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BIBLIOMANIAX内検索 / 「踊らされる音楽家たち ――第十二管弦楽団・澪漂爆重」で検索した結果

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  • 澪漂 二重
    ...交響楽のための澪漂」踊らされる音楽家たち ――第十二管弦楽団・澪漂爆重 絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重 睦み合う音楽家たち ――第四管弦楽団・澪漂四重 見極める音楽家たち ――第六管弦楽団・ルリヤ=ルルーシェ
  • 踊らされる音楽家たち ――第十二管弦楽団・澪漂爆重
       Ⅰ.躍らされる音楽家たち ――第十二管弦楽団・澪漂爆重  独立学園都市トランキライザー。その西区画にある複雑怪奇な建造物の集合体、九龍城砦。その中層にある【澪漂第六管弦楽団】のオフィスの電話が鳴ったのは、昼時が過ぎて団員たちが各々の仕事に戻り始めた時だった。  「――ん? 千重……団長からか?」  第六管弦楽団団長【エターナルコンダクター(悠久の指揮者)】澪漂二重は、固定電話のディスプレイに出た番号を見てそんな呟きを漏らした。そんな彼の呟きに、側の机で書類を広げていたパートナーの【アルカディアフレンド(理想郷の大親友)】澪漂一重が、  「またお仕事? この前一週間出張したばっかりじゃん」 と嫌そうな顔をした。二重は小さく笑いながら受話器を取り上げ、通話ボタンを押す。  「はい、私です」  『やほやほ、二重クン。千重団長だよ?』  受話器を耳に当てなくても聞こえる...
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    ...交響楽のための澪漂」踊らされる音楽家たち ――第十二管弦楽団・澪漂爆重 絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重 睦み合う音楽家たち ――第四管弦楽団・澪漂四重 見極める音楽家たち ――第六管弦楽団・ルリヤ=ルルーシェ Genio o Cretino (天才かバカか) Folle (狂人) Rainy Blue (雨の日の憂鬱) Felicitare (幸せにする) Abitudinario (いつも通り) Papera (うっかり) Gihad (聖戦) Consueto (いつものこと) Benvenuto (ようこそ) Generico (脇役) Amicizia (親愛) Devoto (信頼できる人) Amicone (仲良し) Semplice (無邪気な人) Perche (疑問) Intimita (団欒) Giochetto (暇つぶし) Scapato ...
  • 睦み合う音楽家たち ――第四管弦楽団・澪漂四重
       Ⅲ.睦み合う音楽家たち ――第四管弦楽団・澪漂四重  「わはははは! 何をぼけっとしておるのかね? 諸君、我輩はこっちだぞ!」  「いたぞ、あっちだ!」「捕まえろ!」「銃を用意しておけ!」  深夜のオフィス街に響く大声。サーチライトが揺れる夜空を横切るように、奇妙な風体の人影がビルとビルの間を飛び越える。  一つは、大きな袋を背負った姿の男――シルクハットに黒のスーツ、律儀にも肩にマントを羽織り、手には細身のステッキを持っている――は、眼下の道路を走る男達を見やり、彼らの先に待機している相方に声をかけた。  「九重(ここのえ)、そちらに行ったぞ!」  「ハイヨ、だんちょ団長!」  不意に聞こえた返答に、男達が視線を頭上の人影から前方に移すと、そこには深夜のオフィス街にはそぐわない、真紅のチャイナドレスに身を包んだ女性が立っていた。なぜか手には竹箒が握られている。 ...
  • 絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重
       Ⅱ.絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重  【澪漂交響楽団】の本拠地は、ユーラシア大陸の極東部、上海シティにある。  本部の建物は、豪州のオペラハウスのような荘厳な外観を持つ建造物であり、しかしどこか暗い雰囲気を纏っていることから、「ファントムハウス(オペラ座の怪人館)」と呼ばれている。  そしてそのファントムハウスの周囲には、【澪漂交響楽団】に列席する団員たちの住居も点在しており、独特の雰囲気を持った区域となっていた。  「背徳の蜂蜜亭」は、そんな中の一つ――澪漂屈指の【異端者】の異名を取る、第九管弦楽団が詰める建物である。                     ♪  「相変わらず甘ったるい匂いのするところだな」  オレンジの長髪を風に靡かせ、黒のレザージャケットに身を包んだ男が、その「背徳の蜂蜜亭」の前に立っていた。まだ幾分の冷たさを孕...
  • 見極める音楽家たち ――第六管弦楽団・ルリヤ=ルルーシェ
       Ⅳ. 見極める音楽家たち ――第六管弦楽団・ルリヤ=ルルーシェ  世界に数あるドームシティの多くは、中核となる企業を中心として大きな都市が展開されているものが多い。その例に漏れず、東欧に位置するこのドームシティも中心部の殆どがオフィス街となっていた。  時刻はまだ夜中とは言いがたい時間帯だが、周囲の殆どが企業の所有するビルという条件もあって人の気配はまったくない。  ただ一つ、隣接するビルの屋上から【ブリランテムーン(眼鏡の輝き)】ルリヤ=ルルーシェが眺めているビルには、ところどころ明かりの点いている窓が見られた。どうやら遅くまで勤務している社員がいるらしい。  「――ふむ、皆さん。持ち場に着きましたか?」  ルリヤは耳に掛けている通信端末に向かってそう呟いた。やや間を置いて、彼女の仲間達からそれぞれ返答がある。それを確認して、ルリヤはずれた眼鏡の位置を直しながら手短...
  • チューニング 薄暗い部屋の中で
       チューニング 薄暗い部屋の中で  時刻はすでに夜十時を回っていた。学園都市西区画の中央に聳え立つ歪な建造物の集合体――九龍城砦。その幾つもある屋上の中でも一際高みに位置する一つに、二人分の影があった。  一つは東洋人にしては比較的高い身長のシルエット。身長の割に手足は細長く、見るものには針金、あるいは夕方の細く伸びた影法師をイメージさせる。律儀にも返り血を浴びたかのようなくすんだワインレッドの燕尾服に身を包み、肩には同色のマントを掛けている。肩ほどまでの黒髪をぞんざいに一つに束ねているが、頭頂部では特徴的な二本の毛――いわゆるアホ毛とか、アンテナとか呼ばれるものが、風にゆらゆらと揺れていた。  「しかし解せんな。第六管弦楽団に召集が掛かるならばまだしも、団長たる私と副団長たる君しか呼ばれない、というのはどういうことだ? ……まぁウチのメンバーは正式な団員でもないからそれはそれで当然...
  • チューニング 謎の会合、あるいは一重の憂鬱
     チューニング  謎の会合、あるいは一重の憂鬱  澪漂・一重(みおつくしひとえ)の目の前を不思議な光景が横切っていく。  ここは旧東京に建造された独立学園都市トランキライザーの西区画、その中心部に聳え立つ歪な建造物の集合体・九龍城砦(クーロンじょうさい)。その中にある一際大きな大集会場に向かって、西区画に住んでいる人々がぞくぞくと集まっているのだ。  ぱっと見ただけで目に付くのは学園都市の序列でも高位に位置するいわゆるトップランカーたち。一重の知っている顔も少なくない。  【ミスタトゥ】、【デリシャスタイム】、【パンツァーメイド】、【ウェポンバトラー】、【クローズドサークル】、【ラストエンペラー】、【ホーカスポーカス】、【ダイヤモンドダスト】、【ヘンケルス】……世界的に有名なエイリアス持ちがぞろぞろと、一人また一人とやってくる。その中には、一重の所属する澪漂管弦楽団に在籍して...
  • 第一楽章 音楽家たちの円卓
       第一楽章 音楽家たちの円卓  アフリカ南部のとある地域。岩肌が所々顔をだしている荒涼とした草地が見渡す限り広がっているこの土地に、澪漂・二重は立っていた。  この近辺の地域は数年前まで、アパルトヘイトという非合法カルテルが支配していた。現在、企業が国に変わって人民の上に立つ、この世界の大部分に影響力を持った経済界のトップ、黄道十二宮協会――ゾディアックソサエティに協賛することなく独自の手法で統治を行っていたアパルトヘイトは、ほんの数年前に壊滅させられている。それによってこの地域は一般の企業や自治体に分割されているわけである。そのアパルトヘイト壊滅事件に、二重も籍を置く学園都市の生徒の一人が関わっているということを彼もよく知っていた。  その生徒の名を【ナイトメア№7(悪夢七号)】蔡麻勇太郎というが、二重は別にそのことに関して勇太郎をとやかく言うつもりはない。ただ、と二重はこの『戦場...
  • First Contact/澪漂二重&朝霧沙鳥
       First Contact 澪漂二重&朝霧沙鳥  「あれ? 団長、出かけるの?」  「出かけるの?」  ある日の昼下がり――西区画・九龍城砦。 愛用の外套を肩に羽織った【エターナルコンダクター(悠久の指揮者)】澪漂二重に、部下である杏藤波音と花音の双子姉妹が声をかけてきた。  「ん? ああ……ちょっと中央のさっちゃんのところにな」  「今日は万具堂で、さっちゃん主催のお茶会なんだ」  二重に続いてそう言ったのは、二重の相方である【アルカディアフレンド(理想郷の大親友)】澪漂一重である。彼女も外出用のコートを羽織って、二重の隣に並んでいた。  「ふーん、じゃあ私達はお留守番だね」  「お留守番―」  常に無表情の杏藤姉妹は、どうとでもとれるような口調でそう言うと、さっさと自分の机に戻ってしまった。二重はそんな二人に苦笑して、一重の肩に腕を回すと、オフィスから出...
  • 第二楽章 戦争、開始(2)
     七重の猛攻を止めたのは、以外にも軍用サーベルによる一撃だった。  撒き散らされた死体の弾幕を乗り越えて振るわれたサーベルの攻撃を、七重はしかし余裕をもって回避し、その攻撃の主を睨みつける。  「……ふぅん、やっと骨のありそうな人が出てきたわね」  七重に攻撃をしてきたのは他でもない、革命軍の指揮をとっているアンディであった。  「何者だお前等……どうやら【マリアスコール】の手の者じゃなさそうだが……」  アンディはこめかみに青筋を浮かべ、七重にサーベルの先端を突きつける。当然のことだが、相当怒っているようだった。  七重は直刀をくるくると回転させながら、嘲笑にも似た笑みを浮かべる。  「澪漂第七交響楽団団長、【デスペラードコンダクター】の澪漂・七重よ。名前を聞けば分かるかと思うけど、お察しの通り、アンタたちが敵対している【マリアスコール】とは何の関係もないわ」  「澪漂か...
  • 第二楽章 戦争、開始(1)
       第二楽章  戦争、開始  「うむ……双方、動き出したようだな。タイミングがいいことだ」  地平の彼方に、小さくうごめく人影が見える。この場所からは蟻ほどにしか見えないが、しかしそれらは明確な意思を持って動いていた。  すなわち、勝利という目的のために。  「七重と二十重にはとりあえずしっかりと働いてもらおうか。我らの仕事には全滅――殲滅という形でしか成功はないのだからな」  【デスペラードコンダクター】澪漂・七重と、【ボトルズボトム】澪漂・深重は並んで荒野のど真ん中に立っていた。向かう方向に見えるのは大きな岩山――革命軍が拠点としている地である。  今、視界の奥には地を埋め尽くすほどの人々が押し寄せてこようとしていた。多くは歩兵として、そして一部は装甲車に乗り込んで。おそらく武装は相当レベルの高いものだろう。ゾルルコンツェルンが援助をしているという時点で、装備...
  • Psychic and Witch
     「Psychic and Witch」   「なぜ基本デスクワーカーの僕がわざわざ街に出向いて調査しなければいけないのでしょう?いささか理解しかねますな」  西区画の繁華街を長身の男が愚痴を零しながら歩いている。見ただけで高級品だと分かる上等のスーツを着こなし、白い手袋をした手にステッキを突いている。男は入念に撫で付けられたオールバックの金髪を再び軽く撫でつけた。  「それもこれも、団長たちがいない時に限って現れた誘拐犯のせいですよ」  周囲の建物によって切り取られた空を見上げ、ランキング140位、【ロウオブワン・ツー・スリー(三本の矢)】のアルフレッド・フレミングは大きなため息を吐いた。  「それじゃあ実地調査にはアルフレッドが行ってきてくださいね」  数時間前、西区画の中央に位置する複雑怪奇な建造物の集合体、『九竜城砦』のとある一室で、【ファンタズマゴリアバディ(幻想具現化)】...
  • 第三楽章 鋏と死骸(2)
     七重とアンディの打ち合いはなかなか決着がついていなかった。  否、状況を有利に進めているのは七重の方であるが、しかし決め手となる一撃をどうしても決められずにいるようだ。  「……ちっ、面倒くさいわね。さっさと殺されなさいっての!」  苛立ちを言葉にしながら、七重は直刀を振るい数十合目になるであろう攻撃を繰り出す。  「むぅ……そうやすやすと殺されてやるかよ。俺には、やらなきゃならねぇことがあんだよ!」  覚悟が違う、といった面差しで七重の攻撃をサーベルの柄で受け止めるアンディ。すでに両手は感覚がなくなるほどに痺れていて、武器にしているサーベルも大小様々な傷で覆われていた。  傷だらけなのは武器だけではない。攻撃を受け止めているアンディ自身もまた、身体の各部に大小の傷を受けている。  カウンターで繰り出されたサーベルの突きが左腕をかすめ、七重は苦々しい表情で攻撃する手を止めた...
  • 第二楽章 交錯する者、あるいはヒーロー見参!(1)
       第二楽章 交錯する者、あるいはヒーロー見参!  第七管弦楽団の面々が、それぞれの敵と相対しているのと同じころ。  東区画の裏路地、人通りの殆どない道を、三人の人影が疾走していた。  先頭を走るのは、中世風の真っ赤な衣装に身を包んだ男。向かい風で飛ばされそうになった大きな帽子を、左手――否、手の変わりに左手首から生えている曲々しい鍵爪でつかまえて、無理やり頭に被りなおす。  「――ったく、あの馬鹿ども! 久しぶりに学園に戻ったと思ったらこれだ……最悪だな」  一歩を踏み出すたびに、衣服のあちらこちらに付いた時計が触れ合い、軽い金属質の音を立てる。  【ティクタリゲーター】スリジャール・フッククローは、現在逃走の真っ最中であった。  彼の十メートル程後方、スリジャールを追う形になっているのは、全く正反対の格好をした二人の男。  片方はオフィスワーカーよろしく三つ揃え...
  • カーテンコール 見えざる囚人
    カーテンコール  見えざる囚人  「澪漂は依頼をこなしてくれたようだな。これで我々が新たな土台を築くことができる」  アフリカ大陸北部のとある町。比較的進んだ町並みの中でも一際目を引く高層ビルの一室に、【サハラエレクトロニクス】の幹部が集まっていた。  「とりあえず今日はこれからの方針を話し合います。彼らの仕事は終わりましたが、我々の仕事はむしろここから……気を抜かずにいきましょう」  【マリアスコール】が陥落したことにより生まれた穴を埋めるため、【サハラエレクトロニクス】の役員たちはそれぞれのプランを発表していく。  そんな役員の間を、一人の女性が歩いていた。まるでそれが当然とでもいうように、堂々と。そして彼らはそんな場違いな女性の存在にまるで気づくことなく各々の考えを口にしていく。  やがて女性の足は一人の初老の男性の背後で止まった。役員の言葉を聴きながらあくびをかみ...
  • 第四楽章 終演時間
      第四楽章  終演時間  おろおろと周囲をうろつく一重に対して、数重は酷く冷静な様子で電話をかけていた。しかし彼女が寄りかかっている発射装置は着々と発射へ向けたエネルギーの充填をしており、そんな状況下、冷静に衛星電話のボタンを押している数重は逆に不自然だった。むしろおろおろとしているだけの一重の方がまだまともな反応である。  「ちょっと一重、あんまりうろうろしないでよ。気が散るでしょ?」  「数重ちゃんこそ、なんでそんなに冷静なの? 早くどうにかしないと、二重が……」  言外に二重が助かればそれでいいというようなことを口走る一重。数重はそれを咎めない。澪漂として、それは当然の反応だからだ。しかし。  「あなたが二重を守りたいように、私も万重をみすみす死なせるつもりはないわよ。老い先短いといっても、私にとっては大事な友達だからね。大丈夫、万重に任せなさい――」  数回コー...
  • 第一楽章 虐殺者たち、あるいは擦れ違い(1)
       第一楽章 虐殺者たち、あるいは擦れ違い  「なんだ、七重じゃないか。どうしたんだ?」  波音に手を引っ張られて応接室までやってきた二重は七重の顔を見るなりそんな気の抜けた言葉を口にした。波音は二重を部屋に押し込むと、仕事は終わったとばかりに踵を返してとてとてと歩き去る。  「なんでって、仕事よ仕事。ホントならあんたの顔なんか見たくもなかったけど、報告がてら寄らせてもらったわ」  「ツンデレ」という言葉が一重の脳裏を掠めたが、あえて彼女は黙っていた。七重はこう見えて面倒見のいい姉貴分なのだが、本人はそれを恥ずかしく思っているのかこうしてツンケンした態度をとりがちである。彼女のパートナーである深重はしばしばそれをからかって半殺しにされている。  「仕事? この学園でか?」  七重の言葉に二重の眉が寄った。  「そうよ? ちょっと暴れることになると思うから、それを伝えて...
  • First Contact/三島広光字&望月遡羅
     First Contact 三島広光路&望月遡羅  「あー……この辺りは全部持ってるし……。これは保存状態が悪すぎ。ふへ、そろそろ掘り出し物見つけるのも、難しくなってきたねぇ」  西区画の繁華街にある、小さな古道具屋。その中でも、電子書籍が一般的な現代では比較的珍しい、紙の書籍が並んでいる棚の前に、一人の男が立っていた。  癖のある髪の毛をオールバックにして後ろで縛り、赤いフレームのスタイリッシュな眼鏡を掛けている。中華風の長袖シャツの上から、昇り竜をデザインした外套のようなものを羽織っていた。更に奇抜なことには、機械的なデザインを持つ二メートルほどの槍を、右肩に担いでいるということだろうか。  男の名は、【アンタッチャブルサイズ(不可触民の鎌)】三島広光路という。  この西区画を管理するリンク【澪漂管弦楽団】に席を置く生徒であり、現在は丁度仕事のために住処である九龍城砦...
  • 第三楽章 鋏と死骸(1)
      第三楽章  鋏と死骸  「何だよこれは…………?」  ドームシティにとんぼ返りした光路と、一緒にやってきた二十重と十重の三名は、町に一歩踏み込んで息を呑んだ。  本来ならば結構な人数が生活しているドームシティ――その多くは【マリアスコール】の社員や家族であるのだが、この空間には全く生き物の気配がなかった。  生き物の気配――生活音だとか話し声だとか、そういった露骨なものどころか、呼吸音や心音といった微弱な気配まで一切が途絶えている。いくら戦争中だからといって、ここまでの無気配は異常としか言いようがない。  二十重は【キャッチインザライ】を振るって手近な建物の外壁を破壊した。そこから覗き込むと、中にはごろごろと、さっきまでは生きていたのであろう人々がすでに物体となって転がっている。二十重と十重はそんな中にずかずかと入り込んで、一つ一つ死体を検分し始めた。光路も仕方なく後に...
  • 住みたい区画
    住みたい区画 「まずは一献」 「あ、ありがとうございます」  かすかな音を立てて上質の陶器できた杯が打ちあわされる。  メインヤード中華料理店《花花(ファンファン)》。ブラックシープ商会傘下の高級中華料理店の本店である。花花の支店はすべてそれぞれの町並みに合わせた華麗な外観と、食器の一つまで手を抜かない豪華な調度品を誇っている。中でも本店の華麗さは類を見ないほどだ。広い敷地内には色とりどりの季節の花が咲き乱れ、人工的な小川が流れている。近未来的なメインヤードの中にあって、ここはまるで神仙が遊ぶ桃源郷のようだ。そこにいくつもの二階から三階建ての建物がいくつの立ち、それぞれが飛橋で繋がれている。そこを楚々としたしぐさ出歩くのは、宋代の衣装を身にまとった店員たちだ。耳を澄ますと庭先で奏でる楽の音が聞こえてくる。時間帯によっては庭や飛橋の上で歌劇が行われることもある。 「いつ来ても、まるで異世...
  • 三島広光路&澪漂二重
    First Contact 三島広 光路 & 澪漂 二重  ―――小さい時のホゥ アルオンについて、か?大人しい奴、だったかな。おやっさんのことは嫌いそうだったけど。んー、練兵場で何やら訓練していたのは知ってたけど、実はインチャオ時代はさ、彼奴と話したこと無いんだよな。え、意外だって?んなことねぇよ。当時の関係って言えば、憎まれてても雇い主の御曹司と、一少年兵だぜ?そう、おいそれと話せる身分かよ。  指令を受けた光路はかったるげにメインストリートを歩く。当時の西区画といえば、ザンスキングダムの冥獄一派が支配していた頃。かの名高い澪漂管弦楽団と言えど、学園内では新興勢力であった。  メインから工場地帯を抜けていくと、歪に聳える異形の建造物、九龍城砦に辿り着いた。 (まぁさか、こんな格好であのアルオンと再会するとは、思わなかったなぁ……)  学園に来てい...
  • First Contact/三島広光路&澪漂二重
    First Contact 三島広 光路 & 澪漂 二重  ―――小さい時のホゥ アルオンについて、か?大人しい奴、だったかな。おやっさんのことは嫌いそうだったけど。んー、練兵場で何やら訓練していたのは知ってたけど、実はインチャオ時代はさ、彼奴と話したこと無いんだよな。え、意外だって?んなことねぇよ。当時の関係って言えば、憎まれてても雇い主の御曹司と、一少年兵だぜ?そう、おいそれと話せる身分かよ。  指令を受けた光路はかったるげにメインストリートを歩く。当時の西区画といえば、ザンスキングダムの冥獄一派が支配していた頃。かの名高い澪漂管弦楽団と言えど、学園内では新興勢力であった。  メインから工場地帯を抜けていくと、歪に聳える異形の建造物、九龍城砦に辿り着いた。 (まぁさか、こんな格好であのアルオンと再会するとは、思わなかったなぁ……)  学園に来ていたのは知っていたし...
  • First Contact/澪漂二重&澪漂一重
     それは、七年ほど昔の記憶。  床に倒れた自分を見下ろすように立ちはだかる、男の姿。逆光でその表情は読み取ることができない。しかし、見えなくともその顔が苦々しく歪み、怒りの表情をかたどっていることぐらい容易に想像できる。  男の口が何事かをまくし立てるように動いた。  虚ろな頭の中を、その怒鳴り声がハウリングするように突き抜ける。  ――貴様はどうしていつもそうなのだ二重(アルオン)! 何故父である私の意思に背き、あまつさえ牙を剥こうとする! まったく、貴様という奴は本当に【無能】だな! 兄の命を奪って生まれてきた図々しい奴め、貴様など、我が候(ホウ)の家系の恥さらし以外の何者でもない…………                    ♪  「……重、二重、ふーたーえ!」  自分の名を呼ぶ声で、机に伏せるように眠っていた澪漂・二重ははっと身を起こした。  「も...
  • 第一楽章 虐殺者たち、あるいは擦れ違い(2)
     学園都市の上空を、奇妙な物体が移動している。  大きく翼を広げた姿は鳥のようだが、しかしそれは決して鳥などではなかった。  まず、鳥にしては大きさが巨大すぎる。人ほどもある大きさのそれは、両肩に複数の火器を備え付けていた。  学園都市の巨大なビル群よりもさらに高い位置を飛行していたそれに気づく者など、地上には一人としていなかったが、仮にそれを近くで見た者がいるとするなら――それが翼を持った人の姿であると気づいただろう。  人の体に不釣合いな大きな翼――その翼は白銀に輝く機械で出来ている。体は生身だが、下半身もまた翼と同じような金属製であり、鳥の足を模した力強い造形を持っていた。  流線的なデザインのヘルメットの下では、猛禽類のような鋭い瞳がぎらぎらと得物を探るように、眼下に広がる学園都市を見下ろしていた。  不意に歪な機械音がして、ヘルメットに備え付けられたインカムが女性の声...
  • 美食礼賛 後編
    「契ちゃん、こっち一口食べる?」 「羊美味しいよ。裏側に胡椒がぬってある」 「じゃあ、私も」 「添え物の野菜も全員違うね。交換しようか」  女性陣は料理の交換を始める。正式なマナーでは、他人の皿にものに手をつけてはいけないため、料理をシェアしたり、食べきれなかった分を他の人が食べる場合、給仕に頼んで取り分けて貰うのはマナーだ。といっても、友人同士の会食でそこまで気をつかう人間は少ない。オープンの席ならば他人の目が気になるが、個室ならその心配も無用だ。そもそもマナーとは、美味しく楽しく料理を楽しむためのものなのだから、他人に迷惑がかからない範囲なら、本人たちが楽しいほうがいいに決まっている。  魚から肉へと料理が映る。鳩の肉なんて普段は口にしないが、とても美味しかった。匠は唸る。この学園に入学して十年以上になるが、驚くネタは尽きない。 「篭森ちゃんも来れればよかったのにね」 「仕事だって」 ...
  • After Day
       「After Day」   翌日。出張から帰ってきた澪漂・二重はアルフレッドからの報告を聞いてため息を吐いた。  「なるほどな……形はどうあれ、一応の解決を見たわけだ。そういった点ではご苦労だったな」  言葉少なにしかししっかりと労いの言葉をかける二重に、アルフレッドは軽く会釈をして答えた。  デスクに座った二重の視線は、アルフレッドの斜め後ろに立つ二人の人物に向けられる。  「そっちの二人も協力感謝する。少なくとも法華堂がいなければ、事件解決までの成果は望めなかっただろう」  二重に声を掛けられた二人――東区画王の【ドラグーンランス(竜騎槍)】の狗刀・宿彌と、法華堂に仕事を依頼したエドワード・ブラックシープは、意外にも二重の口から感謝の言葉が出たことに驚いた風である。  「……君が憎まれ口や皮肉を叩くことはあっても、感謝なんて言葉が出るとは正直思ってなかったよ」  「私を何だと思...
  • First contact/望月遡羅&篭森珠月
    Fast contact 望月遡羅&篭森珠月 「妙な光景だ」  ぼそりと呟いた澪漂二重の言葉にきゃあきゃあ言いながらケーキを切り分けていた望月遡羅と篭森珠月は振り向いた。 「何がだい? 二重」 「包丁をこちらに向けるな。貴様に刃物を向けられると、殺意がなくとも緊張する」 「御希望なら、投げつけてやってもいいよ」 「止めろ、【無能】が」  言葉だけとらえると険悪だが、どちらも顔は笑っている。珠月は肩をすくめると、さらに切り分けたチョコレートケーキを乗せて二重に差し出した。 「で、何が妙だって?」 「人類3KYOのうち二人の身内が、仲良くケーキを切り分けている光景だ。写真を取りたがる記者が山のようにいるだろうな。まあ、そのような【無能】、生きて仕事場に帰れるとは思えないが」 「それくらいで殺しはしないよ。データ没収で厳重注意が関の山。ねえ?」 「そうですね。流石に自分の写真が知らないところで...
  • 学園都市前奏ダーククロニクル迷走編/序章 『上海暗躍』
     西暦二〇五六年七月、民族間、宗教間で端を発した戦争の火種は、一気に国家間の本格的武力衝突へと発展した。世に云う〝第三次世界大戦〟の勃発である。  その背景には、当時において、すでに世界の先頭に立ち、独裁的ともとれる思想と理念により、世界の政治経済の方針を指揮していたアメリカ合衆国に反旗を翻した形でもあった。  同年十二月、ロシア連邦共和国は、核兵器妨害装置(NuclearJammerSystem)の開発に成功し、これによって世界が核の脅威にさらされる事態を未然に回避する。  その行為は、地球という星にとって有益なものであり、賞賛に値する功績でもあったが、同時に人々が営む世界に在っては、止まることのない戦争という存在の愚かさをまざまざと見せ付ける結果となった。これより、〝第三次世界大戦〟は、次なるステージ、〝第一次非核大戦〟へと移行した。  アルティメットウェポンとまで称された核兵...
  • コトノハ
    コトノハ  言葉は言の葉。言語の葉っぱ。千の言を尽くしても、言の葉は言の葉。葉が積もるだけで大樹になりはしない。  コトバは事の端。事象の端っこ。万の言葉を尽くしても、言の葉は事の端。欠片が溜まるだけですべてを表せはしない。  見えるもの、感じるもの、知るもの、考えるもの――――どんな簡単なことでも、そのすべてを言葉で表すことは不可能。言葉で表せるものはすべて嘘だ。 だから、やめてほしい。 綺麗な言葉で飾るのは。艶やかな装飾で彩るのは。 気づかなくていいことに気づいてしまうから。守りたい本当が嘘になってしまう気がするから。直視しなくてはならない醜いものが、そうでもないように錯覚してしますから。大事に守っているものがバラバラにされて晒されるような、あるいは足元のものがすべて嘘になって砕け散るような、そんな不吉な気持ちになって――――恐くて怖くて殺したくなる。  黄道暦が始まってすでに...
  • First contact/篭森珠月&空多川契
    First contact 篭森珠月&空多川契  私が彼女と知り合ったのは、まだ予科を卒業する前のことだった。  学園都市トランキライザー。  第三次世界大戦とそれに続く第一次非核戦争ののち、これまでの国家体制とエネルギー体制が一新され、黄道十二宮協会という十二宮の企業が表の世界を、九つの組織と呼ばれる秘密結社が裏の世界を束ねる世界。その黄道十二宮協会において、ふたご座の称号を持つライザーインダストリーが、次世代の人材を育成するために作った巨大学園都市である。まだ設立より数年ではあるが、すでに一部の生徒はその教育の成果を発揮し始め、各地の企業から世界最高峰の教育機関として、注目を集めていた。  篭森珠月は走っていた。気配を殺し、闇に紛れる。その背後からかすかな足音を立てて複数の人影が追ってくる。そこは暗い。足元を冷たい地下水が流れ、影すらできないほど光がない。  ここは学園...
  • ties 1
    Ties 「愛が何かなんてことを理解しているのは、至天におわす神々か人々を言葉で惑わす恋愛小説家か、あるいは愛や恋で頭がおかしくなった若者くらいです」  なぜそんな話になったのかは覚えていないが、そんな会話をしたことがあった。彼があまりにもあの人のことを愛しているのだというから、『愛してるってよく分からない』と言ってみた。そしたら、返ってきたのがこの台詞だ。 「だから、僕は彼女を愛しているのだと自信をもっていえるのです」 「それは自分の頭がおかしいと言っているのかしら?」 「ええ」 あっさりと、認めてはいけないことをあっさりと彼は認めた。 「愛というのは麻薬中毒のようなものです。気分がよくて愛さずにいられない。その人のことを考えると、魂が空の高みへ飛び上るような気持ちがする。見るだけで毬のように心が弾み、話をすれば振り子のように心が揺れ、その人が青い空のどこかにいるだけで幸せな気持ちに...
  • 終章、後日談
    終章 後日談 「なるほど。ランカーが七人も集まって取りものですか。へえ。まあ、それはいいんですよ。取りものでも鬼ごっこでも何でもしてください。ただし、自分の区画でね」 「それは申し訳なかったと思ってます」 「思ってます」 「はい」  発言者以外の全員が視線を明後日の方向にそらした。いらだった様子で、発言者の少女は机の端を叩く。 「ハトさん、トモさん、東華さん、半月兄弟、藤司朗さん、秋人さんはメインヤード。桔梗さんはウエストヤード。篭森さん、ジョフ、桜夜楽、アルシアはイーストヤード。なのに、なぜこのノースヤードで喧嘩をしているんですか? 御蔭で地下の一部は倒壊、付近の建物にも甚大な被害が出ました。幸い、周囲の住人に死者が出なかったからよかったようなものの、ランカーならもっと周囲に気を使って戦いなさい!!」 「だから、弁償はするよ」  開き直った口調で珠月は言った。 「...
  • 美食礼賛 前編
    美食礼賛  学園都市トランキライザー  すべての国家が戦争の末崩壊し、企業や様々な裏組織が世界の表と裏を支配する時代が幕を開けてからはや数十年。かつての暗黒時代に比べれば、世界も安定してきたように見える。  表の世界を治めるのは、ゾアックソサエティ(黄道十二宮協会)と呼ばれる十二の大企業とその他、無数の企業組織。  裏の世界を治めるのは、九つの組織と呼ばれる様々な目的のために集結した九の組織とそれに連なる大小様々な団体。  その十二企業の一つが、かつて日本と呼ばれた土地に作った巨大学園都市。それがトランキライザーである。十二の企業のうちでも一、二位を争うほど次世代の教育に力を注いでいるところのおひざ元ということで、世界中から数多くの若者や子供がこの学園に集まってきている。だが、そんな場所でも闇はある。  まだ開発されていないスラム街。現地の住人が住むさびれた街。学園すら放置するしかなか...
  • バレンタインデー編
       中央区――ライジングサン・ストリートにて マッタリーン・マターリスの場合  中央区の目抜き通りともいえるこのライジングサン・ストリートを、一台のトラックが疾走している。通行人や一般車両をすり抜けるように走り去るトラックの運転席には、一人の青年の姿があった。  序列三十六位、【ロードオブゴッドスピード(神速道路)】のマッタリーン・マターリスは、こみ上げてきたあくびをかみ殺しながら一人ごちた。  「あぁーあ……世間はバレンタインデーだっつーのに、俺は何をしてるんスかねぇ……?」  マッタリーンは八つ当たり気味に、アクセルを踏みつけた。周りの自動車が急加速したトラックを避けるように大きく揺れる。しかしそんなことには目もくれず、彼は自らの仕事をこなすためにさらにトラックを加速させた。【ロードオブゴッドスピード】のエイリアスは伊達ではない。  「ま、皆が幸せだからこそ、俺が儲か...
  • 8、力の重さ
    8、力の重さ 「あーあ、すっかり遠回りしちゃった」  篭森珠月は地下を歩いていた。もうだいぶ地上に近いのか、割れた天井からかすかな光が差し込んでいる。  勇太郎との会見を無事終えた珠月だったが、そのあと帰り道を一本間違え、結果的に盛大な遠回りをすることになってしまっていた。 「私もまだまだ、修行が足りないな」 アンダーヤードで道に迷ってなお地上に戻るには大変なスキルを要するのだが、珠月に自覚はない。ひたすらうっかり道を見逃した自分に腹を立てている。だが、その足がふと止まった。 「――――何か用なの?」  動揺するように暗闇が動く。やや間があって、男の声が返ってきた。 「ふん、わざと行きと違う道を歩いたり、動きやすい場所に移動したり、相変わらず用心深いな、篭森珠月」 「……………………」  どちらも完全な言いがかりだった。  だが、ここで自分の失敗を披露する気など、さらさらない。珠月...
  • 望月遡羅の憂鬱
    【望月遡羅の憂鬱】  人は誰しも、苦手な人間が存在する。  それはやれ極寒の吟遊詩人だの、やれ悪趣味な程に真っ赤な道化だのというのは人それぞれである。  そして彼女――序列31位、【ファンタズマゴリアバディ(幻想具現化)】の望月遡羅(もちづき そら)にも勿論例外なく、苦手な人物がいるわけで……。  ※※※ 「師匠っ!! 今日も一つ御指南御願い致しますっ!!!」 「……だから、その『師匠』というのをやめて下さいと何度言ったら分かるんですか……」  何の前触れもなく自室を訪ねてきた来訪者を見て、遡羅は大きな溜息と共に項垂れた。  それと同時に、丁度周りの部屋の主が皆外出している事に安心する。こんな光景を見られでもしたら、明日からきっと悪ふざけに『師匠』と呼ばれそうだ。特に二角当たりに。  しかし当の言われた本人――序列2001位、弓納持有華(ゆみなもち ゆか)は全く気にする事もなく、む...
  • 空人形
    空人形  黄道暦44年。  世界の支配権が国から企業に完全移行してまもなく半世紀が経とうとしている時代のことである。  アジアエリア某所の空港にて一人の少女が搭乗を待っていた。周囲が旅行雑誌や新聞に目を通したりゲームや音楽を楽んだりする中、その少女はひたすら手に持った電子ブックに視線を落としていた。面白い小説や漫画に熱中している――わけではない。そこに表示されているのは、5~6歳の少女――幼女と言った方がいいかもしれない――が読むにはあまりにも難しいと思われる物理学の論文だった。それを少女は一心不乱に読み進めている。それも驚くべきスピードで。  幼い少女の鬼気迫るとまでいえる読書に、周囲は距離を置いて様子をうかがっている。  ある一定以上の階級の家庭においては、0歳からの英才教育というものはごくごく当たり前のことだ。それを虐待とは誰も思わない。弱ければ生きていくことすら困難なこの時代、幼...
  • 推理小説にお砂糖一杯 3
     部屋を離れ廊下に出てからずっと、冷泉は壁や板張りの床を手で触り探っていた。時折耳を当て、確かめるようにこんこんとノックする。反響する音を確認しながら、彼女はずんずんと進む。冷泉の行動の意味は解らないながらも、矯邑は辺りを見回しながら着いていく。誰か現れたらどう言い訳をするかと不安に思わなくもなかったが、事前に集めた情報では、最初に客間まで案内をしてくれた少女以外の使用人は居ないとなっていた。戦闘経験の無さそうな少女一人なら、発見され咎められてもどうにかなるだろうと高をくくり、代わりに矯邑は言いそびれていたささやかな礼を口にする。 「さっきはありがとう。私一人なら騙されるところだった」  矯邑からかけられた言葉に、冷泉は床を撫でていた手を止め、ああと恥ずかしそうに目を伏せた。 「ううん。私だって、あれが『西陣織』だってあらかじめ言われてなければ、解らなかったかもしれないし」  冷泉の謙遜に...
  • ファンキーレディオ放送局1
    奇抜な形の車、ファンキーレディオ号が高速で走り込んできて、建物とぶつかる寸前で超ドリフト。 途中で何人か跳ねた気がするが、気にしない。 『あーテステステイストー! マイク良し、スピーカー良し、被害者良し!』 『いやよくねぇよ!』 轢き逃げ、いや、轢き逃げずの現場を見た誰もがツッコむ。 しかしそこは学園トランキライザー生徒、まだ息はあるようだ。 『病院呼んだから大丈夫! ―――いや大丈夫じゃないよコレ! 逃げて! 病院逃げて!』 『何言ってんだアンタ!?』 脈絡と意味のない言葉に恐れおののく生徒たち。 『にゃーみゃーにゃー』 『本当に何言ってんだ!?』 何か電波を受信しているのではないかと恐れおののく生徒たち。 「おいおい、気にしちゃ駄目だぜ少年ども」 「もしかして予科1年か? だったら知らなくても仕方がねぇな」 「最近大人しかったですからね。ですがまぁ、生で見かけるとやはり嬉しいものです」...
  • ロイヤルベルベットブルー
    ロイヤルベルベットブルー  ベアトリクスに手を引かれて、矯邑繍は重厚な木の扉を潜った。とたん、心地の良いクラシックが耳をくすぐる。  店内は青かった。目に痛くない上品で深い青色で店内は埋め尽くされている。  Loyal velvet blue  入り口に小さく掲げられていた看板を、繍は思い出した。なるほど。確かにここは上質の青の空間だ。特に濡れたような深い色というのは、ベルベット生地の特有の色でもある。 「ゲームバーなのよ。ほぼスカラー用の」  ゲームといってもやかましいアーケードゲームのことではない。カウンターとちょうど反対側の壁の隅がダーツ場になっていて、そこで数名の男女がダーツを楽しんでいる。他のテーブルでは、チェスや賭けなしの健全なトランプを楽しんでいるものもいる。  戦闘者であるグラップラーやソルジャーなら、ダーツよりはるかに難易度の高いゲームを好む。彼らにとって、すべ...
  • 訓練風景
    訓練風景  うすぐらい倉庫のような空間で二人の人間が対峙していた。壁には窓の一つもない。それでも明るいのは天井から光を投げかける照明のせいだ。死角なく、ただしまぶし過ぎない程度に部屋を照らし出す明かりは、破壊されないように鉄格子と強化硝子で覆われている。  一人が動いた。巨大な軍用ナイフのようなものを片手に一気に間合いを詰める。それに対してもう一人は相手から目を離さぬまま大きく後ろに跳び、さらに牽制とばかりに細いナイフを投げつける。しかし一直線に迫る相手はわずかな身体の動きでそれを回避した。逃げる相手は間合いを計りながら相手の横に入り込むように動く。だが、それを見越して巨大な刃物をもつ方の相手は迎撃体勢にはいる。  するどい金属音がした。跳躍し、勢いと体重をかけた一撃が振り下ろされる。巨大なナイフの人物は、自分の獲物でそれを防いだ。対するほうは細身のナイフ二本をうちこんだが、折れたのは細...
  • Battle (1)
       「Battle (1)」  アルフレッドとモニカは、西区画『匈奴二番街』を歩いていた。この地域は西区画の中でも特に治安の悪い辺りなので、アルフレッドはそれとなく周囲に気を配りモニカをエスコートしている。  「なんか……雰囲気の悪い街ねぇ……」  「まぁ仕方ないですよ。この辺はウチの団長や瞑獄さんも手を焼いていたようですし」  現西王の澪漂・二重と先代西王の瞑獄・鞍螺。いずれもランキング超高位ランカーであるが、そんな彼らでもこの街の病巣を取り除くことはできなかったのだと知り、モニカは微妙な表情を浮かべて改めて街の風景を見回した。そんな彼女の様子にアルフレッドは苦笑して続ける。  「力のある者からそれを奪うことは簡単ですけどね、力のない者を救うために何かを与えることは思ったより難しいんですよ。この学園都市に限ったことではないですが、旧世紀以来資本主義の最大の汚点ですね」  道端に転がる...
  • 雨が降る
    雨が降る  冷たい雨が降っている。  比較的安定して四季が巡る、世界的にもまれな気候に恵まれたこの列島の中でも、トランキライザーのある旧日本国関東地域は穏やかな気候の地域である。  雨が降っている。  雨降りは服がぬれるし髪が湿気でまとまらなくなるので嫌いだ。けれど、この雨が様々な面倒事を洗い流してくれることを考えると、それほど嫌なものでもない気がする。  篭森珠月は書斎の窓から空を見上げた。屋敷内は静まり返っている。唯一の同居人であるミヒャエルが海外出張中のため、屋敷内に生きた人間の気配は一切ない。落ち着ける空間ではあるが、一人で閉じこもっていると昔のことを思い出して少しだけ気が滅入る。子どもの頃は滅多に帰らない両親の帰宅を待ちながら、貪るように書を読み、次々と教師を呼び付けて勉強をしたものだ。  手の中で電子ブックがかすかな駆動音を響かせる。ずらりと並んでいるのは、学園の中でも特に影...
  • ある日の葬儀屋
    ある日の葬儀屋  カーテンの隙間から差し込む光に、女は顔をあげた。薄暗い室内には情事の甘い香りが残っている気がする。男の一人暮らしらしく、我慢できるぎりぎりまで散らかった室内。だが、特定の女の影がないという意味では悪い気はしない。 「――――ジョン?」  あきらかに本名ではないと分かっていて、女は甘い声で昨夜を共にした男の名前を呼んだ。バーで知り合っただけでどういう人間かもよく知らないが、とにかく一緒にいる女の気分をよくさせる才能があることは確かである。  だが、隣で寝ていたはずの男の姿はない。気だるそうに身体を起こした女の鼻によい香りが届く。ややあって部屋の入り口にゆっくりと人影が現れた。 「おはよ。珈琲飲む?」  二つのカップをベッドの横のテーブルに置いて男は微笑んだ。女も満足げに微笑むと、ベッドに座った男にしなだれかかる。 「いい香り」 「インスタントで悪いね。お姫様。次はもっとい...
  • 恋の噂と嘘新聞
    恋の噂と嘘新聞 「珍しいね。篭森ちゃんが遅刻なんて」 「ですねぇ。刺客にでも襲われたんでしょうか」  ピンクのカスミ草の花の柔らかな香りが風に乗って運ばれてくる。まるでこの中は時間が狂っているとても言うかのように、狂い咲く花々。その奥に黒い壁の不思議な雰囲気を持つ建物がある。  イーストヤード、レストラン《ル・クルーゼ》。常に客でにぎわうこの店も、定休日の今日はひっそりと静まり返っている。その店の庭先にテーブルを出して、3人の少女が座っている。  初めに発言した少女は、序列249位【アルヴィース(賢きもの)】冷泉神無(れいぜい かんな)。世界的に見ても指折りの鑑定士で、修復師でもある。西に水葉庵という骨董屋を構えていてそこにいる。それに答えたのは、序列225位【ラヴレス(愛を注ぐもの)】空多川契(あくたがわ けい)。いつもはアンダーヤードという非合法区域で危ない仕事をしているが、時折思...
  • あの人とおしゃべり お茶会編
    あの人とおしゃべり お茶会編  お茶がカップに注がれる音というのはどうしてこんなに素敵なのだろうか。甘いお菓子と友達のおしゃべり。それだけできっと女の子は永遠に生きていける。勿論、それは気のせいなのだろうけど。 「甘いお菓子とおしゃべりがあれば、女の子は何時間でもお茶ができるらしよ」 「それは素敵。お店でやったら迷惑だろうけどね」  思考に割り込むように声がした。くすくすと同調する笑い声が響く。村崎ゆき子は思考を止めて顔をあげた。冷たい風が窓ガラスをかたかたと揺らす。定休日のル・クルーゼは静まり返っていて、この部屋以外からは何の音もしない。  ゆき子は微笑んで視線を巡らした。目の前のテーブルにはたっぷりの紅茶の入ったカップが人数分と、様々なお菓子が用意されている。お茶といえば英国式だが、今日は違う。単に好きなお菓子を用意して、好きな飲み物と一緒に食べるというごくごく一般的なお茶の風景だ。...
  • ties 4
     時間はやや遡る。  ミスティックキャッスルにて報告を終え――ついでに上司から小言と『クロムウェルとは縁を切ったほうがいい』という忠告をうけた黒雫は、にぎやかな通りから一歩入った路地を歩いていた。どこからともなく音楽が聞こえてくる。  若者の街サウスヤード。この街はどこよりも活気と生気に満ちていて、楽しいはずなのにたまに虚しい気持ちになる。 「それはきっと…………」  見上げた空は灰色のコンクリートで切り取られている。高層ビルを見て、空に突き刺さる針だと言ったのは誰だっただろうか。その時、ふと影が差した気がした。そう思ったときにはすでに雫は跳んでいた。鍛え上げられた勘が、理性が危険を察知するよりもはやく回避行動を取らせる。  乾いた音とともに何かが爆ぜる。何が起きたかを確かめる必要はない。狭い空間では狙撃ポイントなど限られている。最初の一撃でおよその位置を割り出し、死角になるだろう場所へと...
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    シェアワールド作品School of Lifeの小説庫です。 作品 作者別 経世 逆襄 篭森 珠月 空多川 契 狗刀 宿彌 澪漂 二重 朝霧 沙鳥 望月 遡羅 時夜 夜厳 崇道院 早良 世都母 比良坂 更新履歴 取得中です。 上記以前に更新された物はこのwikiのページ一覧から 外部リンク ・別館 絵や漫画を置いています。携帯からの閲覧可能。 ・School Of Life ×TRANQUILIZER×学園2nd 公式wikiです。設定を置いてます。
  • What is your GOD?
    What is your GOD?  ワルツが流れている。  視線を向ければ、演奏隊と踊る男女の姿が見える。いずれも豪奢なドレスを着て髪を整えている。さらに視線を向けると、柱の陰で内緒話をする男女や扇で口元を隠して話し合う女性たち、奇妙な人だかりなど、違和感と言うほどではないが不安感をあおるものが目に入る。けれど、誰もそれを見つめない。じっと見るのは失礼だし、なにより知りたくもない情報を拾いかねない。  豪華なパーティだった。  情報網の発達で人間が生身であう必要性がなくなって久しい。環境汚染や治安問題から旅行などという娯楽も廃れている。下層から中流層くらいまでの市民のほとんどは、自分の生まれた都市から出ることなく死んでいくことも珍しくはない。けれど、いわゆる上流階級や知識層は盛んに移動する。それは自分の利益、あるいはほしい知識や人脈を求めてのことだ。  直接合わなくては分からないことが...
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