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無限彼方大人編~キライなもの~ - (2010/10/25 (月) 22:15:06) の最新版との変更点
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*無限彼方大人編~キライなもの~
投稿日時:2010/10/20(水) 06:00:47
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「ゴホッ……」
咳を一発。唾液の飛沫が宙を舞う。予想以上に高速で噴射される息に巻き込まれて、室内を飛び回る。
布団がごそごそ動き、寝苦しそうにうんうん唸っている。既にシーツは結構な量の寝汗を飲み込んでいた。
「う~ん……」
時刻は朝の十時を過ぎた頃。無限彼方は布団の中で横になっている。前の日は夜の八時くらいに眠りに付いたので、かれこれ十四時間ほど横になっているのだ。起き上がったのは朝食とトイレに行く事くらいである。
これは決して彼方が怠惰という訳ではない。むしろ普段の生活習慣はしっかりしているほうである。彼女が横になっている理由。それは簡単である。
無限彼方、風邪でダウン。
古代の剣術を修め、天神の力を有し、靭力も胆力も常人のそれを上回ろうとも、ウイルスに冒され発病したが最後。熱が出て思考はグダグダ。倦怠感に苛まれる。
それは彼女の身体が必死でウイルスを撃退しようと頑張っているのだが、当の本人としては具合が悪いですの一言である。
「う~ん……。なぁ~にが薬飲むなよバカ天狗……」
彼方は風邪薬を飲んでいない。せいぜい卵酒である。
理由は、彼女の育ての親の持論。
「風邪薬なんて飲んで無理に熱下げるから治りが遅いんです。熱出たら栄養とって寝てればいいんです」
おかげで彼方は高熱に苦しめられていた。
暇潰しに携帯電話の検索で風邪に付いて調べていたら、その持論もあながち間違ってはいなかった事を知り、さらにそれを言い放った者も間違った事は言わないので大人しく従っていたのだ。
しかしながら、しんどいのは変わらない。なんとか起き上がり、枕元の水を飲み、また横になる。
さしもの彼方も今はスナックをバリバリ食べようとは思わない。むしろ食欲が無いので何も食べたくは無いというのが本音だったり。朝は気合いでお粥と梅干しを平らげたが、それでも彼方には重労働に思われた。
だが、口恋しいのもまた事実。食欲の無さと口恋しさの板挟み。
それを見越してか、彼女の育ての親はある物を枕元へとおいて行った。
「あのバカ天狗め……」
枕元に置かれた小さな小ビン。中に入っているのは、黄金色に輝く小さな小さな柑橘類。とろっとした液体に漬けられたそれは、昔から喉の痛みや咳を抑えると伝えられる、甘~い民間療法。
「キンカンはキライだとあれほど……」
キンカンの砂糖漬け。甘いお菓子のような物だが、彼方はどうもそれが苦手であったのだ。
こんな事言うと某女神に睨まれそうだが、ミカンを皮ごとという概念がまず信じられないのである。おまけにその無駄に甘ったるい味と独特の香りもまた、彼方の舌はNOと言った。
ちなみに彼方はマーマレードも食べれない。
「動きたくない……」
風邪とは行動力を奪う物。ほんの僅かな移動すら億劫窮まりないのだ。
それでも彼方は起き上がり、小ビンの蓋を開け臭いを嗅いでみる。全ては口恋しさの成せる業。
「臭いはいいな……」
指で一つまみ。小さなかわいいキンカンが、てらてらと砂糖の溶液に包まれ輝いている。それだけ見れば、まるで宝石のように綺麗な出来栄えである。
ちなみに婆盆のお手製というのを彼方は知らない。
少し指触りがジャリジャリするのは砂糖が固まっているからだろうか。となれば、これは相当甘いはず。
「甘いだけ……よね。そうだよね」
ぺろりと舐めてみる。甘かった。そりゃそうだ。
彼方はキンカンの表面を舐めただけ。そしてキンカンの表面とは、ずばり砂糖その物である。甘くて当然。むしろ甘いだけ。
そして彼方、遂に意を決してかじってみる。
じゃり。
固まった砂糖の歯触り。そして、前歯がじわじわキンカンへと潜り込む。
中の果汁がたらりとたれた。甘いとも苦いとも言えぬ絶妙にして珍妙な味が舌の上を支配する。で、結局の所はと言うと。
「うえぇ……」
吐き出した。半分かじったキンカンを丁寧にティッシュに包み、ゴミ箱へと放り投げる。場所がバスケットコートなら歓声が沸きそうな程に綺麗にそれはゴミ箱へ入って言った。
「やっぱりダメ……」
苦手な物は苦手である。無理に克服する必要も無い。
そう思って再び横になった彼方。心なしかさらに熱が出たような気分になった。
追い打ちをかけるかのように、彼方の携帯電話が鳴り響く。
携帯を開き、相手を確認した彼方は、ため息一つ出してから通話ボタンをおしたのだ。
「もしもし?」
《やっほ~。具合はどう?》
「最悪だよ。寝すぎて背中痛い」
電話の相手は底抜けに元気な声で話し掛ける。
いつもハイテンションではあるが、風邪でくたばっている彼方にはいつも以上の破壊力に感じられる。
電話の相手、理子は、あくまで見舞いのつもりではあったのだが。
《いや~。彼方ちゃんでも風邪引くんだねぇ》
「一緒にしないでよ。こっちは身体の構造は普通なんだから」
《あれ? さりげなく酷い事言ってない?》
「うん」
《なんだかんだで余裕あるじゃない。熱はどう?》
「絶好調に発熱してる」
《あらら。ちゃんとご飯とか食べてる?》
「さっきキンカンに挑戦してダメだった」
《ダメだった? ああ、そういうのキライなんだよね》
「うん」
《とにかく早く元気になってよ。こっちは彼方ちゃん居ない分忙しくて忙しくて……》
「そりゃご苦労様」
《ちゃんと栄養取らないとダメだぞ~》
「解ってますぅ」
電話を切る。向こうは何やら大忙しらしい。
口恋しさはまだ消えず。彼方は起き上がり、ふらつく身体で何とか台所へ。
冷蔵庫から卵を取り出し、棚から日本酒を砂糖を取り出した。
「これ飲んで寝よ……」
そう言って、卵酒を作るべく鍋を火にかけるのであった。
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*無限彼方大人編~キライなもの~
投稿日時:2010/10/20(水) 06:00:47
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「ゴホッ……」
咳を一発。唾液の飛沫が宙を舞う。予想以上に高速で噴射される息に巻き込まれて、室内を飛び回る。
布団がごそごそ動き、寝苦しそうにうんうん唸っている。既にシーツは結構な量の寝汗を飲み込んでいた。
「う~ん……」
時刻は朝の十時を過ぎた頃。無限彼方は布団の中で横になっている。前の日は夜の八時くらいに眠りに付いたので、かれこれ十四時間ほど横になっているのだ。起き上がったのは朝食とトイレに行く事くらいである。
これは決して彼方が怠惰という訳ではない。むしろ普段の生活習慣はしっかりしているほうである。彼女が横になっている理由。それは簡単である。
無限彼方、風邪でダウン。
古代の剣術を修め、天神の力を有し、靭力も胆力も常人のそれを上回ろうとも、ウイルスに冒され発病したが最後。熱が出て思考はグダグダ。倦怠感に苛まれる。
それは彼女の身体が必死でウイルスを撃退しようと頑張っているのだが、当の本人としては具合が悪いですの一言である。
「う~ん……。なぁ~にが薬飲むなよバカ天狗……」
彼方は風邪薬を飲んでいない。せいぜい卵酒である。
理由は、彼女の育ての親の持論。
「風邪薬なんて飲んで無理に熱下げるから治りが遅いんです。熱出たら栄養とって寝てればいいんです」
おかげで彼方は高熱に苦しめられていた。
暇潰しに携帯電話の検索で風邪に付いて調べていたら、その持論もあながち間違ってはいなかった事を知り、さらにそれを言い放った者も間違った事は言わないので大人しく従っていたのだ。
しかしながら、しんどいのは変わらない。なんとか起き上がり、枕元の水を飲み、また横になる。
さしもの彼方も今はスナックをバリバリ食べようとは思わない。むしろ食欲が無いので何も食べたくは無いというのが本音だったり。朝は気合いでお粥と梅干しを平らげたが、それでも彼方には重労働に思われた。
だが、口恋しいのもまた事実。食欲の無さと口恋しさの板挟み。
それを見越してか、彼女の育ての親はある物を枕元へとおいて行った。
「あのバカ天狗め……」
枕元に置かれた小さな小ビン。中に入っているのは、黄金色に輝く小さな小さな柑橘類。とろっとした液体に漬けられたそれは、昔から喉の痛みや咳を抑えると伝えられる、甘~い民間療法。
「キンカンはキライだとあれほど……」
キンカンの砂糖漬け。甘いお菓子のような物だが、彼方はどうもそれが苦手であったのだ。
こんな事言うと某女神に睨まれそうだが、ミカンを皮ごとという概念がまず信じられないのである。おまけにその無駄に甘ったるい味と独特の香りもまた、彼方の舌はNOと言った。
ちなみに彼方はマーマレードも食べれない。
「動きたくない……」
風邪とは行動力を奪う物。ほんの僅かな移動すら億劫窮まりないのだ。
それでも彼方は起き上がり、小ビンの蓋を開け臭いを嗅いでみる。全ては口恋しさの成せる業。
「臭いはいいな……」
指で一つまみ。小さなかわいいキンカンが、てらてらと砂糖の溶液に包まれ輝いている。それだけ見れば、まるで宝石のように綺麗な出来栄えである。
ちなみに婆盆のお手製というのを彼方は知らない。
少し指触りがジャリジャリするのは砂糖が固まっているからだろうか。となれば、これは相当甘いはず。
「甘いだけ……よね。そうだよね」
ぺろりと舐めてみる。甘かった。そりゃそうだ。
彼方はキンカンの表面を舐めただけ。そしてキンカンの表面とは、ずばり砂糖その物である。甘くて当然。むしろ甘いだけ。
そして彼方、遂に意を決してかじってみる。
じゃり。
固まった砂糖の歯触り。そして、前歯がじわじわキンカンへと潜り込む。
中の果汁がたらりとたれた。甘いとも苦いとも言えぬ絶妙にして珍妙な味が舌の上を支配する。で、結局の所はと言うと。
「うえぇ……」
吐き出した。半分かじったキンカンを丁寧にティッシュに包み、ゴミ箱へと放り投げる。場所がバスケットコートなら歓声が沸きそうな程に綺麗にそれはゴミ箱へ入って言った。
「やっぱりダメ……」
苦手な物は苦手である。無理に克服する必要も無い。
そう思って再び横になった彼方。心なしかさらに熱が出たような気分になった。
追い打ちをかけるかのように、彼方の携帯電話が鳴り響く。
携帯を開き、相手を確認した彼方は、ため息一つ出してから通話ボタンをおしたのだ。
「もしもし?」
《やっほ~。具合はどう?》
「最悪だよ。寝すぎて背中痛い」
電話の相手は底抜けに元気な声で話し掛ける。
いつもハイテンションではあるが、風邪でくたばっている彼方にはいつも以上の破壊力に感じられる。
電話の相手、理子は、あくまで見舞いのつもりではあったのだが。
《いや~。彼方ちゃんでも風邪引くんだねぇ》
「一緒にしないでよ。こっちは身体の構造は普通なんだから」
《あれ? さりげなく酷い事言ってない?》
「うん」
《なんだかんだで余裕あるじゃない。熱はどう?》
「絶好調に発熱してる」
《あらら。ちゃんとご飯とか食べてる?》
「さっきキンカンに挑戦してダメだった」
《ダメだった? ああ、そういうのキライなんだよね》
「うん」
《とにかく早く元気になってよ。こっちは彼方ちゃん居ない分忙しくて忙しくて……》
「そりゃご苦労様」
《ちゃんと栄養取らないとダメだぞ~》
「解ってますぅ」
電話を切る。向こうは何やら大忙しらしい。
口恋しさはまだ消えず。彼方は起き上がり、ふらつく身体で何とか台所へ。
冷蔵庫から卵を取り出し、棚から日本酒を砂糖を取り出した。
「これ飲んで寝よ……」
そう言って、卵酒を作るべく鍋を火にかけるのであった。
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