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*「−EST−存在の証」

127 :−EST−存在の証:2011/05/05(木) 20:35:17.82 ID:Ke4p4m0K

[[》2-25>BL-2-025]]のシチュをお借りしてSSを書こう!と思ったら、なんか違うものになったけど投下 
青年×少年で、一応、サイキックファンタジー風味 
よろしかったらどうぞ 


128 :−EST−存在の証:2011/05/05(木) 20:42:22.03 ID:Ke4p4m0K

「お帰り」

エントランスのドアを静かに閉めた瞬間、そう声をかけられた少年は、ほんの一瞬、僅かに肩を竦め
て、相手の方へと振り返った。
相手の方へと、振り返った瞬間、短く整えられた少年の淡い空色の髪が真夜中過ぎの暗闇の中で揺れ
る。

「うん、ただいま。まだ、起きてたんだ」

少年は彼のことを待っていたプラチナブロンドの青年に向かって、何事も無かったかのように、微笑
んだ。
それから、羽織っていたモッズコートとジャケットを脱ぎ、それを近くのコートハンガーに無造作に
引っ掛けると、両手に嵌めていた黒い革手袋を外して揃えて持ち、軽く俯きながら、小さく息をつい
た。

その間、彼を見ていた青年の方はと言えば、先程、一度、少年に声をかけてからは、一切、声を発
していない。
ただ、自らの青銀の瞳の視線の先を、少々きつい目つきで淡い空色の髪の少年の方へと合わせたきり、
そのまま、静かな表情で、じっと彼を見ていた。

「うっ! ……ごめん!! ……えっと、……予定より、その……ちょっと……手こずって」

気まずい雰囲気に耐えられなくなった少年は、自らの顔を思い切り良く上げて、視線を青年の方
へ向けると、自分の非を認めて早々に謝った。
そんな少年の様子を見て、青年は壁に寄り掛かったまま、軽く溜息をついた。


「……で? 途中まで付けられてた?」
「うん、相手を撒くのにちょっと時間がかかった」

自分が投げかけた質問の答えを聞くと同時に、青年は少年を自らのもとへと引き寄せた。
その弾みで、少年が手に持っていた手袋が彼の手を離れ、小さな音を立てながら、床へと落ちた。
青年はそれに気を留める事なく、目の前の少年が無事であることを確認するように、しなやかな
少年の身体をそっと抱きしめた。

「……エル、良いけど、あまり心配させるな」 
「……ん、ごめん……」

エルにとって、自分とたった三つしか年が違わないのに、目の前の青年は、十五になったばかりの
自分自身と比べると、随分と大人びて見えた。
いつものことではあるのだが、この青年のしっかりとした体躯で、こんな風にして抱きしめられると、
エルは、いつも自分自身がどうして良いのか判らなくなる。

彼にこんな風にされると、普段は自分の内に完全に封じ切っている熱く激しい感情が急に引き出され
るような気がする一方で、とても切ない、痛みを伴うような感覚さえも、一緒になって、エルの心中
をひどくかき乱しながら、覆ってゆくような気がするからだ。
                                                        
だから、エルは青年自身が自らその腕を振りほどいてくれるまで、いつもその場で、身動きひとつす
ること無く、青年に自らの身体を委ねたままでいることが多かった。
それに、こうして青年に抱きしめられながら、互いの体温を感じている、この時だけは、自分が紛れ
もなく、命ある生命のひとつなのだと実感できているような気がしたからだ。
ただ、それは、この青年が、エルの背中にある、あの証の解放を求めたりしない場合に限られては
いたが。


「っ……シオン、駄目だ! ……嫌だ! ……俺の背中には手を出すなと言った筈だ!!」

シオンと呼ばれたその青年の腕が、一層力強く自分自身の背中へと廻されたそのとき、エルは、彼
の腕の中で、喘ぐようにして、その行為の制止を求めた。
それと同時に、普段の自らの腕力にも、全くもって遠く及ばない、頼りないといった程度の力しか
出せていない分自身の手をシオンの腕へと重ね、彼の行為を止めにかかる。

だが、シオンは、そんなエルの言葉や仕草にも慣れているらしく、その腕の力を緩める様子は無い。
それどころか、エルを抱きしめるその体勢を保持したまま、エルの躯のその場所に、更に力をかけ
ながら、エル自身の意識がその一点へと向かうように仕向けていく。
それと同時に、シオンはエルの耳元でいつものように、甘い声で囁く。

「エル、もう、誰も見ていないから、良いよ、大丈夫だ」
「……っ、う……嫌だって、ば……」

この状況になると、今、エルの背中にかかるシオンの腕の力が弱まることは、エル自身がシオンの
意思に従うまで絶対にありえない。
エル自身も、そんなことは、何度も経験しているから、解りきっている。
それなのに、毎回、無駄な抵抗を試みる自分が、こんな隙を見せることなど、本来なら、絶対に無
い筈なのに、唯一、シオンにだけは、幾度かこんな目に遭っていても、尚、全くもって敵わない自
分が、本当に嫌になる。


「……く……うっ、嫌だ……あぁっ!!」
「……エル、本当に嫌?」 

耳元で囁かれる、シオンの優しく心地良い声と、自分自身の背中へと、徐々にかかってくる、熱く、
痺れるような、それでいて、身体の芯が疼いてくるような熱量を帯びた感覚が、いつものように、
エルの意思と思考力を少しずつ、削ぎ取るようにして、鈍らせていく。

「……うぁ……っあ、や、嫌っ!……っ、あ!」
「エル、もう、それを自分の能力で抑えるな、俺は、今、君のそれが見たい」

こんな風に、シオンからそれを解放することを肯定され、促されたとしても、嫌なものは嫌だ。
だから、エルは、エルなりに、いつも自分が保つところまでは、必死でその言葉への抵抗を試みる。

エルの背中にかかるその掌の力は、普通、世間一般の人々が、感じるものとしては、大きな痛み
を伴うものではないし、彼自身にとっても、肩を壊したりする類のものではない。
それでも、彼自身の身体が、世間一般で言うところの人間と大きく異なるものであるという、あ
の証が、シオンの力の所為で抑え込めなくなる。だから、嫌なのだ。

「あっ……もう……嫌だ……や、あぁあっ!!」


自分の背中が、徐々に熱を帯びていくその激しい感覚に耐えかね、エルがシオンの力に抗うこと
を止めた瞬間、それは彼の背中に現れた。

彼の背中へと現れたそれは、虹色の透き通った輝きを持つ4枚の大きな羽根だ。
それは、彼が身につけている衣服などを損なうことなく、その背中に唐突に出現していた。
恐らく、エル自身が自らの能力を併せることによって、他には影響が及ぶ事の無いようにとの配
慮をしたのだろう。

そして、その光輝く羽根が背中に在るというだけで、元から端正な姿をしているエルは、傍から
見ている者には、彼自身が現実の世界には存在しない神々しい次元からからやってきた、精霊や
妖精といった類の存在のようにさえ、思わせた。

だが、エル自身は、自分がそういった類の者ではないことを、自覚している。
そう、自分は、この世の金持ちの気まぐれと、その莫大な資金と、遺伝子科学などの最先端技術
の全てを注ぎ込まれた結果として生まれた、人工生命体なのだということを。

それ故に、この容姿と、その羽根を背中に封じ、なおかつ、普通の人間には成しえない奇跡を成
す力 − そう、俗にサイキックといわれる能力 − を持ち合せているのだから。
同じ能力持ちの彼、シオンに自らの本来の姿を晒すという、ただ、それだけのことなのに、それ
でも、自分が人工生命体であることを改めて実感することになる。


「っ、あぁ……」
「相変わらず、美しいな」

シオンはエルを抱きしめたまま、背中に現れたその羽根に目を遣りながら、そう言った。
シオンが幾度となく、エルのこの在りのままの姿が好きだと言ってくれていても、正直、エルにと
って、この姿の自分自身の存在自体が受け入れ難い。
だから、嫌なのだ。
エルにとって、これを改めて認識することは、未だに、この上ない嫌悪感に満ちたものだ。

それに、自分の意思から外れたところで、これをシオンに引き出されるのは、毎回、無駄に抗う所為
からか、自らの身体に大きく負荷がかかる。
また、直後にほんの少しの間ではあるが、自分自身の身体がとても気だるくて、普段のようには動く
ことなど出来ない状態に陥るということが、エルが嫌悪感を抱く状況に更に拍車をかけた。

シオンは、エルのそんな気持ちを知ってはいたが、それでも、今となっては、自分だけが良く知って
いるこの少年の在りのままの姿をただ、純粋に見たいと、そう思ったから、無理を承知で、その背中
へと自分の能力の一片を充てた。

そうでもしない限り、エルは、滅多なことでは、この美しい羽根を纏った姿を見せてくれはしない。


彼は、今回は少々無理矢理が過ぎただろうかと、幾分反省をしながら、自分の腕の中で身体を預け、
未だに少し震えたままのエルの体調を気遣い、声をかけた。

「……エル? 済まなかった。まあ、何とか大丈夫そうかな……
 羽根が出現していても、君の能力は、まだ良くコントロール出来ているみたいだね」

「……この鬼っ!! アンタには、これが無いから……だから解んないんだよ!!」

エルは、シオンの腕に支えられ、抱きしめられたその状態のまま、相手に向かって、少し投げやり
な気持ちになりながら、そう言った。
彼と同じように、遺伝子科学の粋を集めて生み出された身の上であることには、変わりは無いのに、
シオンの背中には、羽根が無かった。
それとあわせて、シオンがその身に兼ね備えている特殊能力の方が、自らの能力よりも秀でている
という現実が、エルの心の深い処に在る傷を抉る。

そう、自分は、どちらかといえば、裕福な身の上の人間の観賞用としての役割も果たすようにと、創
られた存在なのだということを改めて思い知らされる気がするのだ。
その上で更に、自分自身が、所詮、権力者達の気まぐれによって生み出された存在なのだというこ
とを改めて、突き付けられている気さえする。

そんなことも全て解っている癖に、エルが嫌がるその背中の羽根を度々見たがるこの青年の気持ち
など、エルには、全くもって理解できなかった。
だから、いつもは絶対の信頼を寄せている存在だとしても、今、この瞬間は、この青年の傍から、
とにかく離れたかった。


「シオン、もういいから、手を放せ」
「まだそんなこと言える状況にはないだろう、無理はするな」

エルはそう言って、シオンの腕を振りほどこうとしたが、やはりまだ足元がおぼつかない所為で、すぐ
によろけそうになった。
その様子を見かねたように、シオンは再び自らの片腕でエルをしっかりと支えると、それ同時に、空
いている方の手をエルの羽根の根元辺りへと添える。

「……っ、うぁ!! ……触るなっ!!」
「何で?」
「……何で、って……真顔で聞くな! 馬鹿!」

エルの身体のその場所は、唯でさえ、まだじんわりとした熱く疼くような感覚を残し続けていた。
だからこそ、今、シオンには、絶対にそこに触れて欲しくなかった。

相手に今、ほんの少し、触れられただけで、こうなのだから、もう暫くの間とはいえ、このままこうし
て、シオンに身体を預けていなければならないのかと思うと、エルはそれだけで気が遠くなりそうな気
持ちになった。


「……っ、ぁ! ……触るなって、言ってるだろ!!」

そんなエルの言葉を耳にしても、シオンは感覚が鋭敏すぎるままになっている彼の身体を抱きしめ
ることを止めなかった。
ただ、いつものようにエルの身体をしっかりと受け止めるようにして、彼の心と身体に拡がっている
熱を帯びた感覚が落ち着いていくのを静かに待っていた。

それでも、今日は何故か、エルの身体に籠る熱が引いていく様子は一向に無かった。
むしろ、こうしてシオンに抱きしめられていればいる程、エルの身体の熱は、昂っていくような気が
した。
自らの身体の傍に、相手の身体の熱を感じている状況に在るというだけなのに、自らの身体が今、受
けている、この感覚が生み出し、それによってもたらされる、痺れるような熱量を伴った感覚から受
ける影響の方が大きい。

それは背中だけではなく、エルの身体全身に熱く、疼くような感覚として、拡がったまま、和らいて
いく気配は、全く無かった。
それどころか、その熱さは、エル自身に、自らの身体の芯へと向かってゆく、痺れと熱量を増してい
くような感覚さえも再び引き起こしていた。


「……シオン……もう、いいから……俺……このまま、アンタと居ても、落ち着かないから……」
「エル、俺の前では、もう、そんな風に振舞わなくて良いから」
「……えっ、何……」

エルが少し顔を上げた瞬間、シオンは、エルの唇を塞ぐようにして軽く口付けた。
エルがそれに驚いて口を開けた瞬間、シオンは、その柔らかな唇を割って、更にほんの少しだけ
深く口付けるようにしてから、それを止めた。

「……っ、どうして……!!」

唇を解放されたエルは、今、この状況で、自らが持て余す程の熱を既に帯びている自分自身の身体
に対し、その感覚を更に強くするような口付けを相手から施されたことに、ただ、驚いていた。

今までにも、身体の芯が熱く融けていくようなこの感覚の中で、まるで何かに焦れているかのよう
な自分の姿を、今、目の前にいる相手に情けなく晒すことになったことは、確かにあった。

それでも、彼は、シオンが、エルにこんなことをしたことは、今までに一度も無かった。
彼は、今までずっと、エルの気持ちと身体の状況を推し量るように、待っていてくれただけなのだ。
互いが、互いにとって、ただ、それまでの関係でしか無い筈なのに。


エルは熱を帯びた感覚を引きずっている所為で潤んでいる瞳で、自らの気持ちを諮りかねている
のだとでも言いたげな表情のまま、シオンを見つめていた。
そのエルの視線に応じるように、シオンは自らの眼差しを再びエルの方へと向けた。
それから、ほんの少しの間を置いて、シオンは小さな声で呟くように、その言葉を告げた。

「君が好きだから」
「……なに言って……」

相手から突然告げられた言葉に対して、エルは、ただ、相手を見つめることしか出来なかった。

嘘だ。だって、いつだって、俺の方が、一方的にアンタに身体を預けているだけで。
ただ、それだけの関係なのに、アンタが俺を好きだなんて、そんなの、絶対にあり得ない。
エルのそんな戸惑いを乗せた想いは、言葉にさえならかった。

その様子を黙って見ていたシオンは、エルのしなやかな線を描く身体を再び引き寄せるようにして、
彼を抱きしめる腕に力を入れ直してから、強い意志の宿る真摯な眼差しを改めてエルへと向けた。


「もう一度、言おうか?」
「……もう、いい……」

エルは、シオンに対して、それ以上の言葉を掛けることなく、シオンの肩越しに自らの腕を絡め、相
手の身体を抱き返した。
それが、今のこの自分が抱えている感情に最も近しく、それを素直に表した行為だと思ったからだ。

今は、ただ、目の前の相手の身体から感じるこの体温だけが、エルが欲する全てだった。
そして、それは、自らが此処に存在する唯一の証のように思えた。

その気持ちを察したように、シオンは自らの腕の中に留まっている、エルの身体を強く抱きしめ直す
と、その唇へと再び口付けた。

それが、今、相手に示すことができる、唯ひとつの証だから。

【END】 

久々に書いたらなんか色々難しかったよ! 
お目汚し失礼しました 

※続きは、[[2-142>BL-2-142]]へ

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