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F-1-378 - (2010/07/31 (土) 11:55:51) のソース

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*ファンタジーと言えば魔法だろう 3

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378 : ◆91wbDksrrE :2009/02/09(月) 00:29:05 ID:QgO6Ls1w

 世界は間違っている――そんな風に想い始めたのはいつの頃からだったか…… 
僕はもう覚えていない。それどころか、どうしてそんな事を思い始めたんだろう 
と、疑問にすら思っていたくらいだ。 
 ずっとそんな風に思っていたのは間違い無いんだけど、なんでそんな風に思い 
始めたのか、どうしてそんな風に思い続けているのか……それがわからない。 
 でも、今は違う。今そんな風に思っているのは、間違いなく"これ"のせいだ。 
「……」 
 息を殺し、足音を殺し――果たしてそれがどのくらい意味があるのかは定か 
じゃなかったけど、とにかく気配を殺して目標に接近する。 
 身に纏っているのは、黒一色の装束と頭巾。 
 傍から見れば、それはどう見ても――黒子。 
 なのに、その黒子が手にしているのは、舞台の小道具でも、大道具を操作する 
紐でもなく――その姿には似つかわしくない、黒塗りの短刀。 
「……」 
 目標は、微動だにしていない。"まだこの段階では微動だにできない"のだと、 
そう知ってはいるけど、未だに怖い。何しろ、目標は……目の前にいるのは化物 
なんだから。 
 人ではない、何らかの既知の動物ですらない、崩れた輪郭の"塊"。それが、 
目の前に、いる。顔がどこかも、手足がどこかも判別できない"塊"。その中心に 
赤く宝石のような光が怪しく光る。 
 これから僕は――この"塊"を滅する。 
「……」 
 距離は至近。もう後は、手を伸ばすだけで手にした短刀が、"塊"を抉る。 
 ……この瞬間は、いつも嫌だ。たとえそれがただの化物だとわかってても、 
生きているとか死んでいるとか、そういう次元の存在じゃないとわかってても、 
それでも……何だか、嫌だ。 
「……っ!」 
 でも、やらなきゃいけない。そうしないと、色んな人が困る。だから、僕は 
やらなきゃいけない。これは、僕にしかできないんだから。 
 いや―― 
「っぁぁ!」 
 ――僕達にしか、できないんだから。 
 初めて、"塊"の耳――があるのかどうかはともかく――に届く、僕の声。その 
声に"塊"が反応するよりも早く、短刀が"塊"の中心部、赤く光る部分を抉る。 
 その瞬間、"塊"は消えた。 
 声をあげる事も無く。 
 余韻を残す事も無く。 
 あっさりと、ただひたすらに呆気なく、消えた。 
「……ふぅ」 
 生まれたばかりで相手取るのが容易だとは言っても、それでも緊張はする。 
その緊張から解放された僕の口からは、自然と溜め息にも似た吐息が漏れた。 
 ――空しい。 
 どうしてこうも空しいんだろう? 
「さくっと殺れたみたいだね。さすが魔法少女マジカルミュー」 
「……その名前で呼ばないで、レンレン」 
「じゃあレンレンって言うな」 
 空しい理由はわかってる。 
 パンダのぬいぐるみ――名前はレン。魔法の国からきた存在で、喋ったりとか 
色々するけど、基本的に役には立たない――が呼んだその名からわかる通り、 
僕は魔法少女だ……一応。 
 そうなんだよね……僕は、魔法少女なんだ。一応。仮初にとは言え。 
 魔法少女。まあ、昔あったらしい一大ブームはもう終わったとは言え、女の子 
だったらその名前には今でも多少なりとも憧れを抱くと思う。……まあ、最近の 
女子高生はどうかわかんないけど――と現在今まさに女子高生をやってる僕が 
言のもおかしいかもしれないけど――少なくとも僕はその名に憧れみたいな物を 
持っていた。テレビの中だけの存在で、実際にはありえないと思っていた昔も。 
実際に自分がそうなって、そういう存在が実在するんだと知った今でも。 


 魔法少女。 
 魔法少女……なんだよね、僕? 
「……レンレン」 
「だからレンレンって言うな。……なんだよ」 
「僕、魔法少女なんだよね?」 
「うん、そうだよ」 
 レンは何を言ってるんだと言わんばかりの表情で頷く。見た目はパンダの 
ぬいぐるみなのに、こういう所ばかり芸が細かいのがちょっとだけムカつく。 
 黒子の姿で、敵の背後から忍び寄って、短刀……ドスで一突き。盛り上がりも 
何もなく、呆気なく消える敵。はい、おしまい。 
 おかしい。僕の憧れた魔法少女は、その戦う姿は、こんなもんじゃないはずだ。これじゃ、"魔法少女"じゃなくて"魔法の黒子なヒットマン"じゃないか! 
「また美由のわがままか……しょうがないなぁ」 
 何度繰り返されたかわからない僕の愚痴に、うんざり気味といった感じのレン。 
でも、僕の言ってる事は間違っていないはず! どこの誰だかわからない誰かも 
そう思いませんか!? 間違ってるのは世界の方だ――その思いを、この現状は 
抱くに十分だと! 
「何虚空をに拳突き上げてんだよ……変なの」 
「……い、いや、何かそういう気分に……」 
 でも、そんなやるせない毎日にも希望の光が見えた。 
 先日見かけた、僕以外の魔法の遣い手が、その光だ。 
「……はぁ」 
 正面から向かい合い、素早い動きで懐に潜り込み、しかるべき後に燃える拳を 
ステモンへ目掛けて叩き込み、華麗なる勝利を得たその姿――今思い出しても 
カッコよくて、思わず溜め息が出てしまう程カッコよくて、とにかくとっても 
カッコよくて―― 
「ああいうもんだよね!?」 
「……何がだよ」 
 しかも、その人は僕の知っている人だった。 
おいて。 
「とにかく、明日学校で先輩に話を聞いて、この何かやるせない魔法少女生活 
 からもおさらばって寸法なんだから、レンは黙って見てなさい!」 
「……ああ、昨日言ってた……別に、好きにすれば」 
「……変な所でドジだよね、美由って」 
「放っといてよ!」 
 とにかく、全ては明日からだ。 
 明日、間違った世界を正す、僕の本当の戦いが始まる――って我ながら大げさ。 
 でも、とにかくそんな感じで、僕は決意を改めたのだった。 
「待っていてください、高崎先輩!」 

〈終わり〉

※続きは、[[1-615>F-1-615]]

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