、自分たちは圧倒的に優位な立場にいたはずだった。しか...
  • つきとおおかみそしてしじん
    「あぁ…神々の与えたもう試練でさえ、この恋の障害にはかなわないのではないでしょうか、かの狼王が月の姫君と手を取り合い、永久の旅路を行こうとしている…私が月に手を伸ばしても、剣の如き牙を携えた顎が邪魔をします…私はかの狼王を討ち取る聖なる剣を得ることなど出来るのでしょうか…」  「いや、な? お前はそろそろ退いた方がいいぞ?」  「私に退く事など出来ません、かの永遠の姫君の寵愛は、蜜のような濃厚な甘さをもって私を誘惑してくるのです」  「まず間違い無く誘惑はされてないと思うけどな」  「あぁ、なんという事でしょう。 水鏡に映る月は私がいくら手を伸ばしても届く事はなく、東の狼王はその澄み切った心に移しとってしまいました。 もはや私に残された手段は銀の刃を携えて狼の喉笛を引き裂き、美しき月を連れ出すことだけなのでしょう。 かの狼王の鋭敏な感覚を持ってすれば戦いを避けて月を盗み出す事など出...
  • 望月遡羅の憂鬱
    【望月遡羅の憂鬱】  人は誰しも、苦手な人間が存在する。  それはやれ極寒の吟遊詩人だの、やれ悪趣味な程に真っ赤な道化だのというのは人それぞれである。  そして彼女――序列31位、【ファンタズマゴリアバディ(幻想具現化)】の望月遡羅(もちづき そら)にも勿論例外なく、苦手な人物がいるわけで……。  ※※※ 「師匠っ!! 今日も一つ御指南御願い致しますっ!!!」 「……だから、その『師匠』というのをやめて下さいと何度言ったら分かるんですか……」  何の前触れもなく自室を訪ねてきた来訪者を見て、遡羅は大きな溜息と共に項垂れた。  それと同時に、丁度周りの部屋の主が皆外出している事に安心する。こんな光景を見られでもしたら、明日からきっと悪ふざけに『師匠』と呼ばれそうだ。特に二角当たりに。  しかし当の言われた本人――序列2001位、弓納持有華(ゆみなもち ゆか)は全く気にする事もなく、む...
  • ties 8
       暗い本物の空の下、いくつもの明かりがともっている。夜景と呼ぶには華やぎに欠ける光を見下ろして、織子はため息をついた。部屋にはジェイルだけがいる。雫はどこかへ出かけていった。明日の準備をしているのかもしれない。 「明日金庫を開けて、もろもろの手続きを行って……それで終わりなのね」 「身柄は保障します。向こうも外聞が悪い真似はしないでしょう。明日、無事に過ごせば貴女は自由ですよ、七夕の姫君」  にこりと硝子に移ったジェイルが微笑む。織子はゆっくりと振り向いた。離れた場所でジェイルが椅子に座っている。紳士らしく、いつも部屋で二人きりの時は距離をとって座っている。 「僕たちともさようならですね」 「寂しいわ。なにもお礼をできていないのに」  織子は呟いた。別れても会おうと思えば会える。けれど、会うほどの理由も縁も織子と彼らの間にはない。離れてしまえばたちまち疎遠になるだろう。そう考えると寂...
  • Knife and Fork
    「Knife and Fork」  ブラックシープ商会副社長、メリー・シェリーが行方不明になって四日、そして黒羊店長、法華堂・戒がその調査に乗り出して三日が経過しようとしていた。その間、戒はほとんど休むこともなく、エドワードに時折連絡を入れる以外はずっと歩き回っていた。しかしその苦労の甲斐なく、今だ有力な情報は手に入っていないというのが現状だった。  「しかも俺が街に出てから、毎日一人ずつ被害者が増えているってのが解せねぇな……。俺がこれだけ嗅ぎまわってるのに、いまだその正体が見えねぇってのがさらにムカつく」  東区画を出て、南から中央、そして北区画をあらかた浚い終えた戒は、北と西の境目付近の貧民窟『グレイハウンドストリート』に差し掛かっていた。ここは戒がまだ本物の殺人鬼として夜な夜な人を襲っていたころ根城にしていたスラムの一つである。  「しかし……いつ来てもここは寂れてるな。むしろ...
  • 早良のわくわく潜入日記~四十物谷調査事務所の飲み会編~
     ここは、とある飲み屋。学内リンクの一つ、四十物谷調査事務所が飲み屋を丸々一軒貸し切っての飲み会を行っているところである。リンク全体の六割ほどだというが集まっているメンバーの数は多く、人種からランキングまでの何もかもがバラバラで一見して何の集まりかわからないような、そんな集団であった。  その上座付近には代表である【ホーンデットアックス(怪奇斧男)】四十物谷宗谷を始めとしたリンクのコアメンバーが集まっており、そこに包囲されるかのように南区画の王である【キングオブインサニティ(狂気の王)】経世逆襄が何故か座っていて、一桁や二桁をも含むトップランカーの塊という恐ろしいスペースが出来上がっていた。  そんな飲み会の一角に【ジャック・ザ・リバー(闊歩する自由)】崇道院早良はいた。このうごうごと人のひしめく室内でどんな楽しいことが起きるのだろうか、そう考えるだけでわくわくものであった。  早良はこ...
  • 3、審査員席にて
    3.審査員席にて  ヘイゼルの合図とともに、一斉に参加者たちが料理を始めた。  色とりどりの果実や見ているだけで美味しそうな肉類、新鮮なのが食べずともわかる魚介がステージ上に運び出される。こぽこぽと音を立てる鍋や規則正しく響く包丁の音が、心地よい。 「おー、肉使う人と魚の人、見事に別れたな。マリアは……やっぱ肉かよ! なあ、マジでその肉大丈夫なんだろうな? まあ、俺が食べるんじゃねえからいいけどよ。春恵やモハメドは流石に本職。見事な包丁さばきで野菜を切っています!」  序盤なのでまだ焼いたり煮たりする作業に入っているものはいない。米を炊いたり、野菜をきったりと下準備をしている。  あきらかに下準備が必要なもの(肉をたれに漬け込むとか、漬物を作るとか)は完成品の持ち込みが許可されているが、それでも作業量は多い。 「こうしてみてると、何作ってるんだか、さっぱりだな。そうだ...
  • 女よりも悪いもの3
     ある男と女の会話。 「いいかね。女というのは悪の属性をもつものなのだ。だから、私は女というものが大嫌いなのだ」 「まあ、ムッシュ。どうしてそのようなことをいいなさるの? それは貴方の思いこみではなくて?」 「そんなことはない。なんなら、それを証明してみせよう。まず、女というものには金と時間がかかるものだ」 「当たり前ですわ。なぜなら、女だって金と時間をかけておりますもの。一度のデートのお洒落のために女性がどれだけお金をかけているかご存知?」 「知らぬし、興味もないな。ともかく、金と時間がかかることに異論はないわけだ」 「一般論ではそうですわね」 「よろしい。では、次はこうだ。時は金なり。それは正しいね?」 「そのようですわね」 「となると、女=金+時 かつ時=金 が成り立つことになる。つまり、女=金+金だ」 「そう言えないことも御座いませんわね」 「そして、金は諸悪の根源ともいうだろう?...
  • 羊さんの届け物 後編
     そうこうしている間に、摩天楼の中でもひときわ大きく目立つ建物が近付いてくる。  セントラルピラー。この学園を運営するライザーインダストリーの学園内における総本山であり、名実ともに学園の中枢を担う建物である。セントラルピラーが近付くにつれて、街並みはさらに洗練された美しいものへと変わっていく。子どもが多いのは、予科の校舎が近いからだろうか。  地下と半地下、ビルと回廊が繋がった複雑な地形を抜けて二人はセントラルピラーの入り口をくぐった。一見無防備にも見えるが、複雑な街の形状は不審者の侵入や危険物を乗せた車両の侵攻を拒んでいるし、今もいたるところで監視カメラや熱探知機が作動しているのを感じる。少しでも不審な動きを見せれば、鍛え抜かれた警備員が飛んできて、さらには学園中の生徒にただちに異常が伝わるシステムになっているのだろう。 「ブラックシープ商会の鈴木深紅です」 「同じく、古屋敷迷です。商品...
  • Devoto
    【Devoto】 「こんにちはー」  食料品や一般的な生活雑貨から、一般的でない食料品や生活雑貨まで……あらゆるものを何でも取り揃えた購買部・万具堂。  珍しく客足が少ないせいか、店員はカウンターで読書に勤しむ青年一人だけだった。 「いらっしゃい、夜の女王。今日も相変わらず、空を舞う粉雪のように愛らしく、冷ややかだね」  珠月は無言のまま傘で殴り掛かり、藤司朗は笑顔のまま受け止める。 「ごめんね。今のは真面目に言っているクロムウェルに対して失礼だった」 「ジェイルに詫びるよりまず私に詫びろ」 「それは、無理。わざとだし」  台詞と状況が違えば姫君を誘う王子如き微笑で、相手の神経を逆撫でする。 「本当にいい性格してるよね」 「ありがとう。篭森さんに誉めてもらえるなんて光栄だな」 「……あっそ」  藤司朗は押さえたままだった傘を放し、他の客たちを安心させるよう涼...
  • 速度の王
    「さぁて盛り上がってきたよ! レースは中盤、現在は旧ヤマナシとシズオカの境界あたりを爆走中! だけど報告とこっちに入ってくる映像によりますと、どうやら先頭集団で次々に脱落者が出てる模様だよ! 何があったんだろうね!?」  カメラがズームされたその先には、確かに死屍累々と横たわるものが数多くあった。  それはタイヤがパンクしたバイクであったり車であったり、自慢の足を砕かれたサイボーグであったり、マシンを操作するための腕に銃痕を残していたりと様々だ。 「どういう事かな!? ねぇギル様、どう思うのこれ!? ルートは最初から決まってた訳じゃないから、先にトラップ仕掛けたり待ち構えたりとかはルール上アウトだよね!? 高速機使ったとしてもアウトだけど、そもそもそんな映像こっちに来てないよ!?」 「はっはっは、簡単なことであるよ」 「え!? ギル様もしかして既に謎は解けた感!?」 「無論だよ。この程度、...
  • チューニング 薄暗い部屋の中で
       チューニング 薄暗い部屋の中で  時刻はすでに夜十時を回っていた。学園都市西区画の中央に聳え立つ歪な建造物の集合体――九龍城砦。その幾つもある屋上の中でも一際高みに位置する一つに、二人分の影があった。  一つは東洋人にしては比較的高い身長のシルエット。身長の割に手足は細長く、見るものには針金、あるいは夕方の細く伸びた影法師をイメージさせる。律儀にも返り血を浴びたかのようなくすんだワインレッドの燕尾服に身を包み、肩には同色のマントを掛けている。肩ほどまでの黒髪をぞんざいに一つに束ねているが、頭頂部では特徴的な二本の毛――いわゆるアホ毛とか、アンテナとか呼ばれるものが、風にゆらゆらと揺れていた。  「しかし解せんな。第六管弦楽団に召集が掛かるならばまだしも、団長たる私と副団長たる君しか呼ばれない、というのはどういうことだ? ……まぁウチのメンバーは正式な団員でもないからそれはそれで当然...
  • First Contact/澪漂二重&澪漂一重
     それは、七年ほど昔の記憶。  床に倒れた自分を見下ろすように立ちはだかる、男の姿。逆光でその表情は読み取ることができない。しかし、見えなくともその顔が苦々しく歪み、怒りの表情をかたどっていることぐらい容易に想像できる。  男の口が何事かをまくし立てるように動いた。  虚ろな頭の中を、その怒鳴り声がハウリングするように突き抜ける。  ――貴様はどうしていつもそうなのだ二重(アルオン)! 何故父である私の意思に背き、あまつさえ牙を剥こうとする! まったく、貴様という奴は本当に【無能】だな! 兄の命を奪って生まれてきた図々しい奴め、貴様など、我が候(ホウ)の家系の恥さらし以外の何者でもない…………                    ♪  「……重、二重、ふーたーえ!」  自分の名を呼ぶ声で、机に伏せるように眠っていた澪漂・二重ははっと身を起こした。  「も...
  • 絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重
       Ⅱ.絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重  【澪漂交響楽団】の本拠地は、ユーラシア大陸の極東部、上海シティにある。  本部の建物は、豪州のオペラハウスのような荘厳な外観を持つ建造物であり、しかしどこか暗い雰囲気を纏っていることから、「ファントムハウス(オペラ座の怪人館)」と呼ばれている。  そしてそのファントムハウスの周囲には、【澪漂交響楽団】に列席する団員たちの住居も点在しており、独特の雰囲気を持った区域となっていた。  「背徳の蜂蜜亭」は、そんな中の一つ――澪漂屈指の【異端者】の異名を取る、第九管弦楽団が詰める建物である。                     ♪  「相変わらず甘ったるい匂いのするところだな」  オレンジの長髪を風に靡かせ、黒のレザージャケットに身を包んだ男が、その「背徳の蜂蜜亭」の前に立っていた。まだ幾分の冷たさを孕...
  • Generico
    【Generico】 「こちらが目を通して頂きたい書類でございます」  自分より一回りは若いであろう少女に向かって、深々と頭を下げる。  少女はこちらを見向きもせずに、自らの髪をクルクルと玩ぶ。  いつもの事ながら、青筋を立てずにはいられない軽んじ方。  代わりのつもりなのか、少女の傍らに立つ男が嘲るように口元を歪ませた。 「面白い。それだけのためにわざわざ呼び出したと仰るつもりですか? 以前お会いした時より、冗談を言うスキルが上がったようですね」  ここを訪れる際には、必ずこの男を連れて来る。  普段侍らせている犬ではなく、こちらが一番苦手とする男を。  序列214位【ジューダフェデーレ(忠実な裏切り者)】佐々 鈴臣。  女王に忠実な彼らの中で、ある意味では最も忠実で、最も不実な男。 「まさか! そんなはずありません!」  この男はただの口先だけで、【オルデ...
  • あの人とおしゃべり お茶会編
    あの人とおしゃべり お茶会編  お茶がカップに注がれる音というのはどうしてこんなに素敵なのだろうか。甘いお菓子と友達のおしゃべり。それだけできっと女の子は永遠に生きていける。勿論、それは気のせいなのだろうけど。 「甘いお菓子とおしゃべりがあれば、女の子は何時間でもお茶ができるらしよ」 「それは素敵。お店でやったら迷惑だろうけどね」  思考に割り込むように声がした。くすくすと同調する笑い声が響く。村崎ゆき子は思考を止めて顔をあげた。冷たい風が窓ガラスをかたかたと揺らす。定休日のル・クルーゼは静まり返っていて、この部屋以外からは何の音もしない。  ゆき子は微笑んで視線を巡らした。目の前のテーブルにはたっぷりの紅茶の入ったカップが人数分と、様々なお菓子が用意されている。お茶といえば英国式だが、今日は違う。単に好きなお菓子を用意して、好きな飲み物と一緒に食べるというごくごく一般的なお茶の風景だ。...
  • 序章、アフタヌーンティ
    序章 アフタヌーンティ  黄道暦。  第三次世界大戦および、核兵器妨害装置開発により勃発した第一次非核戦争を経てあらゆる国家が崩壊した世界が、国家ではなく企業による統治を選んだことによりはじまった年号。それもすでに半世紀以上。すでに国家というものを経験している世代は、少数派になり始めている。  その中で、かつて日本国と呼ばれる国があった島そのものを買い取って作られた世界最高峰の巨大学園都市・トランキライザー。  あらゆる分野において次代を担う人材の育成を目標に、かつての日本国の上にそのまま建てられたこの都市は、学園敷地面積2187.05km2(東京都に相当)教職員、生徒、企業家、現地住民のすべてを合わせた総人口は約一千三百万人、まさに世界最大の学園都市である。  そのイーストヤードと呼ばれる区画。ここはかつての日本国の面影をもっとも多く残している区画である。  中心部には高層ビルが立ち...
  • 四十物谷調査事務所調査ファイル №2
     ノースヤードの一角。  ライザー学院内において、ノースヤードはアンダーヤードの次に治安が悪いといわれている。場所によっては他のヤードのビジネス街に引けをとらないところもあるし、安全地帯皆無に近いアンダーヤードに比べればまだまし、という考えもあるが―――― 「本当に人気がない。被害者はなぜこんなところを歩いていたんだろう」  崩れかけた建物を見上げて、宗谷は息を吐いた。  空はどんよりと曇っている。周囲のコンクリートの建物は、立ったままで朽ち果てているような陰鬱な気配を放ち、かつては舗装されていたらしい道路はひびで覆われている。  宗谷はしゃがみこんで地面に触れた。  砂利、コンクリート、木片――――脳内に周囲を構成する物質の要素と割合が次々浮んで消える。道路の原材料、周囲にあるもの、それがどういう由来を持つか、いつからあるか。莫大な情報の中から一つを探し出す。  【立体捜査...
  • 美食礼賛 前編
    美食礼賛  学園都市トランキライザー  すべての国家が戦争の末崩壊し、企業や様々な裏組織が世界の表と裏を支配する時代が幕を開けてからはや数十年。かつての暗黒時代に比べれば、世界も安定してきたように見える。  表の世界を治めるのは、ゾアックソサエティ(黄道十二宮協会)と呼ばれる十二の大企業とその他、無数の企業組織。  裏の世界を治めるのは、九つの組織と呼ばれる様々な目的のために集結した九の組織とそれに連なる大小様々な団体。  その十二企業の一つが、かつて日本と呼ばれた土地に作った巨大学園都市。それがトランキライザーである。十二の企業のうちでも一、二位を争うほど次世代の教育に力を注いでいるところのおひざ元ということで、世界中から数多くの若者や子供がこの学園に集まってきている。だが、そんな場所でも闇はある。  まだ開発されていないスラム街。現地の住人が住むさびれた街。学園すら放置するしかなか...
  • ファンキーレディオ放送局1
    奇抜な形の車、ファンキーレディオ号が高速で走り込んできて、建物とぶつかる寸前で超ドリフト。 途中で何人か跳ねた気がするが、気にしない。 『あーテステステイストー! マイク良し、スピーカー良し、被害者良し!』 『いやよくねぇよ!』 轢き逃げ、いや、轢き逃げずの現場を見た誰もがツッコむ。 しかしそこは学園トランキライザー生徒、まだ息はあるようだ。 『病院呼んだから大丈夫! ―――いや大丈夫じゃないよコレ! 逃げて! 病院逃げて!』 『何言ってんだアンタ!?』 脈絡と意味のない言葉に恐れおののく生徒たち。 『にゃーみゃーにゃー』 『本当に何言ってんだ!?』 何か電波を受信しているのではないかと恐れおののく生徒たち。 「おいおい、気にしちゃ駄目だぜ少年ども」 「もしかして予科1年か? だったら知らなくても仕方がねぇな」 「最近大人しかったですからね。ですがまぁ、生で見かけるとやはり嬉しいものです」...
  • 上にいるひと
    上にいるひと  眼下では二つの勢力が拮抗していた。  一つはビル内部に陣取って敵を迎え撃つチーム。もう一つはそのビルに籠ったチームが守るものを破壊しようとするチームだ。上からみると両者の動きがよく分かる。攻めるほうは大部分を正面にやって陽動をかけながら、精鋭部隊をたくみに動かし守り手の隙を突こうとする。反対に守るほうはそれを見抜いて、最小限の人数で正面を守りつつ単騎での戦闘にたけた面子を細かく動かして隙を見せない。  長引くかもしれないな。向かいのビルの屋上からその様子を見下ろして、ダイナソアオーガン社長【イノセントカルバニア(純白髑髏)】篭森珠月は思った。 「私ならここでこっそり正面勢力の一部と精鋭部隊の面子を入れ替えて、陽動に見せかけた正面突破を狙うけどなぁ」 「カゴ、警備保障会社の社長である君が何故攻める戦法のほうを考えているんだ?」  呆れたような声がした。振り向くと、上司であ...
  • その2、訓練開始
    2、訓練開始 『はーい、まもなく開始時間だよ★ ここからはファンキーレディオ放送局の一二三愛が中継しちゃうよ★ コメンテーターは、本日の訓練で使用される色々な機器を用意してくれた、オフィス・フォートランから【LOGO777 (喪失言語)】ユリア・パパラートちゃん、ブラックシープ商会からは建築とデザインの専門家【マジックボックス(驚異的空間)】ミヒャエル・バッハさんが搭乗だ★』  いや、そこは「登場」だろう。聞いていた全員が思ったが、愛の変換ミスはいつものことなので誰もあえて口をはさむことはしない。 『それにしても、何かの陰謀としか思えないくらいにいい別れ方になったね★ これじゃあ、絶対に協力プレイなんてできないと思うよ』 『そうですね……こんなことは言いたくないですが、心配です。今回の訓練には、我がオフィス・フォートランが新しく開発した警備システムを投入しているのですが……あれは単独で...
  • 終章、翌日
    終章、翌日  イーストヤード・ダイナソアオーガン本社。  会長室の扉が勢いよく開けられた。中にいた狗刀宿彌は読んでいた新聞から顔を上げる。 「やあ、珠月。昨日は楽しかった?」 「不快だったよ。見物人は楽しそうだったから、ガス抜きにはなったと思うけどね」 「みたいだね」  『避難訓練悲喜交々 ジェイル&珠月熱愛疑惑? 纏にマゾ疑惑が?』と書かれた記事が見えるように新聞を机の上に置いて、宿彌は椅子に座りなおした。  今日も珠月は黒い服を着ている。よほどのことがない限り明日も黒い服なのだろう。そしてその手には大きな旅行カバン。 「…………流石に休暇はもうあげないよ?」 「違うよ。見て」  ずりずりとかばんを引きずってくると、珠月はそれをあけた。その中には、封筒に入った書類と大量の現金詰まっていた。現金は数億はあるだろうか。そこから珠月は書類だけを取り上げる。 「これは何?」 「宿彌が言う、良く...
  • Infancy(揺籃期)
     Infancy(揺籃期)  思ったより小さな屋敷だった。  彼は咎められない程度に視線を巡らせた。先導する女性は視線だけをこちらに向けたが何も言わない。 「思ったより狭いと思っていらっしゃるでしょうね。けれど、仮住まいなのでこれで十分なのです。今はお嬢様しか住んでいらっしゃいませんし、これ以上では警備が行きとどきません」 「使用人は?」 「家庭教師の皆さま方は皆本職があるので時間のある時に通いです。住み込み使用人は二人だけ。あとは毎日違うシフトで隣の建物で寝泊まりしている使用人が通います。人によって入れるエリアは限定され、外からものを持ちこむことも持ちだすことも基本的に禁止です」  ひらひらと時代錯誤なメイド服が揺れる。足元には毛の短い絨毯。足音が吸収されにくい素材をあえて選んでいる。 「重警備ですね。なのに僕なんかを入れていいんですか?」 「壬無月様がお呼びになった方です。問題は御...
  • 白雪姫と五人の守人
    【白雪姫と五人の守人】  昔々、あるところに大層美しいお姫様がおりました。  肌は雪のように汚れなく白く、それに似合う純白の着物を着ていることから、『白雪姫』と呼ばれていました。  白雪姫は大変愛くるしく、優しく、純粋な性格であった為、誰からも愛されておりました。   しかし、そんな白雪姫を憎たらしく思っている人間がおりました。それは、白雪姫の継母です。 「おのれ白雪姫め……誰からも愛されて、憎たらしい事この上ないですわ……!」  継母は白雪姫の母親が亡くなった後に父親の妻となった人間で、白雪姫には及ばずとも、とても濃艶な美女でありました。  こちらは白雪姫のように着物ではなく、やたらと露出の多い黒と紫のドレスを好んで着ておりました。  白雪姫の父親であった王が不慮の事故で亡くなってからというもの、城の実権を握るようになった継母でしたが、その全てを手に入れるためにはどうしても白雪姫の存...
  • 音土けモノ屋の非日常~伝ちゃんと一緒編~
     「ふに、本意ではないんですがねぃ」「って言ってもやらなきゃやられるっスよ」  ぼやきつつ疾走する二つの影。浴衣に雪駄、手には土くれと扇子を握っている者。そして、アロハシャツにカンカン帽、左右でちぐはぐなサンダルを履いた者。  「雑魚は雑魚なんだが数がどうにも酷いとは思いませんかい? 雑魚だけに混水摸魚といきましょうかい」  「こ、こんすー? さわさん、何語話してるっスか」  「……兵法三十六計だよ、伝ちゃん」  三十六計を持ち出した和装の方は【ジャック・ザ・リバー(闊歩する自由)】崇道院早良、無所属。クエスチョンマークを顔面に貼り付けているアロハの方は里見伝狗郎、四十物谷調査事務所所属。そして追ってくる有象無象たち、某不動産屋所属。  二人は簡単な調査を行っていたはずだったのだ。某不動産屋の社長、その“詐欺のように”鮮やかな経営。不動産転がし術の「種」と「不正の証拠」――ほぼイコールで同...
  • First contact/法華堂戒&エドワード・ブラックシープ
    First contact 法華堂戒&エドワード・ブラックシープ  ずっと自分を無視していた両親が自分に触れてくれたのは、二人が自分の首を絞めた時だった。  場違いにも、少しだけ嬉しかった。家にいても自分は透明人間になったみたいで、話しかけてももらえず、触れることも許されず、返事も貰えず放置されていたから。自分が生きているのか死んでいるのかすら良く分からず、ただ決められた日課だけをこなしていた。  だから、嬉しかった。それが殺意であっても、両親が自分に目を向けてくれたことが。  でも、すぐに悲しくなった。死にたくはなかった。死ねばなにも分からなくなってしまう。冷たくなって、硬くなって、最後は腐敗して、自分という存在はきれいに消えてしまう。それは困る。自分はまだ、何もしていないのに。無価値のまま、死にたくないのに。  本で読んだ。幸せとか愛情とか生きがいとか、そういうものはあったかいらし...
  • 8ave
    「8ave」 この学園都市において、地下街とは大きく分けて二種類ある。一方は、学園都市を建設したライザーインダストリーが、各区画の延長として造った公認地区としての地下街。そしてもう一方が、ライザーインダストリーが許可していない、無法者や爪弾き者が集う地下街。旧世紀の東京地下全体に広がっていたこの地区は、現在一般にはアンダーヤードと呼ばれている。学園からも認可されていない、文字通りのアンダーグラウンド街である。  その地下区画の外れに、全体の七割近くが水の下に沈んだ地区がある。建物の残骸や、崩落した天井の岩盤などが水面の所々に浮島のように飛び出しているこの地区は、地下の住人たちから水没地区、『ウォーターストリート』と呼ばれている。  住むもののほとんどいない、というよりも住む場所が極端に少ないこのウォーターストリートに、今一人の少女が佇んでいた。水面に突き出した不安定な岩盤の足場に、よろけ...
  • 第四楽章 終演時間
      第四楽章  終演時間  おろおろと周囲をうろつく一重に対して、数重は酷く冷静な様子で電話をかけていた。しかし彼女が寄りかかっている発射装置は着々と発射へ向けたエネルギーの充填をしており、そんな状況下、冷静に衛星電話のボタンを押している数重は逆に不自然だった。むしろおろおろとしているだけの一重の方がまだまともな反応である。  「ちょっと一重、あんまりうろうろしないでよ。気が散るでしょ?」  「数重ちゃんこそ、なんでそんなに冷静なの? 早くどうにかしないと、二重が……」  言外に二重が助かればそれでいいというようなことを口走る一重。数重はそれを咎めない。澪漂として、それは当然の反応だからだ。しかし。  「あなたが二重を守りたいように、私も万重をみすみす死なせるつもりはないわよ。老い先短いといっても、私にとっては大事な友達だからね。大丈夫、万重に任せなさい――」  数回コー...
  • 2、参加者集結
    2.出場者集結  ライザー学園は、旧東京都に作られた巨大学園都市である。  その中には、学園所有の施設もあれば、個人の施設や企業のもの、リンクと呼ばれる生徒の作った組織の所有する物件もある。そしてそれと同じくらい多く存在するのは、持ち主不明の廃屋やスラム街だ。  とはいえ、それは全体を見渡しての話。  学園本部のおひざ元であるメインヤードは、他の区画からすれば信じられないほど近未来的な美しい街並みが広がっている。  その一角。さまざまな文化施設が並ぶ通りに、エンジェルエッグ所有の多目的ホール《シャングリオン》はある。普段はコンサートや舞踏会などのイベントに使われているが、今日はそこは良いにおいに包まれていた。 「本日最終回! ブラックシープ商会推薦の健康食品はいかがですか?」 「ブルーローズの新作、白桃の蒟蒻ゼリーです。有機栽培で作られたブランド白桃を贅沢に使...
  • 踊らされる音楽家たち ――第十二管弦楽団・澪漂爆重
       Ⅰ.躍らされる音楽家たち ――第十二管弦楽団・澪漂爆重  独立学園都市トランキライザー。その西区画にある複雑怪奇な建造物の集合体、九龍城砦。その中層にある【澪漂第六管弦楽団】のオフィスの電話が鳴ったのは、昼時が過ぎて団員たちが各々の仕事に戻り始めた時だった。  「――ん? 千重……団長からか?」  第六管弦楽団団長【エターナルコンダクター(悠久の指揮者)】澪漂二重は、固定電話のディスプレイに出た番号を見てそんな呟きを漏らした。そんな彼の呟きに、側の机で書類を広げていたパートナーの【アルカディアフレンド(理想郷の大親友)】澪漂一重が、  「またお仕事? この前一週間出張したばっかりじゃん」 と嫌そうな顔をした。二重は小さく笑いながら受話器を取り上げ、通話ボタンを押す。  「はい、私です」  『やほやほ、二重クン。千重団長だよ?』  受話器を耳に当てなくても聞こえる...
  • ある日の葬儀屋
    ある日の葬儀屋  カーテンの隙間から差し込む光に、女は顔をあげた。薄暗い室内には情事の甘い香りが残っている気がする。男の一人暮らしらしく、我慢できるぎりぎりまで散らかった室内。だが、特定の女の影がないという意味では悪い気はしない。 「――――ジョン?」  あきらかに本名ではないと分かっていて、女は甘い声で昨夜を共にした男の名前を呼んだ。バーで知り合っただけでどういう人間かもよく知らないが、とにかく一緒にいる女の気分をよくさせる才能があることは確かである。  だが、隣で寝ていたはずの男の姿はない。気だるそうに身体を起こした女の鼻によい香りが届く。ややあって部屋の入り口にゆっくりと人影が現れた。 「おはよ。珈琲飲む?」  二つのカップをベッドの横のテーブルに置いて男は微笑んだ。女も満足げに微笑むと、ベッドに座った男にしなだれかかる。 「いい香り」 「インスタントで悪いね。お姫様。次はもっとい...
  • 羊の日常 其の二
    羊たちの日常 其の二 アルマの場合  ライザー学園イーストヤードのオフィス街に、ブラックシープ商会本社はある。  世界からすべての国家が消え去った大戦後、かつて日本国と呼ばれた国の跡地に作られた巨大学園都市、トランキライザー。精神安定剤を意味する名前のこの都市には、時代を担う存在が作り出したリンク――旧時代のサークルに相当する――と呼ばれる組織が数多く存在する。ブラックシープ商会は、その中でも特に学園内部の経済活動において大きな貢献を果たしている。  総合製造小売業とは20世紀ごろに、小売業者がより良く他にはない商品を安価で作るために、メーカー機能を取り入れたことにはじまる。ただ、ブラックシープ商会はそれとは違い、もともとは商社として商品を仲介していたのが、いつの間にか実店舗を持つようになり、それに伴って自社ブランドの開発に乗り出したことで、総合製造小売業としての地位を確立していった。...
  • Baa,Baa,Black sheep Ⅴ
     キャシー・クラウンのピーチハウス襲撃事件。 ブラックシープ商会社員の一斉襲撃と死者の発生。及び責任をとっての一部幹部の辞職。 フォックスグレーシアのテロ事件。 ウエストヤードでの銃殺死体発見。 一連のブラックシープ商会襲撃事件の犯人捕殺。  一日で起こった事件に学園は一時騒然となった。しかし、ブラックシープ商会の事件の犯人が捕まり、さらに幹部が責任をとったということで、その騒ぎもやがては沈静化した。 フォックスグレーシアに関しては、色々と恨みを買っていたリンクだったということもあり、恨みある何者かによる犯行として処理された。見事に全滅していたために、訴え出るものがいなかったせいもある。二つの事件を繋げて考えたものもいたことはいたが、証拠が出ない以上憶測の域を出ず、すぐに彼らも沈黙した。  数日後には、校内は完全にいつも通りの平穏さを取り戻したように見えた。  ...
  • 少女と推理小説
    少女と推理小説  伸ばした指先が別の誰かの手に触れて、少女は驚いて横を見た。そして同じようにこちらを見つめ返している瞳と視線が合って、再度驚く。  今の時代、好き好んで紙の本を読むような人間は少数派だ。しかもこの学校の予科生ともなれば、物語の本を読んでいる暇などない。なのに、そのモノ好きな少女が手を伸ばした推理小説を相手も取ろうとしている。そのことに、少女は運命めいたものを感じた。 「――って感じだったんだとおねえちゃんは記憶してるんだけど。おねえちゃんと矯邑のおねえちゃんの出会い」 「記憶のねつ造禁止!」  気だるげに、ただしかなり本気の顔で言う序列225位【ラヴレス(愛を注ぐもの)】空多川契(あくたがわ けい)に、序列189位【スコーレ(暇人の学問)】矯邑繍(ためむら しゅう)は冷静な突っ込みを返した。 「えー、間違ってないよ」 「図書館で出会ったことは事実なんじゃないでしょ...
  • First contact/矯邑繍&にゃんにゃん玉九朗
    First contact 矯邑繍&にゃんにゃん玉九朗  ここは暗い。地下なのだから当たり前といえば当たり前なのだが、アンダーグランドを歩いていると本当にここがあらゆる意味で見捨てられた都市なのだと感じる。見捨てたのは、人か、企業か、それとも神か。だが、ここの住人はそんなことは気にしないようだ。もっと深くまで潜ればさらに地上の常識など通用しない修羅場が待ち受けているというから、それを考えるとこの程度の場所なんでもないのかもしれない。  アンダーヤード、ブラックバザール。アンダーヤードの中でも時折こういう経済活動の中心地となるような場所がある。周囲にはいくつもの明かりが灯り、薄闇の中、篭に入った謎の植物や檻に閉じ込められた異形の生き物が売買されている。いずれも地上で大っぴらに売ることはできないような類のものだ。  気配を殺しながら人ごみを歩いていた矯邑繍(ためむら しゅう)――のちに【ス...
  • 5、地下の王
    5、地下の王  暗い。 まれに照らす明かりはあれど、それはあまりにも儚い。  篭森珠月は、漆黒の闇の中を歩いていた。彼女の特徴である黒いゴスロリ服が闇に溶けて、境界線をあいまいにする。  自分自身さえほとんど見えない闇の中、しかも崩れかけたコンクリートで埋もれたお世辞にも歩きやすいとはいえない道を、珠月は黒いドレスをなびかせて颯爽とあるく。  相変わらずの黒いブラウスに黒いコルセットスカート。片手には日傘を、もう片方の手には小さなトランクと紙袋を持っている。  何となく頭上を見上げる。そこも闇で満たされていて何も見えない。しかし、珠月はその中にあるのが分厚いコンクリートであることを知っている。  ここは学園地下に広がる、俗にアンダーヤードと呼ばれる場所。  旧日本の時代に縦横無尽に張り巡らされた地下鉄や地下道、排水路などの跡地のうち、戦後になっても企業の手が及ばなかった場所に、犯罪者や...
  • Papera
    【Papera】 「丈之助」  誰もいない薄暗い部屋で、少女が小さく名を呼んだ。 「……?」  何処からか気配もなく現れた少年は、訝しがりつつも無言で少女を見つめる。 「剣道を教えて!」  唐突な願い。それ自体はいつもの事だが、この少女が自ら進んで疲れる行為をするというのは不自然すぎる。  しかし、この少年が少女の行動を訝しがるはずもなく、何の反問もせずに受諾する。 「剣道なら別に難しくない。棒っぽいモノを持って、相手を叩いたり突いたり斬ったりすれば良いだけ」  しばしの沈黙。 「なるほど」  少女は納得して差し出された刀剣を受け取る。 「とりあえず、問答無用で攻撃すれば良いんだね★」  だが、少女にとってその剣は重すぎた。 「うにゃあ」  持ち上げられなかった刃は、コンクリートであるはずの地面を深々と抉るだけ。 「……何で?」 「私が聞きたいよー…...
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