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F-2-040 - (2010/08/29 (日) 20:28:35) のソース

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*「邂逅」

40 :「邂逅」:2010/08/22(日) 15:01:40 ID:knR5/vwB

騎士のお姉さんと精霊の少年という組み合わせで、これから投下。 
少々流血描写がありますので、苦手な方はスルーでお願いします。 


41 :「邂逅」:2010/08/22(日) 15:05:56 ID:knR5/vwB

リアンは、その人気の少ない路地裏へと、瞬時に走リ出していた。 
そんな所に好き好んで行きたい訳ではないが、この更に奥の方角に位置する路地裏の方から、何かが壊されるよ 
うな大きな音と、屈強そうな男たち数名の荒々しい怒声が聞こえてきたからだ。 
その怒声が響いてきた場所は、この界隈の歓楽街に程近い所にあるために賃料が安く、その賃料の安さに負けて 
借りることにした自らの住まいからも、そう離れていない場所にある路地の更に奥の辺りだろう。 

もし、そんな場所で、誰かが危険な目に逢っていたら、絶対に放ってなどおけない。 
リアンは反射的にそう思い、そこに足を向けることを即座に決めて、飾り気なくあっさりと一つに束ねたブロン 
ズゴールドの長い髪をなびかせ、その場所へ向かって走る。 

彼女は、この街の護衛騎士団の騎士としての正式な任命を間近に控え、その任命式の予行演習に参加してきたば 
かりだった。 
そのために、新調されたばかりの真新しい式典用の上着を着用した、いつもよりも整ったその身なりのまま、こ 
れから帰宅する予定だったのだ。 
式典用のタイトな上着に身を包んでいるが故に、彼女は、いくら騎士であるとはいえ、他人の目から見ても、一 
目で17、8歳のしなやかな身体つきをした年頃の娘だと判る身なりをしていた。 

その服装のままで、咄嗟に走り出していた彼女は、これから先、屈強な男達と相対して、自らを危険に晒すよう 
な場所へと、たった一人で出向いているのだということなど、全く気に留めてはいなかった。 
恐らくは、この辺りでよくある無骨な男達の小競り合いに過ぎないのだろうが、ともかく、その場所に赴いて早 
く状況を確認する必要があると思ったからだ。

リアンは、その路地裏のすぐ近くまで足を運ぶと、一旦立ち止まり、精悍なエメラルドグリーンの瞳で、注意深 
く周りを見渡すように視線を巡らせる。 
この辺りは、元々昼間のうちでも人通りが少ない。普段から度々、酒に酔った荒々しい男たちが諍いを引き起こ 
すこともある所為からか、あまり人が寄り付かないのだろう。 
どうやら今も、此処には、人は、リアン一人しか居ないようだった。 

この場所で確認する限り、先程、聞こえてきたような騒々しい諍いの音はもう、聞こえてこない。 
先程、リアンが耳にした男達による諍いは、どうにか収まったようで、辺りは先程の大きな音が嘘のように静ま 
り返っていた。 
諍いが収まった様子であることを確認したリアンは、路地裏に立ち入るまでもなく、その場を立ち去ろうとした 
が、その瞬間、路地裏の方から僅かに吹いてきた暖かく湿った風の中に血の臭いが混じっていることに気付いた。 

路地裏の奥で誰か怪我でもしているのだろうか? 
そう思ったリアンは、風に乗って流れてくる血の臭いに気を配りながら、路地裏に通じる道の壁際に自らの背を 
預けて身体を横に向けると、慎重に路地裏を覗き込み、その視線を更に奥の方にやった。 

「……なっ!」 

路地裏の奥の様子を確認し、その光景を目にしたリアンは、思わず声を上げた。 
そこには、恐らく壁の古さも手伝ってはいるのだろうが、何らかの衝撃とともに崩れ落ちた石壁があり、その手
前には何処からの刺客と思われる屈強な剣士たちが8人程、大量に血を流しながら倒れ、言切れていた。 
そして、その更に奥には、13、4歳位の華奢な身体付きの少年が自らの脇腹から流れ出ている大量の血を止め
ようと、身体を折り曲げ、苦痛に喘ぎながら倒れ込んでいたのだ。 

「……っあ……!」 

目の前の凄惨な光景に言葉を失っていたリアンは、少年が傷の痛みのために上げた声にはっとして、我に返ると、 
その視線を奥に倒れている少年へと向けた。 
それから、その少年の無事を再度確認するため、路地の奥へと足を踏み入れ、間近にした少年の姿に改めて目を 
見張った。 

少年は、脇から流れ出る血液の色と辺りの土の色で所々汚し、おそらくは、相手の剣先をかわし損なったことに 
より、数か所、破かれた衣服をその身に纏っていることを除けば、その光景には全くそぐわない美しい身なりを 
していたからだ。 

遠目からも華奢な身体つきが見てとれる少年は、刺繍などの豪奢な装飾こそ無いが、他人の目からみても上等な 
仕立てだということが一目でわかる白地に紺色の縁取りが鮮やかな騎士服を身に付けていた。 
また、その側には剣士たちとの小競り合いの際に引き裂かれ、地面に落ちたのであろう上質で柔らかそうな生地 
の濃紺の外套が拡がっている。 

そうして身に付けている衣服からだけでも、少年は周りの凄惨な光景からは十分に浮き立って見えた。 
しかし、なによりも、その少年自身の怜悧なアイスブルーの瞳と整えられた短いシルバーブルーの髪によって、 
より印象的な美しさを見せている、その容貌こそが、この場所の様子からは全くかけ離れたもののように感じさ 
せていた。 

更に、その少年の姿を最も場違いにさせていたのは、背中にある透明な輝きを放つ4枚の大きな羽根だ。 
遠目に見た時には、はっきりとは解らなかったそれは、少年の背後から僅かに降りそそぐ陽の光を浴びて、虹色 
の輝きを放ちながら、優美かつ小さな帆走船の帆を思わせるように、その背中に広げられていた。 
少年は、近頃ではその数が相当に少なくなったと言われている生粋の精霊族なのだろう。 

リアンが今、目にしている彼の羽根は、普段は彼らが生来、生まれながらに持っている魔導力でその背中に隠す 
ようにして封印されているのだと聞いたことがある。 
精霊族の純血種たる証であるその羽根を背中に封印することなく、顕わにしたまま、光に包まれているかのよう 
な錯覚さえ覚えさせる少年の姿を目の当たりにしたリアンは、どうやら、自分は、今、普段、滅多に遭遇するこ 
とのない場面に居合わせることになったようだと、その場に立ち尽くしたまま思った。 

「……っ!」 

脇腹にかけてはしる深い傷口を自らの手で押さえ、その整った顔を苦痛に歪めながら、目の前の少年が懸命に立 
ち上がろうとしている様子を目に留めたリアンは、再び我に返り、少年に声をかける。 

「……済まない! あんた、大丈夫か?」 
「お前……今の私に向かってそんな愚かな質問をするな! ……これで……大丈夫な訳がないだろう……」 

救助の手を差し伸べることがほんの少し遅くなったことを詫びたリアンに対し、少年は、年端に合わぬ、大人び 
た口調でリアンに視線を合わせながら、その傷の痛みで気を失うまいとして、振り絞るような、声で言った。 
傷の痛みと脇腹から流れ出た出血の為に起こる貧血のせいか、少年の瞳は、若干、その焦点が合わなくなってき 
ているようにも見えた。 
しかし、それでも彼のその双眸は、その気丈さと本来の気質の高さを表すには充分な意思の強さをたたえていた。 

リアンは少年の返した言葉に少々むっとしたが、その少年の言葉をそれ以上気に留めること無く、痛みをこらえ 
ていた少年を片手で抱き支えるようにした。 
それから、自らの騎士服の飾りとして腰に巻いていた柔らかな布のベルトを素早く解くと、少年の傷口に当て、 
その腰から腹部へと巻きつけて止血するために、傷口の上で、しっかりと固定させるようにして結び直した。 

「……っう……あぁっ! ……貴様! そんなに乱暴にするな……!!」 

少年は痛みに堪えかねて、自らの血まみれの手袋を嵌めたままの片手をリアンの手元に添えながら喘いだ。 
その少年の負った大きな傷を間近に見てから、彼を介抱することに必死になっていたリアンは、傷口から流れ続け
る血液を何とか止めて、少年の苦痛を少しでも早く軽減してやりたいと強く思った。 
そんなリアンの気持ちをよそに、少年は自らの手をリアンの手元に添えて、痛みに喘ぎながらも、その双眸に宿 
る意思ある輝きを保ったまま、リアンを見上げて言った。 

「もう……いいんだ、私に……これ以上構うな……」 
「いいから!  黙ってなさい!」 

リアンはそう言うと、少年の脇腹の傷に自らの手をそっと当てた。 
応急処置として、リアンが止血を試みた傷口はその甲斐もあまり見られず、まだ新たな血を流し続けている。 
少年の様子から見て取るに、そもそもは普段、魔導力で背中に封印している、その羽根を収めるだけの気力も、 
当然のことながら、もう残っていないのだろう。 
このまま、自分がこの場所を去れば、生死を分かつような重篤な状況により近づくことは明らかだ。 
そんな状況にあるこの少年を自分がこのまま放っておける筈など無いではないか。 
リアンは、そう思いながら語気を強めて、少年に言葉をかける。 

「あんた、バカじゃないの! このまま放っておいたら、あんたが死んじゃうじゃない!」 

「……馬鹿は、お前だ! ……刺客はもう、全員殺ったのだから……! 
こんなところにこのまま居たら……貴方の立場も危ないだろう!  私は大丈夫だから……良いんだ……!」 

少年はリアンに対して、声も切れ切れにそう言葉を返したが、それを受けてリアンは更に語気を強めて言い放っ 
た。 

「全然大丈夫じゃないだろう!!」 

リアンは、その言葉とともに、少年の脇腹から流れ出る血を再度止血しようと、先程、少年の腹部に巻いた布の 
ベルトを少しきつく結び直す。 
それと同時にそのリアンから受けた手当てと傷口を締め付けられた激痛に耐えかねた少年の口から一際大きな 
悲鳴があがった。 

「……っ……ぁ!! う……あぁぁあ……あぁ!!! 
……お前! …… 本当に馬鹿か!! ……本当に……やめ……っあぁっ!!」 

少年は僅かな気力を振り絞るようにそう言って、リアンの腕の中から逃れようと抵抗を試みたが、少年がほんの 
少し動いただけで、その傷口からは新たな血液が染み出て行く。 

その様子を見たリアンは、自らの腰の革ベルトに吊り下げていた小さなポケットから、深い緑色の液状の回復薬 
の入った小瓶を取りだした。 
リアンの手元にその小さな瓶があることを確認した少年は、驚いたように瞳を見開いて、それを見た。 
それから、どこにそんな気力が残っていたのかと思うような、はっきりとした口調で、拒絶の言葉を口にする。 

「お前……それ……記憶と魔導力も一緒に飛ばす強烈なやつじゃないか! 
 私は……そんなもの絶対に飲まない……!!」 
少年はリアンの腕から逃れようとして、自らの腕に更に力をかけると、自分の身体を無理やり引き起こそうとし 
て、力を振り絞った。 

「……っあ!」 

ほんの少し身体を動かしただけだが、傷口から全身へと拡がる激痛に耐えかねて、少年は、再び声を上げた。 
少年のそんな様子を見かねたリアンは、強い口調で少年に声をかける。 

「そんなこと言ったって、このままじゃ、あんたが助からないじゃないか!」 

少年は、リアンのその言葉に観念したかのように、リアンを見上げたが、その瞳には、まだ不安そうな色を滲ま 
せていた。 
それから、更に、ほんの少し躊躇うような表情を見せたが、その後で、もう一度、覚悟を決めたかのように小さ 
くリアンが成そうとしている手当に同意する言葉を口にした。 

「……っ、……わかった……から……」 

少年のその言葉を自分への同意だと、受け取ったリアンは、先程手にした小さな瓶の蓋を外し、中の液体を自ら 
の口に含んだ。 
そして、そのまま、少年の顎に自らの手を添えて、ほんの少し上に向かせると、リアンは、口移しでその薬を飲 
ませるために、少年に口付けた。 


少年は、そんな風に口付けをされるのが初めてだったのか、リアンの柔らかい唇がほんの少し触れただけで緊張 
に震え、その瞳をきつく閉じた。 
それと同時に、その唇を閉じたまま、更に緊張を強くしたのか、少年はその場から動くことも全くできなくなる 
程に震えているようにも見えた。 
リアンは、未だに少し震えていた少年を促すかのように、自らの手を再び少年の頬に優しく添えると、少年の喉 
を少し反らして、顔を僅かに上へ向けるようにと、仕向けた。 

「……ん……っ!」 

少年は苦しそうな吐息を洩らし、躊躇いつつも、リアンが添えた手に従うようにして、自らの顔を上へと向け、 
ほんの少しだけ口を開いた。 
リアンはそれに合わせて、互いの唇を交えるように、深く口付けながら、先程口に含んだ薬を少年の口の中へと、 
流し込んでやる。 
その薬が少年の喉を流れていき、なおかつ、少年が最後まで飲み干したことを確認できるまで、リアンは、口付 
けを解かず待っていた。 
ほんのしばらくして、少年が観念したように、ごくりと喉を鳴らした音をもって、薬を飲み干したことを確認し 
たリアンは、少年の口腔内と唇の周りに残った薬を拭い去るようにして、自らの舌で舐め取ってから、少年の唇 
を解放してやる。 

「……ん……っ、あぁ……んっ!」 

唇を解放された少年は、再び苦しそうな吐息を零してから、口の中に僅かに残る薬の苦味に咳き込んだ後、その 
身体の動きによって、傷口からもたらされた痛みに顔をしかめる。 
それから、徐々効果を現わし始めた薬の効き目で、意識を手放しそうになりながらも、それを懸命に堪えた。 
リアンはそんな様子の少年を抱きかかえながら微笑むと、優しく声をかけてやる。 

「大丈夫だよ、あたしがしばらく、あんたを匿ってあげるから。あんたは、もう何も心配しなくていい。 
 でも……できれば、あんたの名前だけでも教えてもらえないかな?」 

「……エリアス……」 

少年は、おそらく暫くの間、自分が記憶を失うであろうことを念頭に置いたのか、リアンに小さな声で名前を告 
げた。 
ようやく少し緊張が解けたその所為か、少年は、今まで、その気力だけで何とか保っていた自らの意識を手放す 
と、抱きかかえられていたリアンの腕の中で、薬の効果がもたらす深い眠りへと落ちていった。 

リアンはその様子を見届けると、地面に落ちていた少年の外套を拾い、背中の羽根を再び封印することもできず 
に意識を無くしていた、目立ちすぎる少年の容姿を隠すようにして、その身体にふわりとかけた。 
そして、少年の身体を優しく包むように抱きかかえ直すと、音を立てずに静かにそっと、その路地裏を後にした。 
路地裏には、その凄惨な紅い血の色と8人の屈強な剣士の骸だけが残された。 

〈END〉 

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